【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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消えるのなんて……怖くなかった

 

 消えるのなんて怖くなかった。

 これが最善の道だと信じていたから。もう覚悟を決めていたから、決意があったから。これ以上此処に居ればきっと私は自分が消えるという行為に恐怖を覚えてしまうから、私はこうして自分が消えるという選択を選んだ……。

 

 それに後悔がないなんて言ったら、私は嘘になるかもしれない。

 

 

 

『消えなくていい』

 

 ああ、走馬灯って奴なのか……な。

 結人にああ言われたとき本当に「え?」ってなって驚いたけど、本当に嬉しかった。今まで自分という我を持っていなかった私が此処に居ていいという証明を与えてくれたみたいで本当に嬉しくてしょうがなかった……。私にとっての大切な思い出……これから先はもう作ることは出来ないだろう……けど。

 

 

 

 

 忘れないよ、絶対に……。

 ミモちゃんと遊んだこと、結人君が私を認めてくれたこと。結人君とゲームセンターに行ったこと。結人君と食事をしたこと、結人君と鬼ごっこをしたこと。結人君と占いをさせて貰ったこと……。お蕎麦を食べた事も……。

 

 

 

 

 全部が、全部思い出……。

 

 

 

 

『過去は変わらない』

 

 そうだね、睦ちゃん……。

 私が睦ちゃんにとって望むことをしていなかったのそうだね……。Ave Mujicaのライブを無茶苦茶にしそうになって勝手に睦ちゃんの気持ちを代弁してしまった。それが原因でもしかしたら睦ちゃんは苦しむことになってしまったかもしれない。ごめんね、祥子ちゃんのことを疫病神なんて言って……。

 

 

 私は結局、睦ちゃんに謝れなかった。ごめんねと謝れなかった。今の私ならきっと謝ることが出来たかもしれないのに私は謝罪することが出来なかった。本当にそれだけが心残……りだったよ。

 

 

 

 

 

 

 それじゃあ、今度こそさようならだね結人君……。

 心の中でそう唱えながらも目を瞑り、青黒いものが空に向けられつつも視界は瞑っていた……。そして、起きた頃にはもうこの世には……。

 

 

 

 

 

 

 いない……はずだった。

 

 

 

 

 

 

 

「なんで……なんで追いかけて来たの!!?私は……」

 

 

 

 

「私は追いかけて欲しいなんて頼んでない……!!」

 

 背中には砂が密着している、自分が海に沈んでいるのではないと自覚する。

 そう、深海ではなく私が居た場所は……。

 

「なに言ってんだよ……」

 

 

 

 

 

 

 砂浜だった……。

 

 

 

 

 

 結人君に体重を掛けられている状態で私は必死に抗議をする。自分が海水だと誤認させているものを必死に指先で拭きながらも……。

 

 

 

 

 

 

「私は消えたかった……消えたかったの!!なんで……なんで邪魔するの!!?」

 

 慟哭が叫ぶ。

 今にも枯れそうな声で彼を非難しながらも、私の心には小さなヒビが出来つつあった……。

 

「消えたかった……?」

 

 

 

 

 

 

「自殺したかったの……間違いだろ……!!」

 

 心臓を一刺しされるような感覚になる。

 そう、私が今まで濁していたのは消えるというものじゃない。死ぬというもの……だったから。

 

「分かってるなら、退いてよ……。私達が生きていたら結人君に迷惑が掛かっちゃう。これ以上睦ちゃんを自分のことで苦しめたくない……!!」

 

 

 

 

 

「お願いだから離れてよ……!!」

 

 これしかない、もうこれしかないと自分に思い込ませることで私は今日この日を持って自分を殺すという選択を選ぶ。そう決めていたはずなのに、それは結人君によって阻まれてしまう。

 

 分かっていた……。

 彼が来ればこうなることは……。だから、私は早く自分の命を絶ちたかった。一分一秒でも……。

 

「一つ聞かせろ……」

 

 

 

 

 

「死にたいならなんでそんな震えてんだよ、なんでそんな死を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「恐れてるんだよ」

 

 聞きたくなかった、指摘されたくなかった……。

 自分でそれに気づきたくなかったから……。私が本当は死が怖くて仕方ないということを悟られたくなかったから……。悟られて、それを口にされたら私はきっともう死ぬことなんて出来なくなるから……。

 

 ただ泣きじゃくるだけのモーティスになってしまうから。

 

「退いて結人君……!!」

 

 最後の力を振り絞って彼のことを手で思いっきり押そうとする。

 彼が砂浜に倒れ込んだのを確認せずに私はそのまま海の方へと駆け抜けようとしたときだった……。暖かい手が私の手を掴んでいた……。

 

「何処へでも……」

 

 

 

 

「何処へでも連れて行ってやる……!!お前の好きなところ何処へでも……!!俺と旅したいならさせてやるし、好きなものが食べたいなら食べさせてやる……!!自分だけの思い出が作りたいなら作らせてやる……!!お前がしたいことをさせてやるから……そしてそれが出来たら自分一人だけの思いでも作れるように手伝ってやってやる!!だから……!!」

 

 

 

 

 

「死のうなんてするんじゃねえよ……!!」

 

 どれもこれも刺さってしょうがない。

 私はその言葉の糸を全部断ち切ってでも自分が今からしなくちゃいけない使命を全うしたかった……。全うしたかったのに、私は結人君の手を振り払うことが出来なかった。死ぬのが……。

 

 

 

 

 

 怖かったから……。

 

「我がままだよ、そんなの……」

 

 

 

 

 

「結人君が言っていること全部我がままだよ!私達が居たら結人君に迷惑を掛けるだけなの!お願いだから、最後ぐらい私の我がまま聞いてよ!!」

 

 

 

「ああ、そうだ!!俺のは全部我がままだよ!!お前が聞こうが聞かないがどうでもいい……!!それでもお前が死のうとするなら俺は全力で止める……!ただそれだけだ……!!お前が望むなら、その手を掴んでやる。それでも死のうとするなら……!!」

 

 

 

 

 

 

「お前が死ぬのをやめるまで俺はお前を絶対離さねえ……!!」

 

 結人君は肩から呼吸をしている。

 

「無茶苦茶だよ……」

 

 なのに、私は徐々に死にたいという気持ちが和らいでしまっている自分が確かに存在していた。本当は睦ちゃんの為にも結人君の為にもこの先誰かを苦しめない為にも私を死という選択を選ぼうとしていたのに彼はそれを阻もうとしていた。

 

 なにより、私は自分が怖くてしょうがなかった。

 さっきまで死という概念に囚われていたはずなのに結人君に手を差し伸べられたことによって私の中には一気に光が差し掛かってしまっていた。もう拒んでしまっていたんだ……。

 

 

 

 

 死を……。

 

 

 

 

 足が動かなくなる、抵抗を止めてしまう。

 それが死を怖れていることを肯定することになる。それを分かって居ても尚、私は光そのものの結人君の手が温かくてしょうがなかった……。

 

 

「我がままだね結人君は……」

 

 肩から呼吸をしていた。

 私の体はもう震えていた。視線の先は結人君へと向けていた。彼の優しい眼差しに溺れそうになりながらも、私は必死に涙を堪えていた。

 

 

「ああ、そうかもしれねえな……それでも俺はお前を死なせるつもりはねえよ」

 

 

 

 

「……教えて、どうして私を助けようとしてくれるの?」

 

 

 

 

 

「決まってるだろ、お前との……」

 

 

 

 

 

「思い出を……これからも……作って行きたいからだ……。だから……これからも生き続けろ、モーティス。お前は……」

 

 

 

 

 

 

「此処に居ていい……」

 

 自分の心の中が喜びという感情で溢れそうになる。もう……認めるしかなかった。

 私は結人君との思い出を捨てたくなんてなかった……から。この手で足で目で私はこれから先も結人君と作れるものを作り上げて行きたかった……から。

 

 

 

 

 

 

 

「本当に思い出作ってくれる?」

 

「当たり前だろ?」

 

「じゃあ、じゃあ……!!えっとね、私まず結人君と一緒にカラオケに行きたい!!カラオケに行って結人君が歌っているところを聴いていたい!!睦ちゃんばっかり結人君の歌声を聴けるのズルいもん!!後、それとね一緒に映画を見に行ったりしたいの!!青春っぽい奴から泣ける系とかそういう奴!!それと、今度は回らないお寿司に行きたい!二人でいっぱい食べたい!!」

 

 止まらなくなっていた。

 作りたかったからもっと彼とのものを……。彼としか出来ないこととかそういうものをしたくてしょうがなかったから私は指で数えながらも私は続ける。

 

「後は旅行とかにも行きたい!蚊に刺されたり、山登ったりするのは嫌だけどね、温泉!温泉行きたい!!群馬って何もないところって聞くけど温泉はいっぱいあるって聞くからそっち方面の温泉に行ったりとか、後は一緒に海水浴しに行ったりしたい!結人君に水着姿見せてあげるんだよ?こんないい機会、絶対にないからね!それでね、それで「ちょっと、ちょっと待ってくれ!!」」

 

「え?なに?今更嫌とかいうの?やっぱり、私と思い出作りたくないとか言うの?水着見せてあげるって言ってるんだよ?女の子の水着だよ?結人君も男の子でしょ?」

 

「なんでそこ強調するんだよ。……いや、そうじゃなくて色々とはっきりとし過ぎじゃねえか。はぁ……まあお前はそういう奴だしな……」

 

 結人君は目線を下に向けて苦笑いを浮かべる。

 私の話をどうやらただの願望としか認識してないみたい。私は全然結人君に水着姿見せれるのに……。それとも、結人君は私の水着姿が恥ずかしくて直視できないとか意外とそういうところもあったりして。

 

「分かったよ、お前のやりたいこと一つ一つ叶えてやるよ。その代わり、自分で作れる思い出も作って行けよ?」

 

 

 

「それは分かってるよ!私にとって結人君との思い出は貴重なものなんだよ?その辺ちゃんと分かってよね?あっ!後ね、後一つだけ言っておきたいことがあるんだ」

 

 結人君は黙って聞く姿勢を取ってくれている。

 

 

 

 

 

 

 

「ちゃんと……睦ちゃんとも作ってね……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、任せろ。お前ら二人の思い出作ってやるよ……」

 

 

 自然と笑みが零れそうになる。もう私の心は結人君の強さで満たされていた。本当にそういうところだよ、結人君……。睦ちゃんも私も好きになっちゃったのは……そうやって絶対に誰かを助けようとするのを……。

 

 

 

 

 

 

 やめないところが……本当に好き……。

 

 

 

 

 だから、結人君の耳元で小声で言わせてね……。

 今度は死ぬ為の前進じゃなくて生きる為、感謝を伝える為の……体験……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………助けに来てくれてありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それとね……」

 

 

 

 

 波の音だけが騒がしかった……。

 月明かりが海に反射しながらも、白い砂浜に足跡をくっきりとつける……。小さく呼吸を整えながらも、私は一歩一歩踏み出しながらも今度は生きる為にもその誠意を示そうとする……。慎重にじゃなくて……。

 

 

 

 

 大胆に……。

 

 

 

 

 

 

「これは私からの贈り物……!!」

 

 

 

 

 最後に残っていたのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 彼の唇に触れた瞬間だった……。

 

 

 

 

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