【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
『私と一緒にバンドをまた……やって……!』
睦があんなにも大きな声で私に自分を出すことが果たして幾つかあったのか……いえ、きっとなかったはずですわ。睦は今まで自分を出さないようにしていた、それは私やそよ達を傷つけないようにする為に……。
それは恐らくモルフォニカの先輩方、千早愛音さん、要楽奈さん……。
そして、星乃さんに出会えたからなのでしょうね……。本当に……。
『祥の隣に立つ、そして今度こそ……ムジカで……』
『私のギターを弾き出したい……から』
本当に強くなったんですわね、睦……。
その意志に複雑なものもあれば、私は睦の幼馴染として成長が喜ばしいというかつての感情もあった……。それはあの日、運動会のときも感じていたあの感情と近いものだったのは間違いありません……わね。
こういう感情が再び湧き上がるようになったということは……私は人としての感性が戻ったのかもしれませんわね……。皮肉な話ですわね、変わりゆくお父様や睦達の姿を見て私はそれを羨ましくなってしまっていた……。自分はあんな風にはなれない、そう悲観していた自分の姿があったんですわ。
ですが、こうも……こうも成長して自分というものを自立させてみた睦を見て私は何もかも感じないほど鬼ではありませんわ。心の底から嬉しくて堪らないんですわ、彼女の成長が……。そして、それに触発されようとしてしまっている自分の姿があるのも……。
「また事実ですわね」
単純と言われてしまえば、そうなのかもしれませんわ……。
それでも、私は睦が一歩を踏み出せたなら私もという感覚が抜けてはならない。本当に愚かな話でしかないかもしれませんわ。
「睦……」
「Ave Mujicaの件……」
「私も一緒に立ち上がりますわ……」
睦は目を見開いていた……。
「なんて顔をしていますの?睦」
「やって……くれないと思ってた……から」
「あれだけの意志表明を聞かされて幼馴染の私に響かない訳がないですわ……」
何度もしつこいですが……睦……。
貴方は本当に強くなったんですのね、貴方とは小さい頃から一緒に過ごした日々がありましたわ。睦の前でピアノの演奏をしたこと、睦と一緒に私の家で楽しくお話をしたり、楽しく学校生活を満喫したこと……。どれもこれもが私達にとって大切な思い出なんですわ……。だからこそ……。
「今度こそ……」
「よろしくお願いしますわ睦……!!」
今度こそ私は逃げない……。
友人……幼馴染の睦が此処まで立ち上がった見せた。それに感化されたという事実は確かに此処にありますわ。ですが、それの何が悪いと言うんですの……。一番大切な睦がこうして私に手を伸ばしてくれた。それだけで……。
感化される理由には相応しいですわ……。
「祥、ムジカを再開する前に……その話しておきたい人がいる……」
「話しておきたい人?」
「ん……その……自分と話をしなくちゃいけない……から」
「自分と……そうでしたわね……。睦の中には確か……もう一人の方がいらっしゃるんでしたわね?」
祥がその話を知っているとは……思わなかったけどよく考えてみたら私のことを呼び覚まそうとしていたとき事の顛末を知っているような感じは……あった。海鈴から聞いていたのかもしれない、そう納得しながらも私は「待ってて」と言ってベンチに座り直して目を瞑り始める。
「モーティス……いる?」
目を瞑りやって来ていたのは……あの花畑だった……。
かつての劇場のような場所はもう無くなっていた……。多分だけど、私の中でもう演じる必要がないと決意できたのもあると思うけど……もう一つは自分自身たちを受け入れることが出来たからと確信していた……。
「モーティス……?」
花畑の中で上品に座り込んでいるモーティスが口を膨らませている。
「怒ってる……?」
目を合わせようともせず、モーティスが何処か怒っているような感じがしていた。
「睦ちゃんは酷いなぁ……私と話し合いもしないであの先輩達にバンドをやれる理由が出来たとか、結人君には自分の力でだとか、祥子ちゃんにはバンドをやりたいなんて言い出すんだもん」
「……ごめん」
何故モーティスが怒っているのは話してくれた内容ですぐに分かった……。
モーティスはきっと自分にも話を通して欲しかった……。なのに、自分抜きで話がどんどん進んでいたから不満がある……。
「いいもん、睦ちゃんがそういうことするなら私はもう知らないもん……。そうやってまた一人で抱えて、自爆でもなんでもすればいいじゃん。そうなったら、私が主人格貰って結人君とイチャイチャするもん。バンドなんか知らない」
拗ねているけど、本気で言っている訳じゃないのは伝わっていた……。
「本当にごめんモーティス、ちゃんと話し合ってから決めるべきだった……」
「……睦ちゃんは本当にやるの?ムジカ」
「やりたい……私はギターを弾けるようになった。モルフォニカの先輩達の話を聞いてもっと一歩を大きく踏み出したいという思うようになれた。その一歩を踏み出す為にはバンドが必要……だから」
「やりたいからやるの……?」
「ん……私がそうしたいからそうする……」
モーティスは「うーーん」という声を出している。
伸ばし棒は凄く伸びていて、この花畑一面に聞こえそうになっていた……。
「まあ……その……睦ちゃんが……やりたいって言うなら止めないけどさ……。その……本当にいいの?祥子ちゃんの言っていたことを真似るのは嫌だけど、睦ちゃんがムジカやってまた苦しむことにならない……?」
「それは分からない、傷ついたり苦しんだりすることはあると思う……。それでも、私は進みたい……」
再びモーティスは腕を組みながらも、「うーん」と声を上げる……。
「……どうしてもやりたいの?」
「どうしても」
モーティスは渋い顔をしている……。
こういう顔をされることはなんとなく分かっていた……。分かっていたから、後回しにしていた訳じゃない。どうやってモーティスは説得しようか悩んでいた……。納得してくれない訳じゃないだろうけど、モーティスは私のことを優先してくれるからあんまり賛成してくれないと思っていたから……。
「睦ちゃん、ちょっと変わって」
「え?」
訳も分からずに居ると、私はそのまま自分の体をモーティスに主導権を握られる。
私は祥ちゃんにどうしても物申したいことがあって、睦ちゃんとなる……。
深呼吸した後に、私はこう告げる……。
「ねぇ祥子ちゃん……!!」
「睦ちゃんに何かあったら許さないから!絶対……絶対に許さないからね!!本当に絶対だからね!!!」
言っておきたいことはそれだった……。
睦ちゃんのことを傷つけていたのは私もそうだけど、祥子ちゃんだって睦ちゃんのことを全く気にかけていなかったんだからこうなったんだもん。何か一言物申さないと駄目に決まってる。
「もしかして貴方が……睦の違う人格ですの?」
「え……?あっ、そ、そうだけど……」
その瞬間、おどおどしちゃう……。
この流れを前にも見たから……。初華ちゃんのときはあの子が良い子だから上手く理解してくれてたけど、祥子ちゃんは私に理解を示してくれるかなんて分からないから……。ど、どうしようと困っていると……祥子ちゃんが先に言葉を発する……。
「分かりましたわ」
「え?いいの……?」
咄嗟にそんな声を出してしまう。
まさか本当に了承してくれるなんて思ってもいなかったから……。
「貴方が睦の別人格ならば睦の身を案じるのは当たり前のことですわ。私はその忠告を聞き入れなくてはなりませんわ」
「え?本当にいいんだ……」
本当に予想外の言葉もの……だった。
ただその言葉を聞いて、私の中でもやっぱり見ているだけじゃ駄目だという認識が芽生え始めていた……。
「なら、私も手伝う。睦ちゃんの別人格、モーティスとして……」
「舞台のほうを担当してあげる……。睦ちゃんばかりに負担はかけたくないから……!!」
『いいの?モーティス?』
愚問?なことを聞いてくる睦ちゃん。
「いいに決まってるじゃん睦ちゃん……!!私だけ見てるなんて睦ちゃんに失礼だよ!!」
睦ちゃんとの対話は果たした……。
此処からは私達自身が物語を作らなくちゃいけないから……。だったら、私も睦ちゃんの負担を減らしてあげなくちゃいけないと思った、正直映画とか出てた睦ちゃんの方が演技力は高いかもしれないけど……。それでも、私だって演技はやれるし……。
「祥子ちゃん、私本当にやるからね!!」
「ええ、よろしくお願いしますわモーティス」
私のことを怖がらず、笑顔を向けてくれている……。
あれ、もしかして祥子ちゃんって割といい子だったりする……?
Q.祥子、モーティスに優しくない?
A.原作みたいに大暴れはそんなにしてないので祥子からの好感度は別に低いわけでもないですし嫌ってるわけでもないからです。