【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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楔は逃がさない

 初華は……俺に示した。

 未だに復讐という道を諦めてはいないが、その目には希望があった。これから先、生きていく上での選択肢が増えた。そういう目をしていた……。初華の決意表明が残り続けるなか、祥子は目を瞑り、目を開く……。

 

 その動作はまるで祥子自身の覚悟を決めていたものだった……。

 

「分かりましたわ、華音……。いえ、初華」

 

 初めて祥子が初華の名前を呼んだ。

 それに彼女は「初華……」という自分のかつての名前を呼んでくれていたことに浸っている。嬉しさのあまり、そういうことだろう……な。

 

「私がこの問題を聞いたのはお父様からですわ……正直なところこの話を聞いたとき、私は上手く呑み込めませんでしたわ。あまりにも強大すぎる壁、あまりにも闇が深すぎる。しかし、これは我が豊川の問題……。そして、引いてはバンドの問題ですわ」

 

「バンドの問題?そっち個人の問題でしょ?」

 

 槍を突いて来てくるにゃむ……。

 壁に寄りかかりながらも、自分には関係ないと言いたそうにしている。

 

「大体、アンタの家の問題なんだしアンタのところで解決すればいいでしょ」

 

「しかし、祐天寺さんこのままでは恐らく三角さんは帰ってきません」

 

「連れてきた奴が悪いんじゃん」

 

 それはどう考えても、俺のことを指していた。

 初華が何か言いたそうにしていたが、俺は止めようとしたときだった。

 

「違う……初華が来なくても何れぶつかってた」

 

「……何が言いたいわけ?」

 

 声を発しようとしたとき、先に声を出したのは睦だった。

 怪訝そうな表情でにゃむは睦の方から若干視線がズレていた。

 

「この問題は初音がずっと抱えていた問題……。それはきっといつかは解放されたと思う……。私がそうだったように……」

 

 現実味のある発言だった。

 睦が言う通り、もし俺が初華を連れて来なくても何れは初音は自分の問題に悩まされることになっていただろう。自分が持つ罪悪感か、それとも押し通し続ける自分の保身が保てなくなったことで……。

 

「睦、ありがとう……俺を庇ってくれて」

 

「本当のこと……だと思うから」

 

「そう……かもしれねえな。だけど、にゃむお前の言う通りだ……。俺は結局厄ネタを持ち込んだ、それは変わりねえよ」

 

 床へと顔を向ける初華……。

 自分が俺について来なければ何もかも壊れることはなかったのかもしれないと後悔しているのかもしれないが、そうじゃない。

 

「俺は初華を連れてきたことは後悔してない。助けたいから、助けた。それだけだからな……」

 

 そう、俺は助けたいから助けた。

 そこに理由はない。同情心がなかったのかと言われたら、あいつの話を聞いているうちにそういう情が湧いていた可能性は充分にあり得る。それでも、俺はあいつを助けたいから助けた。そして、あいつは俺の手を掴んだ。

 

「そうだろ、初華……」

 

 透き通るような声で初華の方に強く目線を送ると、安心してくれているようだった……。

 

「はぁ……本当ばっかみたい。勝手にすれば、アンタのその優しさでどれだけこの問題を解決出来るのか、を……」

 

「ああ、あのとき()と同じようにやってやるよ……」

 

 意気込みを掲げると、にゃむは本当にめんどくさそうにしながらも溜め息をついている。

 それはどう考えても、今回に関してはまるで無謀でしかない。そういう感じだったが、俺も思うところがあったのは確かだった。

 

 何故なら、この問題は……。

 

 

 

 

 あまりにも話が大きすぎるからだ……。

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 先ほどのにゃむのように俺は息を吐いていた……。

 今回の件、一度整理してみなくても分かるがどう考えても話の規模が大きすぎる。睦達の件も心の問題や家庭環境の問題等、色々あったが今回に関してはあまりにも話が壮大過ぎる。それはまるで、小さな慈愛活動をしていたヒーローがまるで宇宙規模の戦いに巻き込まれることになったもんだ。

 

 こりゃあ、敗北もあり得ない話じゃない。

 なんて冗談を頭の中で思い描いていたが、実際此処からどうすればいいのかなんてのは不明でしかなかった……。それでも、祥子はああ言っていたが……。

 

 

 

 

『私は戦いますわ、罪人として……。この問題を見過ごすわけには行きませんわ!』

 

 決意が違う。

 俺の助けたいから助けたとはあまりにも違い過ぎるものだった。祥子のそれは自分の呪われた運命という牢獄から解き放つために、自分の用いる力の全てを使う。そういう話だったんだろう。

 

「はぁ、本当にすげえなみんな……」

 

 黄昏ながらも、俺はただ一人ソファーに座っていると……。

 初華が俺に申し訳なさそうにして立っていた。

 

「あんま気にするなよ、お前を東京に連れて来た時点で色々と大変なことになるのは分かっていた。あの監視を見ればな……」

 

「強がってる……」

 

「……そうかもな」

 

 溢してしまった。

 溢す必要もないものだったのに、俺は言ってしまったが心の中では折れそうになっている自分がいるのかもしれない。勿論、初華の復讐以外の道は見つけてやりたいが、豊川の問題をどうこう出来るのかと言われたら俺には無理だ。そもそも、豊川家……いやグループ全体の話なんてどうこう出来る訳がない。

 

 弱気の心に支配されそうになったとき……。

 

 

 

 

「私は結人を信じている……」

 

 初華の他にもう一人の存在が、俺の頬に触れていた。

 その手は優しく、温かった……。まるで俺のことを慰めてくれるかのように……。

 

「結人は私とモーティスのことを助けてくれた……。だから、今度も信じる」

 

「睦……」

 

 俺の心を明るくしてくれていたのは……睦だった。

 まるでかつてと立場がまるで逆になっていた。助けた側と助けられた側、その両方が……。まさか、こういう光景になるなんて、なと俺は感情深くなりながらもこう返す。

 

「成長したな、睦……」

 

「結人のおかげ」

 

「……そうか、そうだな」

 

 

 

 

「ありがとう、睦」

 

 これで二回目だ……。

 俺が素直に誰かの感謝を受け止められてたのは、まだ全然になれてねえけど睦という月夜に輝く存在に勇気づけられたこそ俺は震い立たせてもいいのかもしれないとなっていた……。僅かな力に望みを賭けて……。それでも、その前に……。

 

「祥子、ちょっと時間をくれないか?」

 

「ええ、構いませんわ。気持ちの整理……ですわね?」

 

「ああ、頼む……。時間がないのは分かってるんだが……」

 

 悠長なことをしてられないのは分かって居るつもりだった。

 それでも、この霧をほんの僅かでも晴らせるなら晴らしておきたかったからこそ、俺は一旦自分の家に帰るとい選択肢を選ぶことにした。

 

「星乃さん」

 

「……なんだ?」

 

 海鈴に呼び止められた俺は、一旦立ち止まることにした。

 

「期待してますよ」

 

「ああ……」

 

 

 

 

「任せろ」

 

 海鈴……。

 あのとき、睦を助けてくれたことは本当に感謝している。お前の期待に俺がどれほど応えられるのかは未知数なところが多い。それでも、俺は睦や海鈴……。そして、初華に期待されている以上、自分の意志を曲げずに変えるというのを実行するつもりだった。

 

 なによりも……。

 

 

 

 

『結人の名前は人と人を結びという意味があるの……。貴方は人との結びを繋がりを決して絶やしては駄目よ?』

 

 母のあの言葉を今でも証明だと信じているからだ。

 俺が今まで作り上げて来た繋がりの……。

 

「行ってくる……」

 

 俺はライブハウスから出て、自分の家へと向かうことにした。

 俺の唯一答えを知り得る場所へと……。

 

 

 

 

 

 

「ただいま……」

 

 家に帰って来て、俺がすぐ確認したのは下駄箱だった。

 そこには父さんがよく使っている登山靴が置かれていて、居るというのを知って俺は急いで靴を整えることもなく脱ぎ捨ててリビングの方へと向かうとそこには父さんが椅子に座りながらも、テレビを見ている。

 

「ん?結人、お前帰って来ていたのか?」

 

「ああ、ちょっとな……」

 

 元々、日帰りで帰って来る予定ではあったけど此処まで早く帰って来るとは予想していなかったんだろう。それでも、全然もう夜が遅いのはそうなんだが……。

 

「……何かあったのか?」

 

 コーヒーを軽く飲んだ後に俺の方を見ずに聞いてくる。

 父さんは旅をすることで色んな人達を見て来た。それは国境も国も関係なく、本当に色んな人……。だからこそ、俺の様子が微妙におかしいのに気づいていたのかもしれない。

 

 それをあのときにも見せて欲しかったという気持ちがありながらも、俺はこう答える。

 

「父さんはもし自分の壁……いや、どうしようもなく巨大な壁にぶつかったときどうする?」

 

「そりゃあ、難問だな。内容にもよるが、そういうときは頼るべきは俺じゃねえな」

 

「どういうことだよ?」

 

「答えは簡単だ、その答えは常に自分にとって一番大切な人が持っている。母さんもよく言っていただろ、繋がりは楔となり、強い力へとなる」

 

 繋がりは強い楔となる……。

 そう、それは母さんがよく話していたことだ。繋がり、母さんはそれを大事にしていた。人々を糸のように引き合わせるのは繋がりというものだと、も……。あの人は本当にそういう、絆だとかそういうものを大事にしていた。他人からすれば、不確かなものかもしれないが、それでも俺にとっては本当に重要なものになった。

 

 父さんが教えてくれた『五感』と母さんが教えてくれた『繋がり』で……。

 

「一番大事な人、か……」

 

 俺はスマホから連絡先を確認しつつも、部屋に入る前に俺はこう父さんに言う。

 

「ありがとう、父さん」

 

「おう、悩み解決できるといいな」

 

 父さんは終始俺の方を向くことはなかったが、それでも父さんが教えてくれたことを基に……。

 

 

 

 

 

 

 

 燈へと電話することにした。

 

 

 

 

 

 

 最初の一コール目が鳴る……。

 二コール目が鳴る。三コール目が鳴るが、燈が出ることはない。それは俺の心拍数を表すかのようだった。もしかして、今取り込み中か出れないのだろうかと思って、一旦電話を切ろうとしたときだった……。

 

 

「どうしたのゆいくん?」

 

 燈の電話が繋がった。

 特に冷静で燈が電話に出ていたため、俺は本題に入ることにした。

 

「悪い、ちょっと声が聴きたくなってな」

 

「昨日、会ったよ……?」

 

「え?あ、ああ……まあそうなんだがな」

 

 よく考えてみりゃ、俺はそういえば昨日RINGに行っているんだった。

 そして、愛音やそよに言われたい放題されながらも、髪の色を弄った事に触れられたんだった。今日という日が色々起こりすぎていて、もうかなり時間が経っていたものだと……。

 

「悪い燈……」

 

「いい……よ?ゆいくんの声はいつでも聞きたいから」

 

「え?あっ、そうなのか?」

 

 「いつでも」という単語に反応してしまって、俺は頬を掻きながらも照れてしまう。

 緊張感のかけらもない俺の行動……。

 

「ってそうじゃねえや、そのちょっと聞きたいことがあってな。燈はその……自分じゃどうしようもないほどの壁にぶつかったときどうする?誰かと団結しても、それでも無理そうならお前はどうする?」

 

「えっとね、私ならね……」

 

 

 

 

 

 

「迷ってでも進みたい……。きっと、誰かと一緒に解決できない問題。そういうこともこの先あると……思う。目の前にある崖が凄く急すぎて登れないとかそういう……感じの。それでも、誰かが一緒なら……きっとそれだけで……立ち上がる勇気に……」

 

 

 

 

 

 

 

「繋がるから……」

 

 燈の理論は単純明快だった……。

 なによりも、それは俺が八潮さんの前に高らかに宣言したことに近いものだった。燈は燈なりに自分の答えを出していた。そういうことなの……かもしれない。いや、違うな。きっと、燈は……。

 

 

 

 

『迷子でもいい、迷子でも進め』

 

 あのフレーズをライブで語った時点でもう決めていたんだ。

 本当に強い奴だよ、燈は……。いつの間に、こんなに成長したんだからな。だったら、俺もせめての言葉を送りたい……。

 

「燈、最後にいいか?」

 

「どうしたのゆいくん……?」

 

 

 

 

 

 

 

「愛してる」

 

 空白の時間がほんの僅かだけあった……。

 それは気持ちを整理するための時間なんかじゃない。瞬間的に放たれていたもののはずなのに、何処か時間の経過を過ぎ去った。そんな感覚があった気がしてならなかった。

 

「「……」」

 

 互いに余韻が残る……。

 まるで飛行機雲が残っているかのように……。自分の中でやはりやり過ぎだろうか?というものは拭えなかったが、それでも後悔はしていなかった。燈のことを俺は星の灯りのように愛しているのは事実なのだから。

 

 だけど……これやっぱり結構やばいこと言っているよな……。

 訂正、いや違うな。それはダメだろ、訂正したら愛していないってことになるし、じゃあもう……一つだけだろ。

 

 

 

 

「本気だからな」

 

 それが全てだった。

 俺の声は光の輝きと共に散る流星群のように降り注いでいたなんてロマンチストみたいなことを言い出すつもりはないが、伝えたかった気持ちは伝えた。ホッとした気持ちになっていると、燈の電話口から物音がしていた。

 

 

 

 

『愛音、お前なにしてんの!?』

『バレた』

『はぁ、愛音ちゃんってどんくさいね』

『いやいや、待ってよ!!こんな状況ずっと聞いてられる訳ないじゃん!?』

 

 

 

 

「…………え?」

 

 マジで間抜けな声が出る。

 今この場に居たら、弄られそうなぐらい変な声が出ていた。

 

「燈、もしかして……」

 

「ごめん、ゆいくん……。そのね、近くに実はあのちゃん達居たんだ……」

 

 

 

 

 

「…………は!?嘘だろ!!?」

 

 燈に出し抜かれた……。

 いや、これは違う。燈がそんなことする奴じゃないだろうし、これは単純に「今大丈夫か」という話をせずに、ずっと電話を続けていた俺が悪いがそれでもこれは話が変わって来る。もし、あいつらに燈への愛の……まあアレとか聞かれていたら話は全然違う。

 

 というか、こんなの公開処刑場じゃねえか。

 なんでこいつらもっと早くに居るって声を出さねえんだ。

 

『結人、お前言質取ったから』

 

「……ああ」

 

 燈の騎士、立希が電話口からそんな声がしてくる。

 俺は逃げるつもりも、隠れるつもりもない。そこは断言出来るんだが、やはりあいつらには聴かれていたというのは変わらないため、俺は恥ずかしくなって顔を伏せながらも燈に……。

 

 

「悪い、電話切る。相談乗ってくれてありがとうな」

 

「う、うん……」

 

 「じゃあ」と言った後に、すぐ電話を切る……。

 俺はスマホを自分のテーブルの上に投げ込み、服を着たまま一旦ベッドの上に駆け込む……。

 

 

 

 

 

「マジかよ……」

 

 ベッドの中で心の声が漏れる……。

 とんでもないことになってしまった予感しつつも……。

 

 

「あいつらの声聞けて安心したな……というか」

 

 

 

 

 

 

「聞いてんじゃねえよ、父さん」

 

「あー!!悪い悪い、結人!!いやぁ、意外とお熱い関係だったんだな」

 

「るっせえな……。別にいいだろ……」

 

 俺の部屋の扉から廊下の明かりが見えていから、父さんが覗いているのに今気づいた。

 そして、恐らく俺の会話を盗み聞きしていたのも知っていた。

 

「良かったな、結人」

 

「…………そうだな父さん」

 

 ああ、そうだ……。

 燈の言う通り、上手く行かないことだってあった。それは俺の歴史という名の過去が全てを証明している。そうだからこそ、俺は立ち上がらなくちゃいけない。時間が惜しい、今此処でベッドで悶えているよりは立ち上がり、俺は戦う意志を固める。その選択以外にはない。

 

「なぁ、行く前に聞いてもいいか?父さん」

 

「なんだ?」

 

「こんなこと父さんに聞くのは酷なことかもしれねえけど、父さんは親ってのは愛情や良心ってのが存在しないみたいなことあり得るんのかな?」

 

「それは……そいつの家庭環境次第だろう。だけど、これだけは言えるな。例え、どれだけ血の繋がりがあろうが、なかろうが親は親、子は子だ。そこの関係性が崩れることはねえ。どれだけ親が子を憎んでいても、子が親を憎んでいてもそこにある形は変わらない」

 

 

 

「親って言うものはな」

 

 形は変わらない。

 俺は妙に納得していた……。それは俺が母を亡くしたとき、父さんは傍に居てくれなかった。父さんはあの日も冒険をしていて、帰って来ない。でも、母さんの死に目ぐらいには戻って来てくれると信じていた自分がいた。だからこそ、裏切られたときに辛かった。

 

 父さんは結局、間に合わなかった……。

 母さんが死んで少し経ってから、戻って来た父さんのことを俺は酷く恨んだし、憎んでいた。何もかも遅かった父さんのことを……。

 

「まあ、俺がこんなことを言っても説得力ねえだろうけどよ……」

 

 自虐している父さん……。

 俺はそれに何も反応はせず、スマホを手に持ち意気込みとしてこれを父さんに送ることにした。

 

「行ってくるよ、父さん。悩んでいるよりも、立ち向かう。そう……」

 

 

 

「母さんも言ってるだろうしな」

 

 繋がりは強い力を生む……。

 それが母さんの教えだった。俺はそれを拒み、逃げ出した時期もあった。一人の方が楽だと逃げ続けた過去もあったが、今は違うと明らかに言える。俺のこの手の中には幾つものの見えない繋がりという名の糸があるのだから……。

 

「ああ、行ってこい結人……」

 

 父さんと目が合う。

 それは久々のようで、久々じゃない感覚だった。部屋を出ると、照明が俺のことを照らしていた。まるで俺にスポットライトを当てるように、その時は来たのだと……。今度こそ、俺は立ち向かう。繋がりが不確かなものではないということを証明するために、その楔を離さないためにも……。

 

 

 

 なぁ……。

 

 

 

 

 

「そうだろ、睦」

 

 家を出ると、そこには睦が待っていてくれていた。

 

「あの日を思い出すね結人」

 

「あのときとはお前は違うけどな」

 

「ん……だから今回は結人を信じて待った。結人に救われたいからじゃなくて、結人を信じて待つことにした」

 

「ああ、それが成長だ睦……」

 

 あのとき……。

 あのときの睦は俺に救いを求めていた。俺なら助けてくれると信じていた。湧水を頼りにして山を登るようにしていた睦が今ではこうして、自分の力で自分の足のみで歩いてこうして立っている。俺はそれが本当に誇らしかったし、あのとき絶望することなく投げ出さないでよかったと本当になれていた。

 

 彼女の成長を噛み締めつつも、俺は睦ににこやかな笑顔で返していたと思う……。

 そして……。

 

 

 

 

「行こうぜ睦」

 

「ん、行こう結人」

 

 互いに対等……。

 これこそが今の俺達だった……。そして、胸の奥に秘めているもう一人のモーティスにも問いかけていた。お前のことも頼りにしている、と……。

 

 

 

 

 

 

 

 

『星乃さん、恐らく初音は……あの場所に居ると思いますわ』

 

「あの場所?」

 

『ええ、私が今指定した場所、此処に向かって下さると助かりますわ」

 

 祥子から送られた場所を確認すると、そこは星空がよく見える公園だった……。

 いや、この公園は俺も前に行った事がある場所だった。何故なら、そこは俺が前に流れ星を見るために来ていた場所で、初音と会った場所だったのだから。

 

『此処は初音と私にとっても大切な場所……お願いしますわ」

 

『お前は来ないのか?』

 

『私は……私のやらなくてはならないことがありますわ……。豊川の人間として』

 

 豊川の人間としてやるべきこと……。

 俺はそれを了承しつつも、次に質問の相手を変えた。

 

『……初華は?』

 

『私は、私も豊川に立ち向かわなくちゃいけない。それに今会ってもあの人と喧嘩になるだけ、だから……』

 

『分かった、それじゃあ二人共……頼む』

 

『ええ、星乃さんの方こそお任せしましたわ』

 

 

 

 

『ああ、任せられた……!!』

 

 それぞれが掲げるもののために立ち上がろうとしていた。

 祥子と初華、は豊川のために……。そして、俺達は初音の為に互いの覚悟をぶつける為に……。海鈴達はバンドのために……。俺達はそれぞれの立ち向かうべきものの為に戦う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ……」

 

 暗闇の公園の中、ベンチに座っているたった一人の少女に俺は話しかけた。

 

「初音」

 

 その少女が俺が此処に来ることを予期していなかったのか、目を見開きながらも……。「どうして?」と言っている声がしていた……。

 

 その刹那……。

 初音はベンチから立ち上がり、逃げ出そうとしたときに俺は思いっきり腕を掴んだ。

 

 

 

 

「離して、離してよ結人!!」

 

「……じゃねえぞ」

 

「……え?」

 

「……げてんじゃねえぞ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「逃げてんじゃねえぞ、初音……!!!」

 

 

 

 

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