【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
この舞台にいるのは仮面を外した少女たち……。
そこにいるのはもう自分を写し出すことをやめない少女たち……。
これよりご覧になりますのは……。
人形たちの決意……。
私だけの答えを知るために
『アイフラメのこと……褒めてくれてありがとう』
それは紛れもなく、初華にとって……。
自分という存在を久しぶりに姉に褒めて貰えたことへの感謝だったのかもしれない……。私は、あの日見たことの全てを初華に話した。本当に感動したし、やっぱり私の妹は凄いなとなれた。そういうライブを目の前で体感させてくれたからこそ、私の五感というものを刺激させてくれていた……。
『それじゃあね……お姉ちゃん』
最後には私のことを認めてくれた……。
私が道を曲げるようなことがあれば、叩き潰すと初華は言っていたけどそれでも初華は私のことをやっぱりお姉ちゃんと呼んでくれていた。かつての私たちは歪なほどねじ曲がった関係でそうさせてしまったのは自分だけど……。
こうしてまたお姉ちゃんと呼んでくれることに私は嬉しさを感じていた……。
「五感を通じる、ものか……」
結人から教わったあの言葉……。
あれをもし、いいものだなーとなれていなかったらきっと初華のライブも私という人間も突き動かされることもなかったかも……。彼のことを神様だなんて思っていないと言い聞かせていたのに、結局私は結人に自分を責められたときには軽くショックを受けてしまうほどだったから……。
『しかし……豊川グループの定治氏はご自身の立場を理解をなされているのでしょうか?』
『いやぁ分かってないから辞任してないんじゃないんですかねぇ。普通に大企業のグループに愛人がいたとなれば、大問題なのに彼は辞任しないんでしょ?そういう責任の取り方もあるとはいえ、ちょっとねぇ』
楽屋に居ると、父の話題が聞こえて来る。
「気にしなくて……いい」
テレビの電源を切って、私に気を遣ってくれていたのは睦ちゃん……だった。
「ありがとう、睦ちゃん」
再び同じ言葉を言っているのか、首を横に振っていた。
睦ちゃんも同じだもんね……。今まで芸能人の娘さんっていう目で周りから視線を向けられていたからこそ、それが耐えられなくなったのもあって多重人格になってしまった。私も道が違えたそうなっていたのかもしれない。
複数の人格に呑まれて、私ならきっと睦ちゃんみたいに受け入れるなんてことは出来なかった……。強い子だな、睦ちゃんは本当に……。
「どうしたの……?」
「あっ、ごめんね……ちょっと思ったんだ」
睦ちゃんの顔ばかり覗き込んでいることに気づいたのか、睦ちゃんが不思議そうに質問をしていた。
「あのとき、結人と睦ちゃん達とまなちゃんに鳥籠から解放してもらった。私はようやく飛び立つことが出来るようになったけど……。それって結局、お膳立てされなければ私は飛び立つことが出来なかった。自分が何もできないんじゃないのかな?って偶に戸惑うこともあるんだ……」
そう、私はずっと思い悩んでいた……。
確かにみんなのおかげでまたこうして飛び立つことが出来た。それは本当にマイナスからゼロに戻るという意味では素晴らしいことだけど、考えれば考えるほど私という人間は誰かに手を伸ばして貰わないと何もできないのかな?と無力感に苛まれる。
「私も……私もそうだった」
「……睦ちゃんが?」
ちょっとだけ睦ちゃんの顔から意識を放していた私はすぐに睦ちゃんの方を向き直した。
意外でしかなかったから……。あれほどまでに意志が強くなった睦ちゃんならそんなこと気にしないで前を向いているって勝手に思っていたから……。
「結人やみんなに助けて貰った後、私は結人の力じゃなくて自分の力でバンドを再結成したいって意志があった。それはきっと紛れもなく嘘じゃないって言える。自分がしたいから、やりたいからっていうのを自分に尊重させて改めてバンドに向き合おうとしていたけど、結人ばかりに頼りたくないって思いもあったのはそうだって言えるけど、心の中であったのは……」
「自分で何もできないって気づきたくない、から……」
そこにあるのは睦ちゃんの強さそのものだった……。
だから、私は彼女に激励の言葉を送った。
「凄いね、睦ちゃんは……。私はそこまで自分のことを冷静に分析できないよ……」
「そんなことない、私だって今も悩みながらも進んで……「睦ちゃん、ちょっと辛気臭いよ!!!」」
睦ちゃんが立ち上がったのと同時に手を力強く振っていた。
それはまるで奮い立たせるようにして……。
「そりゃあ、私だって結人君ばっかりに頼ってられない!ってなったときもあったよ?それでも、私と睦ちゃんは一心同体!睦ちゃんが辛そうなら助けたい!だから言うけど、睦ちゃんが結人君ばかりに頼っちゃったことを今更後悔しても仕方ないし、初華ちゃんだってそうだよ!!」
「私は……初華じゃないよ?」
「私にとっては初華ちゃんだもん!!名前とか関係ない!!例え、初音ちゃんだって名乗ることを選んで決めたとしても私にとっては初華ちゃんだもん!!私が話してきたのは初華ちゃんだよ!?」
モーティスちゃんは手を何度も振りつつも、私に抗議をする。
私を何度も貴方は「初華」ということを結び付けてくれている。それがちょっと複雑だったのは言わなかったけど、若干心が温まっているような気がしていた……。
「そうだね、そうかも……」
自分という人生において私が三角初華だったという事実は変わらない。
どれだけ三角初音という人生を再度始めることを選んだとしても、そこに事実というものは残る。それは罪という形に残るはずなのに、モーティスちゃんはそれを自分にとって大事な記憶と話してくれていた。
きっと、自分という別人格を受けいれてくれたことが……。
彼女にとって救いだったんだ……。
「救い、か……」
誰かにとっての救い……。
それは強烈なものになる……。
記憶という星になって私達を満たしてくれている……。
強ければ強いほどそれは思い出というものに残る……。私という存在が、祥ちゃんに強く惹きつけられてしまってそこから初華を傷つけてしまったという事実は何も変わらない。私にとって罪そのものでしかない……から。
「どうしたんですの初音?」
「祥ちゃん……」
楽屋を飛び出して、一人ただ外に居ながらも黄昏れていると祥ちゃんが話しかけてくれていた。
「初音として生きていくことに不満はない。自分でもうそれで生きていくと決めたから……。初華には今更遅いとか思われているかもしれない……けど」
「それは違いますわ、初音」
ばっさりと否定してくる祥ちゃん……。
「例え、相手に今更とか叫ばれようとも貴方は貴方なりの贖罪をすればいいんですわ。罪人になると言う運命を背負うというのはそれ相応の覚悟が必要なこと……。そして、それを受け入れて進みだすということは決して楽な道のりではありませんわ。周りの視線もそうですが……なによりも辛いのは……」
「自分の視線ですわ」
「自分の視線……?」
周りの視線ではなく、自分の視線こそが辛いと祥ちゃんは話してくれている……。
自分の視線、確かにそれは辛いものなのかもしれない。私に初華はそうだって代弁している自分がいるから……。
「ええ、そうですわ。どれだけ自分が変わろうともどれだけ何かを始めようとしても、自分はあの頃から何も変わってはいない。今の自分を閉じ込めてしまう、邪な自分は必ず何処かに存在しますわ。それはどんな人間の心にもいるはずですわ、そして……それを受け入れることができる人間こそが……」
「強い力なんですわ!!」
お父さんを救えなかったこと……。
自分の血という呪い……。なによりも、CRYCHICやバンドのことを放っておいて逃げ出してしまったことを自分の罪だとはっきりと認識しているのかもしれない……。それぞれが何処か仕方なかった部分があるのに、それでも強い力でそれを……。
言葉に変えることで……。
「小さな言葉の積み重ね、か……」
こうやって、口にすることは大事なこと……。
改めて結人から学んだことが自分にとって本当に大事なことばかりなんだって感じていた。今だからこそそうだって言える。祥ちゃんや睦ちゃんの場合、当たり前のことじゃないかもしれないけどそれでも何かを自分で大事にして、それを言葉にするということは本当の強さだって確信できていた……。
なら、私もこの言葉を祥ちゃんに送りたい。
「ありがとう、祥ちゃん……」
感謝の余韻に浸りながらも、私はある人物に電話をした……。
私の鳥籠を破壊してくれたあの彼に……。
「結人、ごめんね?今から会えるかな?」
今度こそ……話したい。
彼から教わるんじゃなくて、私の言葉で……。
凄いなと思える日々から抜け出すために……。