【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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互いの許し、互いの絆

「一先ず……これで終わりですかね」

 

 楽屋の方へと戻って行く祐天寺さんの背中を見送りながらも私はそう言いました……。

 

「……ありがとう海鈴」

 

「いえ、お気になさらないでください」

 

 祐天寺さんとの対話は正直骨が折れるというものでした。

 彼女との会話をするならば、論理的にしなければ全てが突き崩されてしまう。他の人のようにあまり感情のあまり攻撃的になるということは私はあまりないですが、それでも彼女は突き崩せると思える場所があれば容赦なくやってきますからね……。油断がならない相手です。

 

「ところで……」

 

 

 

 

「そちらのお二人はいつまで隠れているつもりなんですか?」

 

 隠れているつもりでいるお二人に話しかけると星乃さんの方は壁に頭をぶつけて、尻もちをついている様子でした……。それを立希さんが「なにやってんの……」と言いながらも呆れているようでした。

 

「結人……立希居たの?」

 

「あー俺の方は二人の様子を伺って……というかいざというときは出れるように待っていたって感じだな」

 

「立希も……?」

 

「睦が危なくなったら出るつもりだった……海鈴が出て来たからやめたけど……」

 

 若葉さんは納得していたようでした……。

 

「そういえば立希さんは私達のライブを見たんですか?」

「見てない、ムジカのライブを終わった後にバイト来たから」

「なるほど、彼の浮気現場は見ていなかった訳ですか」

「別に浮気した覚えねえんだが……」

「おや、では立希さんと付き合っているんですか?」

 

 その瞬間、黙り込んでしまう星乃さん。

 腕を組みながらも下を向いているようでした。立希さんの方も彼の方から視線を逸らしていました。

 

「毎回思うんですが、何故お二人は付き合ってないんですか?」

 

「「は!!?」」

 

 お互いに息を合わせながらも立希さんと星乃さんが反応してきました。

 ……なるほど、息はぴったりなんですね。ということは後もうちょっとですね。あのときは、大げさに反応をしていましたが、今回を息ピッタリなものを見せつけてくれましたね。

 

「お熱いところを見れたので、私は楽屋の方に戻りますね」

 

「は!?ちょ、ちょっ……海鈴!!」

 

「それでは」

 

 呼びかける立希さんの声を無視しつつも私は先に楽屋に戻ることにしました。

 本当でしたら若葉さんも連れ戻したかったのですが、彼女も彼女で話したいことはあるでしょうから……。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「はぁ……海鈴の奴……」

 

 嵐のような一言を残した後に去って行った海鈴……。

 私と結人は頭を抱える状況になっていると睦が不思議そうにしている。

 

「立希は好き……?」

 

「睦、その……その話はしなくていいから」

 

 何度も睦から聞かれたような気がする結人のことが好きという言葉……。

 その度にあいつのことを意識してしまいそうになって私はそれを抑えようとしながらも、睦に視線を向ける。

 

 

 

 

「睦……そのごめん……」

 

「……え?」

 

「CRYCHICが解散した後も睦のことを守れたら本当に良かったけど、私は自分の感情をどう処理するかで悩んでた。だから、睦のことを守れなかった。言い訳にしか聞こえないと思うけど……ごめん」

 

 頭を下げながらも、睦に謝罪をする。

 本当に辛かったのは睦の方だった……。祥子のことをずっと隠して、自分の気持ちすらも黙っていた睦を私は意味が分からないと思うときもあった、ただ気に掛けていたときもあった。無口だけど繊細な奴だから……。

 

「立希、私のほうこそ……」

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん」

 

 頭を下げていたのは私の方だけじゃなかった……。

 睦もまた本当に申し訳なさそうに謝っていた……。

 

「いや、その……睦は何も悪くないから」

 

「それでも謝りたい……。私のせいで立希が傷つくこともあったと思う。だから、いつかはちゃんと謝りたかったのに、私はいつか話せば分かってくれるなんて思ってたから今日まで謝れなかった。本当に……」

 

 

 

 

「ごめん……」

 

 睦が深刻な表情で謝ってくれている……。

 あの日以来ずっと何も喋ろうとしていなかった睦がこうして感情を吐き出してくれている……。それを知れただけで良かったなんて思えている自分が居たのは確かだった。

 

 

 

 

 

 私も睦のことを守りたかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 一人だから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「睦、話の方は終わったんですの?」

 

「終わった……感想も聞けた」

 

 表情を見れば、何を話していたのか分かりますわ睦……。

 憑き物が落ちたそういう顔をしていますわね……。貴方はきっとこれからも強くなれる。そう信じていますわ、幼馴染としても親友としても……。

 

「なら、話を始めますわ」

 

 全員楽屋に揃ったことを確認してから、私は三日目前に起きたあることの話を始めることにしましたわ……。それは勿論……お祖父様のグループがスポンサーを降りて貰うことになったという話ですわ。今回、お祖父様との対決の末に勝ったのは私の方ですわ。完売さえすれば、豊川グル―プにはスポンサーを今後から降りて貰うということを……。

 

「スポンサーを降りて貰ったですか……。しかし、あまりにもリスクが高いと思いますが?」

 

「八幡さんの言いたい事も分かりますわ、今後お祖父様の力が無ければ、私達はやっていくことは難しくなるかもしれませんわ。前のように最速武道館のような神話を作り上げることは難しくなるかもしれませんわ」

 

「じゃあ、どうすんの?そうやって話すってことはなにか策があるんでしょ?」

 

 唯一椅子に座らずに立ったまま、話を聞いている祐天寺さん……。

 

「策があるというよりは今回のライブがそれを証明しているということですわ」

 

「祥……どういうこと?」

 

「簡単なことですわ睦……。今回のライブは当日発表でありながらも、チケットの方は完売を果たしましたわ。祐天寺さん、SNSの方の反応は?」

 

「…………結構良さげだけど。トレンドも独占状態だし」

 

 事実を伝えるのを嫌そうにしながらも祐天寺さんは答えてくれていましたわ。

 私はあまりそういう反応を見ませんから、こういうときに知れたのは良かったですわ。

 

「それですわ、SNSでの評判……。そして、今回のチケットの完売……。恐らく、後もうすぐになればニュースなどで私達の活動再開が騒がれること間違いなしですわ」

 

 スマホで調べて偶々見つけた私たちのネットニュースをテーブルの上に広げる。

 そのネットニュースは一位と書かれており、注目度も抜群というものでしたわ。

 

「なるほど、そういうことですか……。つまり、Ave Mujicaはまだ話題性があるバンドとして注目され続ける可能性があるということですかね?本来、活動休止や解散などしたバンドやアーティストが活動再開した場合、供給が途絶えていたことによってあまり人が流れない場合もあります。しかし……」

 

 

「ええ、そうですわ……。ムジカはその例外だったんですわ、活動休止中もメディアに注目され続けたことによって私たちのこのライブは盛り上がり、今こうしてどんな場所においてもAve Mujicaと言うバンドは脚光を浴びている。となれば、答えは自ずと見えてきますわ。Ave Mujicaは……」

 

 

 

 

 

 

「まだ終わっていないんですわ」

 

 堂々とこの発言しましたわ。

 此処まで想定通りに動くとは流石に思ってもいませんでしたが、全ての状況が上手く行ったことでも私たちは次の段階に踏み込めるようになったというわけですわ。

 

「祐天寺さん、これについて反論の方は?」

 

「……なんで私に振るのか知らないけど、別にないけど」

 

 彼女の意見が聞きたくなった私は彼女に目線を合わせながらも話をする。

 祐天寺さんの方は「何故、私に」と言いたそうにしながらもめんどくさそうにしていましたわ。

 

「意外ですわ、祐天寺さんなら何かあると思っていましたわ」

 

「喧嘩売ってんの?アンタの言う通り、ムジカはまだやれるということを示した。ただ、アンタのお爺様のスポンサーを勝手に下ろしたからこれから先どうなるのかは本当に分からない。サキコが言っていたように仕事は前より減るかも知れないけど、それでも注目自体はされてる……」

 

 祐天寺さんが冷静に分析をしていると、睦が彼女のことを見つめていましたわ……。

 

「なんでこっち見てんの?」

 

「本当に意外……だったから」

 

「別に冷静に判断してただけだし、それとサキコの方針に理解を示したとかじゃなくて今のところ異論はないだけだから。ただ、次はどうすんのお嬢様?」

 

「それなら、もう決まっておりますわ……。私たちは再び誕生しましたわ。そして呪縛は解かれた今……私たちが次に目指すはあの日果たせなかったもの……」

 

 

 

 

 

 

 

「全国ツアーですわ」

 

 そう高らかに宣言すると、祐天寺さんが「やっぱそうなるか」と言う声を上げていた。

 八幡さんが睦に「期待していますよ」と言う声を掛けていましたわ。少しずつ、少しずつですが私たちは進みだしている……。これは一歩前進ですわ……。そう自覚しながらも、私は先ほどから話に参加していない初華に声を掛けましたわ。

 

「初華、今後の予定ですが聞いておりましたの?」

 

「え?う、うん……聞いてたよ?」

 

 何処か反応が悪い、初華に私は首を傾げながらもこう聞き返す。

 

「本当に大丈夫ですの?初華」

 

「うん、大丈夫だよ……全国ツアー目指すんだよね?」

 

「ええ、そうですわ初華……!これからもお願いしますわ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、うん……」

 

 

 

 

 

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