【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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自分が自分らしくあるために

『結人と祥達と一緒に居られますように……」

 

 私の願いはたったそれだけだった……。

 これからも……この先もずっと結人達と一緒に居られますように……。それだけが本当に私の願いだった……。そして、此処から先は私自身が唯一願わなかった願い。それはギターをもっと弾けるようになりますようにという願い……。

 

 本当はそういう願いも叶えようとしていたけど、私はそれをお願いするのは違うとなった。

 確かに弾けるようになれば、それはきっと素晴らしいことになるだろうけどもこれは神様にお願いすることじゃなくて、私自身がやること……だから。

 

 

 

 

「……」

 

 ショッピングモール……こういう場所に一人で来るということ自体は割と珍しかった……。

 こういう場所が嫌いだとかそういう訳じゃない、行く理由がないから……。祥子とよく行っていた時期もあった。燈達とよく行っていた時期もあった。それでも一人で行かなかったのは周りの視線が怖かったからかもしれない……。

 

「あれ、若葉の娘じゃね?」

「そうだよ、絶対若葉の娘じゃん」

「森みなみの娘ってショッピングモールとかにも来るんだ」

 

 そんな会話が聞こえて来る……。

 これは慣らしだった……。結人から貰った帽子というものを付けずに、周りから自分がどういう目で見られていてそれに慣れる為のものだった……。だから、私はこうしてショッピングモールに来ていることもあった。祥にはちゃんと身バレをしないような恰好をして欲しいと頼まれるかもしれないけど、いつまでもそういうことに恐怖していたら私は独りでいる事なんて出来ない。

 

 それに最近はこういう色眼鏡……みたいな風に見られても私は気にしなくなってきた。

 多分、慣れかそれともあの言葉があるから……。

 

 

 

 

「やっぱり、こっちとこっちだとこっちの方がいいよね?」

「好きな方にすればいい」

「えー!私、好みを聞いてるんだけどなぁ」

「好きな方、選ぶ」

「いや、だから楽奈ちゃんの好みを聞いてるんだけどなー」

 

 施設の中を歩いていると、日常的な会話も聞こえて来ていた……。

 楽しそうな会話に私の耳の中に入れていると、名前に反応してしまった。

 

「……楽奈?」

 

 声の方へ視線を向けると、そこには愛音と楽奈が服屋の前で立っていた。

 

「あれ?睦ちゃん!?」

 

 先に気づいたのは愛音だった……。

 

「睦ちゃんも買い物?」

 

「ん……」

 

 慣らしのこともあるけど、実際買い物をしに来たのも間違いなかった。

 楽奈に手を挙げると、楽奈は肩の力が抜けたように小さく笑っていて空気が更に和んだような気がしていた。

 

「じゃあ、一緒に買い物しよ!!今ちょうど楽奈ちゃんに服見て貰ってたんだけどさぁ、凄い曖昧な返事を返されるから他の人の意見も聞いてみたかったんだ」

 

「なんでもいい」

 

「もー!なんでもよくないってば!折角ならオシャレしたいじゃん!」

 

 愛音の「オシャレをしたい」という気持ちも楽奈の「着れればなんでもいい」。二つの意見が対立しているみたいだった。楽奈は多分……着れればいいというよりは機能性重視なのかもしれない……。

 

「ねぇねぇ、睦ちゃん折角なら選んでよ!」

 

「私……?」

 

「うん!睦ちゃん、ほら結構自分に似合った服着てるじゃん?だから、こういうの詳しいのかなって思ったの!」

 

「……分かった」

 

 ちょっと困っていた……。

 この服は私が選んでいる訳じゃないから、周りに私ならこういう服が似合うとかそういう話をされて与えられたものばかりだから、自分にそういうセンスがあると言われても疑問を感じてしまっていたから。

 

「ねぇ、こっちとこっちならどっちがいいと思う?」

 

 直感で選んだのか、愛音が手に取った服を私に見せる。

 愛音が見せて来たのは愛音らしい、明るくて元気な彼女に合いそうなものだった。あんまり洋服とかに詳しい訳じゃないけど、それでも愛音の髪色や髪型にとても似合う感じだった。

 

「私、こういうカジュアルな感じの服が凄い似合っちゃうタイプだから悩むんだよねぇ」

 

 自信たっぷりなことを言っている愛音……。

 確かに愛音のスタイルの良さならこういう服は似合うのかもしれないと納得を示しつつも、私が指したのは愛音らしいものだった。服の名前とかはよく分からない。多分、カットソーとかいうものだった気がする……。

 

「おっ、やっぱりそっち……?私もこっちの方が似合うと思ったんだよね!ありがとう睦ちゃん!!」

 

「ん……」

 

 選んで貰えた方が満足できるもので良かったのか、愛音はもう一つの方を戻して自分の手元には私が選んだ方の服が残っていた。こうして、誰かに服を選んであげる。こういうのも経験の一つなのかもしれない。

 

「ねぇねぇ、睦ちゃんと楽奈ちゃんの服も選んであげようか?」

 

「着やすいならなんでもいい」

 

「いや、もっとオシャレしよ!オシャレ!!睦ちゃんもそう思うでしょ?」

 

「……いいの?」

 

 ほんの少しだけ困惑していた。

 勿論、嫌と言うわけじゃない。ただ自分がこうして誰かと一緒に服屋に来て、服を選んで買って貰うなんてことは滅多になかったから。それが友人同士なら尚更だった……。

 

「いいっていいって、女の子なんだし折角ならもっと自分に自由に服着たいじゃん!」

 

「自由に……」

 

 反応していた。

 愛音の言っていることが正しいと納得していたから。確かに、私は今こうして自由に生きている。モーティスと共に……。なら、こうして何かを選んで貰ったり自分で選んだりすることは何も駄目なことじゃない。もう自分の足で生きていくことを決めたから……。

 

「あれ?睦ちゃん、もしかして嫌だったかな?」

「ううん……」

 

 

 

「選んで欲しい」

 

 自分で伝えることはとても重要……。

 私は愛音に選んで欲しいと言うと、愛音の顔はひだまりのようなやさしさを湛えつつもこう言い始める。

 

「任せて!!ファッションリーダー、ANON TOKYOに掛かればすぐ見つけて見せるから!」

 

「ANON TOKYO……?」

 

 聴き慣れない単語が聞こえてくると、楽奈がこう切り出して来る。

 

「自称」

 

「いや、自称じゃないからね!!楽奈ちゃん!!というか楽奈ちゃんは何がいいの?」

 

 必死に抗議の声を上げる愛音……。

 ANON TOKYOという人はいないみたいだった。

 

「フワフワした奴、もこもこした奴はやだ」

「えー!それだとほとんど着れなくない!?」

「機能性重視」

「それだともう作業着とか着てた方がいいんじゃないのかな……。パーカーは?」

「嫌じゃない、でも何枚も持ってる」

「えー!もうじゃあどうすればいいのー!!」

 

 まるで漫才のような会話に私の口元はかすかな弧が生まれていた……。

 本当に楽しそうに二人が話していたから……。

 

「そういえば、睦ちゃん……。モーちゃんは元気してる?」

 

 知らない呼び方をされて私は無言になっていると、頭の中でそれがモーティスのあだ名だということを思い出す。

 

「元気してる、昨日は結人と出掛けてた」

 

「え?ゆ、ゆいくんと……?」

 

 結人の名前を出した後、何故か顔を赤くし始める愛音……。

 戻そうとしていた服が引っ掛からずに落ちそうになっていたのを私が拾う。

 

「もしかして愛音、結人のこと「うん、あのん……ゆいとのこと好き」」

 

「え!!?えっ、い、いや……その別に好きというかあーえっと」

 

 言葉がどんどん詰まって行きながらも、下を向き始める愛音……。

 

「私もゆいとのこと好き」

 

「いやー楽奈ちゃんの好きはちょっと違うんじゃないのかな……」

 

「好きは好き」

 

「ーん?まあ、そうだけどなんか違う気が「誰が好きだって?」」

 

 

 

 

 

「…………え?」

 

 愛音が硬直する。

 きっと此処にいるはずのない人物が居て頭の中が真っ白になっている……。

 

 

 

 

 

「ゆゆゆ、ゆいくん!!?」

 

 愛音に話しかけていたのは結人だった……。

 隣に結人がいることに愛音は指先が震えていた。自分でも気づかないうちに目を泳がせていて、結人が自然に声を掛けていたけど、心臓が一拍していたように見えていた。

 

「な、なんで此処にいるの!?」

「いや、なんでってお前ら見かけたから」

「此処、女性服のお店だよ!?男子禁制!!」

「いや、そんな決まりねえだろ!?」

 

 二人の喧嘩が始まる。

 楽奈はそれを面白そうに眺めている、私もこの二人の会話はただただ聞いていた。多分、楽奈と同じ気持ちだったのかもしれない。

 

「今女子会してるところなの!!男の子は邪魔しないで!」

「私、会計してくるね!楽奈ちゃんと睦ちゃんの分!!」

 

 愛音は自分が額から汗が出ていることも知らずに、レジの方へと向かって行った。

 

「……あいつ」

 

 と声を漏らしていた結人……。

 視線の先は愛音に向けられていると会計がすぐに終わったのか、愛音が戻って来たのと同時に結人の背中を押し始める。 

 

「おい、押すな馬鹿!!」

「いいから、何処か行ってて!!あっ、二人共服ね!!」

 

 と言われて私と楽奈は服が入った袋を渡されてお礼を言う。私はその袋をちょっとだけ強く握り締める。大切なものかのように……。

 

「おい、待てお前動揺し過ぎだろ」

「いや、動揺してないってば!!早く何処か行っててよ!!じ、じゃあねゆいくん!!」

「……ああ、じゃあな」

 

 それを終えた後に結人は押されつつも、店の外へと追い出される。昨日のモーティスと結人もあんな感じだったんだろうかと、私は見送りつつも、楽奈にこう言う。

 

「追いかけて来る」

 

 楽奈は無言のまま首を縦に振ってくれたのを見てから、私はお店を出て結人のことを追い掛けて行った。話したいことがあったから……。

 

 

 

 

 

「結人……」

 

 結人の背中を追い掛けて、私は彼の服を掴んでいた……。

 

「睦……?愛音達はいいのか?」

 

「ん……」

 

「そうか……あいつらが認めたならいいんだが」

 

 結人は私と愛音達に気を遣っていてくれていたのか、自分は邪魔と思っていたようだった。

 愛音が女子会してるって言ってたのもあるかも……しれないけど。

 

「何処かで座って話すか?」

 

 了承するようにして返事を返すと、結人と私はベンチで座り込んで話を始めていた……。

 

「モーティスとの箱根楽しかった?」

 

「ああ、まあ楽しかったぞ……。あいつに振り回されてほとんど終わったけどな」

 

 結人に謝罪しようとしていたけど、それはやめた。

 何故なら表情には喜色を浮かべていたから……。確かに振り回されてばかりだったから、大変そうだったけど楽しかったのならよかったという気持ちで溢れていた。

 

「睦も今度何処か行くか?」

 

「……いいの?」

 

「ああ、全然構わねえよ」

 

 モーティスと結人のように私も何処かに行ける……。

 それだけで自分の心が温かくなっていた。あのとき、神社の何かに惹きつけられて出て来ていたけど、あれは本当に一時的なものでしかなかった。次はもっと長い間結人と一緒に色んな場所に行きたい。願いながらも、私は楽しみを一つ増やしていると結人が聞いて来る。

 

「ムジカの方は大丈夫か?」

 

「大丈夫……取材とかそういうのもあるけど頑張れてる」

 

「そうか、あんまり無理し過……いや。こういうことはあんまり言わねえほうがいいか」

 

 気を遣ってくれたと言うよりは、私自身が自分の力でやれるということを信頼してくれているよう……だった。

 

「ただまあ……バンドやってねえ俺がこんなこと言っても意味はねえかも知れないけど、俺にとってバンドってのは自分の魂に触れるものだった」

 

 結人は拳を握り締めて、それが魂だって言いたそうにしていた……。

 

「それがくれたのがMyGO!!!!!であったのはそうだと思うし、それ以外のバンドもそうだった。特にあのバンドは凄かったな。あんなにも魂が揺さぶられたのは初めてだった。ああいう心臓にまで響くバンドって早々ないと思ってたからさ」

 

 結人が言っていたのは……多分私が結人のことを追い掛けようとしていたときに聞こえて来たあのバンドの声……。私はあのとき、あのバンドの声が怖くて近づけなかったけどそれはきっと私自身にも響くものがあったからだと……思う。

 

「だから、睦も睦で自分の魂に向き合える、正直になれる。そういうバンドの中のギターを目指せばいいんじゃねえかって……自分なりの」

 

「自分の魂に向き合える……」

 

 考えてみたことはあった……。

 自分のギターと更に向き合い続けるのには自分の魂に触れ合うことが必要かもしれないって……。ただその方法が分からないから、私はどうすればいいのか出来なかった。それでも、こうして心が強くなれている気分になっているのは結人の言葉のおかげがあるのかもしれないとなって、私は立ち上がろうとしたときだった。

 

「後、にゃむとの話していたときの睦……ちゃんと睦だったぞ」

 

「どういう……こと?」

 

「言った通りだよ、お前はお前なりにあいつにぶつけたいと思えたことをぶつけた。それって努力もいるし、勇気もいる。睦はそれを成し遂げた。だから、お前ならギターともっと向き合うこともできるし、ムジカの奴らと向き合うことだってできる。俺はそう信じてるぞ」

 

 本当に結人の言葉が私の体にも心にも染みてしまう。

 その強すぎるものがかつての私は彼に依存したいと成り果てていたけど、今は違う。一人の異性として好きだし、彼が居てくれるから前を向いて走れる。彼の話を聞いて、分かった。やっぱり私は立ち上がらなくちゃいけない。

 

「結人……ついて来て欲しい」

 

 

 

 

 

「私の意志を確かめるためにも……」

 

 あのとき、私は……にゃむに説得することなんて一人では出来なかった。心の中では何処か一人だけでそれを成し遂げたいってなってた自分がいた。そうじゃないと、前に進めないから。それは結局、海鈴の介入ということで一時的に丸く収まることができた。

 

 バンド内のことはバンド内で頼る。

 それはそうだって私も思える……。結人ならきっとこう言ってくれる、誰かに頼るということは恥じゃないって……。私もそれはそう思うから。なによりも、これから私にとってのバンドのギターをこれからも探し続ければ……いい。ずっと背中を押してくれる彼がいる。

 

 

 でも……。

 

「今回は違う……」

 

 こればかりは私がどうにかしなくちゃいけないこと……。

 

 

 

 

「結人、待ってて……」

 

「……ああ」

 

 彼は「若葉」という表札を見た後に行ってこいと視線を送ってくれていた。

 私が中へと入ろうとしていたのは……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の家だった……。

 

 

 

 

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