【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
揺れる灯火。
『楽奈ちゃんは何処!?春日影、最初に引いたのは楽奈ちゃんでしょ!?』
『ま、待って……!!楽奈ちゃんは言ってくれた……!!結人君の一生の思い出に残るライブにしようって……!!それに歌ったのは私だから……!!悪いのは……『燈ちゃんはどうして楽奈ちゃんのことを庇うの!?祥ちゃんのことはどうだっていいの!?』』
『そ、それは……』
私は出口のない迷路をずっと彷徨っていた。
迫られた二択に対して私は選ぶことが出来ず、両方が大事だと言ってしまった。私にとって、楽奈ちゃんは結人君に対してもう一度チャンスを与えてくれるかもしれない存在だった。あの日、結人君が見れなかったライブのリベンジを楽奈ちゃんが示してくれた。きっとあの一生の思い出という言葉が無ければ私は春日影を歌っていなかったのかもしれない。
祥ちゃん……。
私が祥ちゃんのことを悲しませたことは事実だ。祥ちゃんが来ていたことは分かっていたはずなのに私はあの場で春日影を歌ってしまった……。
「燈ちゃん、祥子ちゃんの教室行ってみる?」
愛音ちゃんは私に気を遣ってくれていた。何も言わずにただ頷くと、私は祥ちゃんがいるはずの教室を目指した。
「此処だよね?」
もうライブは終わっていた。
一日が過ぎて、ぎくしゃくとした新しい一日が始まっていた。そんなことを実感していると、愛音ちゃんは祥ちゃんのことを呼ぼうとしているが現れる気配がなかった。祥ちゃん、あんまりクラスで馴染めないようなタイプじゃなかった気がするのに……。
「……あっ」
私の横を祥ちゃんが通ろうとしている。
何かを言おうとした瞬間に声が出せなくなってしまっている自分がいたがそんななかである人の影を思い出す。
『燈は凄いじゃないか。自分の意志でバンドを始めて今こうして羽ばたこうとしている。それって一歩ずつ踏み出して歩けている証拠だろ?俺は本当に凄いことだと思う……!!』
結人君は……いつも私に勇気をくれていた。
バンドを始めるときに勇気を持てないでいた私に勇気をくれた。あのときだけじゃない、結人君はいつも私に勇気をくれていた。背中ばかりしか追いかけることしか出来なかった私にいつも……。そのおかげで私はバンドを始めてからというものの彼の隣に立てるようになった。嬉しかった、隣に立てて……。もし結人君だったら、きっとこの場でちゃんと祥ちゃんに「ありがとう」と言えるはず。私が勇気を出せさえすれば……。
「祥ちゃん、昨日はありがとう……。頑張れって言われているような気がして本当に精一杯歌うことが出来たの……!!それと春日影は……「随分と目つきが変わったんですのね、お礼なら結構ですわ」」
それだけ言って祥ちゃんは教室の中へと入って行く……。
祥ちゃんの目までは見て話すことは出来なかったけど、なんとなく言葉の情緒が揺れ動いているみたいな気がしていた。もう自分にしがみついているのではなく、誰かが私のことを自立させたんだと考え過ぎなのかもしれない、ただ冷たく言われたよう言葉だけではない気がしていた。
冷たく……?
「っ……!!」
頭が痛い……。
楽屋のときのと一緒……。何かとてつもなく恐ろしくて禍々しくて深海のように冷たさを持つ何かを思い出そうとしているものの私の心が何重にもその記憶を鎖で縛りつけようとしていることは間違いない。きっとその思い出そうとしている内容は私にとって恐怖心に繋がるものなんだ。だからこんなにも拒絶しようとしているんだ。
「燈ちゃん大丈夫!?」
「だ、大丈夫……」
愛音ちゃんが私を保健室に連れて行こうとしているのを見て、袖を掴んで首を横に振り、「大丈夫」と伝えていた。愛音ちゃんはそれでも私のことが心配で保健室に運んでくれていた。
「愛音ちゃん、私ね……。本当はさっき……祥ちゃんに話しかけるの凄く怖かったの……」
保健室……。
熱はなかったけど、保健室の先生の指示で暫くの間私はベッドの上で休むことになった。愛音ちゃんは私のことを昼休みが終わるまで付き添ってくれると言ってくれていた。私は「大丈夫」と答えたけど、心配だったみたい……。
「でも、結人君だったらきっと……ちゃんと言えると思ったら不思議と言えたんだ……。結人君は……いつも私に勇気を与えてくれたから……」
「燈ちゃん、前にも同じようなこと言ってたよね。結人君から勇気を貰ったって……」
「愛音ちゃんはノート見たことあるよね、あれを結人君に見られたとき凄く恥ずかしかったんだ……」
結人君を初めて家に招き入れたとき、かなり緊張した。
男の子の友達なんて連れて来たことがなかったからお父さんにもお母さんにも驚かれて心配された。収集していた石とかコルクボードに取り付けてある集めたものとか全部見えないように片付けようともしたけど、数が多すぎて隠すことが出来なくて私は結人君にありのままの自分を見せた結果、最初こそは私の部屋の周りをジッと見つめていたけど「良く集めてるな」と褒めてくれた。
「誤魔化そうとしたけど、結人君は「共感した」って言ってくれた。いつも周りに合わせてばっかりだったから私は私の世界を持っていていいんだって初めて思えたんだ……」
「そんなに仲良かったのにどうして一年も連絡取ってなかったの?」
「覚えてない……」
「え?」
愛音ちゃんが私の言葉を聞いて「なんで?」と言いたそうにしているのが伝わっている。
正直私もよく分からない。結人君に連絡を取りたかったはずなのに、どうしてライブに来てくれなかったの?と聞きたかったはずなのに聞くことが出来なかった……。
「結人君に前のバンド、CRYCHICのときライブに来てねって言ったのは覚えているんだけど……。その後を覚えてない……。連絡も来なくなって、するのも怖くなってしなくなった……」
結人君へ連絡しようとしたこともあった。
手が震えて連絡することが怖くてしょうがなかった。あのときの手の震えは今でも覚えている……。
「そっか……、でもこうして今は結人君と連絡出来ているんだし良かったじゃん!」
「うん、再会出来て本当に良かった……」
愛音ちゃんの言う通りだ、結人君とは一年間会っていなかったとはいえ今はこうして結人君と再会できている。続いてた一年間の真っ白な空白は終わりを告げて新しい記憶の一枚が進みだそうとしているんだ。だったら、結人君とはまた一緒に歩んでいきたい。
「あっ……!やばっ……!!」
昼休みの終わりのチャイムの音が鳴っている。
愛音ちゃんは私との話に夢中になっていて「やばいやばい!」と言いながらも保健室から出ようとしていたが、私のところに戻って来る。
「今日は燈ちゃん、ゆっくり休んでね!!バンドのこととかそよさんのこととかあんまり深く考えなくていいから!じゃあね、燈ちゃん……!!また後で見に来るね!!」
「……う、うん」
嵐のように去って、嵐のように戻ってまた去って行く愛音ちゃんに私は「じゃあね」と言った。保健室の先生は私がベッドに来るときに少し保健室から出ると言っていたから、私は一人になっていた。此処最近、一人でいるのはあんまりなかったから不思議な気分だった。
「そうだ、結人君からライブのことで何か来てるかな……」
ベッドの上に一緒に置いてあったスマホを手に取って私は結人君からの連絡を見る。昨日はそよちゃんのこともあって携帯を見ている時間があまりなかったから私は今になって確認していた。
『燈、凄い感動したよ』
「良かった……」
短い文章ではあったけど結人君がライブを見に来てくれたこと、感動したと言ってくれたことが本当に心の底から良かったと安心することが出来つつも結人君から来ていた連絡を遡っていた。
「……?」
私は連絡していた内容を遡っているとあることに注目していた。それは基本的に私からの結人君に連絡していることの方が圧倒的に多かったこと。結人君から連絡してくれたのは再会して結人君と雑貨店に行ったときぐらいのときだけだった。
「気のせい……」
一瞬結人君が私のことを避けているなんてことが過ったけど、避けているなら一緒に買い物に付き合ってくれたり、バンドのことで相談に乗ってくれたり、立希ちゃんのことを頼むなんて言わないはず……。
「だよね……」
分かっているはずなのに……自分の中で言い切れる自信がまるでなかった……。
まるで何かが「本当にそう言い切れるの?」と囁いているように聞こえていた……。私は愛音ちゃんがいなくなった保健室の中でたった一人だけ取り残され、怖くなった私はベッドの中で目を瞑るようにして眠ろうとする。放課後が訪れるまで……愛音ちゃんが戻ってくるまで……。
「燈ちゃん、どうしてあんなこと……CRYCHICのこと……もうどうでも良くなったのかな……」
燈ちゃんなら私の言いたいことを分かってくれると信じていた。
燈ちゃんもきっと私と同じでCRYCHICに未練があるはずだったから……。なのに燈ちゃんが取った行動は楽奈ちゃんを庇うような行動だった……。あんなことをしてくるなんて本当に驚いた。燈ちゃん、いつの間に楽奈ちゃんを庇っちゃうほど仲が良くなっていたんだね。
『結人君の一生の思い出に残るライブにしようって……!!』
舞台裏で燈ちゃんが言っていた言葉……。
私は一口紅茶を飲んでからソファーから立ち上がり、高層マンションの窓から東京という街を見ながらも私はある発想を思いつく……。
「燈ちゃん……」
「そうだよね……」
「結人君の言葉なら信じてくれるよね……?」
「前のバンドの方がいいって言わせたらきっと燈ちゃんも……戻ってくれるよね?」
「だって、結人君の口から出る言葉だから」