【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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答えのない迷宮を出るために

「睦ちゃん……」

 

 月ノ森へ登校してすぐに来た場所は……睦ちゃんがよくプランターで野菜を育てている場所だった……。睦ちゃんが此処に居るかもしれないと思って、案の定その場所には睦ちゃんが居た……。

 

「……そよ」

 

 私の名前を呼んだ後にプランターの方へと目を向けていた……。

 それからじょうろで上から水を掛けている睦ちゃんの姿がある……。

 

『成長出来て良かったね……そよ』

 

 あの日の睦ちゃんという存在が脳内から落ちることはない……。

 私はあのとき初めて睦ちゃんに恐怖をしたのだから……。それでも、私は睦ちゃんに伝えなくちゃいけないことが……あった。

 

「そよ……今までごめん」

 

「……え?」

 

「謝りたかった……ずっと……そよに対して……」

 

 土が湿ったのを確認してから、睦ちゃんは手に持っていたジョウロを一旦置いて私に謝罪をしてきていた。その謝罪は形だけのものじゃないというのは知り得るには時間なんて掛からなかった。何故なら睦ちゃんは姿勢を正してそのまま軽く頭を下げていたの……だから。

 

 なによりも真っ直ぐな瞳で心の底から申し訳なさそうな表情をしていた……。

 

「こんなことを今更言っても……そよが苦しむだけかもしれない……CRYCHICのことは私も復活させたかった……。でも、私が喋れば……何かもを壊してしまう……。そう思っていたから……そよの力に……なれなかった……。そよの味方もできなかった……だから……ごめん……」

 

「保身にしか……聞こえないと思う。それでも……私は……謝りたかった……そよに……」

 

 今までのように何も喋らないただのお人形さんじゃなかった……。

 そこに居たのはみなみさんの娘でも若葉さんの娘でもなかった……。ただ、私に謝りたという……。

 

 

 

 

 睦ちゃんという存在そのものだった……。

 

 

 

 

「そう、そうなんだね睦ちゃん……」

 

 睦ちゃん、凄いよ。

 これは心の底から本当に思えた……。睦ちゃんは自分の力で檻から解き放つことが出来た。それは私には出来なかった行為……。

 

「……ん、それでそよに一つ相談に乗りたいことがあるの……」

 

「私に?結人君じゃダメ?」

 

「ん……結人だったらきっと答えを教えてくれると思う。私のことを導こうとしてくれたから、でも今は少なくとも結人ばかりに頼りたくないって気持ちがある……。私は結人のおかげで自分を取り戻すことが出来た。自分という人間を得ることが出来た……。結人と出会わなければ……無理だったかもしれない……。だからこそ、そよに……聞きたい」

 

 

 

 

「これ以上結人ばかりに頼らない為にも……」

 

 一語一句それに迷いはなかった……。

 もうただの口篭って何も言えなくなっていた睦ちゃんとは違う……。本当にそう実感させられていた……。だから、私もそれに応えることにした。

 

「なにを聞きたいの?」

 

「バンドのこと……」

 

「…………それならもう睦ちゃん自身で決まってるじゃないの?」

 

「え?」

 

 

 

 

「睦ちゃんがやりたいようにやればいいと思う。祥子ちゃんがとかじゃなくて、自分がやりたいなら」

 

 ちょっと投げやりになってしまっていたのは……睦ちゃんという存在がこうも変わるとは想像もしていなかったのと同時に……。

 

 

 

 

 

 

 私は謝ることが出来なかったとなっていた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰にも……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 放課後……。

 そよとの話を終えて以来、ずっと私はムジカのことを考えていた……。

 

 

 

 

『睦ちゃんがやりたいようにやればいいと思う。祥子ちゃんがとかじゃなくて、自分がやりたいなら』

 

 私のやりたいように……。

 あのとき、私がそよに聞こうとしていたのは……バンドを続けるべきなのかどうかという話だった……。ムジカは今活動休止という形になっている。此処から私達が活動再開できるかどうかは私達次第というのも分かっていたけど、私は自分がどうすればいいの分からなかった……。

 

「モーティスはどう思う?」

 

 問いかける、もう一人の私に……。

 

『睦ちゃんはやりたいの?』

 

「分からない……」

 

 ギターという音を手に入れることには成功した。

 私はそこからどう先に進めばいいのか分からない。

 

『目標もないのにまたやったら睦ちゃんが苦しいだけだよ?』

 

「……知ってる」

 

 そう、暗闇の中に広がる照明が探し出すぐらい難しいというのは知っていた。

 一歩を踏み出すということが此処まで重かったというのもあるけど、バンドをやって何をすればいいのか分からなかった……。目的もないのに、バンドをするという行為がいいのかも霧の中に包まれていると……何処かで見覚えのある髪色が目に入る……。

 

 

 

 

「結人……」

 

 そこに居たのは結人だった……。

 一人だけなのかな?と思っていると、愛音と楽奈も一緒にいるみたいだった……。結人が私のことに気づいたのか、愛音にクレープを渡した後に私の方へと向かって来ていた……。私は結人に頼る訳には行かないから、その場から逃げようとしたときけど……。

 

「睦……」

 

 結人の方が声を掛けて来るのが早かった……。

 

「睦、その今までのことなんだが「言わなくていい……」」

 

「……結人に助けられていたのは……そうだから。それが歪んだ方向だとしても……結人が支えてくれたから……私は前を向いて歩き出すことが出来た……」

 

 何度も道を間違えた……。

 道を間違え取り返しのつかないことをしてしまった……。それでも、私は結人や燈達のおかげで私は今こうしてモーティスと共に居られている。私という人間を保ち続けることで……。これ自体が奇跡みたいなものだから、お礼を言いたいのは私の方だった……。

 

「そうか……そう言ってくれるなら助かる……。モーティスの奴にもそう伝えておいてくれ」

 

「変わる?」

 

「そ、そんな簡単に変われるのか?」

 

「……多分」

 

 念じるようにしてモーティスに結人の前で変わって欲しいと言う。

 そうすることで……。

 

 

 

「結人君……!元気にしてた!?」

 

 モーティスへと変わる……。

 

「え?あ、ああ……」

 

「むぅ、なんか反応悪くない?」

 

「いや、そんな簡単に変われるんだなと思ってな」

 

 確かに言われてみれば、こうして結人の目の前で人格切り替えをするというのは初めてだったかもしれない。そもそもいつもモーティスが勝手に私になっていたから見せる機会なんてなかった……けど。

 

「ーん、まあ今私達の中に居るのは睦ちゃんと私だけだし、変わること自体はそう難しくないんだよ?睦ちゃんも私も共存するってお互いに決めたから……!」

 

「そうか、……良かったよ二人共。何か困ってることはあるか?」

 

 私はそれに首を横に振る……。

 さっきも言ったけど、此処で結人に頼るのは違う。愛音や楽奈に聞くのも悪くはないと思ったけど、あの二人にも凄くお世話になった……。だったら、此処であの二人に頼るのは違うとなったから、私はこう答える。

 

「楽奈と愛音にもよろしくって言っておいて」

 

「ああ、任せろ。それじゃあな睦」

 

「ん、じゃあね結人」

「じゃあね結人君!!」

 

 一瞬だけ表に出て来たモーティスが結人に別れを告げていた……。

 私は結人が手を振ってくれたのを見て私はそれに応えるようにして手を挙げていると、楽奈がこっちに気づいて笑顔を向けていてくれていた……。

 

 

 

 

 

 

『睦ちゃん、どうするの?ムジカのこと……』

 

 暫く歩いているうちに私は再びムジカのことについて考えていた……。

 何れ選択を迫られることになるかもしれない。それなら、今の内に答えを決めておきたかったけど、やっぱり私には……。

 

 

 

 

 

 

「若葉さん、此処に居ましたか……」

 

 声を掛けられる……その相手は……海鈴だった……。

 

「連絡したのに返事がないから心配しました」

 

 そう言われて私は自分のスマホを確認すると、そこには「今会えますか?」という連絡が一通来ていたことを今になって知ることになった私だった……。

 

「もしかして……ムジカのこと……?」

 

「ええ、そうです……。私はムジカを今からでも再始動させるべきだと考えています。勿論、それには豊川さんの了承が必要なのは分かっていますが、その前に貴方の返事を聞きたたかったんです。貴方は……Ave Mujicaをまたやりたいですか?」

 

 

 

 

 

「それは分からない……」

 

 手を差し伸べられたも同然のものを私は振り払うことになった……。

 それが間違いだとしても私は今は自分がムジカをまたやるという想像が出来なかった……。

 

「そうですか……」

 

「ごめん……」

 

「いえ、お気になさらず……。ですが、一つだけ見て貰いたいものがあります」

 

 そう言って、海鈴はスマホを私に見せて来ていた……。

 

「見て貰いたいもの……?」

 

「ええ、それは私とではなく……豊川さんとチケットは渡しておきます。このバンドは確か貴方が通っている月ノ森の生徒が組んでいるバンドです。貴方や豊川さんにならばきっと……響くはずです」

 

 私は首をピクリと動く……。

 その単語だけでどのバンドか分かったから……。

 

「喰いつきましたね、ええそうです……」

 

 

 

 

 

 

「モルフォニカのライブです」

 

 

 

 

 

 

 

「このライブを得て、貴方と豊川さんがAve Mujicaをどうしたいのか今一度考えて貰えませんか?」

 

 

 

 

 

 

「その後でまた答えを聞きます」

 

 

 

 

 

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