【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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貴方の知っている彼女は彼女じゃない

『私とその人は関係ない』

 

 なんとも奇妙な少女だった……。

 まるで全てを諦めたかのような目をしているのに、内に秘めたものは全てが地獄の業火に呑まれることを期待しているかのような目つきをしていた。なによりも、俺が最もよく分からなかったのが俺に向けられていた視線だった。

 

 その視線はもう何事もなかったように去って行ったが……。

 それが余計不穏なものを感じさせていた。

 

「調べる必要性があるな……」

 

 先ほどの少女について……というより初華の妹について……。

 初華ほどの有名人ならば一度でもそれっぽい発言をしている、ネットニュースやら色々を駆使して調べる必要があると……。そのために、俺はハンバーガーショップへと入ることにした……。

 

 

 

 

 注文を受け取って、俺は口の中にポテトを入れた後にスマホで調べ始めたが……。

 

 

 

 

 

「全く載ってねえ……」

 

 考えてみれば、あの初華の話し方を見るにもしかしたら話したのは俺だけなのかもしれない。何故、俺だけに話したのか?それを考えれば、疑問しか深まらないが浮かない顔をしながら外の景色に触れていたあのときの初華がそれを言い表しているような気がしてならなかった。

 

「どうすっかなぁ……」

 

 調べても調べても、初華の過去に関するものはない。

 ただ単に島で暮らしていただけという情報しか出てこない、そこでの生活とかそういう情報はあるが本当にそれだけしかない。手詰まり感を覚えつつも、自分の手を止めつつ、他のニュースに目を向けていると……。

 

 

 

 

『終末のディーヴァ』

 

 まるで、映画のタイトルかのようなその名前に視界を向けながらも隣に座っている女子二人組からこんな会話が聞こえて来る。

 

「ねぇねぇ、この前さ!Eisflamme(アイフラメ)のライブ行って来たんだよね!!」

 

 アイフラメ……。

 ドイツ語で確か氷の炎って意味だったか……。

 

「マジで!?あのEisflamme様のライブ行って来たの!?」

 

「そうそう、あの子のライブって結構突発的にやるから全然参加できなかったんだけど、今回参加出来たんだ!」

 

「それでそれで?」

 

 アイドル好きな女子たち二人の会話が聞こえながらも、俺は飲み物を飲んでいた……。

 

「Eisflammeって本当に幻想的なアイドルだったの!!見る人全てを魅了させて、世界に溶け込ませてくれるっていうかそういう本物の才能を感じるんだよね!!いやぁ、本当に見に行って良かった!!」

 

「良かったじゃん!!そういえば、Eisflamme様って初華と歌声似てるって言われてるよね?」

 

「え?あードロリスのこと?いやいや、絶対気のせいだって……!だって、Eisflammeの方が全然物語っぽいし!!」

 

「まあ、そうだけどさー」

 

 なんて会話を聞きながらも、俺は盗み聞きしていませんと言わんばかりに音楽配信アプリでEisflammeという彼女の楽曲を検索する。その初華と瓜二つの歌声がどのようなものなのなのか好奇心があったから、耳にはイヤホンを掛けて……。

 

 

 

 

Brennende Stille(燃える静寂)

 

 という楽曲を流した途端……。

 俺の心拍数が一気に跳ね上がる……心臓を抑えそうになりながらも俺は耳から通して流れるこの音に苦しんでいた……。目の前の視覚すらも歪んで、その世界に囚われて彼女の歌声から感じる怒りそのものの狂気で真っ赤に染められているような気分になっていた。自分を落ち着かせる為に飲み物を飲んでも、全く味がしない……。

 

 

 

 

「なんだ……この楽曲……」

 

 今まで聴いて来たどのバンドとも違う……。

 MyGOともモルフォニカともポピパとも……。それこそ、ムジカとも違う……。いや、一つだけ断言できないものがあるとすれば俺はこの違和感に何処かで気づいていたような気がする。それがいつだったのか思い出せずにいると……ある一つの可能性を思い出す。

 

「あのとき……だ。あのときと一緒だ……」

 

 それはsumimiのライブを愛音と行ったときのこと……。

 初華の歌声を通して俺は違和感を覚えていた。それは結局、違うとなってしまっていたがあの違和感が今となって思い出していた。初華の歌声を違和感をただ覚えるものならば、彼女の歌声はもっと言語化できる。

 

 

 

「確かに似てるが……違うな」

 

 まず、一つとして彼女の歌声はあまりにも魅惑的だが危険過ぎる……。

 ロックの本来の良さはあるものの、これはまるで声なき叫びを全てこの楽曲にぶつけているようものばかりだった。歌詞全てが……ということだ。まるで世界の全てを憎んでいるかのようなこの楽曲は溶岩のように溜め込まれて、一気に放出する。声にならない、だがそれは世界の全てを焼き尽くすほどの謂わば……終末論なのかもしれねえ。

 

 こんな単純な言葉で片付けたくはないが……この音楽はまるで電子ドラッグのようなものだ。

 内なる魂を解放して、己を解放してただ歌い続けるその姿勢に俺は呼吸を荒くしながらも、五感を抑え込もうとしながらも彼女について調べようとしたとき、偶々開いていたスマホのネットニュースにはこう書かれていた。

 

 

 

 

『終末のディーヴァ、Eisflammeに迫る!?』

 

「マジか……」

 

 そんな言葉が出てしまった、まるで運命の悪戯に遊ばれているような気持ちだった。

 記事の写真には黒のフードで身を隠している……アイドルだった。その風貌はとてもアイドルとは思えなかったが彼女の画像を確認しているうちに、フードの中からは紫の瞳が見え隠れしていた。俺はこの時点であのときの少女ではないのか?という予想を立てていたが、どうにも判断材料が少なすぎると思って、今度は彼女について調べると今度は興味深いことが書かれていた……。

 

 

 

 Eisflamme……。

 隣にいる彼女達が言っていたように彼女のことは『本当の意味で幻想的なアイドル』と書かれていた。一つの壮大な「物語性」を持ち、見る者の魂を、美しくも残酷な非日常の世界へと誘うと……。ジャンルはロックで彼女曰く、楽曲の全てに自分の叫びを入れているということらしい。

 

 ただ、歌って踊るだけじゃない。

 彼女はステージでは自らエレキギターを掻き鳴らし、激しいパフォーマンスを繰り広げる。特筆すべきは、ライブの一ステージで自身の楽曲をクラシックアレンジさせ、ピアノで弾き語って見せる。また、彼女はドイツ・クラシックへの深い造詣を示しているようだ。

 

「確か、ドイツはクラシックが主流だもんな……」

 

 バッハ、ベートヴェンなどの有名も音楽家を輩出しているのもドイツ……。

 だから、そういうものに詳しいなら入れるのは何ら不自然じゃない。ただ、問題なのは此処からで……。彼女のフードの中からは全てを見透かすような、全てを凍り付かせるような、冷え切った紫の瞳が、時折鋭い光を放つと言われているらしく、更には……。

 

 

 

 

「歌声が酷似しているか……」

 

 情報にも彼女達も言っていたが、俺も感じていたものだ……。

 彼女の歌声は紛れもなくドロリスに近かった……。そういう噂が流れるのも当然だろうし、それが本人が嫌がって否定するのも当然の話でしかねえ。

 

「とりあえず……」

 

 先ほどまで初華の妹でも調べても出て来なかったのがよく分かった。

 Eisflamme、彼女はどうやらメディア露出が極端に少ないようだ。彼女がメディアの取材に出ただけで騒がれたということもあったらしく、彼女の異質性がよく伺えるというものなのかもしれねえ。

 

「出るか……」

 

 情報は更新出来た。

 あのアイドルが本当にあいつなのかって確証は出てねえが、それでも悪くない情報を得た。これからどうするかなんては全く決めてねえ。あいつも近くにはもう居ねえはず、その辺をブラブラした後に初華に何かを尋ねるべきなのか?果たして、そんな直球的で大丈夫なのか?それとも、一旦この情報を本人には振らずに、誰かに振ってからの方がいいのか?それとも、知らないふりをするべきか?

 

 

「いや、最後はダメだ」

 

 最後をすれば、近い将来とんでもないことが起きる。

 もし、彼女が復讐に本当に燃えているんなら此処で止めないと復讐をやりかねないかもしれない。どんな方法かは分からない、ただどう考えてもロクな未来は見えていないというのは間違いない。

 

「二つに一つか……」

 

 どうするべきか、と悩んでいると俺はカラオケ屋の前に通ろうとしたとき冷たい違和感を覚える。違和感を感じ取った俺は周りを見ると、そこには……。

 

 

 

 

「あいつ……」

 

 長い金髪の髪、冷やかな空気感……。

 あのときの奴だ……。

 

 

「ちょっといいか……?」

 

「……さっきの人」

 

 躊躇うことなく、俺が彼女に話しかけると声を掛けられてめんどくさそうにしつつも溜め息をついていた……。

 

「ストーカー?」

 

「いや、そうじゃねえんだが……ちょっと気になることがあってな」

 

「初華って人のことなら違うって言った」

 

「いや、そうなんだがな……やっぱ……そうか」

 

「なにが?」

 

 俺は「いや……」と言った後に、周りを確認する。

 こいつ、監視されてるな…‥。俺が最初色んな方面から視線を向けられているのはそれは単なる通行人の視線だと思っていたが、それはどうやら誤認もいいところだった。なら、尚更此処は余計な行動が起こさないと方がいいと判断した俺は冷静に彼女に話しかける。

 

「さっきも言ったが、一つだけどうしても気がかりなことがあってな……。俺が初華の名前を出したとき、お前動揺し「してない」」

 

 わざとブラフを掛けたが、彼女は力強く言い放ってきた。

 それは今まで聞いて来た淡々としたものよりも、どちらかと言うと彼女のアイドルとしての自分が言ったようだった。

 

「検討違い、早く行って」

「復讐したいのか?」

「何に?」

 

 

 

 

「初華に」

 

 冷静とは言ったが、直球そのものを投げると彼女の拳がほんの少しだけ力強く握ったような感覚があった後に……。本当にくだらないと冷淡な視線を送って来た後に、彼女はこう問いて来る。

 

 

 

 

「凄いお節介焼いてくるんだね?警察に突き出すことだってできるけど?」

「それは……よく言われる。後、警察は勘弁してくれ」

「中学生に無理矢理話しかけてるのに?」

「あーまあそこは否定しねえが……」

「否定しないんだ?」

 

 否定するほどのことでもねえし、実際こっちは高校生……。

 向こうは中学生だからな……。事案だと思われても仕方ねえだろと思いつつも、彼女は耳元に付いているアネモネの髪飾りに指をそっと触れさせていた……。

 

「じゃあ、一つ聞いてもいい?」

 

「ああ、なんだよ」

 

 了承を受け取った後に彼女はほんの少しだけ無言でいた。

 

 

 

 

「貴方にとってその三角初華はどういう存在?」

 

「どういう存在って俺とあいつは……友達だ」

 

 「はぁ……」と言いながらも、完全に彼女の目つきが変わっていた……。

 その目つきは完全に俺のことを見下しているかのような目をしていた。今までは全く違うその視線に俺は恐怖する気持ちはあった。

 

「じゃあ……尚更私のことなんて知らない方がいい」

 

「知らない方がいいってどういうことだ……?まるで、お前が初華と知り合いだって白状しているようなもんだろ……。最初にお前と会ったとき、俺は思っていた。お前は初華の名前を俺の口から聞いたとき、はっきりと動揺していた。あれはお前が明らかに初華と何か「よく喋るね」」

 

「その煩わしい口に教えてあげる……。世の中には知らない方がいいことなんて、たくさんある。それこそ一生背負う覚悟がないなら尚更」

 

「一生ねぇ……」

 

 俺はもう自分の中では多すぎるほど、背負っている……。

 今更一つ増えたところで、そんなものは誤差でしかないなと自嘲しながらも、此処までこいつが感情を見せて来たのならもっと踏み込むしかないと考えた俺は勝負に出る……。

 

 

 

 

「誰に復讐しようが止める気はねえ。ただ、その相手が三角初華だって言うなら俺は全力で止める」

 

「矛盾してる。止める気がないなら、止めるなんて……友達だから?そういうこと?」

 

「……ああ」

 

「じゃあ……一つ面白いことを言ってあげる……。希望に満ち溢れていて凄く善人な貴方に一つだけ……」

 

 

 

 

 

「三角初華は……」

 

 

 

 

 

 

 

「貴方の知っている三角初華じゃない」

 

 空気感が一気に濁る……。

 時が止まり、何もかもが停止した世界に居た。彼女はただ淡々と虫唾が走るかのようにして言葉を並べていた……。

 

「どういう意味だ……?」

 

「急に察し悪くなった……あの人は本物の三角初華じゃない。だってあの人は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「偽りの三角初華だから」

 

 

 

 

 

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