【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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平穏は続かない

「ゆいくん……髪変えた?」

 

「ん?ああ、ちょっとな……」

 

 次の日、俺が関係者入口からRINGのカフェに出て来ると、一番真っ先に俺の変化に気づいたのは燈だった……。幼馴染の燈に一番早くに気づいてくれた。それが地味に悪くないとなりつつも俺は自分の頬を抑えていた。

 

「イメチェンしたんだ結人君、何か心境の変化でもあったの?」

 

「そんなとこだ、決意表明って感じのな」

 

「ふーん?」

 

 含みを混ぜた言い方をする。

 そよは多分色々とお見通しだろうから、俺は濁すつもりはなかった。かと言って、全部を全部話すつもりはないが……。話をしたのは目の前にいるもんな。

 

 

「結人、これやっておいて」

 

「……ああ、分かった」

 

 昨日のこともあってか、お互いに意識と言う訳もなく仕事をしていた……。

 まあ、こっちの方がやりやすいのは事実だし店の方には燈達が居るから動揺したりしていたらそよ辺りには絶対勘付かれていたはずだ。とりあえずはお互いに一安心してそうな感じで今日も今日とて乗り切ることが出来ると思っていた矢先に……問題が起こる。

 

「ねぇねぇ、今日のりっきーってなんか優しくない?」

 

 特に違和感なんてことはなかったはずなのに、一番真っ先に異常を感知してきたのは愛音だった。まるで、それは危機感知でも付いているかのようだった……。とりあえず、適当に軽くあしらっておけばいいだろうとなった俺はこう答える。

 

「別にあいつ、今日も普通だろ?」

 

 俺から視線を逸らしながらも愛音がこう言ってくる。

 

「えー?そうかなぁ、なんというか今日のりっきーってさなんかいつもより態度が柔らかいって言うかさ」

 

「態度が柔らかい?」

 

 俺は今日の立希を振り返ってみる……。

 別にそういう気はしていなかったが何かそういうところがあったんだろうか……。

 

「りっきー、今日抹茶奢ってくれた」

 

「……いつものことじゃないのかそれ」

 

 突っ込んではいられずに楽奈に反応をしてしまう。

 立希が抹茶を奢っているなんていつものことだろうとなっているのは感覚麻痺もいいところだが、本当に事実でしかなかった。

 

「大盛りにしてくれた」

「ここ牛丼屋だったか……?」

 

 更にツッコミを入れてしまう。

 サイズ変更なんてそもそもこの店やっていただろうかと突っ込まずにいられなかった。それこそスタバとかだろう。

 

「ねぇねぇ、ゆいくん……」

 

「なんだよ愛音?」

 

「もしかしてだけどー、ゆいくんがりっきーに何かしたんじゃないのかなって思うんだけど?どうかな?」

 

「……どうってなにが?」

 

 図星だったが俺は表情、眉一つ変えずに居たが愛音が頼んだ紅茶のカップを力が入った状態でテーブルの上に置いていた。そして、それに気づいたのかそよが察しているようだった。まずい、行動でバレそうになってるな……。

 

「いやぁ、最近のゆいくんを見たらそう考えるのも無理ないんじゃないかなって」

 

 ムカつくほどニヤついた表情を浮かべて来るが、最近俺がしたことを思い浮かべてみると現実的には俺は結構色々とやらかしているということには変わりない。楽奈を抱いたり、そよに壁ドンしたり、愛音を事故で押し倒したり、モーティスとはハチャメチャだったし、立希とは絡み合ったし……燈は……。燈はそう……だな……。

 

「ゆいくん……?」

「え!?ああ、あっいやなんでもねえぞ燈!!?ってぇ!!」

 

 燈に話しかけられた瞬間、俺は足をテーブルの下に強くぶつける。

 立希からは「なにやってんの?」みたいな視線を向けられる。

 

「結人君、今燈ちゃんに変な妄想してた?」

「は!?してないが!?してねえけど!!?」

「その反応……自白してるようなものだと思うけど?」

「自白ってなんだよ!?してねえし!」

 

 そよにそういう考えをしていたと言われると、俺は内心穏やかなものではなくなってしまう。

 実際、この話はまずモーティスがそういう方向に持っていたのが悪いんだが今こうして変なことを掘り起こそうとしていたのは事実だから。完全に俺が悪い、いやあいつが元々そういう話題を出したんだからあいつが悪いんじゃねえのかな!!?

 

「ゆいくんにならどんなことされても……いいよ?」

 

「いや、その……それは色々とマズいんじゃね「は?燈に求められているのに日和るの?」」

 

 ……なんでそこで立希が加勢してくる。

 まさかの加勢とは思ったが、立希だからこれが普通かとなりつつも全員から視線を向けられる。楽奈とそよと愛音はどっちか言うと、面白がっているけど……。

 

「燈……」

 

 俺はそう言いながらも、燈の頭に手をやる……。

 燈の髪に触れながらも、自分の手で髪に触れていく……。それはまるで撫でるようにして……。燈は顔を赤面させながらも、こう伝える。

 

「まだ睦のときの礼を言ってなかった、ありがとうな……」

 

「ううん、私こそありがとう……睦ちゃんを助けてくれて」

 

 燈にはまだ礼を言っていなかったことを思い出して、頭を撫でながらもお礼の気持ちを込めていた。立希の方に視線を向けていなかったが、どうやらご立腹の様子はなくなっているようだった。

 

「初めてだな……」

 

 俺がこうして素直に感謝の気持ちを否定することなく受け入れたのは……慣れないもんだけど自分がかつて初華に言っていたように愛音が教えてくれたように言葉の大切さを呑み込むなら、俺もそれを呑み込むことの大切さを学ぶべきだと今更になって思っていた。本当に慣れないもんだけど……。

 

 

 

 

 

 

「はぁ……色々とあり過ぎた」

 

 愛音とそよは俺にからかってくるし、楽奈はそれを面白がっている。

 燈はまあよく分からなそうにしている。立希は……。

 

 

『昨日のこと……絶対約束して』

 

 とバイトから帰るときに俺は言われた……。

 それに俺は「当たり前だろ」と返してはいた。俺は何度もあいつの期待を裏切ることをしてしまった。燈を三度に渡って傷つけたこともそうだし、あいつに平然と嘘をついていたからな……。

 

「嘘か……」

 

 そういえば此処最近戸山先輩達と会えてねえな……。

 どうしても謝罪をしておきたい。俺はあいつらのことを大切に出来なかったって……。謝って、それでどうするのかなんて決まってねえけど次に会うときは絶対に謝るか……。それとも、花咲川に行くか。女子高だから目立つことになるけど……。ったく、本当人に迷惑かけてばっかりだな。

 

 

 

 

「俺は……」

 

 ずっと独り言を喋っていると、そろそろ周りの人に変質者だと思われるかもしれない。

 そう考えると人の目が気になってきた俺は歩き出そうとしたときだった……。

 

 

 

 

 

 

「初華……?」

 

 羽沢珈琲店の前を通り過ぎた辺りで、俺は初華のような人物が目に入る。

 もう一度確認してもやはり初華だった。何故?と思っていたけど、誰だって珈琲ぐらいは飲むだろうとなりつつも俺は店内の中に入る。

 

「いらっしゃいませ……!結人君!」

 

「お久しぶりです、つぐみさん」

 

 店内に入ると、俺に挨拶をして来たのはつぐみさんだった。

 そういえば、此処には久々に来たと思いながらも店内を見渡すと、二葉さんは居ないようだった……。どうせならましろさんのお礼を伝えて欲しいと考えたけど、こういうのは自分でちゃんと言わないと駄目だな。

 

 

 

 

「初華、隣いいか?」

 

 つぐみさんに挨拶を済ませた後、俺は窓際の席で一人座っている初華に声を掛けるが、反応がない。初華は景色ばかりを見つめているようで俺がもう一度声を掛けると……。

 

「隣いいか?」

 

「え?あっ、結人か……。うん、大丈夫だよ?」

 

 初華の了承を得てから、向かい合って椅子に座り込む。

 適当なものを頼んで、俺は注文が来るのを待っていると俺は初華にこう切り出す。

 

「景色見てたけど、何か悩んでるのか?」

 

「え?」

 

「悪い、景色見てたというよりは遠くを眺めていたような気がしてな……。そういうとき俺は大体……何か物思いにふけたり、何かを懐かしんでいるような気がするんだ。あー俺の話だがな」

 

 暫く無言が続く……。

 初華は特に話すことはせず、ただ景色の方を見つめていた。そして、その瞳はやはり遠くだった……。俺はテーブルの上に置かれたコーヒーを一口飲んだ後に、その苦味に浸っていると初華が口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「妹が居たんだ……」

 

「妹?意外だな、なんか初華って一人っ子って印象があったな」

 

「そうなの……かな?でも、割と言われるかも」

 

 景色ではなく、俺の方というよりは俺の指先に視線を向けている。

 

「妹は凄く天真爛漫だったんだ。私なんかよりもずっとずっと元気で島の中にある森の中を一人でずっと歩き回ったり、砂浜で潮干狩りなんてよくやってたんだ」

 

「すげえ元気な奴なんだな」

 

 肯定しながらも初華は話を続ける。

 ただその目は昔を懐かしむような感じではなく、遠い遠い誰かを……妹を見つめるような瞳をしていた……。

 

「大きくなったら本土に行ってアイドルになるんだっていつも言ってたんだ」

 

「今は会ってないのか?」

 

 まるで今は会っていないかのような話し方だったあまり、俺は聞いてしまっていた。

 

「うん……今はどうしているのかも知らないんだ。本土に居るっていうのは知ってるぐらい……」

 

「そうか……元気にしてるといいな」

 

 

 

 

 

「そうだね……」

 

 それから暫く初華は再び喋らなくなっていたが……最後に発していたものは……。

 

 

 

 

 

 何処か震えていた……。

 再び遠くの景色に目を向けながらも……。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 午後の陽射しが斜めに差し込む、小さな角の喫茶店……。

 古びたレンガ造りの外壁に、色あせた緑のテントがゆらりとかすかに揺れている。入口の横には木製の看板が置かれていた。まるで、時が止まったかのような佇まい。重たいガラス戸の向こう側にはお客さんが多くいた、その中には一人だけ異質な輝きを放つ一人の女性がいた。

 

 その見た目は女子中学生ぐらいの見た目であり、その子供は一人で黙々とサンドイッチセットを食べていた……。此処の常連なのか、店主は中学生が一人で居ても何も言わずにただ接客を続けているとブラウン管テレビの音が聞こえて来る。

 

 

 

 

『この通りにAve Mujicaは現在活動再開をしており、色んなメディアにおいて活動もしています。一時期はメンバーの不仲説や事務所との折り合いなどが付いていないなどとの噂もされておりましたが、このようにまた活動してくれるのは嬉しいですね』

 

 テレビのニュースの音声が聞こえている。

 一人のアナウンサーとコメンテイター達がそれぞれ思い思いの話をしていると、一人が……。

 

『いやぁ、嬉しいねぇ。うちの長女と次女がね……初華ちゃんの大ファンなのよ。sumimiの活動も気になるけど、こうしてまた活動してくれると娘たちも嬉しそうでねぇ……』

 

 なんて楽しげな声が聞こえていると、彼女はスクランブルエッグを一口食べた後に、テレビに視線を向けていたが……。

 

 

 

「……」

 

 その視線は冷たいものだった。まるで冷気でも放っているかのような紫の瞳……。

 ただ淡々としていて、まるで瞳からはこう告げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「絶対に許さない」

 

 

 

 

 

 










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