【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
「睦……!!」
瞼が重い……。
声がする……。私を呼ぶ声……。この声に聞き覚えがあった。もう懐かしいという気がしながらもこの声に耳を傾けていいのだろうか?と不安になってしまう。祥はもう私の光じゃない。それなのに、私は本当にこの声に触れていいのだろうか……。
「私は貴方に壊されるほど、軟な人間ではありませんわ!!いつまでもそうやってウジウジしていないで出て来なさい!!」
その瞬間、息を吹き返したような気分になる。
その言葉がその言葉だけで私はどれだけ自分を肯定できるようになれるだろうか。いつものような優しい祥の声ではなく、力強い祥の声だからこそ私はそれに目を覚ましたいという欲求が湧いていた。例え、一瞬でもいい。それでも私のせいじゃないと言ってくれた祥を一目見たい。そういう思いで私は……。
「祥……」
目を開けていた……。
「睦……起きたんですのね」
頷く……。
にゃむ以外はみんなが近くにやって来ているのに声が出ていない。私が復活することを考えてもいなかったのかもしれないと想像をしていると……。
「戻って来たんだな、睦」
私がこうして戻って来たことを頬を緩ませながらも結人が反応してくれている……。
もう戻って来ないつもりだった……。いや、戻れなかったが正しい。私はもう不要な存在だと私自身から言われていたから、だから私はもう此処に戻って来ることはないと思っていたけど実際は違った。
まだ終わりたくなかったから……。
助けて欲しかったから……。
「睦、俺はお前に謝らなくちゃ「結人、待って……」」
ステージの上に上がろうとする結人を制止する。
「まだやらなくちゃいけないことある……」
「……自分自身のことか?」
「ん……だから愛音と楽奈にお願いがある。二人の……」
「音をもう一度聴かせて、もっと知りたい。それが……」
「私自身を知ることにも繋がるから……」
目を瞑る……その前に愛音と楽奈に首を縦に振ってから、私は目を瞑る……。
自分の崩壊した精神世界に戻って行く……。
「やろう、楽奈ちゃん。睦ちゃんの為にも」
と言う前に楽奈ちゃんはもうギターを弾き始めていた。
それに釣られるようにして私もピックを弾き始めながらもステージの上で座って目を瞑っている睦ちゃんが視界に入る。
「ごめんね、睦ちゃん……」
睦ちゃん、謝らないといけないよね……。
私は今まで睦ちゃんのことを若葉の娘だとか森みなみの娘だと言ってて、接してた。睦ちゃんのことを睦ちゃんとして見ていなかった訳じゃないなんて言ったら嘘になるかもしれないけど、それでも私は言いたいことがあるの……。
睦ちゃんは凄いよ。
そうやって自分に立ち向かおうとできるなんて……。私は出来なかった、出来なかったからイギリスから逃げて来て羽丘でやり直せるなんて甘い考えをしていたんだ。でも、睦ちゃんは違う。失敗しても歪んじゃっても、自分との対話を今こうしてやろうとしている。そういうのって難しくて誰もが見ないふりをするのに睦ちゃんは今自分と必死に向き合おうとしている。そんなやり遂げて見せようとしている睦ちゃんが今こうして自分と戦っているなら私の音楽で睦ちゃんが何か掴めるものがあるなら、力になりたい。
それでね、モーちゃんと一緒に絶対に帰って来てね……!!
むつみ……。
初めてむつみのギターを結人のスマホから聴いたとき、何処か物足りなかった。それが何なのかは分からない。でも、お祖母ちゃんがよく言ってた。ギターって人の心を写し出す鏡だってお祖母ちゃんの言っていることよく分からないけど、もし本当にそうならむつみにも自分だけのギターを見つけられる。だから、協力する。
むつみともっとギターを奏でたいから……。
私がこの世界に戻ってきたのはこの世界でまだやり遂げたいことあった……から。
山ほど沢山あるなかでも今絶対にケリをつけないことがあった……。
「睦ちゃん、戻って来てくれた……の?」
信じられない、そう言いたそうなモーティスの表情がある。
もう一人の子の方はどうして私が此処に居るのかという疑問が絶えないようだった。
「ずっとモーティスの中で見てた。真っ暗な深海の中で結人が私のことを助けようとしてくれたこと……。愛音と楽奈が私を助けてくれようとしたこと、怖がっていたのにそれでもついて来てくれたにゃむのことを……。みんながみんな、私の為に救いの手を差し伸べてくれていた……それを見て思った……」
「私はやっぱりまだ消えたくないって……。こんなにも誰かに手を差し伸べられているなら、私はもう一度此処で立とうと思えた」
そう、私はあの深海の中でずっとみんなが頑張って居てくれたのを知っていた……。
もう私は救われない。そういう不幸に浸かっている自分を肯定し続けることは簡単だった。
「どうして?どうしてそんなに簡単に変えられるの?」
自分の尊厳を壊されたような顔をしているのはあの子達だった……。
「言った……。みんなが頑張ってくれてる。だから、もう一度立って見せようと思えた。そして、愛音と楽奈のギターを間近で聞いていて思ったことがある。ついて来て……」
自分が開けた大きな扉から私達は離れて行く……。
微動だにもしなかったこの扉は私が開けた。あの扉を開くには多分祥の声が無ければ開かなかったと思う……。私にとって祥は一番最初の光だったから……。
「睦ちゃん、此処って……」
「そう、CRYCHICのライブ会場……」
向かった先にやって来たのはほぼ瓦礫だらけになっているCRYCHICでライブをやった会場だった。観客席はもうほとんどが見えない。残っているのはステージのみ。そこも半分以上は瓦礫に埋もれている。そういう状況の中で私は瓦礫を退かしていると……。
「手伝うよ睦ちゃん……!!」
モーティスは私があるものを探しているのを手伝うために一緒に瓦礫を撤去してくれていた……。そして、一緒に撤去している間にもあるものを手に取る……。
「やっぱり、此処にあった……」
私が手に取ったのはギターだった……。
埃まみれで錆びだらけのギター……。 ネックは少しひび割れていて、弦はほとんどが切れていた。それでも私は震える手で、ゆっくりとそのボディを撫でた。
「睦ちゃん、それって睦ちゃんのギターだよね?」
それにこくんと頷きながらも、私はこう答える……。
「私達が目を向けなかった」
「どういう……こと、睦ちゃん?」
モーティスが私に尋ねて来る。
「私たちはいつもギターと一緒……だった。CRYCHICのときも、Ave Mujicaのときもそう。そして、小さい頃もそうだった。私にとってギターは一心同体だった」
「だった……?」
モーティスの疑問に小さく頷きながらも話を続ける。
「私たちは……」
「弾けなかった訳じゃない」
「え?」
話がよく分からなそうにしているモーティス……。
その隣に私そっくりの存在は違った。今にも後退りしそうになっていてその話を聞きたくなさそうにしていた。
「小さい頃、私はギターというものを弾かせることが楽しかった。私にとっての唯一の感情表現だったけどそれは次第に弾けなくなった。何故なら、ライブで燈達の音楽に触れてしまったから。自分の音楽なんて大したことない。そう認識したのがあのライブだったけど、本当は違った」
「違ったって睦ちゃんがギターを弾けなくなったのってCRYCHICのライブで燈ちゃん達が持つものに圧倒されてそれで自分には何もないってなったんじゃないの?」
首を横に振る。
それは間違ってはいないけど、全部が正しい答えじゃないと……。
「本当のところは私がCRYCHICに依存してしまったから、弾けなくなってた。私にとっての居場所はCRYCHICしかない。そう認識し始めていたから、ギターは応えてくれなくなった。感情表現から……」
「ただの依存先の
私にとってギターは表現方法だった。
小さい頃からは本当にギターが大好きで学校から帰った後はよくギターに触れていた。上手になったら祥に弾いてるところを見て貰いたいそういう願望すらあったのに私はいつしかこの子を手段や道具としか認めていなかった。
そんなことをしていたら、ギターという人格が答えてくれる訳がなかった。
だからあのときの私はギターを弾けることが出来ず、私は自分がバンドを楽しくなかったなんて最悪な一言を放ってしまった……。それがみんなを苦しめる為の呪いとも知らずに……。
「誰も目を向けなくなった、誰も見なくなった。それじゃあ、この子が音を奏でてくれる訳がなかった。だから二つ言わせて欲しい……」
「ありがとう、あのときの私……ギターを弾いてくれて。貴方がギターを奏でられることが出来たから、私はCRYCHICに居られることが出来た。そよや燈、立希に出会うことが出来た。あの出会いは一生忘れることはできないもの……。そして……」
「ありがとう、音を出してくれて……。そして、ごめん。貴方はいつも
ギターの埃を息で吹きかけると、ほんの少しだけギターの色を取り戻している。
私はそれを手で撫でるようにして触れていくと、錆が徐々に落ちて行こうとしていた……。
「これからは貴方の音にも耳を傾ける。貴方の存在を忘れない、私は貴方と此処から始めたい……」
「自分の音を……」
そう宣言をしたのと同時に、自分の体が光り始めていた。
それはまるで内側の自分から何かが発信されているかのようだったけど、それが何なのかは私にはすぐ分かった。何故なら、それはCRYCHICのときの私からの信号だった。
「ありがとう」
と……。
彼女は私の中に統合された人格……。もう喋ることは許されないけど、それでも最後に私に言いたかったんだと思う。自分を利用する形ではなく、自分を認める形で受け入れてくれたことに……。
そして、もう一つ……。
ギターは私の手元で何も語りかけてくれてはくれなかった……。沈黙を貫いていたけど、それでも私は今ならギターを弾ける気がしていた。それを今証明する為にギターに手を掛けようとしたときだった……。
「やだ、やだやだやだ私は認めない!!私だけがギターを弾けるの!!!他の誰でもない!!!」
「これから睦ちゃんになる私達が……!!」