【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
『お母さんじゃなくてみなみちゃん……でしょ?』
あの日の言葉は今でも覚えている……。
今までの視線も覚えている……。みなみちゃんからすればきっと私は今でも人間のフリをした化け物だと思っている。それはきっと今も未来も変わらない。私に恐怖しているという事実を付け足しても……。
『そうなったら睦ちゃんも不幸になっちゃうでしょう?』
あれはきっと自分にも言い聞かせていたものだったんだと思う……。
周りから見て私という人間が今までどう見られているかなんてそれはきっと『若葉の娘』か『みなみちゃんの娘』だとかそんなのばかりだと思っていたけど、視野を広げれば実際は色んな見方もあった。。
私という人間を知れば知るほど、人は寄り添ってくれるか異常と見る。
それ自体は嫌じゃなかった。寄り添ってくれることで私は独りじゃないとなれるから、異常だと捉えられることで傷つくことはあるけど、自分がやっぱり人とは違うと考えられるから……。にゃむのときだって、そうだった。
『気味が悪いって言ってんの。アンタみたいな化け物と平然と仲良くしていること自体が』
立ち向かうことが怖いとはなっていた。
それは自分自身の中にある感情と向き合うことになるから。それでも、私は立ち向かって戦うべきだと考えていた……。それが前に進むことだから……。
祥が……結人が教えてくれた……透子先輩達が教えてくれた。
みんなが教えてくれたことを胸に進みたい。例え、後ろに下がることになっても此処で引き下がりたくないから……。
「あら……どうしたの睦ちゃん?」
家の中に入ってリビングの方へと行くとソファーに座り込んでいる姿があった……。
そこには珍しくも二人共揃っていた。
「睦……最近またムジカが活動再開したそうじゃないか!お父さん嬉しいぞ!」
私はその言葉に頷いていた……。
「バンドの方は大丈夫か?最近またお仕事を再開したから色々と困っていることはないか?」
「……大丈夫」
お父さん、若葉隆文……。
お笑い芸人で凄くバラエティだとかで呼ばれることが多くてあまり家に居ないことが多い。ただこんな言い方をしたくない……けど、話しやすいのはお父さんだと思う。ただ私に対して理解がないだけ……だから。
「たあくん、心配し過ぎよ。この子ももう高校生……それに女優としてもデビューしてもう一人前でしょう?」
一人前、そういう単語を使っていたけどその単語を用いる彼女は何処か苦悩に満ち溢れながらも、歯を立てていたようにも見えていた。それが幻覚かは分からなかった……。
「それも……そうだな!いやぁ、この前のドラマ良かったぞ!函館を舞台にした女子校生同士の青春ドラマ!いやぁ、そういうドラマをあまり見ないが娘が活躍しているならば是非見た「もういいわ、たあくん」」
話を遮っていた……。
自分の両手を叩きながらも、そこで止めみたいな感じで……。お父さんは話を横入りされて「あれ?」という表情をしていたけど、それを無視して私の方へと視線を向けている……。
「ねぇ、睦ちゃん……。今日はどうしたの?まるで……」
「何か言いたくて家に帰って来たって感じだけど」
見抜かれていた……。
先に言い出す前に見抜かれていた……。それでも引き下がることはなく、深呼吸をする。自分の気持ちを落ち着かせて、決心を改めて固める為に……。そして、目を見開いて二人を見る。
「ずっと……ずっと苦しかった……」
最初に出ていたものがこれだった。
私は自分の服を強く掴みながらも語り始める。
「みなみちゃんの娘だとか若葉の娘だと言われていることが、それでも私のことを睦だと言ってくれる人たちが居た、寄り添ってくれる人達が居た。私はそれに安堵して、その人たちなら私のことを助けてくれると信じきっていた」
まるで自分に懺悔するかのようにして言い続ける。
「何度も何度も何度も何度も人格を変えて、誰かに媚びて誰かに助けて欲しくて……誰かに認めて貰う度に誰かに褒められる度に私はこう思っていた。この人にもっとそういう感情を抱いて欲しい、そういうものを与えて欲しい。そういうことがあって私はどんどん私じゃなくなっていた」
「睦……いったい何の話をして」
「聞いて欲しいお父さんにも……」
「お母さんにも……私の決意を……」
久々だった……。
この二人をこの呼び方をしたのは……。新鮮な気持ちと懐かしい気持ちに浸りながらも、私はこう強く言う。
「私は私のままであり続けたい……!!もうあんな思いをするのは嫌だから……!例え、お母さんに化け物だと思われようとも……。例え、お父さんに理解されなくても私は私であり「あら、睦ちゃん……。私は貴方のことを化け物なんて思ったことないわよ。私は貴方のことを一人の女優として尊敬して」
「そんなの嘘だよ」
お母さんに言葉を変えられそうになったとき、変わったのはモーティス……だった。
低い声でモーティスはそう呟いた。
「貴方が睦ちゃんのことを一人の女優として尊敬していたなんて真っ赤な嘘!!ずっと睦ちゃんに怯えて、怖がって恐怖して逃げていただけ!!母親のフリをしているけど、何処か他人行儀……!お父さんにしたってそう!睦ちゃんのことを理解しているようで何も理解してない!!そんなんだから、睦ちゃんは誰にも理解されてないって自虐的になっちゃうときもあった!!」
モーティスは慟哭を告げるようにしてそう叫んでいた。
「私たちは何色にもなれる……!!そう思えたから、私たちは進むことを選ぶ……!そうでしょ、睦ちゃん……!!」
「……」
何色にもなれる……。
それは私じゃなくてモーティスが言われたものだった。占いの館でモーティスがタロットカードで白紙のカードを引いた。そのときに言われた言葉だった。私には関係ない、彼女が言われたことだと思っていたけど、もしかしたらモーティスは自分達に言われたことだって、言いたかったのかもしれない。なら、私が最後に二人に言うべきことは……。
「私は私でいい、そう教えてくれた人がいた。そして、その可能性を見せてくれた人達が居たから。だから二人には言いたい。例え……私がこれから先もお父さんの娘、お母さんの娘と言われても……!!」
「私は私であり続けることは変わりたくない……!!」
空気が一気に変わった気がした。
先ほどまでの異様に歪んだ空気はそこには消えていて……まるで私の心がようやく解放されたかのような気分になっていた……。
「はぁ……はぁ……」
此処まで喋ったことは滅多になかった……。
息が切れていて、呼吸が荒い。次に私はなんて言うべきなのか、頭の中でなんとか考えながらも、話をしようとしたときだった。
「……降参ね」
拍手をしながらも、ソファーから立ち上がっていたお母さん……。
警戒しながらも、私は様子を窺っていると溜め息をついていた。
「まさか此処まで大きく成長するとは思ってもいなかったわ……。どうやら、
「教えてくれた子が居たから……大切なことを……。私が言いたいことは伝えた……。行ってくる」
意思表示は出来た。
決意も出来た。これ以上伝えたいことはない。お母さんやお父さんの返事を聞くのが怖かったのもあるかもしれない。ただお父さんは私の話を聞いて、ただただ困惑しているようだった。それでも、お母さんに本物になれたという話を聞いて、もしかしたら自分のことを化け物だと扱ってくれてないのかもしれないと淡い期待をしている自分が居たのも確かだった……。
『ごめんね睦ちゃん、余計なことして……』
玄関に行くと、モーティスの声が聞こえて来る。
「どうして助けてくれたの?」
『私達は一心同体……だから。睦ちゃんが辛そうなら、私も辛い。睦ちゃんが立ち向かうなら、私も立ち向かいたい。そういうものがあったの、だから睦ちゃんに変わって私は私なりのやり方で伝えたかった。私達は……』
『間違ってないって……』
「ありがとう……モーティス」
助けてくれなかったらきっと私はあの後自分がなんて言い返せばいいのか分からなくなっていたのかもしれない。絆されていたなんて言い方はあれだけど、何を言えばいいのか分からなくなっていたのは事実でしかなかったから……。
「おかげで私は私の意志表示が出来た……」
両親からの肯定が聞きたかった訳じゃない、否定が聞きたかった訳じゃない。私がやりたかったのは自分の強さを改めて確認する為のことでしかなかった。それをモーティスと一緒に出来て、助けられたことへの感謝をモーティスに伝えながらも……私は玄関を出て待っていてくれる結人に声を掛ける。
「ありがとう、結人……」
彼の目を確かに見て私はお礼を告げる。
「私はかつて貴方の言葉を呪いに変えてしまった。私は私でいい、それを呪いに変えて結人に依存すれば自分が助かると信じきっていた。それが私にとっても結人にとってもいいことだと思っていたから」
結人に依存すれば、私は助かる。
彼が光そのものだったから、彼なら私を導いてくれるそう信じていた時期は確かに存在していた。今もその記憶は胸の中にある。
「でも今は違う……。結人から貰ったものを祝いに変えることが出来た。私が前に進む為の勇気だとかそういうものに……。だから、結人には本当に感謝してる。貴方のおかげで……」
「前に進めたから……」
これが私の言いたかったことの全てだった……。
あの日、私は全てを呪縛にしてしまった。それが正しい道と崇拝していたし、それが脆いとは知らなかったけど、今はただ前を進む為だけの言葉に変えることが出来た。結人から貰ったものを呪いにさせたままにしなかった、ちゃんと自分の意志にする為のものに変えることができた。
「本当にありがとう……」
彼の温もりを感じる……。
自分からその行動を選んだ……。彼の体温が感じたくて、彼の想いを知りたくて……。自分の想いを知りたくて……。それを選んだ。
「頑張ったな睦……」
何も言わずに結人はただ笑顔を向けてくれる。
私が今此処で何をしてきたのか理解してくれているかのように……。
「ん……」
その温もりはあの頃と一緒で……。
光そのものだった……。
私はそれをホッとしながらも彼の胸の中に頭を寄せていた……。