【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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さようならとは二度と言わせねえ

「此処だったよな……」

 

 俺は今ある家の前まで来ていた。

 それは長らく俺がウーバーイーツとして働いていた家の前……。昨日はこの家に来ることができなかった。それは時間帯的な問題もあったが、豊川のこともあって俺が来づらいという印象もあったが今はこうして逃げないでこの場所に来ていた。

 

 息を呑んだ後に俺は家の扉をノックすると、人影のようなものが扉には映っている。

 

「俺です、結人です」

 

 名乗ると、一気に扉が開かれる音がする。

 そして、中から出てきたのは当たり前だが清告さんだった……。体の様子を見た限りでは、最後に俺と会ったときと変わりないようだったが……。俺はそもそもなんて声を掛ければいいのか判断に迷っていた。此処まで来てそれはないかもしれないが、「大丈夫ですか?」なんていうのは当たり前過ぎて違う。なら、俺が此処で判断するべきは……。

 

 

 

 

「すみませんでした、清告さん……」

 

 俺が取った行動は土下座だった……。

 家の前で膝を下げてそのまま、体を曲げて頭を下げる……。

 

「どうしてキミが……」

 

「俺が謝りたいのは豊川をああさせてしまったのは俺の原因もあるからです。俺が不用意に貴方達二人に優しさを振りまいた結果、こういう事態を招いてしまった。全ては俺の責任です。俺のことは殴って貰っても構いません……。清告さんにはその権利がありますから……」

 

 心からのものだった……。

 形はどうあれ、俺は豊川祥子という人間を壊すことになった一因がのこのこと清告さんに「大丈夫ですか?」なんて失礼なことを言える訳がなかったからこそ俺はあの人の前で土下座をしていた。自分が助けなければなんてことは考えたくもないが、それでも俺が招いた種のせいで豊川を壊して、睦や初華たちの間で亀裂を生じさせてしまったのだから。

 

「結人君……とりあえず顔を上げてくれる……かな」

 

 玄関で俺の肩を軽く触れてくれていた。

 その手は優したかった。怒りに満ち溢れているものではないと実感しながらも、俺は困惑していた。自分という人間は清告さんにとって殴られるべき対象であるのに、優しくされるというのは考えてもいなかったからだ……。

 

「祥子のことは正直自分でもどうすればいいのか悩んでいるんだ……。あの子が今諦めている、虚無感を覚えている。そういうものに対して抗うこともなく、かつての俺みたいになっている……。それを理解していても、自分がどうすればいいのか分からない。あの子の助けになりたい、力になりたい。そういう気持ちはあるんだ。でも、分かったような気がするんだ……」

 

「今、俺がするべきなのは悩んでいるよりも……祥子を助けることが大事なんだって……。だから、キミが謝ることはないよ。寧ろ……」

 

 

 

 

 

「ありがとう、祥子を呪縛から解放してくれて」

 

 呪縛……?

 豊川に呪いをかけたのは寧ろ俺の方だ。なのに、何故清告さんは俺のことを殴らずお礼を述べてくれているんだ?と情緒が曇りながらも、俺は話を最後まで聞くことにする……。

 

「あの子はきっと此処で壁に当たらなくてはきっといつかは自分に対して無気力感があったかもしれない。そう考えたとき、今こうして自分と言う人間を直視できている祥子が成長できる機会に慣れたんだと思ったのと同時に俺もこんなとはいえ、あの子の父親だからな……。悩んでいる暇があるなら……」

 

 

 

 

「あの子の為に何処までやれるのか試したくなってみたよ……」

 

 清告さんの瞳と重なっていた。

 希望に満ち溢れている目だった……。それはまさしく、今から自分の娘を助けに行くというものだった。例え、それが追い出された家に行くことになっても今の清告さんはそこに向かう為の覚悟を決めているんだ、となれていた……。俺はその意志の強さに「強いな、この人は……」となり、俺の方からも……。

 

 

 

 

「ありがとうございます、清告さん……」

 

 駅に向かおう、決心がついた自分がそこにはいた……。

 此処はもう大丈夫、だと……。あの人や初華達ならきっと豊川を取り戻すことは出来ると……。

 

 

 

 

 

「……ちょっと待てくれ、なんで愛音がいる?」

 

 上野駅……。

 新幹線乗り場で俺とにゃむ、楽奈がそこに居ると思って想像していたら何故か愛音も居るという場面に遭遇して、俺は開いた口が塞がらなくなっている。なんで、何故となっていると愛音が眼鏡を掛けている状態で頭の裏を掻きながらも「いやぁ、それがさぁ」といつもの感じから始まる。

 

「りっきーにお前は行くなって止められたんだけど、やっぱり気になるじゃん?睦ちゃん……あーえっと今は睦ちゃんじゃないんだっけ……?あーまあ、とにかく!!私もゆいくんについて行くって決めたから!!りっきーには止められたけど!!」

 

 どういう雰囲気で立希に止められたのかは俺は知っている。

 何故なら、愛音と立希がグループでやり取りをしていたからだ。此処に立希が来なかったのはあくまでも睦のことは任されてくれるという判断だろう。もし、俺と楽奈だけだったら多分あいつはついて来ただろうけど今回はにゃむもいるからな……。

 

「この子……大丈夫な訳?」

 

「あー悪い奴ではねえのは間違いねえから……」

 

 実際、本当に悪い奴ではないのはそうだ。

 色々と人の地雷を踏み抜くことが多いが、それもちゃんと謝れたりするのは知っているから本当に悪い奴じゃねえ。なによりそれのおかげで助かっている奴が此処にいるぐらいだからな……。

 

「というか、本物のにゃむちじゃん!!私一回生にゃむち見たかったんだよね!!」

 

「あはは、バレちゃってたか……」

 

「いつもコスメ動画参考にさせて貰ってます!!あっ、そうだ……前に投稿してた動画見ました!確か……小顔になるツボ押しとかそういうのでしたよね!最近実際に試してみたんですけど、動画の内容凄く分かり易くていつでも出来そうな感じなのが良かったでした!」

 

「へぇ……そうなんだ、あの動画見てくれたんだ。あの動画結構色んな視聴者から反応があったから、実際のところどうだったのかな?って思ってたけど、そういう反応聞けて良かった」

 

 意外にもちゃんとにゃむちとしての対応をしている。

 いや、意外でもねえか……。にゃむは動画投稿者として本気でやっているんだろうし、ちゃんと自分の動画を拝見している人間にはこうやって受け応えするのも当たり前だろう。素のにゃむを知っているから意外と感じるだけで。

 

「それとこの前にあげてたキャンプ動画なんですけど、ああいうのって虫刺されとか嫌だなーって思ってたんですけどああいう場でも今じゃ虫に刺されないようにする為の道具とか色々あるんですね!!」

 

「キャンプ動画も見てくれたんだ……。まあ、あれはああいう系統の動画を出している人にとっては今更感半端ないんだけどね」

 

 にゃむは小さく「ふーん?」と言っているのが聞こえていた。

 あの感じ的にその動画はあまりウケていなかったようだが、それでも自分の動画を見ていてくれえたのかと反応だろうか……。

 

「行かないの……?」

 

「ああ、悪い。今乗る、ほら行くぞ、三人共……」

 

 と行って何故か最初に愛音が中へと入って行った……。

 楽奈が続くようにして中へと入ろうとしたときだった。楽奈が俺の服の袖を掴んでいる。

 

「ゆいと、あっち(モーティス)に会ったらどうするの?」

 

「……そんなのは決まってるだろ、楽奈」

 

 

 

 

「さようならとは二度と言わせねえよ」

 

 自分でもこういうものが所謂、クサいというものだと知っている。

 それでも、俺は言葉にするという重要さを学んだ。それを今更変えるつもりはないからこそ、俺は今もこれからも実行し続けるつもりでしかないからこそ、今もこうして口にしている。それが正しいと信じているからこそ……。

 

 

「じゃあ、私も言わせない……」

 

 頷きながらも、俺は返事を示すと楽奈は中へと新幹線の座席の方へと入って行く……。

 見届けた後ににゃむが苦笑いを浮かべながらもこう告げて来る。

 

「随分とカッコつけたこと言うじゃん」

 

「ああ、それが……」

 

 

 

 

 

 

 

「俺だからな」

 

 モーティス……お前はきっと俺と会ったとき会いたくなかったと言うかもしれない。それでも、俺はお前に会うと決めた。お前を一人にしたくなんか……。

 

 

 

 

 

 

 ないからな……。

 

 

 

 

 

 俺の隣が楽奈になっていた為、俺はそのまま座る。後ろから愛音とにゃむの話し声がする。

 

「にゃむってやっぱりこういう旅とかには慣れてるの?」

 

「いやー、そうでもないかな。私あんまりそういうのしないタイプだから」

 

 俺が楽奈の隣に座る前に「にゃむち」って言い掛けていたのは聞こえていた。生憎、にゃむのことを知っている人はいないようで助かっているようだったが……。

 

「あのん、ここ抹茶のアイスある?」

 

「え?いやぁ、どうだろう?」

 

 楽奈が車内販売のメニューを見ているようだが抹茶アイスはないようで残念そうにしている。

 

「抹茶は流石にないんじゃない?後、新幹線のアイスって硬いって聞いたことあるけど?」

 

「流石にゃむ、よく知ってんじゃん」

 

 調子良さそうに声を出している愛音ににゃむは少し面倒くさそうな顔を浮かべる。俺に隣変わってくれという顔をしていたが俺は敢えてそれを無視する。

 

「まあアイスはないけど、他に何か好きなものとかないの?」

 

「蕎麦、柚餅子」

 

「なんか凄い地味なのばっか……なんだけど。流石にそういうのはないんじゃないの?」

 

「じゃあ、お茶でいい」

 

 と不満がありそうな表情を浮かべながらも楽奈はお茶で我慢すると言い出す。俺はそのやり取りに笑顔を浮かべていた。何故なら、楽奈の扱いが割とにゃむは出来ていたからだ……。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

「着いた……」

 

 辿り着いた先は函館……。

 一度私は此処に共演者の子……まなちゃんと下見したことがあった。久しぶりに来たという感覚にはならなかった。

 

 

 

 

 

 

「どうしよ……暗すぎて何も見えない……」

 

 

 

 

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