【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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多岐に渡り続けた要は祥やかな灯となり、そよ風の音に花を無邪気に紡ぐ

 ようやく見つけ出すことが出来た、私だけのギター……。

 名前もない、この音に名前もない。それでも私はこのギターが私の音だと思えていた……。太陽みたいな輝きはない。魂を感じさせるようなものはない……けどそれでも、私だけのギター。あの二人に比べたら本当にちっぽけなものかもしれないけど、胸を張って言えた……。

 

 

 

 

 

「ありがとう、愛音……楽奈……」

 

 

 

 

 

 私だけのギターだって……。

 これを見つけ出せたのは……愛音と楽奈のおかげだから二人に私は言いたかった……伝えたかった……。そういうものを……。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 目の前に広がるのは観客席……。

 当たり前のことだけど、そこには知っているみんなが立っていてくれていた……。

 此処に居るということを驚いているの……かもしれない私はもう死んだはずだと思われていた……から。だから、みんな思い思いの……反応をしているんだと……思う。

 

 

 

 

 

「睦……!!」

 

 

 

 

 

「お帰りなさいですわ……!!」

 

 温かさに……包まれる。

 祥という温かさに……。

 

 

「そして……」

 

 

 

 

 

「ごめなさいですわ……睦。私のせいで貴方という人間を壊して……しまった」

 

 私はそれに首を横に振る……。

 

「私も祥のことを壊した……。だから、気にしないで……」

 

 包まれていた私は……それを受け入れていた……。

 ずっと苦しんでいた、祥に傘を差せないと後悔していたから。それは今でもそう……けどはっきりと言えることがあった。私は……。

 

 

 

 

 私は祥が最初の友人で良かったと……言えるから……。

 その光を確かに感じ取りながらも、私はそよの方へと視線を向ける。瞼から涙を浮かべながらも、私に頷いてくれているそよに私は頷き返していた……。それは……。

 

 

 

 

「良かったね」

 

 と言ってくれているような気もしながらも、私は今度は立希と燈の方に視線を向けていた……。

 祥との抱擁から離れつつも、二人に近づいて行く……。まだ、結人とは話せないし顔も見れない。

 

「燈、立希……話がある。ついて来て……」

 

 二人はお互いに顔を見合った後に、私の後をついて来る……。

 それに視線を送っていたのは……初華だった……。

 

 

 

 

 

 

「二人に聞きたい。二人はどうしてそんなに強くなれたの?結人のおかげ?」

 

 私は……私はまだ結人に依存したいという気持ちがあった。

 彼に縋って助かるなら私はそうし続けたい、彼に溺れ続けていたという気持ちがまだ残ってしまっていた……。幾ら結人に拒絶されようとも私は彼と言う光に照らされたかった。そして、今祥が戻って来てくれた、あの二人の光さえあれば私は私で居られる……。

 

 

 

 

 それに、お前はお前でいいと……言ってくれたのは結人だから……。

 

「答えて欲しい、二人に……」

 

 これが最後のチャンスかもしれない。

 望んでいた回答をこの二人になら知っている……はずだから。結人から一番影響を受けたあの二人ならきっと……。

 

「えっとね……なんて言えばいいのか分からない……けど。私が強くなれたとしていたら、きっとそれは……ゆいくんのおかげ……だよ?」

 

「結人に……依存したいと思った事は……ないの?」

 

 その質問に燈は何かを考え込むようにしていた……。

 記憶の糸を辿るようにして……。

 

「あったと……思う。ゆいくんならきっと……導いてくれるかもしれないって……信じてたこともあったから……。ゆいくんは意志が弱い私を……導いてくれたからそういうのもあって……彼に依存したいって……思ったときはあると思う……」

 

「どうして依存……しなかったの?救い……だったのに」

 

「それじゃあ……ダメだと思ったから……」

 

 息をするのが忘れそうになる……。

 その決定的なものが重く伸し掛かっていた……。

 

「ゆいくんに依存するのは……凄く簡単……。多分……だけど、あのときのゆいくんなら……受け入れてくれた……かもしれない。でもそれじゃあ、ダメ……だと思う。誰かに依存するのって……」

 

 

 

 

 

()()がなくなっちゃう……気がするから……」

 

 

 

 

「自分が無くなる……」

 

 燈は私と同じだと……思っていた時期があった。

 私と同じで意志がなくてただ誰かに縋らなくちゃ生きていけないと……。そう思うようになったのは……きっと祥の前で燈が結人の話をしていたときだった。あのときの燈は本当に楽しそうに結人のことを話していた……。

 

 だから、燈も私と同じなんだとなれていた。

 強くなれていたとしても、誰かに依存しているって……。

 

「そうだね……燈……」

 

 それは違ったと今改めて確信できた。

 燈は自分の意志で自分の足で進んでいる。歩いている、私とは大違いだった……。

 

 

 

 

 最初から……違った。

 それに触れ合えたという事実に私は恐怖しそうになっていたけど、なんとか咀嚼しようと必死になりながらも立希が話をしていた。

 

 

 

 

 

「結人は……馬鹿だしいつも手癖悪いし優しすぎるけど……。あいつの一つ一つの行動が眩しかった……。それでも……あいつは私のことを助けてくれようとしてくれていた。それが最善の選択じゃなくても、あいつは見返りなんか求めないで助けようとしてくれていた……」

 

「……好きなの結人のこと?」

 

「はっ!?い、いや……別に私は……」

 

 視線を逸らす立希……。

 突拍子もなくそういうことを聞いたわけじゃない、多分立希は結人のことが好きだと思う……から。聞いてみたかった、あの反応的に多分結人のことは……好きだと思う。顔を……赤くしているから……。

 

「睦……その……結人が言っていたお前はお前でいいって言ってくれていたのは……多分だけど……そのままの通りだと思う……」

 

「どういう……意味?」

 

「堂々とするのは無理かもしれない。それでも、前に少しでも睦が前に進んで歩けるようにって言ってくれたんだと思う」

 

「前に進んで歩けるように……」

 

 それが……出来ないから私は結人に依存したかった……。

 助けて欲しかった……。誰かに縋らないと私は強くなれない、から……。結人が居てくれたら、それで良かった……から。

 

「やっぱり……」

 

 

 

 

 

「無理……」

「睦ちゃん、無理でもないと思う……よ」

 

 

 

 

 

「え……?」

 

 その声は立希でも燈でも……なかった。

 その声の主は……。

 

 

 

 

「初華……」

 

 此処に来るのは意外……だった。

 初華は少なくともRINGに残っていると考えていた……。来るとしても、そよか愛音だと考えていた……。本当に意外というものしかなくて……私は自分の瞼が何度も開けたり閉じたりしていた……。

 

「睦ちゃんは……睦ちゃんは本当にないの?」

 

「なにが……?」

 

「自分の意志で選んだもの……。結人から影響を受けて、自分で掴み取ったものはないの?私は結人から色々教えて貰った……。五感を通して得れるものの大事さ、身近にあるものへの大切さ。友情とか繋がりだとかそういうものの大事なこと、全部結人が教えてくれた……!」

 

 その声はまさしく初華そのものだった……。

 私にはない……もの……。誰かに影響を受けて、いい方向に行くなんて私には無理だった……から。

 

「私は自分のエゴで祥ちゃんのことを止めたかった……Ave Mujicaを辞めて欲しくなかった……。そういうものがあったのは本当なこと……。でもね、それ以上に私は祥ちゃんを止めたかった、一人になろうとしている祥ちゃんを……きっと前までの私だったらそんなことできなかったと思うの……!!今は違うって言えるの……!!どんな些細なものでも……!」

 

 

 

 

「背中を押してくれた()()が居てくれたから……!!」

 

 心が揺さぶられそうになっていた……。

 私の知らないところで初華は結人と友情を育んで彼から良い影響を受けた……。それが私にはどうしようもないほど、羨ましくて……自分自身が歪みそうになってしまっていた。焦がれていた結人という人間に……。

 

 

 

 私には本当にそういう……ものがないから……。

 

 

 

 

 

『私は私でいい……。結人が言ってくれた、だからあの場でも……強くいられた』

 

 突如、脳裏にそんな言葉を……思い出す。

 今となってどうしてそれを思い出したのか、理解不能だった……。ただ一つだけあるものがあった。それは……彼に救われたからこそ自分の意志で……。

 

 

 

 

 若葉睦としてあの場では動じずに居られたこと……だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう……だった……」

 

 私は……知っていた……。

 

 いつだって……私の中に回答があった。

 それを私は……曲解をしていたから結人なら私を助けてくれる。救ってくれる、救世主になってくれると信じていたから私はあの言葉の意味を自分でもよく理解していなかった。知ってたはずだった……。

 

「違う、違うあれは……」

 

 あれは全部結人に依存する為のものでしか……なかった。

 私の意志で掴み取ったものじゃない、初華や燈達のようにじゃない。全部が全部違う。結人と一緒に睦を探したことも、楽奈たちのライブに来たのも……。結人のバイトしている姿を見ていたのも、楽奈の音楽を聴いたのも……。結人に「ありがとう」と伝える為に飴をあげたのだって、強く居られたと言ったのだって……。祥を助けようとしたのだって、祥に傘を差さとうとしたのだって……。

 

 

 全部が全部、私が誰かと一緒に居ないと耐えられないから、自分で居られないから……。

 

 

 

 

 

 

『これからは貴方の音にも耳を傾ける。貴方の存在を忘れない、私は貴方と此処から始めたい……自分の音を……ありがとう』

 

 膝から崩れ落ちる。

 あの子のように……記憶の幾星霜が私に降り注ぐなか、もう納得してしまっていた……。私がこの世界に戻って来たのは……。

 

 

 

 

「もう一度立とうと……思ったから……」

 

 それはまさしく自分の意志で掴み取ろうとしていたもの……だった。

 誰でもない、私自身が選んで此処に戻って来た。あのまま、硬い頑丈の扉の向こう側に居れば良かったのに、私は此処に戻って来たんだ……。

 

 みんなが手を差し伸べてくれていた……から。

 知っていたはずだったんだ、簡単な答えを……。

 

 

 

 

 

 

 

 祥や結人、みんなのおかげで私は変われていたということを……。

 それに気づいた瞬間、自分がどうして今まで気づけなかったのかと情けなくなってしまっていた。今にも泣きそうな自分を堪えながらも……立希が「大丈夫?」という声を掛けてくれている……。心配そうに……。

 

 

 

 

 それに……私はこう答える。

 

 

 

 

 

 

 

「もう……大丈夫」

 

 今度こそそう言い切れた……。

 燈の詩みたいな言葉、立希のはっきりとした言葉、初華の情熱的な言葉……。そういうものが私にはちゃんと響いていた。

 

「本当に大丈夫、睦?」

 

「大丈夫……私はもう……」

 

 

 

 

「一人で歩けるから……」

 

 弱々しい言葉じゃない、今度ははっきりとした言葉で私の意志を示した……。

 それが自分で掴み取ったものだと実感させながらも、私は立ち上がって三人の表情を見る……。三人はそれぞれ、私に顔を見せてくれていた……。立希は安心しきったようで何処かまだ心配してくれている顔……。燈は私の中にあるものを感じ取ってくれているのか安心している。初華は名前を呼んでくれながらも、私のことを察してくれていた……。

 

「三人共、ちょっと待ってて……話したい人がいるから……」

 

 私は自分の足で立ち上がり……目を瞑る。

 

 

 

 

 

 崩壊した精神世界へ行くために、そして彼女にある話をする為に……。

 

 

 

 

 

「睦ちゃん……」

 

 戻って来た世界は変わっていることは……なかった。

 崩壊したままの世界が続いていて私の心がどれだけ脆弱性に満ち溢れていることなのか……それでも私はこの世界と修復させることもそうだけど、なによりも私は今目の前にいるモーティスにあることを伝えたかった……。

 

「モーティス……私は……」

 

 

 

 

 

「きっと心の何処かで祥のことを疫病神だと思っていた時期もあったのかもしれない、祥という呪縛から解放されたいという望みも心の何処かではあったのかもしれない。それを私は……認める」

 

「睦ちゃん……」

 

 私自身、あの日祥を疫病神だと言われたことは否定していた……けど、それが完全に否定できるけど私は心が強くなかった。あの日、バンドを楽しくないと言ったあの日以降何処かで私は祥が居なければと醜く歪んだ感情を持っていた私が居てもおかしくはなかったの……だから。

 

「モーティスのことは正直……嫌いだった。貴方は結人の隣という居場所を私から奪い取った。それが許せなかった、私はCRYCHICのときの私と協力して貴方を殺そうとした。でも、それは出来なかった。それは貴方の意志の強さもあっただろうけど……」

 

 

 

 

 

 

「心の何処かでは貴方みたいになりたかったと思う自分が居たから……」

 

 紛れもない事実だった……。

 この答えも知っていたはずなのに、私は見向きもしないでいた。嫌だったから、それと向き合うこと自体が……。だから、無い前提で私は自分という人間を誰かに染め上げて欲しかった。

 

「でも、今は違う。CRYCHIC、ギター、あの子達……。燈達や結人の会話を聞いたり、深海の中でモーティスが函館に行っていたとき、体験という言葉、そして結人から得ていた思い出という言葉は私も結人から似たようなものを得ていた。そう、それこそが……」

 

 

 

 

()()だった」

 

 私はあのとき、結人に縋る為に経験というものを積み重ねようとしていた。

 

「自分の足で立った今、私は自分の意志で進んで行きたい。自分の足で経験を積みたい、思い出を作りたい、体験をしたい。それは勿論……」

 

 

 

 

 

 

「モーティスが居ないと意味がない」

 

 はっきりとモーティスと目を合わせながらも、私は自分のはっきりとした感情を語った。

 今度は舞台の観客席から見届けるんじゃなくて自分の意志で……。

 

「じゃあ、それって……」

 

「ん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が死ぬまで……ずっと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「傍に生きて、それで……()()()を作って行こ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………うん!!」

 

 気づけば、私はモーティスのことを抱きついていた……。

 二人で抱き合いながらも、お互いに涙を隠そうともせずに泣いていた……。

 

 

 

 

「それとごめん……モーティス」

 

 

 

 

 

 

「もー!いいって、睦ちゃん……!!睦ちゃんが生きているだけで私は嬉しいよ……!!」

 

 

 

 

 

「ん……」

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう……」

 

 

 世界が修復されていく音がしていた……。

 それは前のように劇場のような場所じゃなくて……私達の周りを花……紫のシクラメンや黄色のシンビジウムが彩っていた……。

 

 

 

 

 

 

 

「綺麗だね、睦ちゃん……花束とか出来るかな?」

 

 

 

「作って……みる?」

 

 

「作っちゃお……!!これも」

 

 

 

 

 

「思い出だもん……!!」

 

 歩き始めながらも、花畑の方へと向かって行くモーティスの後ろ姿を見ながらも私はその花達を見つめていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の誕生花達を……。

 

 

 

 

 

 








恐らく、この作品で最も原作との相違点があるとすれば睦とモーティスが生存していることです。原作では両者共に消失しており、アニメの10話以降ではまた別の若葉睦達になっているようですが、こちらの小説では睦がモーティスを受け入れて共存し、今までの自分達を受け入れるということで彼女は彼女なりに一歩を踏み出すという物語になっています。












花言葉


紫のシクラメン:「嫉妬」「疑惑」「内気」「絆」「思いやり」

黄色のシンビジウム:「飾らない心」「素朴」「誠実な愛情」








多岐(立希)渡り続けた(人格)(楽奈)(祥子)やかな()となり、そよ風の(愛音)(初華)無邪気(モーティス)紡ぐ(結人)
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