【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
逃げ切れたつもりだった……。
本当に逃げ切れたつもりだったのに、あの人は私のことを見つけ出した。そんなはずない、私はあの人から逃げてもうあれから30分ぐらい経っていた。最終的に振り切ったし、私を見つけ出すことなんて不可能に近かった。
「にゃむさん……?」
にゃむがもしかして、私の居場所を教えた……?
いや、その可能性はあまりにも低い。にゃむがあの人に協力する、その線はあまりにもありえない。あの人は正直、協調性がある人とは思えないから……。
「もう一度言う、私は初「許せるなんて言えるわけがない!!」
「自分で何したのか覚えていないの!!?アンタは私の名前を奪って、自己保身し続けて来ただけ!!」
「そう、私はずっと逃げ続けて来た!!初華からも、自分自身からも自分を誤魔化すことで生き続けることができるって信じられていた!!!もう自分を偽って生きたくないの!!」
あの人は自分の意志を曲げようと全くしない。
このまま話を続けても、意味はない。また逃げようと考えようとしているのに、体が動かない。自分でもそれがなんでなのか分からなかった……。ただ、あるとすればそれは……。
『お前は……見誤るなよ?』
『助けて欲しいって言って』
二人のおかげで私は自分を選ぶことが出来た。
結人の手を選ぶことが出来た。
『その結果、災いを呼んだのは確かなことだ……すまなかった』
呪縛からも解放された……。
そして、今私の目の前には最後の呪縛が存在する。迷いなんかなかった。私は一生あの人のことを許せるわけがない。あの人のしたことは私を永久的に消したも同然なのだから。それでも、何故私の心がしめつけられているのか……。
『アンタがどう思ったのかが大事でしょ』
にゃむが言っていたことが頭から離れられない。
許せるわけがない、許すつもりはない。どれだけ言われようとも……。それでも、今こうして自分の感情が絵具を全部ぶちまけたみたいにグチャグチャになっているのはあの人を『姉』と認めてしまった自分がいる……から。
一旦、落ち着くために息を吸おうとする。
自分の気持ちを整理するために……。しかし、私の目に入って来たのは……。あの人が持つ、スマホだった……。私はそのスマホを目から話すことができなかった……。
覚えしかなかったから……。
「初華、これを覚えてる?」
スマホを開いて、私はブックマークしていたある投稿を初華に見せる。
「それ……は……!?」
「アイフラメのこと調べてみたんだ……。怖かった、見たくなかった……。見たらきっと、頭痛が酷くなる。あのときを思い出すと思っていたけど、それでも今の初華がどうしているのか知りたかった……から」
私が初華に見せていたのは彼女のアイドルとしての姿……。
スマホに映し出されているのは彼女のSNS、アイフラメとして献身的にファンのみんなにリプなどを送っている証拠……。
「これを見たとき、初華は凄いなと思った」
「……凄い?」
「うん、私にはこんなにも上手にアイドルを演じることなんてできない。スタッフや共演者のみんなに挨拶とかお礼を言えたり、sumimiの初華としてクールで何処かミステリアスなアイドルをやろうってなることは出来たけど、あんまり上手く行かなかったんだ」
いつも私は誰かに支えられていた……。
アイドルを始めた頃なんてのは本当に酷かった。まなちゃんや共演者のみんなが支えてくれる日々が多かった。罪悪感と祥ちゃんからの勇気がせめぎ合って、いつも吐き気がしていた。その度に、自分が悪くないと判断を鈍らせていた……。
「……やめて、そういうの」
「此処のリプとか、そうだなって思えたんだ……。アイフラメの応援投稿に初華はこう答えたんだ。私は私のことをやるだけ、貴方も貴方のやれることを頑張って。またライブに来てって」
この内容はかなり反響があったみたいだった……。
と言うのも、アイフラメがライブの告知をしたときに『ごめんなさい、その日は用事あって来れないんです!』という投稿があった。こういう内容は界隈にとって、本人に見えるところで言わなくてもいいってよく注意されることが多いけど、それに彼女はこう返していた。
『大丈夫、私は気にしない。私は私のことをやるだけ、貴方も貴方のやれることをやって。それでまた次のライブに来れるときがあったら、精一杯私の世界にのめり込んで』
簡潔の内容だけど、そこには『らしさ』が溢れていた。
冷たくて、何処か淡々としているけどファンを大切にしているという印象を与える投稿。その投稿にファンがその後、こう返信をしていた……。
『ありがとうございます!次は絶対ライブに行かせていただきます!!』
自分が推している存在からこうして返信が来て、そうやって発言してくれるのは本当に有難いことだと思う。彼女のライブは割と突発的だけど、ちゃんと事前に忘れずに告知しているところや、ファンへのちゃんと思いを返している姿勢は私にも見習う姿勢があるってなれた。
「曲も……聞いたんだ。凄いゾッとする曲だったけど、私は凄いと思えたんだ。アイフラメの曲は本当に幻想的で尚且つコンセプトも良かった。特にこの楽曲、Brennende Stilleは本当にゾッとしたんだ……」
「和訳すると、これは燃える静寂……。これはきっと祥ちゃんとの思い出と私に奪われた後のことを綴っているんだよね。声なき怒りを歌詞に代弁しているところは良かった。MVも見た……何もない白い世界の中で顔も素性も見えない少女が炎に包まれながらもまるで微笑んでいるような姿は本当に鳥肌が立って、寒気がしたんだ」
「そうやって曲と歌詞を聞いているだけで感情や情景を彷彿とさせるのって本当に凄いことだと思う。それと、アイフラメってドイツ語だよね?Ave Mujicaのラテン語に対抗するために使ったの?」
ひたすらに意味が分からない、理解できないという表情をする。
眉を細めて、表情筋が硬くなっていた……。
「何が言いたいの?」
その答えは決まっていた……。
私は本当に賞賛したかっただけだから……。
「私のことが憎くて始めたことだと思う。それでも、私も
言葉が言葉で切り裂かれる。
初華は顔を歪ませながらも、拳を強く握り締める。
「どれだけ褒めても私は貴方が憎いし、許せない。私の名前を奪って、私の夢を奪った貴方が!!私の苦労を知っているみたいに喋らないで!!」
「それでも、初華をアイドルとして尊敬してる!!自分の舞台を作り上げて、そこにファンもちゃんと導くのはムジカもそうだけど、そこに一人だけで辿り着くのは凄く大変だって分かるから!!」
「っ……!!」
怯む、初めて初華は怯んでいた。
私や豊川という組織に復讐心を燃やしていた初華が目を開いて、硬直していた……。
「私をアイフラメをアイドルとして、初華を妹として尊敬してる!!」
「妹?ふざけないで!!アンタなんか……!!」
「あのとき、私のことを姉と呼んでくれてありがとう」
「!!!!?」
初華は一歩後ろへと下がる。
あのときのを聞かれているなんて考えてもいなかったのかもしれない。
『お姉ちゃん……』
私は……あの子の姉だからはっきりと聞こえていた。
私のことが憎い、恨んでいるというのは永久的に変わることはない。それでも、あの子は……あの子なりに未来を選ぼうとしている。それだけで自分が今こうして、此処に立っていることを選んでよかった……。
「私のことは一生許さなくてもいい、私もこの罪から逃れるつもりはない。前へ進んでいくことをやめたりしない」
こんなこときっと鳥籠から出ることがなければ、私は絶対にしていなかった。
鳥籠の方が楽だと信じて切っていたから……。今でも……今でもそこに幽閉されたい未練はある。それでも、私がそこに行かないのは自分がやってきた事実を曲げたくないから。
「三角初華として生きていた偽りの人生を……!!」
結局、私は長いときを彼女の人生として生きていくことになってしまった。
本来であれば、初華が太陽で初音が月だったはずなのに……。その太陽の熱さも私が奪って、彼女を誰もまだ見つけたことがない、未知の存在へと変わり果てさせてしまった……。誰も照らさず、誰も周りにいない。そういう存在に変えてしまった。私が……。
「じゃあ……もし諦めたら今度こそ」
「絶対許さない!」
音を立てながらも、髪を掻き毟っている……。
ギリギリのところで踏み止まっている。そんなことは見れば分かるからこそ、私は誓う必要があった、妹に……。
「誓う……」
「逃げたりしないって……!!」
最後の機会を与えてくれた、妹に……。