【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
私は今まで此処に囚われ続けましたわ……。
それこそ睦や初華達を突き放したあの日から、ずっと祐天寺さんの言う通り私は殻に籠った生活を続けていましたわ……。そこは何も変わらない、あの日八幡さんが引っ張り出してくれなければきっと私は今でもこの世界に閉じこもったままでしたわ……。
ですが……。
「今は違いますわ」
こうして自分の足で玄関前に立っている……。
お城のようにそびえ立つ門をくぐりながらも私は中へと入る覚悟を決めていましたわ。それは家に入るときの態度ではなく……。
お祖父様へあることを伝える為に……。
「お祖父様……お昼の時間に会っていただきありがとうございますわ」
「こんな時間に要件とはなんだ」
「忙しいところ申し訳ありませんわお祖父様……ですがお伝えしたいことがあったんですの」
お祖父様の言う通り、もうお昼の時間となっていましたわ……。
此処に来るまでの間、思考を研ぎ澄ませてお祖父さまになんとお伝えするべきか悩んでいましたから、時間が掛かっていたのでしょう。最も、それら全ての言葉が……。
お祖父さまへの宣戦布告でしかありませんでしたが……。
「お祖父様、Ave Mujicaですが再結成することになりましたわ」
「再結成……?なにを言っている、あの場所は既にもうお前の居場所ではないはずだ」
机の上に手を置いて、手を組みながらも真剣な様子でこちらを見ている。
「お前は名誉ある豊川家の第一後継者。それはこれからも変わることはない。くだらないお遊戯ごっこをしているよりはお前には相応しい居場所がある。それだけで充分なはずだ、なのに不満があると言うのか?」
「不満……そうですわね。お祖父様……、その言葉が相応しいのかもしれませんわ」
お祖父様の言葉に触れつつも、私はそれを肯定すると眉間に皺が寄っているのに気づいていた。
お祖父様もこういう表情をするんですのね……。
「率直に言いますわ、お祖父様。今回、私達Ave Mujicaは復活ライブを行いますわ。そして、そのライブにおいてはお祖父様のお力を借りない。勿論、それはそのライブ限りではございませんわ。今後……」
「豊川グループがスポンサーになることはありませんわ」
宣戦布告したかったのはこういうことですわ。
今後一切、豊川グループの力を借りない。それが内容の一つでもありましたわ。
「やはりお前はじゃじゃ馬の娘の血を引く女のようだな。交渉というものを知らんと見える。なにより、目先のことばかり考えていて更にその先のことを何も考えてない」
「何が言いたいんですの?」
「実に愚かだという話をしているのだ。お前が言っているのは自分達がお遊戯ごっこの中でああいう実績を積めたのは誰のおかげだと思っている。私達がバッグに居たからのはずだ。お前達はまだ高校生、単なる実力だけで有名になるなど不可能でしかなかったはずだ。それをお前は断ち切れるなどというのは愚か以外としか言いようがないと言っているのだ」
「そうですわ、そうですわねお祖父様……」
全部事実でしかありませんわ。
私達は仮にも最速武道館というものを成し遂げて見せましたわ……。しかしながら、その実態は豊川というあまりにも強大な組織が背後に居たからというのは変わらない事実ですわ。活動休止に伴って、影響が出ていましたがその影響を各自に補填してくれたのも豊川家ですわ。
「その事実は変わりませんわ」
「分かっているならば、尚のことだ。それに元々その遊戯を中断させたのは、お前自身でもあるはずだ。それだけではない、仮面外しと言うメンバーの独断な行動。更にはメンバーのメンタルケアも怠っていたお前に自分一人の力で成し遂げられるなど到底思えん。一度、頭を冷やすことだな」
これもどれも事実ですわ。
ならば言うことは……。
「頭なら冷やしておりますわ、お祖父様……。私は確かに罪を重ねてきましたわ……。一つ目は……祐天寺さんを抑えつけられなかったこと。二つ目は……睦と向き合うことをしなかったこと。三つ目は自分の世界に逃げ込んだ。そして……そして……四つ目は……」
「自分で作り上げたバンドを二度も壊したことですわ。これは紛れもなく……」
「私の罪と業ですわ……!」
一つずつ指で数えながらも、私は神父様に自分の罪を包み隠さずに話をするようにして懺悔を……いえ、自分の罪を自分自身で改めて覚え直したんですわ。罪を自分の頭に覚え直している間にも分かったことがありますわ。
私は決して睦の成長に触発されたわけではなかった……。
私が本当に触発されたのは……。
「燈達だったんですわ……」
成長してしまう彼女達を羨ましいと思っていた時期もありましたわ。
それを処理することも出来ずに自分の感情と向き合うことが出来ない時期もありませんでしたが、今ならはっきりと言えますわ、私も……。
光に導かれたかったんですわ。
自分の世界に逃げ続けるしかなかったからこそ……。
「私は自分の罪と業を受け入れて、先に進みますわ!!それが例え、業火の中に身を投げることになったとしても後悔はありませんわ!!私はこれからも進んでいくんですの!!」
「罪人として……ですわ!!」
情けない話ですわ、自分も変われるかもしれないという思い込みで此処まで来たのだとしたらお祖父様の言う通り、私は本当に愚かでしかなくきっと感情の処理もできない人間なのでしょう。しかしながら、私はそれでいいと思えた。
『若葉さんに苦しめられるほど自分は弱くないって!!』
特に八幡さん……。
貴方の言葉が響きましたわ……。まるでそれはピアノの鍵盤が奏でる余韻のように……。まさか、彼女のああ言われるとは考えてもいませんでしたが、何か彼女を変える何かがあったということなのでしょうね。
『私も祥のことを壊した……。だから、気にしないで……』
睦……。
貴方は自分という人間を取り戻す訳だけでなく、自分という意志で進もうとしている。そういう一面が見れたからこそ私も進んでみたいと思えていた。なによりも……。
『祥ちゃんのおかげで……私は変われたから……』
『変われたのは……彼のおかげのはずですわ……』
音楽室であの日、燈がノートを見せたあの日……。
私は決定的に思えたんですわ。燈は彼のおかげで本当に変われたんだと……。その光が眩し過ぎて私はカーテンを閉め切るようにして逃げてしまいましたが、私は貴方の成長が本当に嬉しかったんですわ燈……。
友人として……。
「私たちは、再誕しますわ……!!三日後、ライブハウスにて……!!そして、お祖父様には最後の条件がありますわ……」
そう話した私はお祖父様に最後の条件を突き立てた……。
その最後の望みこそが私が最も望むことだからですわ。
「はぁ……」
舞台裏……。
祐天寺さんの溜め息だけが響いていましたわ……。そう、私達にはその三日後が訪れていたんですわ。
「睦、その……モーティスという貴方の人格の方は大丈夫ですのね?」
「え?うん、大丈夫だよ!」
「もう彼女になっていたんですのね……」
睦が言うには彼女は何度かムジカのライブに出ていたと言っていましたわ。
一番分かりやすいのでムジカのライブを睦が無茶苦茶にしようとしたあの瞬間と語っていましたが、確かに今振り返ってみればあれはあまり睦らしさは無かったですわ……。
「ともかくモーティス……改めてよろしくお願いしますわ」
「え、え?あーうん、よろしく……」
警戒しているというよりは私のことをあまり好きではないのかもしれませんね……。
彼女からすれば私は睦を傷つけた人間の一人ですから、無理もないですわ。
「はぁ……本当に化け物みたいなことしてるし」
「ねぇ……にゃむちゃんって私
「は?」
「だって、そうでしょ?にゃむちゃんって私や睦ちゃんが嫌いなんじゃなくて、私達が嫌いなんでしょ?私と仲良くしているみんなが受け入れられないから、そうやって周りも巻き込んで拒絶しているんでしょ?それって要は……得体の知れない恐怖心があるからでしょ?自分と違う世界で生きてるってのが怖くてしょうがないから」
「あのさぁ……分かったような「お二人共、おやめなさい」」
これ以上言い合いを黙って傍観している訳にも行かないと思った私は二人の論争を止める為に……。モーティスの方は口を膨らませており、祐天寺さんの方は不服そうな顔をしていた。
「モーティスちゃん、ダメだよ?」
初華に咎められて、それでも言い返したいようでしたモーティスでしたが初華から「後でアイス食べに行こ?」と話をされて、機嫌を取り戻しているようでしたわ。
「幸先が不安ですね……今からするのはライブなんです」
「八幡さんの言う通りですわ、私達がするのはAve Mujicaとしての再誕を意味するライブ……此処に魂を賭けなければ意味はない。当然ですが、チケットの売り上げは完売のようですし此処からは私達の力で……」
「Ave Mujicaを再誕させるんですわ」
そう、このライブは本当の意味でAve Mujicaが再誕を意味するライブ……。
今日これよりご覧になるのは……。
新たなるAve Mujicaの
観客達は大いに盛り上がっていた……。あのAve Mujicaのライブが当日になってRINGで発表されたのだから。もう誰もが復活することはないと想像していたからこそ、このライブハウスにてこぞって人々は集まり、完売となった……。
「来てたのか、楽奈……」
「ん……気になるから」
「……そうか」
何故か関係者のところにいる楽奈……。
そして、俺が今こうしてRINGに居るのは今日のムジカのライブの堪能しに来たというのもあるが、普通にバイトの日だったからというのもあった。凛々子さんの指示の下、機材の確認・調整等をさっきまで行っていたが今は手が空いて、始まろうとしているムジカの舞台をただ待ち続けていると……。
照明が真っ暗になる……。
そして、次の瞬間に照明がステージ上を照し出す、そこに映し出されるのは椅子に座っている四人の人形だった……。持たれかかるように座り込み、まるで人形としての形を失ったのかようだった。
「此処は人形の館……。かつては客人をもてなす為に、人形達が居ました」
最初に語り始めたのは
ナレーションかのように淡々と話をしていた。
「かつてのような人形達はもう居ない……ただ今此処で朽ち果てるのを待つのみ」
続いて、モーティスが語っていた。
このモーティスは間違いないな……。あいつの方だ。
「あっち」
「ああ、だな」
俺達にしか分からない話で二人で頷いていた……。
どうやらモーティスと睦は二人で使い分ける事を選んだようだ。それに俺を嬉しく思いながらも、人形達を囲むようにして回っている照明を一瞬視界に入れていた。
「愛も、なにもかも……消え失せた」
「そこには悲しみも存在しない、あるのは……ただ残酷なまでの事実のみ」
アモーリス、ドロリス……と続くようにして話が続いていた。
「ただ一つだけ違いました……。一つの人形だけは諦めませんでした。その人形は人間達が去った後も……自分達が忘れられないように存在を掛けて立ち向かいました。自分達が忘却されないようにと……それはエゴであり間違いでしかありませんでした」
「彼女は何度も何度も人間に忌み嫌れました。自分が祟りであると言われ続け、石を投げられその上心にないことまで言われました」
ティモリスのナレーションが続いている。
「アハハハ、人形のくせに!必死に生きようとしちゃってバッカみたい!!人間でもないくせに!!」
「早く死ねばいいのに」
モーティスの冷え切った言葉が会場内に響き渡る。
スピーカーなど無くても、あいつの演技がどれだけ冷たい言葉なのかは肌を通して伝わっていた……。何故なら、俺の体には鳥肌が立っていたからだ。
「最後に残された人形は人間達に捕まり、無惨にも館に投げ込まれました……。そして、館には火を放り込まれた」
スピーカーからは炎が燃えがるような音とステージ上では館が燃え広がっているような演出が出来上がっていた。まるでそれはムジカが作り出した物語を表すようにして……。
「業火に包まれていく館の中で今度こそ忘却されて行く、最後の生き残りの人形は生きたいと願い叫びました」
「三日後、三日後を以って私はこの世界に君臨する。自分が受けた報いではなく、自分が人々に忘却されたくないという罪と業を背負う為に、今度こそ生まれ変わり魂を再誕する。そして、自分を忘却しないでくれた客人の為に生き続けると決めた彼女達は……今此処に……」
「蘇る」
鎮圧された廃墟の中、五人の人形が立ち上がった状態で目を瞑っていたが、その中の一体……。
オブリビオニスが目を開けてこう言い始める。
「オブリビオニス……我、忘却を恐れる勿れ」
照明がオブリビオニスに当てられたと同時に続くようにして……。
「モーティス……我、死を恐れる勿れ」
「ドロリス……我、悲しみを恐れる勿れ」
「ティモリス……我、恐れる事を恐れる勿れ」
「アモーリス……我、愛を恐れる勿れ」
名乗りと共にそれぞれに照明が当てられていた……。
「これよりは始まりますのは……私達の
手に持っていたのはそれぞれの楽器やドラムスティックだった……。始まろうとしていた、Ave Mujicaの再誕ライブが今此処に誰もが注目しているなか、先陣を切ったのはオブリビオニスのキーボード……だった。
「この領域まで侵されてそう プラットフォームは上下する」
始まったのと同時に会場は凄い熱気に包まれていた……。
その熱気は罪人に対して向けるものではなかったが、完全に会場はあのときと同じような熱気に包まれていた。帰って来た、そう言いたかったんだろう観客達は……。
「見える 見える 見えないものが ほら生まれ変わる ああ 本当の私に」
ドロリスとしての彼女の歌声は初めて聴いたが……一つだけ分かったことがある。
やっぱりあいつは歌唱力自体はかなり高いということ。燈とは系統は違うかもしれないが、聴いていて耳に残りやすい歌声なのは似ているような気はしていた。
「oh, my……black-black, black, my black birthday!!」
一曲目が終わると、会場が再び熱気に包まれる。
気になって、俺は楽奈の表情を見ると満足げにこう言う。
「睦もあっちもおもしれー奴だった」
「……だな」
俺もさっきまでのことを思い出しながらも、それに返事をしていた。
睦のギターは自分らしさというものが出ていた。あいつは自分のギターのことをまだ楽奈や愛音に比べれば全然だと思っているかもしれないが、それでもあいつはあいつなりにやってみせた。それを象徴するようにしてモーティスに対する反応が聞こえいたのだから。俺の耳には……。
なにより、俺自身もドロリスというか初華の歌声と睦のギターに注目していたが、それでも睦のギターの印象は強く残っていた。睦のギターを例えつつ愛音のギターに触れるならば、愛音のギターが太陽で睦のギターは……。
月のように感じさせつつも……。
ライブは続いていた……。
実感は今までよりもあった。
自分がギターを弾けていたのか?という疑問が無かった訳じゃない。それでもお客さんの反応を見て、自分が選んだ道が正しかったんだと思えていた。
『森みなみの娘の演奏良かったぁ』
『親の七光りかと思ったけど結構あの子凄いじゃん!』
『なんかこうムジカの感じにあっていたよね!!』
どれもあまり良いものとは言えないけど、それでも私のことを褒めてくれていた。
それが嬉しくてしょうがなかった……。
『睦ちゃん、私達やったね!!』
「ん……モーティスもありがとう」
モーティスの出番自体はそこまで多かった訳じゃないけど、私の負担を減らしてくれたのは間違いなかった。それにこれからも互いに助け合うこともあるだろうから、ありがたみを忘れないようにしたかった……。
「初華」
「どうしたの睦ちゃん?」
楽屋で水を飲んでいた初華に話しかける。
「今度ギター教えて欲しい……」
「いいけど、睦ちゃんギター弾けるんだよ……ね?」
「弾けるようになった……。でも、私はこの子をもっと輝かせたい……」
誰かを模倣する訳じゃない。
それでも誰かに教えを乞いて何かを学ぶ姿勢をしなくちゃいけないと思ったから、私は初華に教えて欲しかった。ギターを……。
「そっか、うん。分かったよ、空いてる日でもいい?」
「ん……構わない、ありがとう」
私は初華にギターを教えて貰う約束をして貰いつつも、立ち上がって楽屋を出ようとする。
「若葉さん、どちらへ?」
「結人と楽奈居たから……感想聞きに行きたい」
止められた私は海鈴に事情を説明すると、「浮気」という単語を出していた。
多分、立希が結人のことを好きだから……。MyGOから浮気したって言いたかったんだと思う……。
「お二人共、来ていたんですのね。行ってくるといいですわ睦。但し、後で今後のことについても話し合いますから手短にですわ」
「ん……行ってくる」
私は今度こそ楽屋から出る。
初華が「気をつけてね」という声がしていた私はそれに返事を返していた……。
「ギター凄く難しい……」
そこに更に自分だけのとなるとかなり難しくなってくる……。
今回のライブ手ごたえがあったのはそうだった。それでも、私は自分の足りない部分をもっと補いたい。そのためにはもっと技術を身に付けなくちゃいけない。私は焦らないように自分で出来ることを増やして行こうと思っているとモーティスにこう言う。
「なにがあっても、出て来ないで」
『でも睦ちゃん……』
「それでも……お願い」
私はモーティスに頼み込んだ後に目の前を通過しようとせず、遠回りしようとしていた……。
「待って……にゃむ」
どれだけ否定されようとも……どれだけ拒絶されようとも……。
にゃむとの対話をしたかった……。
寸劇を書くのが難しい……。