【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
『全国ツアーですわ』
私達は大きな一歩を踏み出すことに成功しましたわ……。
独立と言う名の大きな一歩……。祐天寺さんや八幡さんが言っていたようにリスクが増えたり、お仕事の方が減る可能性は今後は増えて来る可能性は大いにあり得ますわ。
「だからこそ……なのですわ」
私がお祖父様との関係を断ち切ったのは他でもない、お父様の為ですわ……。
今お父様がどうなされているのかは私も知りませんわ。最後に見たあの強い意志があるような瞳を見れば、きっとお父様は私を連れ戻す為に尽力を尽くしていたと思われます……わ。何より、お父様が自分の意志で自分の足を動かしたことは自分の中で憤りが増えながらも、それでも私は喜ばしいものだったのには違いありませんわ。もう今はたった一人の肉親、そのお父様を大事にしたかったからこそ私はこの道を選んだんですわ……。
「此処に来るのも久々ですわね……」
もう慣れきってしまいましたが、私たちはこの古いアパートの一室で過ごしていましたわ……。
この場所を提供してくれたのもお祖父様の施しと考えれば、私たちは何処までお祖父さまの糸で生きているんだと自覚させられますわ。
「逃れられる運命はないということですのね……」
自虐しながらも私は扉に触れると、扉が開いているようでしたわ。
私はそのまま開けると、そこには見知らぬ靴が一つ……。いえ、見たことがある靴だったのは間違いありませんわ。この靴、恐らくは……あの方ですわね。
「星乃さん、今日も来ていらっしゃったのですね」
「……ああ」
彼が今でも此処に来ているというのは思いも……いえ、そうではありませんわね。
今の彼はこういうことを途中で投げ出すようなことはしませんでしょう。お父様のことも気にかけて、心配して見に来てくれたということなんですわね……。
「その声……もしかして祥子なのかい……?」
私の声が聞こえたことに対して驚いたのか、お父様は立ち上がって玄関の方へと来ていましたわ……。
「……帰って来たのかい?」
ありえない、と言いたそうにしているお父様……。
そうですわね、私はつい最近まで死人のように生きていましたわ……。お父様が目を見開いて、驚かれるのも無理はありませんわ。
「お父様…………ただいまですわ」
「ああ……」
「おかえり祥子」
私とお父様は互いに再開を受け入れながらも、互いの目線に合わせていましたわ。
このようなことになるのはきっと、本来であればありえないことだったのかもしれませんわ。私とお父様には明らかな溝があったのは事実ですわ。お互いに自分を傷つけて、お互いにお互いを傷つけていたからこそ今こうしてお父様を父親として認識出来ることが本当に喜ばしかったんですわ。
「また、一緒に暮らしてくれるのか祥子?」
「さっきただいまと言ったはずですわ、お父様……」
「そう……そうだね、ありがとう祥子」
「お礼を言うのならこちらですわお父様……」
お父様の瞳には涙を浮かべていた……。
そして、私の方にも……。
「これからも……お父様が作る手料理……楽しみにしておりますわ」
「ああ……」
「いっぱい作るよ……」
あのときは思っても居ませんでしたけど、それでも私はこうして此処に戻って来れたのが良かったと思うんですわ。なんと言っても……。
唯一の肉親ですもの……。
深夜の街……。
街の残光を微かに私たちを反射していましたわ……。車の音もまばらになり、地面には靴が吸い込まれていくかのような感じ……。そんな静けさの中、特徴的な彼の髪色が風で揺れ動いていましたわ。
「いいのか、久々だったんだろ清告さんと会うの」
「お父様とはこれから色々なことを話しておきますわ、それよりも今は貴方に伝えておきたいことがありますわ……」
「お父様の件も……睦の件……。そして、燈も含めて改めて私は貴方に感謝の気持ちを申し上げたい。貴方のおかげでお父様は光を取り戻して、睦は自分の足を歩き始め、燈は自分の輝きを求めるようになった。全て貴方のおかげですわ」
率直な感謝な言葉を述べると、彼は下を向いた後に自分の頭髪を弄っていた。
照れ臭そうというものが似合うような気がしていましたが、それとはまた別なものの気がしていましたわ。
「自分で進むことを選んだ、それだけなんじゃねえのか?」
「自分が何かをしなくても……ということですの?」
「ああ、結局自分の意志で歩き出そうとなれたのはそれぞれ自分が大事にしたいものを選びたいから、守りたいからそういうものがあるからこそ進みだすことが出来た。そうなんじゃねえのか?って俺は思うだけだ」
自分が何かをしたと言うよりも、その結果自分で進みだそうとした……。
彼はそう言いたかったんでしょうけど、恐らく「自分は何もしていない」と遠回りに言っているようでしたわね。先ほど……私は照れ隠しと言いましたが、それは間違いなくありそうですわ。
「それこそ豊川だってそういう思いがあるから、あの日……睦を助けに来てくれた。バンドをまたやろうと思ってくれたんだろ?」
「ええ……」
私がこうして立ち上がろうとしたのは八幡さんの言葉を掛けられたから。
立ち上がれと言われたような気がしたから、あの日睦達の演奏を聴いて私は誰かに対して虚無感を覚えることがなくなっていた。
『よく頑張りましたわ睦……』
運動会のあの日……。睦は初めて強いものを見せてくれましたわ。例え、自分の足が遅いと分かっていても、それでもやろうという努力すると言う姿勢は本当に素晴らしいもの……。しかし、それはCRYCHIC解散を気にならなくなってしまっていた……。
私のせいだと分かっていても、謝ることが出来なかった。
意地になっていたと言うより、睦がそれを望んでいないと勝手に思っていたからですわ……ね。
『ごめんなさいですわ……睦』
あの日、本当に私は睦に謝れて良かった。
そして、ムジカを再びやるとなれたのは言うまでもないですわ。
「そうですわね……」
睦がかつてのように強い思いを持たなければ、こうして再び立ち上がることも出来なかったのかもしれないと思うと他人に頼ることしかできない、他力本願のようで嫌になる自分が居るのも事実。それでも、私は本当に嬉しかった幼馴染が前を向いて歩き出して、逞しくなっていく姿が……。
「それでも、お礼を申し上げたいですわ」
「結人さん」
「……分かったよ、一応受け取っておいてやる」
まるで観念したかのようにして……彼は私の言葉を受け取っていてくれていました。
「こっちこそありがとうな、睦と一緒にまた進んでくれて……これからもあいつのことを頼む」
「ええ、分かっておりますわ」
「ああ、それじゃあ……」
「頼んだぞ……祥子」
彼は私の名前を呼びながらも、歩き出しつつ背を向けて手を広げつつもこう呼んでいましたわ。
その手はまるで私に「頑張れよ」と言い残してくれている、そんな気がしてなりませんでしたわ。
「人を変える力がある、彼にはそういうものがあるのかもしれませんわね……。ただ、彼を変えたのはきっと……」
「燈達……ですわね」
かつて彼は燈のことを私同様切り捨てようとした……。
それでも、今はこうして燈達と共にあり続けている。それは紛れもなく、彼自身も影響を受けたから……ですわね……。
彼の背中を見ながらも、私はそれを確信していましたわ……。
「父親と子供か……」
あの場に居たとき、俺は場違い過ぎて早いところ、とっとと撤退しようかと考えていたけど自分の胸に響くものがあったのは確かだった。多分、親の愛に飢えているからあの場で硬直して止まっちまったんだろうな。どう考えてもいるべき場所じゃないってのに……。
それに……。
「どうもああいうのは素直に受け取れねえんだよな……」
祥子にお礼を言われたこと……。
愛音が俺に教えてくれた当たり前のことを当たり前だからってより、ただ単に素直に受け取れる余裕ってのもあるが、心のどっかで何か引っかかるものがあるからだろうな……。
「はぁ……」
呼吸をするようにして息を吐きながらも、俺は信号待ちをしているとスマホから着信音が鳴り響く……。
「電話か……」
スマホから取り出してそこに書かれているのは睦の名前だった。
俺はすぐに出ると……。
「結人君!!」
「あーモーティスか」
「なんかまた反応薄くない?」
「あー悪かった」
自分でも分かるぐらい反応が悪かったのには理由がある。
正直、電話を掛けて来たのが睦なのかモーティスなのか分からなかったからちょっと戸惑っていた。別にどっちかによって態度が変わ……いや、俺モーティスには割と砕けた話し方してるか……。
「んで、どうした?」
「あーえっとね!!」
「お出かけしよ!!」
「明日!!!」