【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
自分自身で進みだした、一歩……。
お母さんとお父さんへのあの言及は大きな一歩に繋がったのは間違いない。私が人間となる為の階段を飛ばすことなく、一段ずつ噛み締めているそんな気がしていた。それはきっと途方もなく果てしないものになるだろうけど、私はモーティスとなら一緒に進んで行ける気がしてならなかった。
そんな思いを抱えて歩いていると、偶々公園が目に入る。
ただ視界に入っただけなのに私は気になって中へと入って行く……。まるで吸い込まれるようにして私がその中へ行ったけど、誰も居る訳もなくただ夜の散歩の道が続いて行くそんな気がしていると、ベンチに一人座っていた……。
「隣、いい?」
私はそう声を掛ける……。
声を掛けた相手は……。
「いいよ……睦ちゃん」
燈の了承を得てから、ベンチに座る。
燈とは間隔を開けることなく座っていたけど、燈は窮屈そうにはしていなかった。
「……」
何も言わずに、ただ星を眺めている燈……。
私もそれに釣られるようにして頭を空に動かすと、そこには無数に輝く綺麗な星々があった……。星の数が幾つあるというのは知らない。それでも、きっとこの地球上では観測できないほどの星がたくさんあるのかもしれない……。
「果敢にチャレンジする意欲……」
「え……?」
「ゆいくんが昔教えてくれたんだ。私の誕生星……へび座ρ星にはそういう意味が込められているって……。私はそのときゆいくんから貰った言葉がどういうものなのか分からなかったし、私にはそんなものは無いと思っていた。それでも、きっと彼なら私には絶対あるって言ってくれたと思う」
燈はポケットの中に何かを入れてあるのか、そのポケットの中に入れてあるものをしっかりと握り締めていた……。
「今でも自分がそういうものがあるのかは不安になるけど、それでも自分が前に進みだしてMyGO!!!!!を始め出したことが出来たって思える日々が来るかもしれない。そう思えてたら、ゆいくんが教えてくれた星言葉が自分にもちゃんとピッタリなのかもしれないと思えたんだ……」
「燈は凄いね……」
疑問符を浮かべたように、頭を少し傾けている燈……。
「私はようやく前に進みだすことが出来たと思っているけど、もしかしたら自分はただ後退しているだけかもしれないって……不安になることもある。それでも、自分を間違ってないって言い聞かせて進むことしかできない……」
前に進む、前に進む。
それが出来ていたとして自分が果たして本当に成長出来ているなんかなんて私にはとても実感できていなかった。確かに階段を一歩ずつ上がれているけど、それが正しいのか不安になる。ましろ先輩が言っていたように自分が後退をしているのかもしれないなんて考えてしまう。
「私も言い聞かせるだけで……自分が進めているのか分からないとき……あるよ?自分が選んだ道がこれで正しいかな?とか間違ってないかな?と不安になるときが……。それでも、私は進みたい」
「どうして?」
「もう、離したくないから」
燈はポケットの中に入れてあった……。
ネックレスを首に掛けつつも……そして、ノートを広げるとそこには動物の付箋がたくさん貼られていた。そこには燈がそのとき思ったようなことが描かれているようだった。
「教えてくれる、鮮明に……何が大事で何が失敗だったのか」
「記憶が?」
「うん、だから私は進んで行ける……間違っていても傷ついたとしても傍に一緒に進んでくれるみんながいるから……」
燈は口にはしていなかった……。
何を離したくないのか。それはきっと言うまでもないことだからというのもあると思った……。自分の中で大事にしているものがそのノートには描かれていて、そこにはきっとみんなとの思い出があった……だろうから。
「本当に強いね、燈は……」
小さな声で私は改めて燈の強さを再認識していた。
あのとき私は燈と立希に結人のことを聞いた。あのとき、燈は私とそっくりだと思っていたからこそ、自分の気持ちに同調してくれるかもしれないなんて期待をしていた。実際、燈は一歩間違えたら自分も結人に依存していたかもしれないと語っていたけど、燈ならきっと自分で気づいてその湖から抜け出すことが出来たと私は確信しながらも……再び星を眺めていた。
「星、綺麗だね燈……」
「うん……」
街灯に照らされている燈の横顔を見た後に私はこう聞き出す……。
「燈、あの星はなんて星……?」
「え?あ、えっと……あれは……あれはね」
星を指しながらも、私に星のことを教えてくれている燈の姿が……。
夜空に輝く星々のように見えていた……。
◆◆◆
『貴方のおかげで……前に進めたから……』
睦、お前はああ言ってくれていたよな……。
俺のおかげで自分を進みだすことが出来たって……。俺はそんな睦を本当に祝福したくてあいつには「よく頑張ったな」という言葉を送ったが、それと同時にもう一つ思う気持ちがあったんだ。それは……今回の睦の件があって俺はもっと自分を変えることが出来るんじゃねえのかって勇気を貰ったんだ。
八潮さんやましろさんの一件もあって、俺は自分を曲げずに自分を変えるという選択を選んだ。そして、睦とモーティスの一件があって俺は更にこの選択を強く固めたものに出来上がらせた。心の臓と心が覚えてくれる限り、俺はこの信念を曲げることはない。それでも、俺には明確な違いをはっきりとさせる必要があった。
鏡には自分の姿がある。
そんなのは当たり前のことでしかなかったが、一番重要なのは俺の外見が変わっていると言うことだった。それは頭髪の部分……。
「茶髪に変えたけど……さてこれがどう変わるか」
かつての俺は黒と茶の特徴のある髪色をしていた。
そのアイデンティティがなくなったのは痛い?かもしれないが、毛先にはインナーカラーを入れてみた。これはまあオシャレの一環で赤に染めたというのもあるが、ここは気にしなくていい。俺がこうして髪色を変えたのは言うまでもなかった。
今までの自分とは明確に違うと言うことを示す為だった……。
そして、俺は今RINGの裏口前に来ていた……。もう夜ということもあって、そろそろ営業は終了する頃だろうと思ってあいつが居るか確認したかった。
「まだRINGに居たのか、立希……」
「……結人?」
裏口からRINGに入ると、すぐに俺が探していた人物は見つかった。
そして、俺の頭髪に何か気づいたのかこう聞いて来る。
「色変えたの?」
「まあ、そんなところだ。自分を変える為にな」
「そんなんで変わるなら苦労しないでしょ」
「それはそうだな」
尤もな意見が飛び交って来て、俺はやっぱり立希はいいなとなっていた。
「今時間あるか?ちょっと話したいんだが」
「少しだけならあるけど……」
立希の了承を得てから、周りに誰も居ないことを確認する……。
それから、俺は語り始める。
「睦達の一件があってちょっと悩んでいることがあってな……。偶に思うことがある、俺がちゃんと燈の傍に居てやれば、CRYCHICは解散しなかった。燈が傷つくこともなかった、立希が苦しむこともなかった。そよが歪むこともなかった。祥子が後悔を味わうこともなかった。睦が仮面を被ることもなかったって……」
後悔ばかりの人生……。
俺に相応しいものだなと苦笑いを思わず浮かべてしまう。
「全部が全部自分一人で出来るなんて思ってもねえけど、それでも偶に思っちまうんだ。俺が傍に居たらちゃんと何もかも救えたんじゃないのかって……。でも、そういう反面こう思うときもあるんだ」
「俺が傍に居たら余計拗れただけなんじゃねえのかって」
自分が居る事で誰かを傷つける。
まるで自分自身が疫病神かのように語ると、立希は怪訝そうに俺の発言を聞いていた。
「……なんで?」
「だって、そうだろ?俺は燈も立希のこともまた傷つけた、自分が余計なことをしなければ祥子が殻に閉じこもる必要性もなかった。睦だって、あんなに……!!?」
立希は無言のまま俺の背中を叩く……。
それはそれ以上言わないでいいと言わんばかりに……。
「は?今更何言ってんの?」
その目は明らかに怒っている目だった……。
「昔、言ったでしょ。燈の傍にずっと居て欲しかったって。それで結人のことを恨んでいたときもあった。今も……少しだけ許せないところもある。それでも、お前がそうやってくよくよしているところを見たくはない。結人は私にとって……」
何かを言おうとしていたが、視線を逸らし始める立希。
「……やっぱ、言いたくない」
肝心なところを濁そうとする立希。
言葉にしないでも伝わって欲しい。そういう表情をしていたが、俺はそれを言語化する必要性はあると思っていた。
「いや、言わなくても分かるからいい……」
「希望……なんだろ?」
立希は何も言わずにただ小さく首を動かしていた……。
それは肯定するかのようにして……。
「燈が言ってたこと覚えてる?傷つかずに進んでいくことは無理だ、みたいな奴……。私もそう思うから……。でも、やっぱり結人のことは傷つけたくないしそうやって悩んでいる結人のことを見ていると私まで辛くなるから。後……未だに羽沢先輩のところのも引き摺っているならそれこそお前のこと嫌いになるから……」
「つぐみさんのところ、か……」
ああ、そうだな……。
俺は立希には本当に悔いばかりがあった。あのときだって、一人で抱え込もうとしている立希を助けたくて一人で突っ走って何も出来なかったどころか、事態を搔き乱すことしか出来なかった。八潮さんが言っていた通りだったな……。
「悪い……な。でも、言わせて欲しいんだ」
それを肯定しながらも俺は言いたいことがあった。
空を見上げた後に俺は覚悟を決めつつも、はっきりと立希の方を見る。
「お前に相談してよかった。お前が腹割って話せる奴でよかった……」
「俺は立希のことを信じてるし……」
「好きだから」
率直な気持ちを伝えるのはこれで何度目だろうか。
慣れ切ったとかそういう気持ちは全くなかった。伝えるという行為が自分の中でまだ赤面してしまうほど恥ずかしいものがあったのは間違いなかったから。
「好きっていうなら……その……その……」
言いにくいのか、立希は言い淀み、視線を泳がせていたが覚悟を決めたのか……。
「ちゃんと態度で示して」
「……は?態度?」
思わず、聞き返してしまう。
自分の耳を疑いそうになっていたが、立希は間違いなくそう言っていた。覚悟を決めていたようだから、何かを言おうとしていたのはそうだろうとなっていたけど、まさかの内容過ぎて俺の方まで狼狽えそうになっていた。
「は?なに出来ないの?出来ないのにそうやって好きだとか燈達とかに言ってるの?だったら、今すぐお前とは絶交……!!?」
気づけば、俺は立希のことを壁に押し付けていた。
煽られたからそういうことをした訳じゃない。海鈴に「まだ付き合ってないんですか?」と言われたからじゃない。いや、若干煽られた気持ちはあった。それでも俺が立希に「魂の
「やり過ぎ……」
離れると、立希は顔を隠しながらも俺に抗議してくる。
それに俺は苦笑いしか出来ないでいると……。
「あれ?二人共、なにしてるの?」
「「!!!?」」
全く不用心だった俺は凛々子さんが関係者専用の扉を開けたことに気づかずに驚いてしまう。
急いで口元を手の甲で拭きながらも何事もなかったことにする。
「……あっ、えっと……もしかして取り込み中だったかな?」
「え?いや、全然そうじゃなくてですね。別に俺達は何も……な?立希」
「はぁ!!!?なんで私に振るわけ!?いや、その別になにもしてないって言うか……」
「いや、ごめんね。本当に二人がそういう関係だとか知らなくて。それじゃあ、ごゆっくりね!!」
最終的に「結人君ってプレイボーイなんだね……」という声が聞こえていた、言い返せねえ。
俺達は見られていたのだろうとかなっていたが、本当は違った。立希と俺は手を繋いでしまっていたのだ。それも強く……。それに気づいたとき、俺は立希に謝ろうとしたが……。
「立希……!?」
今度は壁に追いやられたのは俺の方だった。
立希はそのまま、俺に顔を寄せて……こう言う。
「ちゃんと責任取って……」
立希の顔は真っ赤に染まっていた。
羞恥心で今すぐにでもその場から消え去りたいだろうに、それでも俺から視線を逸らそうとしない。真っ直ぐな瞳の中には俺の瞳が映し出されていた……。お互いにその場から逃げないという勇気と覚悟を持って、互いに更に密着させながらも俺は立希に返事をすると、こう返って来る……。
「結人だけには……」
「もう裏切られたくないから……」
今度は俺の方からではなく、立希の方から純粋なる思いをぶつけてくれていた……。
あのときと同じ……。いや、それ以上に俺達の心拍数と呼吸は上がっていた。こんな状況を誰かに見られたら一発で終わるがそれでもいいと思えてしまうぐらいに俺と立希が……魂で繋がり合っていると思えて仕方なかった……。
「約束して……」
「ああ……」
「絶対裏切らねえから……」
安心しきったのか、立希の方から更に密着してくる。お互い肩から呼吸しながらも、お互いの鼓動を確かめつつも、俺達の息が続く限り終わりはなかった……。
魂で繋がり合っていることを……。
確かめたかったから……。