【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
「ねぇねぇ、るいるい……。しろちゃんのこと追いかけないの?」
「桐ヶ谷さんや二葉さんが追い掛けたはずよ、全員で行く必要はないと思うのだけど」
「まあ、それもそうかもしれないけど……しろちゃん着替えた後凄い急いで楽屋出てたから気になるんだよね」
倉田さんがライブを終えた後、衣装をすぐに着替えてそのまま楽屋を出て行ったのは私も知っていた……。彼女がどうして何をそんなに急いで何処へ向かったのかは知らないけれど、あの様子を見る限りは誰か知っている人物を観客席に居たというのは間違いなさそうだった……。
「広町さん、悪いけど私も少し外に出て来るわ」
「え?るいるい、しろちゃんのこと探して来るの?」
「……気になることがあるの」
広町さんに私はそう言って、楽屋を出てすぐに外へ向かう……。
観客席で誰かを見たというのは倉田さんだけではなかった、そう私も……。
「やはり、居たのね」
「ええ、居ましたよ……」
関係者専用の場所から出て数分歩いた後に探していた人物がそこにはいた……。
そう、私は観客席に彼が座っているのを見た……。
あの日、河川敷で出会った彼のことを……。
「久しぶりですね、八潮さん……」
ライブ帰りにこうして八潮さんに会えたのは好都合だった……。
楽屋になんか行ける訳がない、それこそ月ノ森に行って返って目立つことになるだろう。この前、凛々子さんにライブの話を聞いて購入しておいて本当に正解だったな……。心の中でホッとしつつも、俺は八潮さんに目を合わせた後に徐々に頭を下げていく……。
「ありがとうございました八潮さん……」
「どういう心境の変化なのかしら?」
「別に心境の変化なんてしてないですよ、ただ俺は貴方から学ばせて貰った事があるからこうしてお礼を言わせて貰っているんです……。貴方のおかげで俺は自分一人で解決するという拘らずに、誰かを頼って何かを解決するということに成功したんですよ」
八潮さんは無言のままだった……。
俺は彼女の言葉を待たずに続ける……。
「ただ今回のことで学んだこともあったんです。俺が掲げる自分を曲げずに自分を変えるというのは本当に難しいことだって……」
「なら、どうすると言うの?貴方は自分の理想論を私達に振りかざした、他人の力を借りると言う方法で……。今こうして言うということはそこに反省点があったから、そうでしょう?」
まるで試すかのような言葉の羅列に俺は口元を緩めながらも八潮さんを見る……。
「ええ、そうですよ……。そしてそれは簡単なことだったんですよ、自分を曲げずに自分を変える……。それはきっと俺にとって掲げるべきものだったと思います。そして、それは今も変わらないんです。それでも……」
「俺に足りなかったがあるんです……それは」
「意志ですよ」
自分の拳を強く握り締める……。
自分がこの地面の上に立っているんだと足には実感させる。
「そういう曖昧なもので済ませていたから。俺は苦悩することになった。だから、今度はより強固なものにすることにしたんです」
「意志?それこそ曖昧なものね」
「ええ、そうですよ。だから俺はそれを証明する為に貴方の前に現れた」
思い出す、あいつに言われたあの言葉を……。
あいつの言葉があったから今まで此処まで来れたんだと……。
「俺が大事にするのはこれまで通り、言葉と行動ですよ……!!その両方は大事なものであると俺は教わった。これから先、俺は自分の罪や業という仮面を受け入れて、進む。一人で解決しようとせず、誰かを頼る。それは俺が悩みそうになったときもそう……思ったんです」
「それではあのときと言っていることは変わらないと思うのだけど……」
「此処からですよ、重要なのは……」
そう、此処からが俺にとって一番重要なものになる……。
「俺は今回の件で何度も罪悪感だとか後悔で潰されそうになった。親しい奴らに本当のことを話せない、そういう感情を抱えていた。そして、それを吐き出したときに思ったんです。罪悪感だとか後悔とかに呑まれてたら一生前に進むことは出来ないって……!俺は迷わない人間に誰かに寄り添える資格はない、助けられる資格はねえって……!!そういうものの尊さを知っているからこそ、人は変化できる……!!」
「例え、それが自己満足だとしても……!!」
「人は輝き続けられるんだって……俺は少なくとも信じたいんです!!」
燈がかつて言っていた……。
傷つけずに前に進んで行くのは無理だと……。俺はあのとき、自分でもそう思っていた……。だけど、心の中では誰も傷つけないで済みたいなんて理想論と言う名の暴力を覚えていた。それは燈のことを傷つけたこともあったから……だ。あのときの冷たい笑み、突き飛ばしたこと……。
そして、あいつらに隠し事をしていたこと……。
「尚更、あのときと変わらないわ、それも感情論でしかない。なによりも人はそれほどまでに強くなるのは不可能よ」
「ええ、俺も正直無理に決まってると思います。でも、それでも俺は自分の道を信じ続けると決めた……。例え、それが地獄の道であろうとしても俺は自分の生き様だけは曲げないともう……」
「決めたんですから……!!」
言い終えた瞬間、俺は深呼吸をして、八潮さんの顔をジッと見つめていると風が靡く……。
冷たい風だったが、その風は間違いなく俺という人間をより強くさせるには丁度いいものでしかなかった……。
「そして、俺の意志は……」
「此処にあります……!」
親指を突き立てるようにして俺が指していた部分は……心臓の部分だった……。
「自分がどう曲げないで変えるべきなのかは此処と心が証明してくれる。それがあるから、俺は自分で居られるんです……!!だから、俺は自分を曲げない……!!誰かに寄り添って、誰かの隣にあり続ける……!!」
太陽の照光が俺のことを照らし出している……。
まるでそれは俺の決意を後押ししてくれるようなものだった……。強い眼差しで俺は八潮さんの顔をはっきりと見ていた……。
「そう、貴方をそう選ぶのね」
八潮さんの表情は何処か、考えている様子だった……。
彼の言っていることは言ってしまえば、青臭さを感じさせるものでしかなかった。
現実を知らないからこそ感情論で物を話してしまう、そういうものが感じ取れていたはずなのに彼の瞳は高鳴っていた……。
彼の内容は矛盾ばかりでしかなかった。
そもそも彼が抱えている、自分を曲げずに、自分を変えるという志自体が矛盾だらけというのにそこから繋がったのは「仮面を受け入れる」というもの……。本来、仮面は「偽りや見せかけ」……。なのに彼はその仮面を受け入れると話をしていた。偽りであるものを自分の一部として認めるというのは本来、それ相応の覚悟が必要なもの……。
そして、「迷わない人間に寄り添う資格はない」という言葉……。
普通なら、「迷わない人間」こそ強く、助ける側であるべきはず。なのに、彼はそう答えていた。恐らく、彼は「完璧」よりも「不完全さ」が人を救える、唯一の手段だと言いたいのかもしれないけれど、不完全それすらも彼は受け入れるというの……。
『俺は少なくとも信じたいです!!』
彼の言葉を思い出す。
確信をした……。彼は今も尚迷いながらも進もうとしている。自分がしようとしていることが間違っていないか、間違っているのか……。
『自分がどうあるべきなのか、どう曲げないで変えるべきなのかは此処と心が証明してくれる。此処があるから、俺は自分で居られるんです……!!』
いえ、彼はもう答えを出していたわね……。
自分の心や心臓が覚えている限りはそれを諦めようとはしない。本当に彼という人間を青臭く感じるわ……。それでも、彼は何を言われようとも茨の道を歩むことになる……。そう決めたのだから、なら私が送るものは……。
「貴方が振りかざすその感情論、曲げるつもりはないということね」
「ええ、変わるつもりはないです」
「そう……前にも言ったのだけれど貴方のその理想論何処まで続けられるのか……。好きにするといいわ」
「ええ、好きにさせていただきます……!それと……」
「ライブ最高でした!!初めてモルフォニカのライブを体験させて貰いましたけど、バイオリンがいるバンドは初めてだったので何処か新鮮な気持ちで見て聴かせていただきました!!」
「それでは八潮さん!!」
彼と言う人間の意志に押し負けたと言うべきかもしれない……。
自分を信じるということを信じ続けようとしていた、彼のことを……。そして、私はこのとき思った……。
彼をあのとき、警告したのは間違いなく……。
かつての自分自身に似ている気がしていた……から。
我ながら……感情を優先してしまうなんて……。
「愚かな話ね……かつてはそれを不要なものだと捉えていたはずなのに……」
去っていく彼の姿を見ながらも私はただ自分という人間には彼という背中がかつて自分の中では出せなかった近い答えを持っているような気がしてならなかった。そのまま、楽屋に戻ろうとしたときだった……。
「居たのね、広町さん」
後ろから歩いて来ていたのは広町さんだった……。
「誰も帰って来ないからちょっと心配になってたんだよ?しろちゃんたちも全然帰って来ないし……ってどうしたの?」
追いかけて来ていた広町さんが私に声を掛けて来る。
私の様子がおかしいと思ったのか、彼女は私のことを心配してくる……。
「別に特に何もなかったわ……。ただ、そうね……可能性というものに触れていたのかもしれないわ。もしかしたら、それは可能性などというまやかしだったのかもしれないけれど」
「……可能性」
広町さんは何かを考えているように私の言葉を復唱していた。
「それって幻覚じゃないと思う」
「多分るいるいがそうやって何かに触れたってこと感じるなら、それはきっと間違いなんかじゃなくて確信的なものだったから、思うところがあったから可能性に触れたって思ったんじゃないのかなって……」
広町さんの言葉に無言になる……。
それは自分でも理解していたものだったから……。
「そう、そうかもしれないわね……」
「あれ?るいるいがそうやって困惑しているなんて珍しいね」
「別に戸惑っている訳ではないわ……ただ」
「諦めきれずにバイオリンにしがみつこうとしていた……」
「かつての自分を彷彿とさせていたのかもしれないわ……」
そして、彼は……ただの古い鏡などではなかった……。
彼は彼なりに自分の答えを導き出したのだから……。