【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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私は私自身を救済する

「まさか……マジで連れて来ることになるなんて……」

 

 あいつから匿って欲しいと頼まれたとき、何かの冗談かとなっていた。

 そもそも、私は結人のことが嫌いだし異常者としか思ってないからあまり関わりたくなかった。関わってもロクなことにならないから。結人は「お邪魔します」と言いながらも、中へと入って行く……。

 

 そして、もう一人の得体の知れない奴は私の家を見渡していた。

 

「なに、まさか狭いとか言い出したい訳じゃないよね?」

 

「狭い」

 

「じゃあ、外で寝てれば」

 

 直球で言うと、よく分からない奴が家の中へと入りながらも「お邪魔します」と言っていた。

 口が悪いのか、行儀が悪いのか……。はぁ、絶対この子ろくでもない子でしょ……。

 

「ねぇ、アンタって見た感じ中学生よね?」

 

「そう……だけど」

 

「ふーん?東京の人間じゃないでしょ?どっから来たの?」

 

「大阪」

 

 即返答を返してくれている。

 ウジウジしているより奴はマシだし、こういうのは楽でいいかとなりつつも私は「大阪ねぇ」と反応を返していた。大阪というより、関西人ってなんかこう自分の方言に誇りみたいなの持っている印象があるから、標準語で話されるとなんか違和感あるな……。

 

「にゃむ、ちょっといいか?」

 

「……なに?」

 

「あいつのことで話しておきたいことがある」

 

「……っそ」

 

 絶対面倒な奴でしかない、先に結論付けながらも私は結人と共に家の外へと出る。

 

 

 

 

「そんでアンタと一緒に居る子、誰?」

 

 家の外に出ると、既に景色は夕暮れだった……。

 こいつのせいでもうこんな時間となりつつも私は話を聞いていた。

 

「ああ、あいつは……」

 

 そこで結人が口を止める。

 この時点で結人がろくでもない奴を連れて来ていたのは察していた……。そもそも、それは中学生とは思えないほどの冷え切った目つきを見れば分かるけど……。

 

 

 

 

「あいつは初華の妹だ」

 

「へぇ……へぇ……」

 

 

 

 

 

「は!!!!?」

 

 へぇ、あのウイコの妹かと……なってていたけど思わず驚いてしまった。

 いや、あのウイコに妹がいるとか普通に思わないじゃん。だって、ウイコってなんか一人っ子にしか見えないし……。なんていうかこう、他に兄妹とか居ない感があったし。

 

「声でけえよ……」

 

「あっ、まあそうなんだけどさ……なんでそのウイコの妹がアンタと一緒に居る訳?」

 

「色々とあるんだよ……」

 

「ふーん?色々ねぇ……」

 

 どう考えても訳アリにしか見えない。

 ウイコの性格上、妹が居てもその妹について喋るかと言われたら微妙だけど言及ぐらいはするはず。それを今までせずに居たということはとんでもない事情があるのは確かだろうし、結人にしたってそう。わざわざ妹だって明かす必要はなかったはずなのに明かしてきた。

 

 後者に関しては、私に余計なことを勘繰られないようにするための、ある程度の情報開示な気もするけど……。

 

「この際だからはっきり言うけどさぁ……アンタってお祓い行った方がいいんじゃないの?なんて言うかさぁ」

 

 私は家の前で寄りかかりながらも、思った事を言い始める……。

 

 

 

 

「厄ネタばっか持ち込んでくるじゃん」

 

 考えなくてもこいつは毎回厄ネタばっかり持ち込んで来る。

 睦のこともそうだし、あの子の別人格の方だってそう。大体、目の前にいる結人が悪化させて本人が治している。昔の人はテレビを叩いて直していたと言うらしいけど、あんな感じというかまるで自分で壊して自分で直している意味が分からない奴。

 

「……そこは否定しねえよ」

 

「ふーん?なんか意外、否定するのかと思った」

 

「別に否定してもしょうがねえからな、今回に関しては自分から余計な首を突っ込んできたのは自覚してる」

 

 自覚しつつも、連れて来た余計タチが悪い……。

 

「じゃあ、なんであの子連れて来た訳?」

 

「放っておけねえからだよ」

 

「……っそ」

 

 それ以上問いただすことはしない。

 これ以上、結人からあのウイコのことを聞き出しても、潔癖症もビックリな綺麗事ばかり返って来ないだろうしね。本当、清水の如く美しい心を持っているよね結人って……。勿論、皮肉だけど。

 

「悪いな、にゃむ……」

 

「別に……ただとっととどっか行ってよね」

 

「ああ、あんまり長居も出来そうにねえからな……」

 

 結人は私の家の中へと入って行く……。

 

「はぁ……」

 

 誰にも聞こえない溜め息が響いた……。

 とんでもないものを拾い上げて、家の中に入れてしまった……。あいつのことを家にあげるのも嫌で仕方なかったのに、その上でウイコの妹……。しかも、あの目つき。マジで何もかもを恨んでいるような目をしていた。

 

 結人のことは多少気を許しているようだけどって……。

 

「こんなことはどうでもいい……か」

 

 実際、問題ウイコとその妹がどういう関係であいつがそれを引き連れて来たとかそういうのは本当にどうでもいい。ただ一つだけ言えるのは今回ばかりは無理でしょという意見しか出なかった。あいつは睦のときはなんとかして見せてたけど、それも今回ばかりは絶対に無理。そう言う感じがしてならなかった。

 

「……電話?」

 

 手に持っていたスマホから着信音が鳴っている。

 その相手を確認すると……。

 

 

 

 

 

 ウミコだった。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「祐天寺さん、最近三角さんが仕事をキャンセルすることが増えて来たのですが……。なにか知ってますか?」

 

「……私が知ってる訳ないでしょ?大体、ウイコの体調だとかプライベートなんて誰か把握してんの?」

 

「確かにそうですね……」

 

 考えても見れば、それは当たり前のことでしかありませんでした。

 私達、Ave Mujicaは再結成をしてそれぞれの道を決めて歩き始めましたが、それぞれに歩み始めたかと問われれば、それはまた別の話です。若葉さんはそれが特に出来ているかもしれませんが、それ以外の私達は出来ているわけではありません……。

 

 特に三角さんに至っては完全に霧の中です。

 プライベートのことなんてほとんど知りません。

 

「なに、思い悩んでんの?」

 

「別にそうではありません、事実だなと思いまして」

 

「……じゃあ、私電話切るから」

 

 淡々とした口調で電話を切る祐天寺さん。

 電話を切った後に、私はテーブルの上にスマホを置くと、若葉さんが「大丈夫?」と聞いてきました。

 

「いえ、私の方は大丈夫です……。若葉さんの方から連絡はなにかありましたか?」

 

「既読つかない……」

 

「そうでしたか……あまり期待はしていませんでしたがこうも仕事のキャンセルが続いていますと先方にも迷惑が掛かります。これに関しては早くなんとかしないといけませんね」

 

 あくまでも若葉さんの前で心配事を増やす話をしてしまい、「すみません」と一声を掛けると若葉さんは「気にしなくていい」と返してくれていました。余裕を持てるようになったからこそ、声を発せられるようになった、そういうところもあるのかもしれませんね。

 

「最近……祥の様子もおかしい」

 

「豊川さんですか?彼女は仕事の方は熟してくれているようですが……」

 

「多分だけど……何かを隠してる。私は祥が話せるようになるまで待ってあげたい……けど」

 

 若葉さんは膝の上で手を強く握りしめていた……。

 

「力になりたい、そういうことですか?」

 

 若葉さんは力強く頷き返してくれました。

 

「分かりました、ならば……調べる必要がありますね。三角さんのこともそうですが、豊川さんのことも」

 

「手伝う……」

 

「勿論、お願いします……」

 

 

 

 

「若葉さん」

 

 返事をしてくれている若葉さんの様子を見てから、私のスマホには通知音が鳴っていた。

 それは……位置情報のようなものでした。書かれていたのはそれだけでしたが、その発信が彼ならばこれはなにかある。そうに違いはありませんね……。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 にゃむの家を出て……やって来ていたのは何故か本屋だった……。

 本屋なんて何処にもあるのに、何故東京でわざわざ本屋なんかに行くのだろうか?と不思議でしょうがなかった。そういえば、彼はこう言っていた。旅行以外でも他の選択肢を教えてやるって……。

 

 もしかして、私が楽しめるような趣味でも見つけようとしてくれている……?

 だったら、それは尚更お節介でしかない。私は一人でいい、あの人や豊川に復讐に出来るならなんでもいい。その後のことなんて何も考えていない。復讐できれば、それでいい。

 

「お前、そういえばあのときカラオケ行こうとしていたよな?」

 

「カラオケ……?」

 

 ああ、思い出した……。

 あのときのことだ……。私が結人に話しかけられて、結局私はカラオケに行けなかった。

 

「そうだけど……」

 

「好きなのか?」

 

 何も答えない。

 答える必要はなかったから……。確かに私にとってカラオケというか歌っているときは自分を曝け出せる唯一の機会。それはアイドルをやっているときだってそう。歌っているときだけが自分を表現させてくれる。それが唯一自分の自己表現だから……。

 

「本とかはどうだ?」

 

「嫌いじゃない、偶に読む」

 

「どういうの読むんだ?」

 

「哲学……なんで人は死ぬのとか?心の晴れ方とかそういうものばかり」

 

 わざと反応に困らせる内容ばかり、選ぶ。

 こういう内容だったら、返せる訳がないと思っていたから。

 

「心の晴れ方か、そういえば初華は自分を自分で殴ったら気持ちが晴れると思うか?」

 

「晴れるでしょ、自分への鬱憤とか鬱屈したものが全部すっきりする」

 

「俺は逆だな。寧ろ、余計苛立ちを覚えると思う」

 

「……なんで?」

 

 自分を自分で殴れる。

 そんなにもすっきりすることがあるはずなのに、素晴らしいことなのになんで彼は否定的なの?と疑問になっていた。だって、それをすることで自分という人間に溜まりに溜まった恨み、辛みを晴らせる。それって凄いことでしょ……。

 

「考えてもみろよ、相手は自分だぞ。最初のうちは気分も晴れるかもしれない、でも段々と自分に対して嫌いな部分とか増えていけば、それはもう気分を晴れる為の行為じゃねだろ?そもそも、自分を自分で殴るなんて……立派な」

 

 

 

 

「自傷行為だろ」

 

 黙り込んでしまう。

 それは正論を言われたからじゃない。思うところもある反面、それの何がいけないのとなっていたから。自分を自分で殴ることによってすっきりさせて解決して、そこからまた自分が嫌になれば殴る。それで解決じゃないの?となっていたから……。

 

「じゃあ、結人は殴った事あるの?自分のこと……」

 

 結人は語らない。

 ただ自分の拳を見る……。その拳は男の人らしいものだった……。

 

「ある」

 

「どういうときに?」

 

 

 

 

 

「自分が許せなかったときに」

 

 かつての罰を慰めるかのような目で結人は自分の拳を見つめている……。

 じゃあ、さっきのは自分を殴ることへの否定は経験者が語るって奴から来ていた……。そういうことになるのかもしれない。

 

「お前は…見誤やるなよ?」

 

「なにを?」

 

「自分の傷の慰め方を」

 

「……覚えておく」

 

 ……彼の瞳が全ての物事を語っている。

 拳ではなく、彼の瞳が……。彼は自分をしたことが正しくなかったというのがそれだけで伝わっていた。何故なら、後悔の雨がそこには映っていたからこそ彼は語っていたのかもしれない……。一応、私はそれを胸にしまっておくことにした。

 

 

 

 

「なんか買いたい本あるか?」

 

 二人で一緒に本を探していると、結人が聞いて来た……。 

 

「じゃあ、ちょっと本探しに行って来てもいい?」

 

「ん?ああ、あんまり奥まで行くなよ」

 

「大丈夫……」

 

 本屋の一番手前のコーナーへと行く……。

 そこに行って、目に入ったのは「心の在り方」という本だった。私は結人の言っていることは正しくもあると思う。自分を殴ってもその気持ちは永久的に晴れることはない。それは一理ある、人は自分の嫌なところなんてどんどん増えていく。醜いところも、私が箱庭から出れずに心の何処かではそれを鬱屈だと思っていることも……。

 

 当たり前だと言い聞かせて、自由になりたいという気持ちはいつしかなくなっていた。終わってもいい、となっていたから……。こんな本如きで何かが解決するなんて思えないけど、それでも私は自分を救われたいというのを捨てきれないらしい、どうやらあの人よりも自分勝手かもしれないと自虐しながらも本を手に取ろうとしたとき……。

 

 

 

「はい、これ!」

 

 私に本を渡してくれていた自分があった。

 その本は届いていたはずなのに、お節介を焼いてくれていた人が私はその人の顔を見ると……何処か見覚えがあるような気がしてならなかった。いや、見覚えしかなかった。

 

 ロングのストレートヘアー。

 色は落ち着いた茶髪。元気で人懐っこそうな印象……。知っている、私は知っているこの人のことを……。

 

 

 

 

 

「純田まな……」

 

 明るくて社交的で……それでいてあの人は対極的な人。

 本当に調べた通りの人だ……。

 

「あれ?聞こえてないのかな?」

 

「あっ、いや……ありがとうございます」

 

「うん!それにしても、凄い難しそうな本読んでるんだね!」

 

「そうですね、こういう本好きなんで……」

 

 まさか此処であの人の相方の人と遭遇することになるなんて思ってもいなかったけど、この人に復讐したい訳じゃない。復讐したいのはあの人とあの人達だからこの人は関係ない。あの人が近くに居ないのか?と気になっていたけど、まなとプライベートで遊んでいると言う話はあまり聞かないから、居ないのかもしれないとなっていると何かが落ちたような後ろから聞こえて来ていた、振り返るとそこには……。

 

 

 

 

 

 

 

「なんで……」

 

 声が聞こえた瞬間、私は息を吐きながらも待ち侘びていた日々がようやく来たとなっていた。

 この時点で自分が計画していたことなんてもうどうでもよくなっていた。

 

 

 

 

 

「なんで……」

 

 今目の前にいるのは……。

 

 

 

 

 

 

 

「なんで初華が此処にいるの……?」

 

 

 

 

 

 

「久しぶり、どうしたの?感動の再会なのに、そんなに子犬みたいに怯えて……。そういえば…‥‥ネットニュースは見てくれた?」

 

 敢えて、それに触れると更に怯え始める。

 私はあるネットニュースにあの人だけが気づけるような単語を置いておいた。それはかつての私がよく言っていたもの。

 

『何事もやって見なければ分からない』

 

 というものをネットの見出しにして欲しいと頼んだ。

 それがもし、触れることがあればきっと恐怖する。動揺するのが目に浮かんだから、楽しみでしょうがなかった。それは顔を見れば、今予想通りの反応をしている。畳みかけるようにして話を進める。

 

「自分のしてきたこと忘れた訳じゃないよね?」

 

 本を落とし、恐怖心で体を震わせている……。

 それだけで、私がこのときを待っていたと思わせるには充分でしかなかった。本当に自分が今まで綿密に作り上げていた計画なんて、どうでもよくなっていた。今目の前にいるんだから……。

 

 

 

 

 結人……。

 悪いけど、私はやっぱりやりたくてしょうがない。

 

 

 

 

 

「三角初音……いや」

 

 ようやくこのときが来れた、ようやく自分を自分で殴れる……。

 やっと復讐ができる。やっとだよ、あのときの私……。これで私は箱庭という牢獄から解き放たれる。もう……。

 

 

 

 もう豊川家という呪いが解き放たれる、第一歩を進める。

 長かった、名を奪われて周りに拒絶されて勝手に名を使われて監視をさせられた。この人生にも意味がある瞬間がようやく訪れた。(初華)私自身(偽物の初華)に自傷行為をして……。

 

 

 

 

 究極の救済を遂げる……!

 もう一度言うよ、結人……。悪いけど、私が選ぶのは自傷行為……!!あの怯え切っている子犬にトドメの一撃を放つ……!!

 

 

 

 

 

 

 

「三角初華」

 

 

 

 

 

 

 見せてあげる、結人……。気持ちは晴れるってことを……。

 

 

 

 

 

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