【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
知りたかった、どうしても知りたかった……。
倉田先輩にとってのバンドがどういう存在なのかを……。喉から手が出るほどなんて言葉があるけど、流石にそこまでじゃなかったけどそれでも今の私にとってバンドというものがどういうものなのか倉田先輩の口から聞きたかった……。
「若葉さんが聞きたいことがどういう意味なのかは分からない。それでも答えらることがあるとすれば私にとってのバンドは……」
「大変なことも辛いこともある。成長できるだけじゃなくてもしかしたら退化することだってある……。そういうものがバンド……。こう聞くと、凄く複雑なものに感じるかもしれない。それでも私はね……」
「バンドやって良かったって思えるんだ」
倉田先輩は昔を懐かしむような表情で話をしてくれていた……。
私はその話を聞いて、他人事ではないと考えていた……。何故なら、ムジカもそうだったから成長できていたかはともかく……私達のバンドは大変なことも辛いことも……あった。人形としたバンドであるから、お互いの意見が対立し合うこともあった。特ににゃむと……祥は……。そして、退化というのは私に一番相応しいものだった。
「どうして……ですか?」
「なりたい自分になれない怖さを教えてくれたのはバンドだったけど、なりたい自分になりたい気持ちを教えてくれたのもバンドだったんだ……」
倉田先輩は前にもこの話を誰かにしたことがあるのか、それを思い出すように……話をしていた。
「怖く……なかったんですか?」
「勿論、怖かったよ……。というよりは凄くショックだった……かな。変われたなんて自惚れてた自分を馬鹿みたいに思っていたときもあった。そういう自分に嫌気が差して逃げ出そうとしたときもあった。それでも、私はバンドをやって良かったと思ってるんだ。だって……」
「そういうものを乗り越えた先に私が信じたいと思えるものが……あったから」
強い意志が……あった。
それはバンドというものを長く続けた経験者だからこそ出るものだというのを納得せざる負えなかった……。これ以上、「どうして?」という単語は出て来なかったけど私にはどうしてもバンドをやりたいという気持ちに揺らぐことは出来なかった。まだ何か欠けたものが足りないという違和感があった。それを探ろうとしていると……二人の足音のようなものが聞こえて来ていた……。
「ましろちゃん、居た……!!」
声がしていた……。
走って来ていたのは黒い髪の二つ結びの人と……もう一人は金髪の長い髪の女性の人だった……。二人の女性はどちらも私が知っている人だった……。
「シロ!着替えてすぐ急に楽屋を飛び出すからビックリしたんだからな」
陽の光みたいな輝きを放ち続けながらも、倉田先輩を注意していたのは桐ヶ谷透子先輩……。
「あっ、ご……ごめん……透子ちゃん、つくしちゃん……」
「いいよいいよ、でもどうして急に飛び出したの?」
疑問を投げかけていたのは……二葉つくし先輩……。
こんなにもモルフォニカの先輩達に囲まれていることになるのは……予想していなかった……。
「その……ちょっとお話したかったことがあるんだ」
私の方に倉田先輩が視線を向けていると、二人も私の方に視線を向けていた……。
「へぇ、シロがファンの子と交流しているなんて珍しいじゃん……。って、この子何処かで見たことある気が……?」
桐ヶ谷先輩が何かを思い出そうとしている……。
私は一瞬、足を後ろに戻そうとしたとき……だった。
「あっ!思い出した!!あれだよ、あれ……!!若葉と森みなみの娘……!!月ノ森の一年にいるっていうのは耳にしたことはあったけど、本当に人形みたいな奴じゃん!」
「若葉の娘じゃん!」といつもの声がしている。
自分が自分じゃない、存在と認識されているはずなのに……。何処か違和感があった……。今までだったら傷ついていないふりをしていたはずなのに……。
「ちょっ、ちょっと透子ちゃん……!あんまりそういう言い方はしない方がいいんじゃ……」
指摘してくれているのは二葉先輩だった……。
「え?いや、だって実際そう…………悪い!!」
私の様子がおかしいと思ったのか、手を合わせて謝って来てくれている桐ヶ谷先輩……。
私はいつもみたいに「気にしていない」という合図を送るために首を横に振っていたけど、本当に不思議なことがあった……。何故なら、今回は本当に……。
何も感じていなかった……。
本当に様子が違った。慣れ、というものでもなかった……。もし可能性があるとすれば、それは私という人間が私として生きていくという土台を作り上げたことによって私は私でいいとなれていたのかもしれない。
例え、二人の子供としか扱われなくても……。
「桐ヶ谷先輩、二葉先輩……聞きたいです……バンドってなんですか?」
「バンド……?」
再び二葉先輩が疑問を投げかけて来る。倉田先輩からバンドというものはどういうものなのかを聞くことが出来た。それでもまだ私は自分がどうするべきなのか決めかねていた、自分の選択に今度こそ悔いなく選びたかったから……。
「まあ、いいじゃんか
「形……」
「そうそう、難しいことは上手く説明できないけどやっぱ一人でも欠けてたらモニカはモニカじゃないってあたしは思ってるんだ」
形……。
私達、Ave Mujicaにはそういうものはあったのか……は分からない。いや、最速武道館まで辿り着いたからその形はあったのかもしれない……。ただその形は歪で触れるだけで割れてしまいそうなガラス……だった。
「透子ちゃん、それじゃあ若葉さん全然伝わらないよ……!」
「えー?いやー、あたしの話したことに触れてくれてたし結構伝わってそうだけどなー」
「もー!あーえっと、バンドのことだった……よね?」
私は軽く頷いた……。
それからして、二葉先輩は思考をしている時間があった。
「私にとってのバンドって変われる場所だと思うの。私は前向きになって行くましろちゃんの姿を見て自分ももっと頑張ろうとなれた。こういうのってきっとバンドを組んで音楽っていう調和を覚えていなかったら自分から進もうなんて考えていなかったかもしれない……。だからね、若葉さんにはこの言葉を送るね」
「自分が何かを見つけ出したいというその一歩はとっても大事なことなの……!」
……触れてしまった気がしていた。
私は自分の心の奥底に眠るギターの心音に触れた気がした。自分だけのギターがまるで三人の先輩から聞き届けたものが響いて透き通るようなものに変わったような……気がしていた。確信を得ようとしたと倉田先輩が口を開いた……。
「あなたの輝きが道を照らす、若葉さんもこの言葉知ってるよね?」
「月ノ森の校訓……」
私はそれを知っていた……。
集会などでよく聞いていたから……。
「うん、私はあの校訓を最初はね、惹かれるものがあるとか凄くいいなと思っていただけだったんだ……。ただ言葉の羅列みたいに……。だけど、今なら分かるの。私はモルフォニカを通してこの先も輝ける未来に辿り着けることが出来るかもしれないって……」
「信じてるんだ」
先輩達の意志はどれも凄まじいほど強かった……。
乗り越えて来たからこそ先輩達はそう信じられるようになった。そういうものがあったのは分かった……。私も……いつかはなれるのだろうか……。そういう輝きを放ち続けられる自分を……。
「なれます……か……私もなれますか……?」
「先輩達みたいに……」
願ってしまいたかった……。
叶えたいと思ってしまった……。無理なものだと気づいているのに、それでも先輩達……モルフォニカみたいに輝きを放ち続ける人になりたい……。私は誰かを輝かせることなんて……できないから……。
「あーえっとわか……睦だったよな?その……そのさ……」
「あんまりそうやって卑屈になんなよ、睦って女優としても活動しているんだろ?普通に凄いじゃん!しかも、あーえっと……Ave Mujicaだったっけ?そこでギターやってるんだろ?なら、あたしと同じじゃん!」
「…………え?」
頭が混乱していた……。
桐ヶ谷先輩の言っていることがよく分からなかったから……。
「多分、睦はあたし達のことすげえって思ってるのかもしれないけどさ、あたしだって最初は全然ダメダメだったんだからな?ルイ……あールイってのは八潮瑠唯っていう感情が無い奴でな……!それでそいつに毎回ダメ出しされたんだから……それでもやりたいって思う事をやり続けたんだ……」
「やりたいことを……?」
「そうそう、睦も自分がやれると思うことをやればいいんだよ……!最初は色々言われても、自分がやりたいと思う事をやり続ければいいって……!そんでなんか困ったことがあれば、ギターの先輩のあたしに相談してきなって!」
「相談に乗れそうな奴なら私が答えてやるからさ……!!」
桐ヶ谷先輩は笑顔を向けてくれている。
世界が浸透しそうに……なる。
自分の世界がようやく繋がった感覚があった……。それに満たされていたのは……やりたいことをやればいいという背中を押されたから他ならなかった……。私はやりたい、ギターを弾きたい。そういう意欲があったのはそうだった……。
だけど、悩んでいた……。
私にはギターを弾かせる才能はあっても特色出すことは出来ないから……。特色がなければ、ギターを満たしてあげることも出来ない。そう思っていたのに桐ヶ谷先輩にやりたいことをやってみせればいいと器を満たされて私はその足を踏み出すことが出来そうになっていた……。
「倉田先輩……二葉先輩……」
「桐ヶ谷先輩……」
「ありがとうございました……」
ようやく見つけ出した答え……。
初華もそよも言っていた……。私の中に既に答えは出ていた……。
「バンドをやれる理由が……」
ギターを弾きたい。この子を弾かせてあげたい。
それだけでもう私は充分に……。
「ありました……」
もう私はあの頃の若葉睦じゃない……。
ただ人形のように生き続けてたぁくんとみなみちゃんの娘だとしか思われていなかった私じゃない……。私は若葉睦、ただ一人の人間……。この先もモーティスと共に生き続けて、なによりも
「いい顔になってきたじゃん……睦!!」
「じゃあ、早速あたしのことは桐ヶ谷先輩じゃなくて透子先輩って「折角いいこと言ったのに台無しだよ!!透子ちゃん!!」」
「えー!だって折角いい感じに睦もなってきたんだし、それに後輩に名前と先輩で呼ばれるいい機会じゃん?」
「だとしても、さっきまでと空気が全然違い過ぎるよ透子ちゃん!!」
桐ヶ谷……透子先輩が笑顔でそう答えてくれていると、二葉先輩がツッコミを入れていた。それに倉田先輩が笑みを浮かべているだけで先輩達のバンドがどれだけ仲が良いのかと触れる機会になっていた……。
「ましろ先輩……本当にありがとうございました」
「ううん、いいよ……。力になれたなら良かったよ……」
「睦ちゃんの……」
こうやって段階を踏んで名前で呼ばれる……。
かつては若葉と呼ばれることすらも嫌だった私があまりそれに嫌悪感を出さないようになっていたのは本当に私が人という人になれたからなのかも……しれなかった。私はそれに改めてお礼を述べていると、ましろ先輩達の後ろから二人ほどの女性……。いや、一人の方は知ってた……。
「ルイとななみもシロのこと、追いかけて来たのか?」
「いやぁ、それがさ……ちょっと話してたんだ」
先には話をしていたのは……明るめのピンク髪の七深先輩……。
もう一人、隣に立っている先輩の方は何かを考え込んでいるようだった。
「るいさん、何かあったの……?」
「いえ、特に問題はないわ……ただあるとすれば」
「彼という強固な意志をこの目で見れたとでも言うべきなのかもしれないわ……」
もう一人の先輩の方は私は知ってた……。
生徒会役員の八潮瑠唯先輩……。学校中でもその容姿と規律に対しての話をよく耳にすることが……あったから。
「はぁ……?なんだそりゃ?」
「桐ヶ谷さんには関係のないことだわ……」
そう突き放していた八潮先輩……。
その瞳はまるでさっきまで何か強い感情を得たかのような……そんな表情をしていた……。そして、なにより彼というのが……。
結人のことのような気がしてならなかった……。