【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
「睦ちゃん、何処!何処にいるの!!」
崩壊した世界のなかで私は睦ちゃんを探すことを止めなかった。
この崩壊した世界はちょっぴり不気味で怖かったけど、それでも私は足を止めなかった。睦ちゃんと話をしたいから……。
『睦、勝負事なら負けませんわ!』
校庭の中に踏み入れると、祥子ちゃんの声がする。
この歪な世界はこういう仕組みになっていた。私が色んな睦ちゃん達が作り上げて来た精神世界に踏み入れる度に今までの記憶が呼び起されるかのようにして声がしていた。さっきの病室だってそうだ。私があの病室から出ようとしたときにたあくんとみなみちゃんの会話がしていたのだから。
「さっきの化け物、追いかけて来てないよね?」
病室で出会った化け物……。いや、これから多分睦ちゃんという存在になるあの子達から隠れてやり過ごしていたけどいつ見つかるかも分からない状態が続いていた……。そういう状況の中で私は次へ次へと世界を渡り歩いていると、CRYCHICでのライブ場所へと移る……。
『私、ギター弾くの……楽しくなかった』
徐々に舞台から降りて行くみんなの姿が脳裏に過る。
ただ、残された睦ちゃんだけがギターを弾けなかったと後悔の雨を降らせながらも自分の気持ちを慰めることが出来なかった。今まで色んな音を頼りに自分のものだと信じて来てたギターを大事にしようとして来ていた睦ちゃんがモニカと出会って、燈ちゃん達と出会った結果自分にはその才能がないと弱々しくなってしまっていたんだ。
これが睦ちゃんの地獄の始まりでしかなかった……。
此処から先は睦ちゃんの苦痛でしかなかった。だから、私は反発したあのとき愛音ちゃんの言葉に……。そういうものを思い出しながらも、私は更に奥へと進んでいくと……自分の目を疑った……。
『睦、これまで私達は過去のバンドを引き摺って来ましたわ、ですが今日この日を持って……私達はAve Mujicaとして生きていくのですわ』
『私のことは一人にしてくれて……』
祥子ちゃんの声がする……。
『睦ちゃん、凄いー!』
『睦ちゃん、本当に思ったことそのまま言うよね。やってほしくないことばっかり。お願いしたことはやってくれないくせに』
そよちゃんの声がする……。
『お前は睦、ただ一人の人間だろ』
『俺はやっぱりお前の告白を了承することはできねえ』
結人君の声がする。
駄目、さっきまであったはずの睦ちゃんの記憶の世界がどんどん壊れ始めている。多分、睦ちゃんという主人格が徐々に消えて行ってるから睦ちゃんの記憶の世界が維持できていないんだ。そして、記憶がチグハグになってるから聞こえて来る声が色々とある……。
『成り代わって……あげ、……る。記憶も……記憶も……ね……ね?』
こんなところに居たら頭がおかしくなる。
そう思いながらも、私はただ壊れている世界の中を歩いていると、私と一緒に体験したゲームセンター。ハンバーガーショップそういう場所を通り過ぎて行きながらも、最終的に行きついた先は頑丈の扉で封じ込めらえている場所だった……。
開けるのに一苦労しそうなその扉に触れてもビクともしない。
私は今にも困り果てそうになりながらも、「睦ちゃん……睦ちゃん!!」と何度も名前を叫ぼうとしたときだった。
「見つけた」
「……嘘でしょ」
時間が経てば経つほど、あいつらの脅威がやって来ることなんて分かって居たけどまさかこんなにも逃げ場がない場所であいつらが現れるなんて想定していなかった私は瞬く間にあいつらに囲まれてしまう。それでも、何度も睦ちゃんの名前を叫ぶが扉が開くことはなかった。
「無駄だよモーティスちゃん……睦ちゃんは戻って来ない。殺したのは
「それでも私は信じる。私が睦ちゃんが戻って来てくれるって信じて……!!?」
扉に背を向けながらも、私はそう話をしていると声がする。
その声は何処か聞き覚えがある声だった……。
「これって……そうだよね?」
え?でもそんな訳がない。
睦ちゃんは傘を捧げることが出来なかった。今頃、一人で檻の中にいるはず。そんな彼女がでも……。あの子しか考えられない……。
「祥子ちゃん……?」
「三角さん、こうなっては仕方ありません。不法侵入します」
「え?えっと、それはまずいんじゃ……」
今日も豊川邸に来ていました……。
この前は何故か三角さんが物陰に隠れていましたが、今回は夜ということもあって見張りの人に自分だと気づかれないような服装をしているようでした。何故、そこまでするのかは分かりませんが彼女は二重の意味で有名人なのでそうする必要があったのかもしれませんね。
「ですが、もう時間はありません。こうしている間にも若葉さんという存在が消えていくのかもしれません。そうなれば、今こうして豊川さんの家で立ち往生している時間が無駄になります」
そして、今は豊川邸にどうやって入るのを二人で考えていました。
現時点では柵を飛び越えて侵入するという案を考えていましたが、それを今三角さんに撤回されていました。
「それは、そうかもしれないけど……。それにしても睦ちゃん、本当に戻って来てくれるのかな?」
「それは信じるしかありません、彼女達を」
若葉さんを取り戻すために、音楽で取り戻すという行為。
バンドらしくていいことじゃありませんかと私は思っていた。ただ、それがAve Mujicaではなくほぼ寄せ集めのバンドでそれを取り戻すという行為は些かこちらを信頼されていないような気分になって仕方ありませんでしたが、そこは今は置いておくことにしておきました。後で星乃さんに抗議すればいいだけですから。
「ところで海鈴ちゃん、あっちに居るのって……」
「ん?彼女達も此処に来ていたんですね……」
正面入り口の方では高松燈さん、長崎そよさんがどうやら立ち往生しているようでした。
なるほど、彼女達も豊川さんを連れ戻す為に此処に来たという訳ですか、それはとても有難いのですが彼女達にそれも任せるという訳には行きませんね……。
「あっ、えっと……」
「八幡さん?」
「ええ、私です」
三角さんに一旦そこで待っていて欲しいと残して私は高松さん達と接触をする。
「お二人も豊川さんを?」
「そうですね、祥ちゃんには言いたい事がたんまりとあるから」
「なるほど、やはりそういうことでしたか。ですが、此処は私達Ave Mujicaに任せてはくれませんか?」
お二人は「え?」と声に出しながらも、私の言葉に触れる。
「元はと言えば、私達が招いた種です。この種は私達が回収する必要があります。それに貴方達の力を必要以上に借りていてはこの先きっとAve Mujicaをやっていくことは不可能だと思います。私は活動を再開させたい。ですから……」
「貴方達、お二人はRINGに行って若葉さんが戻って来ることを祈ってあげてください。そして、見届けてあげてください。それが元鞘である貴方達の役目だと思いますから」
CRYCHICのことは立希さんからはほとんど聞いたことはありません。
あの人はあまり喋る人ではありませんし、過去を語る人でもありませんから。それでも、誰かにとっての元鞘というのが大事だというのは変わらないはずです。私が初めて組んだバンドを忘れられないように……。ただ、元鞘である以上今この場は私達に任せて欲しかった。
豊川さんをRINGに連れて行くというだけは……。
「祥ちゃんのこと、お願いします……」
先に声を出してきたのは高松さんでした。
意外ではありましたが、彼女も彼女なりにAve mujicaというバンドを応援してくれている。そういう風に捉えながらも、私は去っていく二人の姿を見送って行きました。
「行きましょう、三角さん……。三角さん?」
正面突破ではなく不法侵入することを決行しようとしたときでした。
三角さんの姿がなく、私は彼女の後ろ姿が目に入ってそれを追って行くとそこには男性が立っていました。
「清告さん……」
「初華……ちゃん」
「お知り合いですか三角さん?」
そんな声がしていたのを聞こえた私は三角さんに尋ねる。
「え?う、うん……祥ちゃんのお父さんなんだ」
「なるほど、そういうことでしたか」
「う、うん……」
何処か落ち着かない様子で返事をする三角さん。
……そういえば、豊川さんの父親は今豊川家からは絶縁をされていると聞いていましたが……。なるほど、この様子を見る限り娘を奪還しに来たという訳ですか。
「……二人共、もしかして祥子に会いに来てくれたのか?」
「そんなところです。ところで一つ尋ねたいのですが、この家に入る秘密の入口などはありますか?」
「秘密の入口……。それなら一か所だけあるよ、庭から入る手段なんだが、確か穴が開いている箇所があるはずなんだ。そこから入れる箇所があったはずだよ」
「なるほど、それは都合のいい侵入方法ですね……行きますよ三角さん」
「え?うん……!!」
「待ってくれ、初華ちゃん……」
呼び止められていた三角さんは立ち止まって豊川さんの父親と話をしている。
「キミが此処に来てくれたということは祥子も少しは気が変わってくれる……はず。だから、祥子のことを頼んでもいいかい?二人共に……」
どうやら既に父親の方は中に一度入っているというわけですか。
そして、その想いを私達に託したい。そういうことでしょうね。
「……分かりました。祥ちゃんのこと任せてください」
「……お願いするね、祥子のことを……」
父親はそれ以上三角さんに話しかけることはせず、互いに首を縦に振ってそのまま正面玄関の方へと向かって行くようでした……。
「海鈴ちゃん、行こう」
私もそれに頷きながらも、中へと……向かうことにしました。
「祥ちゃん……」
豊川さんの部屋に入った途端……していたのは重苦しい空気でした。
ほとんど何もない部屋の中で彼女が入っているであろうベッドだけが膨らんでいました。
「帰って下さる……」
豊川さんの声は弱々しいものでした。
「待って祥ちゃん、私たちは話があって」
「話なんてありませんわ、言ったはずですわ。私は一人になりたいと……。なのに、どうして此処に来たんですの?」
豊川さんはあくまでも私達に帰宅を促していた。
自分と関わってはいけない。その気持ちは今でも変わらないようで私も一人で淡々と話を進めることにした。
「豊川さん、一つ話をしますね……。貴方が言っていた私が複数バンドを抱えているという話。ええ、その通りですよ。そして、私は今までそれらがあったからムジカも所詮その一つだとしか考えていませんでした……。そこは認めます。ですが、それでも一言言わせて欲しいことがあります……」
「若葉さんを苦しめたのは貴方ではありませんか……」
その瞬間、豊川さんの眉がピクリと動く……。
触れられたくない、そういうものに触れられたようにして……。
「海鈴ちゃん、何もそこまで言わなくても……」
「三角さん、すみませんが最後まで言わせてください……」
私の袖を掴み、それ以上豊川さんのことを責める必要はないと首を横に振っている三角さんに私は怯むこともなく続ける。
「貴方はこう言ってましたね、若葉さんは自分が突き放したと……。なら、若葉さんがあそこまで追い詰めることになったのは貴方にも原因の一因があるはずです。そして、それを分かっているはずなのに何故動こうとしないんですか?」
「知った風なことを……言わないでくださる……」
豊川さんがベッドから起き上がり、私の方に視線を向ける。
これまで豊川さんは今まで私に何を言われても反応を示すことをしていませんでしたが、此処に来てようやくということはよほど豊川さんにとって若葉さんの話は都合の悪いものだと考えていました。
「私が睦に関われば、睦を苦しめてしまう。だから、私はあのとき睦をこれ以上苦しめない為にも突き放そうとした。ただ、それだけのことですわ。それなのにあの子がそれのせいで苦しむなんてことはあり「本当は分かっているんじゃないんですか?」」
「本当は分かっているから、貴方はそうやって自分を自己弁護しようとしている。自己暗示をするようにして」
「何が言いたいんですの……」
「本当は若葉さんを壊してしまった責任が自分にもある。それを承知していても、頭がそれを拒んでいるという話をしているんですよ。貴方はそれで若葉さんがもう苦しむ必要はないと考えているのかもしれませんが、その結果若葉さんは更に苦しむことになってしまったのを自分で呑み込めないからそうやって自分の中でそうだと認識させているんじゃないんですか……!!」
豊川さんは私のことを完全に睨んでいました。
自分のやったことは間違っていない。そうすることで自分のことを納得させようとしているようでしたが、彼女は自分の声が震えていることに気づいていませんでした。本当は気づいているはずなんです、自分があのとき若葉さんになにをしたのか……。その行動は傷つけてしまったと……。
「ウンザリですわ、八幡さん……。貴方の言っていることは全て論点からズレていますわ!」
「いえ、そうでもないと思いますよ?かつて私はある人が居る前であることを聞いたことがあります。それは……」
「とても複雑そうな表情でした。相手のことを確かに許してはいる。それでも、心の何処かで憎んでしまっている。そういう表情をしていたんですよ。それは相手のことではなく……自分のことも含めて」
あのとき……。
『…………嫌いなところ。いや、許せないところもあるけど、あいつは……私にとって唯一自分でいられた』
あのとき、私は立希さんと星乃さんの信頼と言える関係が羨ましいと思えていた。
だから、立希さんの心理まで読み解くことは出来ませんでしたが今となってはそれを読み取るのなんてことは簡単なものでした。あのときの表情は間違いなく、立希さんは自分を責める表情もしていましたから……。
「全く……検討違いもいいところですわ。いい加減帰って下さる?」
「ええ、帰りますよ。私に歯向かうことが出来る元気そうな豊川さんがRINGに行きたいと思うまで。貴方方の信頼というのはそう簡単に崩れるものではないと私は思っているはずです……!なら、貴方はこんなところで一人で不貞腐れている訳ではなく……!」
「言ってやればいいじゃないですか!!」
「若葉さんに苦しめられるほど自分は弱くないって!!」
立希さん、星乃さん……。
貴方方に出会えたことは私にとっての幸運だったのかもしれません。貴方達のような信頼の形を知っている者達に出会えたからこそ私はこうやって今豊川さんの前に立つことが出来ている。本当に感謝しかありません……。
「しつこいですわね……本当に……いいですわ」
「そこまで言うなら、言ってやりますわ……睦に……」
「私は貴方に苦しめられるほど弱い人間じゃないと、言ってやればいいんですわね!!」
「ええ、それで構いませんよ……豊川さん」
豊川さんは私のことを酷く睨みながらも、ベッドから立ち上がる。
それからして、自分の部屋を出て行った……。その出て行くときの音は酷く強いものではありましたが、何処か吹っ切れていたようなものを感じていました……。
「本当に……ウンザリですわ」
まさか八幡さんにあそこまで言われるとは全く想像もしていませんでしたわ……。
分かってる、分かっていますわ。私のせいで睦を傷つけてしまったことぐらい。それを頭の中では本当は理解していたから自分は睦を傷つけていない、突き放したと誤認させようとしていた。その事実は変わらないですわ。
「いえ、そうではないですわね……」
そう、これは私自身の罪でしかない。
私はただ一人になる為に色んなものを投げ出そうとした。睦のことも、お父様のことも……。Ave Mujicaのことも……。特に睦、貴方には今まで苦労を掛けてしまいました。だからこそ、言ってやりますわ……。
「睦……!!聞こえていますの!!」
RINGに来た……。
私はRINGの観客席からこうはっきりと伝える……。
「私は貴方に壊されるほど、軟な人間ではありませんわ!!いつまでもそうやってウジウジしていないで出て来なさい!!」
ウジウジしているのは私の方もだった。
それでも睦に言葉を届けたくて私は自分が今出せる言葉を全て伝える。此処に来たのは八幡さんに絆されたからではありませんわ。今此処でまた私が一人になる為、そう思って此処に来ていたはずなのに……。
私は睦を前にして涙を流していた。
『ええ、そうですわ!私は睦さんと友達になりたいのですわ!!』
『よく頑張りましたわね睦……』
『私達、やり遂げて見せたんですわ!!』
本当は会いたかったんですわね……。
「祥……」
睦は私にとって……大切な幼馴染ですから……。
精神崩壊後の睦達の精神世界
睦の精神世界に幾つもの雨が降り注いだことによって、睦が精神崩壊したことによって出来た世界(例:CRYCHICの解散、祥子の突き放し、結人の拒絶など)。この世界では記憶の断片が世界が壊れたかのようになっており、世界の中では彼女が特に覚えている声だけが響いているという世界になっている。また、世界の端には重く閉ざされた扉がありその中に若葉睦という主人格が閉ざされている。この扉を開くには睦にとって一番最初に光となった人物の言葉が鍵となる。但し、主人格が消えていくとこの世界が終わり、別の誰かが睦の人格となる。
化け物
若葉睦に今後なる予定だった存在だったが彼女の精神世界が崩壊したことによって集合体となり、化け物のような姿に変わり果てている。モーティスが人格としての成長をしていることをかなり妬んでいる。