【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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知った風なこと言わないでよ

 結人君との貴重な思い出……。

 今度は泡のように消えていくことはない、幻になることもない。はっきりとしたものがある。睦ちゃんにバレたらきっと怒られちゃうかもしれないけど、睦ちゃんに先取りされるのは嫌だったから私から先にしちゃった……!!

 

「じゃ、じゃあ……戻りたい場所あるから先そっち行くね!!」

 

 それ以上、私は余韻に浸ることはしなかった。

 これ以上浸っていたら恥ずかしくてしょうがないけど、私は後悔なんてしていなかった。この手で……。

 

 

 

 

 欲しかった体験だった……から。

 

 

 

 

 

 

 

 

 結人君がどういう表情をしていたとか、味はどうだったかそういう話を頭の中で連想させながらも私はおばあちゃんの家に戻るとそこには夜中に仕込みをしているおばあちゃんの姿があった。私はただ黙ってそれを見つめていると、おばあちゃんが声を掛けて来ていた。

 

「どうしたんだい?」

 

 伝えたいことがあった、おばあちゃんに……。

 

「あーえっとね」

 

 それを口にするという勇気が私にはなかった。

 教えられたものがあったからそれを実行しようとはしていたけど、やっぱりこういうものは慣れていなかったから頬を掻きながらも赤面しているかもしれない自分を隠そうとする。

 

「えっと……その……」

 

 実際にこういう場面になると恥ずかしいという気持ちしかなかった……。

 今まで誰かにこういうことをちゃんと伝えたことなんて一度たりともなかったから……。して貰って当たり前だって思っていたからだからなんて言えばのいいか分からないけど、まなちゃんやおばあちゃんから得たものを借りるなら、今はこれが正しいのかもしれない……よね。

 

 

 

「泊めてくれてありがとう……おばあちゃん」

 

 こういう当たり前のことを当たり前に言うのって馬鹿馬鹿しいって思っていたけど、実際は違ったみたい。だって、私がこうして感謝の気持ちを口にしたことでおばあちゃんに対して貰ったものへと喜びとか楽しさとかそういうものが溢れていたから。

 

「ふん……可愛げのない子にしてはよく言えたもんだね」

 

「むぅ?人が折角感謝してるのにおばあちゃん、なにその態度?」

 

「はっ、そういう態度取ってるようじゃいつまで経ってもまだまだ可愛げがないね……また来なよ」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「なんでもない、とっととお店の手伝いをすることだね」

 

 

 

 

「素直じゃない……おばあちゃん。うん、また来るね……!!」

 

 今度来るときは私一人じゃない、死に行くために来るんじゃない。

 私が私として成長して、睦ちゃんもそこに居るそういう状態で今度は此処に訪れたいという感情があったからこそ私はおばあちゃんの仕事を手伝っていた……。

 

 

 

 

 

 おばあちゃんの何処かほくそ笑んでいるような表情に誓いながらも……。

 

 

 

 

 

 

 

「結人君、お待たせ!!」

 

 おばあちゃんが乗せてくれた車で私は結人君達と駅前で合流したのは良かったんだけど……。私の苦手な人がいる……。一瞬、顔に出そうになるけど私はそれを我慢する。危ない、此処で顔に出してちゃダメだよねとなっていたけど多分顔に出していたのか……。

 

「あれ?睦ちゃ……モーティスちゃん今嫌な顔した?」

 

「し、してない……」

 

 正直千早愛音ちゃんが凄く苦手……。

 多分、睦ちゃんもそうだったと思うけど、私が苦手な理由はこの子は人の領域に遠慮なく踏み入れて来るところが本当に嫌でしょうがない。睦ちゃんのときなんて真っ先に森みなみの娘とか言って来たし……。

 

 眉を細めながらも愛音ちゃんの方を向いて顔を背けていると、にゃむちゃんが視界に入ると目を逸らされる。やっぱりそうだよね……。にゃむちゃんは私のことも睦ちゃんのことも怖がってる……。そうなったのは多少にゃむちゃんの自業自得なところもある……けど。何か声を掛けた方がいいの……かな。悩みながらも迷っていると、楽奈ちゃんが私の顔を覗き込むようにして見つめている。

 

 

 

 

「むつみ居ない?」

「!!!!?」

 

 肩を上下に動かしてしまう……。

 まさか楽奈ちゃんにそれを指摘されるとは考えてもいなかった……。

 

「どうして気づいたの?」

 

「なんとなく」

 

「本当に……凄いね楽奈ちゃんは……」

 

 再び肩を落とす……。

 思い出してみれば、楽奈ちゃんにこうして気づかれたのは何も今回が初めてじゃなかった……。睦ちゃんも私も何度も楽奈ちゃんに私達のことを知られていた。一番そうだったのは私達が多重人格だということ……。

 

「モーティス、睦が居ないってのはどういうことなんだ?」

 

「睦ちゃんは……私達のせいで主人格から引き摺り降ろされたの……。睦ちゃんという人格はもう不要だと私達の中で会議がされてその結果、睦ちゃんは深い海底に沈むことになった。多分、もうすぐ睦ちゃんという人間は消えることになる……」

 

 みんながそれぞれ思い思いの反応を示している。

 結人君と愛音ちゃんは目を見開き驚いているようだった。楽奈ちゃんはいつも通りで……。にゃむちゃんは視線を落としながらも、私の話をただ黙って聞いていた……。

 

「モーティス、睦を取り戻す方法はないのか?」

 

「分かんない……。ただ睦ちゃんはこう言ってたの……助けて欲しいって。睦ちゃんはずっと辛かったんだと思う。自分の一言のせいで今までみんなのことを苦しめて、辛くさせていたから。多分そんな自分を変えたかったんだと思う……。自分が強くなるためにも、成長する為にも……」

 

 最後の最後で睦ちゃんはそれに触れてしまった……。

 ずっと誰かに雨を降り注ぐことしか出来ないと自覚していた睦ちゃんが最後に得たものは……助けて欲しかったというものだった……。

 

「モーティス、お前はどうしたい?お前は睦と話をしたいか?」

 

「したい……よ。私は結局睦ちゃんと話をすることなんて出来なかったから。一方的なものばかりしていたから、今度こそ睦ちゃんと話をしたいけどそれはもう叶わないよ」

 

 もう叶わない、どんだけ叶ったって睦ちゃんはもう戻ってこない。

 それが現実……。

 

「え?でもさ、モーティスちゃんがこうして戻って来れたんだから睦ちゃんも戻って来れるんじゃない?それこそ、音楽とかでさ!睦ちゃん、音楽好きだからギターやってたんでしょ?」

 

 舌打ちをしそうになる。

 権幕を今に巻きそうな表情になるけどそれを必死に我慢しようとするけど、私の口は止まることは出来なかった……。放ってしまっていたんだ、その冷たいものを……。

 

 

 

 

 

 

「……知った風なこと言わないでよ」

 

 空虚にも私の言葉は風を切り裂かなかった。

 ただ風に流れるようにして流れていた言葉は次に大きなものへとなっていた……。私の怒りが抑えられなかった。睦ちゃんがどうして愛音ちゃんを避けていたのか今やっと実感できたから。

 

「知った風なこと言わないでよ!!音楽好き?その逆だよ……!!睦ちゃんはね、睦ちゃんはね……!!」

 

 

 

 

 

 

「ギターを弾いていて楽しいと思ったことなんてこれっぽちもないの……!!!」

 

 睦ちゃんが愛音ちゃんを避けていたのはきっと愛音ちゃんのことを光のように錯覚していたから。それも眩しすぎるほどの日なた……。彼女からは悪意というものは感じない、感じないからこそ無神経に傷つけられたと認識してしまう今の私がそうだった。

 

「それを知らないくせに平然とこれで解決みたいな顔をしないで本当にムカつく!!」

 

 抑えることが出来なかった。

 睦ちゃんがギターを弾くことが楽しい訳じゃないのを、苦痛になっていたのを知っていたからこそ私は愛音ちゃんの無責任な発言に苛立ちを覚えて仕方なかった。

 

「なんなの愛音ちゃんって!!!そうやって強引に今まで解決してきたんだろうけど、今回ばっかりは無理だよ!?」

 

 許せなかった愛音ちゃんの発言が、本当に許せなかった……。

 これでこの話はおしまいとでも言いたそうにしている愛音ちゃんの声が本当に心底憎くてしょうがなくて私は彼女のことを睨みながらも睦ちゃんが音楽にどういう感情を向けていたのかはっきりと話をしていた。それを言わなくちゃ、絶対に分からないから怒りのままに私は声を発していた。

 

「だって睦ちゃんはギターにとって苦痛でしかなかったんだよ!?それで音楽をすれば睦ちゃんの心を取り戻せるなんてよく言え「落ち着け、モーティス……!!」」

 

 冷静さを失った上で私は最後まで言い切ろうとしたとき、結人君が私の口を手で塞いでいた……。それに必死に抗議しながらも私は結人君に抵抗をしていると……。

 

 

「ごめんモーティスちゃん……!!私余計なこと言って……」

 

 突如、愛音ちゃんが取っていた行動に私は「……え?」となっていた。

 頭を下げながらも謝罪をしていた。その行動の速さに私を困惑をしていた以上に謝られるなんて本当に思ってもいなかった……。

 

「私が余計なことを言って睦ちゃんやモーティスちゃんのことを苦しめたんだよね、だからごめん……!!」

 

 本当に呆然としていた……こうも簡単に謝られるなんて思っても居なかったから……。

 

「……」

 

 途端にやるせない気持ちになる。

 怒りたかった訳じゃない、今の状況を打破する方法なんてないのにお気楽にそう言われたから、私はついカッとなってしまっていた愛音に謝ろうともなっていたけど私が意固地になってそれが出来ないでいると……。

 

「モーティス、お前がこうして復活したのには何か理由があるんじゃないのか?」

 

 結人君が私の口元から手を離しながらも、私に質問をしてきていた……。

 暫く無言で居た後に私はこう答える……。

 

 

 

「多分だけど、私がこうやって睦ちゃんの人格として戻って来れたのは私が生きたいという強く願っていたから、睦ちゃんに謝りたいという気持ちだけでなんとか自分が消されないように粘り続けた……から」

 

 何故私が睦ちゃんの人格として消滅しなかったのかについて話をした。

 今まで前例がないことだから正直頭を悩ませながらも話をしていると、結人君が「なるほどな」と言う声を出していた。それに私は首を傾げながらも目を細めていた……。なるほどなってなにが……。

 

「愛音の言う通り、お前が復活したということは睦も復活できるかもしれねえってことだよ。だから俺は聞いたんだ。そして、その道は一つだけ示されたって訳だ」

 

「示されたってなにが……?」

 

「後で話す。ちょっと電話させてくれ……」

 

 結人君はスマホを取り出して誰かに電話をしているようだった。

 その相手が掛かったのか結人君はすぐに声を発していた……。

 

「凛々子さんですか……?ちょっとお願いしたことがあって……」

 

 凛々子さん……?何処かで聞いたことがあるような名前のような気がする……。

 

 

「空いている時間でいいんで……。今日、RINGのステージ貸していただけませんか?いえ、MyGOの奴らじゃないです……。人数は三人……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「愛音、楽奈……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして、もう一人(モーティス)でお願いします」

 

 了承の返事を得たのか、結人君が「ありがとうございます」と言った後に電話を切っていた。

 そして視線を私に向ける。

 

 

 

「結人君、私の話を聞いてた?」

 

「ああ、聞いてた。今モーティスにも睦にも必要なのは睦自身が呼び起こされること。つまりは、その為の刺激が必要になる。だから、三人のギターで睦を取り戻したい」

 

「私、ギター弾けないよ……」

 

「だったら、愛音と睦の音楽を直で聞いてそれを睦に届けて見せろ……。だから、二人共頼みがある……」

 

 

 

 

「協力してくれ……!!」

 

 深々と頭を下げながらも、俺は愛音と楽奈に頼み込む。

 これしか睦を呼び戻す方法が思いつかない今、あいつらを頼る他なかった。同じギターである楽奈と愛音に……。

 

 

 

 

「もう……そんなに頼み込まなくていいのに!ねっ楽奈ちゃん!!」

 

 

 

「睦とのセッション楽しみにしてた、やる」

 

 

 

 二人の答えは既に決まっていた。そういう奴らだと知っていたからこそ俺はその返事にこう笑顔で返すことにしていた。俺の心と言うバケツを満たしてくれた二人だからこそ、笑顔でこう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、二人共……」

 

 

 

 

 

 答えていた……。

 

 

 

 

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