【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
その鳥籠を開けるべきではなかった。この牢獄に踏み入れることはあってはならなかった。
舞台の幕は引き剥がされ、彼女は望む……。
鎮魂歌を望むために……。
舞台の幕は引き剥がし、彼女は望む……。
黙示録を望むために……。
これは……。
奪った者と奪われた者の舞台劇……。
禁忌の邂逅
意識が朦朧とする……。
いえ、というよりは……脳が理解を拒んでいるという方が正しいのかもしれませんわね。処理しきれない情報に戸惑いつつも、それでもどうにか情報の取捨選択をしようとしている私。それでも、あの日お父様から話された内容が脳裏を離れない。
『祥子、実は……キミに話しておきたいことがある』
私があの家に戻って数日が経った頃、お父様が覚悟を決めた表情である真実を教えてくれましたわ……。私はそのとき、単にそのときはただの重要な話だと思って最初は聞いておりましたが、それはあまりにも一人では抱えるには重すぎる話でしたわ……。
『どうして今まで黙っていたんですの!!?』
激昂してしまいましたわ……。
その情報はあまりにも重く、私だけが受け止めるには本当に不可能でしかなかった。いえ、恐らくこれを一人で背負ってきた者達は想像に絶する過酷な現実と過去を送って来たことに違いありませんわ。なによりも、どうしてあんなにも動揺したような表情をしていたのかをあのときはっきりとしたこととお祖父様があの日、言っていた発言の意味もこのときようやく分かったんですの……。
「……」
テレビ出演を終えた後の楽屋……。私しか居ない楽屋……。
水を一口飲んだ後に、壁に寄りかかるようにして私は天井を見上げていましたわ……。自分という人間だけではどうしようも出来ないものが背負わされているこの感覚、とても尋常でございませんわ。
「ですが……」
分かっておりますわ、お父様は誠実なお方……。
このことは豊川の人間になった時点で知っていたか、なった後の過程で知っていた可能性がありますわ。恐らく、お父様もまたそれを重圧となっていたはずですわ……。お父様はそういうお方ですわ、だから私に覚悟と決心を固めて話してくれた。
それに怒りを見せてしまった私はなんて非道なことをしてしまったのかと、自分に後悔しながらも私が再び水を飲む……。
「祥、大丈夫?」
心配してくれたのか、楽屋の中に戻って来た睦が私に声を掛けてくれましたわ……。
あのときと一緒ですわね、となりつつもあのときと同様にではなく、私はこう言ったんですの。
「色々とあったんですわ……」
濁しつつも、何かがあったことを言う私……。
あのときの私は睦を突き離すことが正解だと信じていましたわ。それが結果的に睦を苦しめることになってしまった。この言い方も睦を傷つける事にならないか、不安でしたわ。ですが、彼女はこう言ってくれたんですの……。
「話したくなったら、教えて欲しい……」
何かを察している、何かに気づいている。
まさしくそういう表情でしたわ……。
「睦……」
そうですわね、睦……。
貴方は紛れもなく力強く成長した。それが周りの力を借りたものでも立派なものですわ。
「本当は知りたくてしょうがない、そうですわよね睦……」
それ以上、彼女は何も言うことはありませんでしたわ。きっと私に聞きたいことが山ほどあったはずなのに、それ以上聞こうとはしなかった。私がテレビでの受け応えに遅れたのに睦は心配そうな表情を向けてくれていた、それを知っていたんですの……。私がこのことを貴方に話せるときが来るかはともかく、睦の強い意志のおかげで私も再び立ち上がることが出来た、私もこの新たな呪縛……。
箱庭から解放されるときが来て欲しい……。
そう願いたい、いえ……自分から……自分から動かなくてはダメですわね。そうなれば、今はお父様が教えてくれたことについて確実に調べなくてはなりませんわ。私はまだ……。
知らないことの方が多すぎますわ……。
「はぁ……こうして大阪に来るってのは案外初めてなんだよな」
別にこういう誰もが知っているような観光地を後回しにしてきたつもりはない。
ただ、あまり知られていない場所があるとか自然が多いとかそういう県ばかりを優先してきたから大阪の周りの県が行くことはあれど、俺がこうして大阪に来るということは本当に初めてだった。
これから始まるかもしれない、大阪での旅……。
行き交う人たち、立ち止まって看板を撮る人々……。こういうごった返しの場所も悪くない。
「やっぱ、大阪城とかかねぇ……」
また独り言が始まってしまう。これはもうクセのようなもんだから仕方ねえか……。
当然行き交う人は「なに一人で喋っているんだこいつ?」みたいな目を向けているだろう。親父もこんな気持ちなんかな、冒険してるときって……。あの人、今は家に居るみたいだけど……。だからこそ、俺がこうして一人旅をしている。ミモザを一人にさせる訳には行かないからな……。というか、今回の大阪旅も親父が気晴らしに一人旅に行ってこいと言い出したからなんだが……。あの人は本当に色々と勝手だな……。
「後は通天閣も悪くねえか?」
ベタだが、そういう場所に行くというのもアリだろう。
それじゃあ、この人混みが多い道頓堀から動くことにするかと思いつつも、俺は折角だから本場のたこ焼きでも食べられる場所でも探してみるかと思って動き出しつつも川の様子を上から眺めていた……。
「まあ、はしゃぎすぎるのもよくねえよな」
それにしても、こういう橋の上から飛び降りて男気を図るみたいなのはまあ嫌いじゃないけど、危ねえしこういうあんまり色が綺麗じゃない川は何かが付着するか分からないからな……。俺は道頓堀の橋の上から歩き出そうとしたときだった……。俺の目の前を……。
金髪の少女が通り過ぎる……。
それ自体は特に変哲もないことでしかないのだが、視界に彼女の顔が一瞬入ったとき思ってしまったことがあった……。
「……初華?」
突発的にそんな反応になってしまう。
無理がある、自分でもそんな気持ちがない訳じゃなかったがどう見てもこの少女は初華にしか見えなかった。髪の色は同じ金髪で、瞳の色も紫。顔立ちも初華そのもの……。違うとすれば、髪が初華よりも伸びていて肩よりも下まで伸びている。見た限りでは中学生ぐらいだろうか……。
「……」
少女は立ち止まる……。
それからして、俺に視線を感じさせることもなく背中を向けていたがその背中にはまるで人を寄せ付けようとしない、何かがあった。何故それを感じ取ったのか疑問でしかなかった。自分の中でも恐らく目の前にいるのは初華ではないことは気づいていたが、それでもこの得体の知れない中学生ぐらいの少女が何者なのかを知りたくてしょうがないという愚かな好奇心が湧き始めていた。
「悪い、人違いだったらいいんだ、それじゃあ……」
しかし、何故か彼女に対して恐怖心が湧いて来た俺は自分の発言を訂正しようとしたとき、初めて彼女は俺の瞳に彼女の顔がはっきりと映ると、俺はそれに目を奪われていた。本当に初華にそっくりだったからだ……。そして、少女のあまりにも共通点が多すぎるその容姿に目を奪われていると、彼女は口を大きく開く……。
「よく言われることがあるけど……」
「人違い……」
髪の色が同じ、瞳の色までもが同じ……。話し方はただ淡々としていた、初華のように何処か温厚のようなものは全くなかった。モーティスの言っていたように、世界には三人、自分に似たような人がいるという話もある。それが実際どうなのかはともかく、顔自体もほぼ初華と瓜二つだったから俺は初華だと錯覚してしまっていたが、どうしても気になった俺はこう切り出す。
「初華はこう言ってた」
「自分には妹がい「関係ない」」
「私とその人は関係ない」
話を遮りながらも「全く違う」と言い切り、彼女は視線を送る。
その視線は俺に「初華」と呼ばれたときと全く同じ瞳だった……。
「行っていい?」
「え?ああ……悪い」
呆気に取られていた俺は反応が遅れていた。俺の言葉を聞いてから彼女は無言で去っていくがその背中と先ほどの瞳が忘れられなかった。冷たく、世界の全てを恨んでいる。そんな彼女の瞳の奥底にはまるで……。
復讐に燃えるような目をしていてならなかった……。
なによりも俺はこのとき別の違和感を覚えていた。
四方八方から向けられる視線に……。