【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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神様だと思っていた彼は泥臭い人間だった

 結人に会って何を話をしようか……なんてことは決まっていた。

 答えを得るために、答えを彼に示す為にその行為は必要でしかなかった。楽屋に戻って、私は私服のまま『羽沢珈琲店』に向かっていた。

 

 吹き付ける風を、当たり前のはずなのに、一つ一つ噛み締めるように感じていた。

 それに意味があるのかなんてのは過去が示してくれている……。過去という柵の中で、塞き止められていたものが鳥籠を破壊したことで改めて私の中で……。

 

 結人が教えてくれた……。

 五感の大切さは私の中で彼から教えてくれたもののなかで最も重要で大切なものだった。それを体感するために、体験する為に耳を澄ませていた。風が吹く音、そして人々が楽しそうに会話をしている声……。車道の方からは車が少しばかり急いでいるかのような音がしていた。

 

 こういうのを得て見るというのは初めてのことじゃないけれども、それでもとても大事なことには間違いなかった……。

 

 

 

 

 

 

「そうだよね、結人……」

 

 珈琲店に入ると、二つ結びの黒髪の女性が「いらっしゃいませ」と言ってくれている。

 何処か落ち着いていてしっかりしているそんな声に、私は軽く会釈をしながらも結人がいるテーブルのところに行くと、彼は何も注文せずに待ってくれていた……。

 

「ごめん、待ったよね?」

 

「俺は別に全然待ってねえよ、その……それで……」

 

 

 

 

「この前のことは言い過ぎた……」

 

「悪かった……」

 

 間と間の中に空きながらも彼は繋ぎ止めようとしてくれているものがあった。

 それは紛れもなく私へのあのときの凶器をしまい込むためのもの……。頭を下げながらも、申し訳なかったって……。彼の謝罪を受けて、窓を見る。それはあのとき再び初華との関係が戻りつつあったあの頃とは違う表情が窓には映されていた。

 

 笑っているわけでも、苦痛に満ち溢れている表情でもない。

 そこにあったのは決意そのものだった……。

 

「結人、私は結人のことを神様だと信じてた、崇拝してた。違う、結人もただ一人の人間だって言い聞かせていたつもりだったけど、心の奥側にあるものが本当の私だったんだ」

 

 たった二文字のものが、どれだけの意味に繋がるのか未来を導けて行くのか、それを示して行くのは私自身が導くものになる……。

 

「酷い話だよね、自分で言い聞かせていたのにいざ自分の味方をしてくれないその瞬間に私は結人に当たってしまった。自分が重ねて来た業や罪から逃げようとしているだけの事実だけなのは変わらないのにね」

 

「本当に酷い話だよね、自分の味方をしてくれないって分かった途端すぐに失望して裏切られたと思っちゃうなんて」

 

  テーブルの下で私は自分の指を内側に折りながらも、あのときのことを思い出す。

 一つ一つ指を折り曲げていく度にどうしてそういう感情になったのか、どうして結人のことを神様だとなっていたのというのを再確認し直すために……。

 

 すると、結人も窓の方から景色を眺めていた……。

 窓に映し出されていた彼の姿は過去のことを思い出しているかのように、遠い目をしていたけどその目は何処か自分の傷口を抉っているようにも見えていた……。

 

「初音、お前にはちゃんと話したことなかったよな……。俺は……俺は燈と立希のことを傷つけたことがあるんだ」

 

「結人が……?」

 

 また一つ自分が神様だと信じていた彼の中に意外な一面があったとなっていた。

 その思考はもう捨てたはずなのに、本当なのかな?となっていた。あんまり立希ちゃんとは話したことはないけど、時々スマホを見ながらも何処か穏やかな表情になっている姿があった。一度だけ、海鈴ちゃんが……。

 

『彼ですか?良かったですね』

 

『は?違うから』

 

『顔を見れば分かりますよ』

 

『違うから』

 

 と話している声がしていた……。

 そのときは誰のことだろう?となっていたけど、ちゃんと考えてみればそれが結人のことだったんだって……。だからこそ、信じることが出来なかった。あの立希ちゃんにそこまでの表情をさせる結人が二人のことを傷つけたことがあるなんて……って。

 

「その頃の俺は燈にすげえ劣等感を抱えていたんだ。自分が導いてやった、進めさせたなんて言うつもりはねえけど燈は意志が弱い奴だったんだ。いつも俺の後ろばかり歩くような奴だったけど、俺はあいつのために何かしてあげようってなったんだ」

 

 とてもいい話のようにしか聞こえていなかった。

 きっとこれからも明るく二人の道が紡がれていく物語になるというのに、浮かない顔をしていた。

 

「中学のとき、あいつはバンド……CRYCHICをやるんだって言ってた。俺はそれを自分のことのように馬鹿みてえに喜んでいたけど、ドス黒い何かをはっきりとさせることにも繋がってしまった」

 

「はっきりと……させること?」

 

「ああ、俺の中にはあったんだよ。燈に対する劣等感が」

 

 劣等感……って彼は言っていたけど私は自分の耳を疑っていた。

 幸せそのものの二人にどうして影が出てき始めたのか、それが分からなかったから……。

 

「初めは小さなシミだったのかもしれなかったけど、そのシミが徐々に俺の全身に広がっていて気づいたときにはもう俺は劣等感しかなかった。それが俺の本当の気持ちだって信じきっていた。そこには確かに友情とかそういうものがあったはずなのに、俺はあいつのことを突き放した」

 

「それからだよ、俺は燈とも連絡しなくなったし立希とも連絡しなくなった。二人は俺にとって唯一の繋がりでもあったはずなのにそれを自ら断ち切ってしまった。自分の中にある劣等感と言う名の怪物を受け入れることが出来なくて、逃げ出してしまった」

 

 それはあまりにも人間らしさ溢れる話……だった。

 何処か大人びていて自分の信条を持っている今の彼とは全く違う姿だった…‥‥。

 

「どうやって燈ちゃん達とは仲直りしたの?」

 

「燈が俺のことを諦めなかったから、なによりも愛音の奴が俺のことに馬鹿みたいに首を突っ込んできたってのもある。あの二人の諦めなさに俺は手が負えなくなって、俺はいつしか認めちまった。自分の中に潜む劣等感って言う奴を……。認めるつもりなんてこれっぽちもなかったくせに、逃げたかったくせに受け入れるだけの器なんて持ちあわせていなかったくせに言われただけのが救われた気がしたんだ」

 

 

 

「愛音からは当たり前のことを当たり前にしているって答えを……。燈からはそれでもいい、それでもいいって教えてくれた。自分の中になかった答えを二人を見つけてくれた。そいつはまるで探す事が困難な四葉のクローバーみたいに二人は俺の幸せを見つけてくれた、いやあいつらだけじゃねえんだ」

 

 

 

 

 

「MyGO!!!!!のみんなが……それを教えてくれたんだ」

 

 彼の行動原理というものに触れた……。

 自慢するつもりなんてこれっぽちもない。私には人の言葉や人が作った音楽から歌詞の意味とかそういうものを比較的読み取れることが出来る。祥ちゃんがムジカをどうでもいいと言い出したときは、それを汲み取ることは出来なかったけどそれでも今の結人の言動だけでどれだけのものを貰ったのかなんて想像できていた……。

 

 それはきっと楽しいこと、嬉しいことばかりじゃない。

 苦しかったこと、悲しかったことやそういうものも多かったっていうのを彼の一言一句から……。そして、結人の表情からそれを読み取ることが出来ていた。一番それに触れることが出来ていたのは彼の話していた内容。そこに物語が詰められているって……。

 

 

 星乃結人としての物語が……。

 

 

 

 

「結人は前に進めたって感じはする……?」

 

「ちょっと前までの俺ならきっと違うって答えていたと思うけど、今ならはっきりと言える。俺は前に進めているって……。すげえ泥臭くなりながらも前に進めているからぶっちゃけ階段一段上がるのにどれだけの無駄な労力を使っているのかもしれないって思うと滑稽かもしれねえけどな」

 

「そんなことないよ」

 

 自虐気味に答えている結人の話に私は否定を明確にしていた。

 違う、結人は滑稽なんかじゃない。私と違ってちゃんと進むことを示した。かつての結人がそうだとしても……。

 

「私や初華のこと、そして睦ちゃんやモーティスちゃんのことを助けてくれたのは結人のおかげだよ。例え、そこに至るまで色々と大変だったとしても結人は人から見ればどう考えても無理だっていうことを何度もやり遂げてみせた。普通の人ならそこまでしてくれないのに、結人はそこまでしてくれた」

 

 それがきっと当たり前のことを当たり前にするってことに繋がるのかもしれないけど、結人の当たり前というのは途方もなく果てしない、宇宙そのものだった。それはもう仏様だとか神様だとかそういう次元じゃない。言い過ぎかもしれないけど、それが相応しかった。

 

「だからこそ私は結人の一面に触れてしまったからこそ、結人のことを神様だと崇拝していたのかもしれない。結人だったら、きっと仕方なかったって言ってくれるのかもしれないって期待していた自分がいたんだって確信できた……」

 

 彼もまた人間だったということを知り得ることが出来た今……。

 私はあのときのように彼のことを神様だと思うとのはもうやめる。彼は神様なんかじゃない、ましてや怪物なんかでもない。ただ人間らしくあり続けていただけ……。隣に居た燈ちゃんという存在に……。

 

 だからこそ、私は私の答えを示したかった……。

 

「結人、私はもう……逃げない……。三角初華としてやってしまった罪、三角初音としてやってしまった業を……。結人の話を聞いていてやっぱり逃げるべきじゃないって強く思えた。結人もまたただの人なんだって知れたからこそ……私も進みたいって……」

 

 彼はふと笑みを浮かべていた……。

 それはきっとただの人間というのに反応していた。多分、結人はこうして誰かに自分を人間扱いされることが案外嬉しかったのかもしれない……。結人はメニュー表を開きながらも、目を通していた。

 

「お前がそうやってもう何かを抱えることもなく、打ち明けてくれるのは嬉しい。それも大きな一歩だと思う」

 

「そして、もっと重要なのはそれに気づけて……。さぁ、自分はどうする?ってなれることが一番重要なんだよ。だから、お前は前に進み続けろ。お前にはその権利がある、罪を背負って生き続ける。それが三角初華としてだとしても、三角初音だとしてもお前はお前であることには変わりない。お前がどうやって前に進んで行くが大事なんだ」

 

「これも話したことなかったんだけど……俺の名前は結人って名前なんだが由来があるんだ。人と人との繋がりを結ぶ人になって欲しい……そういう想いが込められている名前なんだ。誰かとの繋がりを決して絶やしてはならない、母さんからはそういうことを教わった。結局、俺は繋がりを二度も断ち切っちまったけどな……」

 

 結人の名前の由来……。

 確かにそれは凄いいい意味が込められている名前だった……。人と人を結ぶ、彼の今の姿を表しているかのような人だった……。

 

「それでも、俺はあいつらの手を取った。自分が今まで見て見ぬふりをしていたもの、それを受け入れるのって滅茶苦茶大変だし覚悟がいるけど、そこに辿り着けるなら後は進むだけだ。簡単なことに聞こえるけど、難しい。初音なら分かるだろ?」

 

 彼は私に語り掛けていた……。

 まるでそれは私も一緒でしょ?という意味合いが込められているような気がしていたけど、彼の言葉や問いかけにこれほどまでに心というものが救済されて気がしてならなかった。

 

 五感を通じるもの……。

 言葉の持つ意味の強さ……。無人島に持って行くもの……。

 

 

 

 何よりも逃げない勇気を学ばせて貰った……。

 同じ高校一年生なのに、彼の方がずっと大人びている。全部彼から学ばせてそれって大事だなーってなってばかり。ただ単に彼のことを凄いなとなっていたけど、今ならその大切さを噛み締めることができる。

 

 

 

「……」

 

 スマホに通知が流れると、それはマネージャーさんからの通知だった……。

 確認してみると、その内容は……私が今一番求めていたのもの……。覚悟こそ必要だけど、私は逃げるつもりはなかった。

 

 

 

 

 

 

「結人……私やれるだけ……」

 

 

 

 

 

 

 

「やってみるよ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「前に進みたいから……」

 

 

 

 

 

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