【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
『俺の意志は……此処にあります……!!』
八潮さんと話しているときの俺はきっと……感情論ばっかで話をしていて青臭いことばかり話をしていたのは町がないかもしれないと、俺は自分で自分のことを笑いながらも広げていた拳を握り締める。
あのとき、俺は意志というものは心臓や心にあるなんて言い方をしたけど……。
もう一つ、その場所に相応しいものがあるとすればそれは……。この拳の中なのかもしれない……。
「ったく、こんなこといつまでも思ってるから青二才とか思われるんだろうな……」
実際に八潮さんがそう思っていたかはともかくとして言っていることはそれっぽいこと……。
自分が自分で恥ずかしくなりながらも、俺は家へと帰ろうとしていた……。この後の予定は特にない……。、ましろさんに会えれば良かったけど、流石に無理だろうし……な。何処か都合のいいタイミングでましろさんにお礼を言える機会があれば……。
「良かったんだがな……」
とはいえ、もう今日は諦めよう……。
足を一歩ずつ歩き出すのを再開しようとしたときだった……。後ろから声が聞こえた気がしていた……。
「結人……」
「睦……?」
俺に声を掛けて来ていたのは睦……だった。
「ライブ居た……?」
「え?ああ……」
モルフォニカのライブに来ているのは知らなかったから、私は普通に驚いていた……。
結人も来ていたんだって……。
「もしかして、睦も行ってたのか?」
その質問に返事をした後に私は結人に自分がこれから先どうするのかを伝えようとする。
深呼吸をしつつ、自然の音を感じる……。
「結人、バンドやる……」
「バンドってムジカのことか?」
「ん、モルフォニカのライブを見て私は気づいた……」
こうして結人に話をするということは……覚悟が居る事でもなかった。
勇気が居ると思っていたのに、全然それを伝えるのに重たいものはなにもなかった……。寧ろ、結人に話したことでも一気に自分の覚悟が固まったような気がしていた……。不思議な気分を覚えつつも、私は結人が口を開こうとしていた。
「睦が選んだ道なんだろ?」
「ん……」
「なら、進んでみればいい。そんで迷いそうになったら俺や豊川たちが支えてるから」
「……結人」
いつものように私に笑顔を向けてくれる……。
応援してくれつつも、私のことを支えてくれようとしてくれる結人に変わらない彼の良さに触れつつも、ほんの少しだけそれに待ったを掛けたいとなっている自分がいた……。
「ありがとう結人、力になるって言ってくれて……。でも……」
「ムジカが再結成するまでは出来れば結人の力を借りたくない……」
「睦……」
少し前に結人に会ったときにこう言われたことがあった。
なにか困っていることはないか……?結人は……本当に優しい。私の力になろうとしてくれていた……。まだモーティスと共存するという道を選んですぐの頃だったから。そういうことがあったから、きっと……。いや、彼は違う。彼ならきっと……そういう打算的なものじゃなくて当たり前のように……やるから。
「だから……ごめん」
私は謝る……。
彼の厚意を不意にするなんてことは……したくない。それでも、自分でなんとしなくちゃいけないと思った……。ムジカをやるには最初の時点で結人に……頼るのは違うから。
「そうか、分かった」
「……いいの?」
思わず聞き返してしまう。
「睦が自分でどうにかしてみたいって言うならそこに俺は関わるべきじゃないだろ?自分で何かをしてみたい、自分でやり通してみせたいなら止めるべきじゃないだろうしな……。ただ一つだけ言わせて貰うけど」
「ヤバくなったら言えよ、ちゃんと手伝うからな」
「ん……ありがとう結人……」
この話を結人にしてよかった……。
結人ならきっと背中を押してくれると思っていたから……。結人に「じゃあ」とだけ返す……。彼とは別の方向を歩き出して、祥にこう連絡をする……。
話をしたい……と。
「祥、ごめん……待っててくれて」
祥が待っていてくれた場所まで戻って来ると、ベンチに座っている祥の姿があった……。
「構いませんわ。それで睦、話とはいったいなんですの?」
「祥、私は……バンドを……」
「Ave Mujicaをやりたい」
初めて……初めて祥の前で自分の意思を言ったかもしれない。
いつも私は祥といるとき……祥を傷つけたくなかったから自分を出さないようにしていた。それが最善だと信じていたから……。
「睦……」
祥の言葉は透き通ってるようで消え去りそうな声をしていた……。
「そうなのですわね、睦はAve Mujicaをまたやりたいのですね……」
「祥は……祥はどう?モルフォニカのライブを得て何かまたバンドに対する熱意が「ごめんなさい睦……私はバンドをやりたいという気持ちはないですわ……」」
祥がムジカに対して否定的なのは分かっていた……。
今の祥にバンドをやる理由がない……。無気力になっている……。私も無理強いはしたくないけど、今の祥を放っておくことはできない。あのとき、私は傘を差し出すことが出来なかった。それは私にはそれでも祥を引き留めたいという意志がなかったから……。勇気さえあればあのとき祥を引き留めることも出来たのかもしれない……。
「祥は……モルフォニカのライブどうだった?」
「……会場でも言ったはずですわ、流石としか言いようがありませんわ。多くのお客様を盛り上げていましたわ……。他のバンドとは違う、クラシカルとロックを合わせたまさしく調和に相応しいバンドでしたわ。なによりも、私達が聴いたあの頃よりもモルフォニカは大きなものとなっていた……。月ノ森という箱庭から、ライブ会場という世界においても先輩方は幻想的で上品なものを届けてくれましたわ」
詳細に感想を教えてくれていた祥……。
一つ一つの感想に私は頷きそうになりながらも、話を聞いていた……。どれも……共感できていたから。
「私もそうだと……思う。モルフォニカの音色は他のバンドとは違う。感情の機微とかそういうものが……あったから」
「そうですわね……。ですが、それとムジカと何の関係がありますの?」
「話をした……。モルフォニカの先輩達と……」
「倉田先輩たちと……いうわけですの?」
祥の表情は戸惑いと驚きが見えていた……。
私も倉田先輩達と遭遇したとき、正直混乱している自分が心の中には居た……。
「教えて……貰った。先輩達にとって……バンドって形が大事だって……」
「だから睦はバンドをやりたいと言うんですの?貴方はきっとムジカをやったことで傷ついたこともあったはずですわ、それだけではないですわ。貴方は自分の素性が知られてしまった以上、この先それと立ち向かうことになるんですのよ?それを分かっ「わかってる、分かってる祥」」
「睦……」
さっきから祥は私に対して動揺を隠せないようだった……。
初めてだった……祥に口答えをしたのは……。なのに、罪悪感はなかった。私は祥のことを見捨てたくない、自分の進みたいと思った道を諦めたくなかった……から。
「私達がこの先進むことになるのは修羅の道になるかもしれないのは分かってる……。きっと、楽しいこと、幸せなことばかりが長くは続かない。それでも先輩方が教えてくれた。進むことの恐怖を、一歩下がることになる恐怖を……。そういうことを教えて貰っても……それでも私がバンドをやりたいのは……」
「その一歩を踏み出したい、私は……!」
「Ave Mujicaをやりたい……!!」
「だからお願い、祥……!!」
「私と一緒にバンドをまた……やって……!!」
全部吐き出した……。
燈の歌のように私は全部を吐き出した……。本当に初めてのことばかりだった、祥に口答えをしたのもそう……。祥を傷つけたくないから自己表現をしないようにしてきたのもそう……。なによりも一番私自身が変わったと思うのは……。
此処までバンドに惹かれている自分が居ることだった……。
「睦、貴方は本当に変わったのですのね……」
「祥……」
笑みを浮かべながらも、祥は言ってくれる。
最後の意志を告げた祥がなんて答えるのか、私には何も分からなかった……。ただ私は祥に言葉と言う雨を浴びせただけだから、それが響いているかなんて……ことは……。
「一つ聞かせて欲しいですわ睦」
「睦は……もう一度……もう一度……」
「私と一緒に……いえ……私の幼馴染として……」
「隣に立ってくれるんですの?」
その答えはもう……決まっている。
「祥の隣に立つ、そして今度こそ……ムジカで……」
「私のギターを弾き出したい……から」