【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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頑張ってるのは認めてあげる

 マネージャーさんにはアイフラメのライブに行く前から頼んでいたことがあった……。

 一週間前、私はもしアイフラメとの仕事が出来るなら組んで欲しいと頼んでいた。難しいとも言われていたけど、それがどれほど大変なことなのかは知っていた。アイフラメは基本的にテレビ露出をしない。これは豊川グループの影響もあったけど、彼女自身が自分の世界観を大事にしているということもあった。

 

 そういうのがあったから、もしかしたら出来ないかもしれないと考えてはいたけどこの通知が来て私はホッとしていた。その内容は……アイフラメとの共演を教えてくれる内容だったから……。

 

 ただ、マネージャーからの連絡にはこうあった……。

 その記者さんはちょっと変わり者だから、あまり取材は受けない方がいいって……。少し迷いつつも、私はまなちゃんも一緒にできますか?と聞いてみた。もし、私が進むのを拒みそうになったらまなちゃんなら後押ししてくれる。誰かに支えてもらわないといけないのは複雑だけど、今は誰かと一緒に進みたいから……。だから、私は了承の返事を送った。

 

 睦ちゃんが言ってた。

 誰かに頼るということは、1人じゃ何もできないと言う気持ちを増やすことになるかもしれない。それでも、私は結人が言っていた人と人を結ぶものを信じたい。誰かとの繋がりを大事にしたい。

 

 

 

 

 

 覚悟ならもう決めた。

 後はもう実行するだけ……。私が一段ずつ前に進んで行くために……。

 

 

 

 

 三日後……。

 私はある雑誌の取材を受けることになった……。そこに居たのはまなちゃん……。

 

「あっ、ういちゃん今日はよろしくね!!」

 

「うん、よろしくねまなちゃん」

 

 今日の仕事は雑誌の取材……。

 sumimiとしての取材ともう一人、アイフラメとしての取材を受けたいと言われていた。私も出るとなった途端、向こう側から内容の変更を提案されたけど私はマネージャーさんを通じてそれを了承していた。ちょっとだけ不思議でしょうがなかったけど、マネージャーさんに聞こうとはしなかった。嫌な予感はしていたけど……。

 

「この前のことはごめんねまなちゃん……」

 

「ううん、気にしないで!ういちゃんの本音ちゃんと聞けてよかったよ!」

 

 まなちゃんはあの日、私の本音を本性を聞いた一人……。

 あんなことを聞いたらなんて声を掛ければいいのかとなっていた私に、これまで通りに話しかけてくれていたのもまなちゃんだった……。何も恥じらうことはない、何も悔いることはないと言ってくれたように私という人間の氷を溶かしてくれていた。本当に眩しいぐらいの子だった……。

 

「それでアイちゃんってまだ来ないのかな?」

 

「アイちゃん?ああ、アイフラメだからかな?」

 

「うん!ほら、こういうのってあだ名があったほうが呼びやすいでしょ?」

 

 あだ名……。

 確かにそういうものがあった方が親しみやすさというのはあるのかも……。流石に今更、初華のことをあだ名で呼べるような関係ではないけど……。

 

「はぁ……」

 

 溜め息がしていた。

 それが後ろから聞こえて来たような気がして振り向くと、そこには……。

 

「初華……」

 

「アイフラメ、今は初華じゃない」

 

「ごめん、そうだったね……」

 

 ちゃんと自分の世界観を大事にしているアイフラメ。

 そういうところは凄くしっかりしていると私は頷いていた。

 

「あっアイちゃん!今日はよろしくね!」

 

「……よろしくお願いします」

 

 一瞬「アイ……?」と言っている声が聞こえていた。

 それが自分のあだ名だと気づいたのか、若干困惑しながらもまなちゃんに挨拶を済ませていた。

 

「それじゃあ……私は楽屋に先に行くから」

 

「あっ!!アイちゃんも一緒にドーナッツどうかな?」

 

「……後で取りに来るので」

 

 アイフラメは去って行った……。

 初華の後ろ姿を見ていたけど、その背中はかつてのような鋭さはやや薄れていたような気がしていた。それはきっと私たちからの呪縛から、解放されたからなのかもしれない……。

 

 

 

 

「……」

 

 明らかに初華は苛立っていた。

 フードの中から顔は見えないようになっていたから、表情までは上手く読めなかったけどそれでも今どういう感情を持っているのか見抜くことはできた。

 

 膝が上下に動いているように見える。していないのに貧乏ゆすりをしているように見える。そんな感覚すら覚えていたのは明らかに取材をしに来た人の態度が露骨に酷かったから。

 

「じゃあ、最後に一つ面白い質問をいいかな?実はsumimiやAve Mujicaが売れたのは豊川グループのおかげなんて話があるけどそこのところはどうかな?」

 

「え、えっと……それは……」

 

 関係ないです、と言い切ればよかった……。

 なのに、私は否定することが出来なかった。先ほどから記者さんが私に攻撃するかのような質問ばかりしていたから……。sumimiをやっているのにAve Mujicaを掛け持ちでしているのはどういう気持ち?だとかムジカが休止していたのは実はメンバー同士の不仲が原因だとかそういう話ばかり聞いて来ていた。マネージャーさんから聞いていたつもりだったけど、まさか此処までとは想像していなかった。

 

「あの……すみません記者さん……。確かにスポンサーさんには豊川グループに居ましたけど、別に私達はスポンサーさんのおかげでよいしょされたとかそういう訳じゃなくて」

 

「ああ、違うんだごめんねまなちゃん……。いやねぇ、私としてもこういう話は俄かには信じがたいけど実際ムジカもsumimiもスポンサーには豊川グループが居たよね?それに、豊川グループがスポンサーの実は結構売れたりするんだよねぇ。しかも、アイフラメちゃんだっけ?キミは「何が言いたいんですか?」」

 

 アイフラメは……舌打ちをした後に立ち上がりながらも記者に圧を掛ける。

 それは怒りという矛先を歌声として通しているアイフラメの姿そのものだった……。

 

「確かに私もスポンサーとして豊川グループが居た時期もありました。今は違いますが、まさかただスポンサーだからと言って縁がある人間だと言いたいんですか?だとしたら、滑稽もいいところですね。貴方の予想は全部外れています」

 

「私もまなさんもムジカも……そこにいる初華(sumimi)だって自分達の力で成し遂げて来たドロリスだってそう。スポンサーの力だと言いたいならそう思えばいい。だけど、これだけははっきりと言わせて貰う」

 

 

 

 

「アンタのところの会社にはこう伝えておく。二度とアンタのところの取材は受けない。そして、アンタから受けたくだらない取材内容についても全部暴露させてもらう。それでいいよね?先に喧嘩を吹っ掛けてきたのはそっちなんだから」

 

「なっ!!?」

 

 全部言い切ったアイフラメは座り直すと、私の方を向いて「何か言わないの?言わないなら別にいいけど?」という顔をしていた。アイフラメが……いや、初華が此処までお膳立てしてくれたのに何もしないで終わる。そんなのは嫌だ。

 

 私は示すと決めた。

 これから先、自分が前へ進んで行くって……。それがどれだけ小さな一歩でも私は進んで行きたいって……。

 

「申し訳ありません……私がsumimiとムジカを両立しているのはまなちゃんや事務所からちゃんと了承を貰っている上なんです。そして、ムジカでメンバー同士の争いがあったというのも本当の話です」

 

「え!!?ういちゃん!!?」

 

 まなちゃんが大きな口を開けた後に、すぐ口元を手で隠していた。

 初華の方は溜め息をついていた。

 

「そして、私は……」

 

 

 

 

「豊川グループ元会長の娘です、私の名前は三角初華。愛人の娘なんです」

 

「う、ういちゃん……!!なにもそこまで言わなくてもいいんだよ!!?」

 

 制止してくれているまなちゃんに「ごめん」と言いつつも、私は言葉を止めることはしなかった。

 

「私のことを書きたければ書いてください。但し、一つだけ言わせて貰います」

 

「な、なんでしょうか……?」

 

「もし、まなちゃんやムジカのみんな……。そして、アイフラメさんに危害を加えるような真似をした場合は私が……」

 

 

 

 

「許さないということだけを」

 

 脅迫にも近いものだった……。

 それでも、私は撤回するつもりはなかった。記者の人が今自分がどれだけ窮地に立たされているのを自覚していた。初華からは暴露すると言われて、私から他のみんなに危害を加えたら許さないという発言をしたことによって八方塞がりとなっている。

 

 記者は汗を拭きながらも……今日の取材は無かったことにして欲しいと頼んできていた……。

 私たちはそれを快く了承して今日の取材は終わることになった。

 

 

 

 

 

「ういちゃん、大丈夫だった?」

 

「うん、大丈夫だったよ」

 

 楽屋に戻って来た私達……。

 ういちゃんは半分に割れたドーナツを渡してくれていた。それを一口食べた後に返事をしていた。

 

「でも良かったの?ういちゃんのこと喋って……あの記者さんが本当にういちゃんのこと記事にしちゃったら」

 

「いや……あれはしないと思います」

 

「あれ?アイちゃん……?」

 

 私達の楽屋に入って来たのは初華だった……。

 楽屋に入ってもフードを外すことなかったが、手にはホイップクリーム多めのフラペチーノを持っていた。

 

「私が脅したのもありますけど……初華がほぼ脅迫したから全然大丈夫かと……。まあ、それでも記事にされたらなんとかするんでしょ?」

 

「うん……みんなを守りたい、から」

 

「それがアンタの前に進む方向だって言うのは分かった。まあ、私に御膳立てされているようじゃまだまだ全然だけどね」

 

「むぅ、実のお姉ちゃんでしょ?そんな言い方しちゃダメだよ?」

 

 軽口を叩きながらも、痛い所を突いてくる初華……。

 まなちゃんはそれを駄目だよと指摘されている。初華は手を腰辺りに置きながらも、発言を続ける。

 

「別にその人のことを怒りに来たわけじゃありません、ただ私が言ってくれたことは……ちゃんと守ろうとしてくれているって言うのは分かりましたし……でも本当にさっきみたいに私や誰かに御膳立てされているようじゃ夜道には気をつけなよと言いたくなるところもありますね」

 

「それでも……よく頑張った方だと思うよ。初音にしては……」

 

「ありがとう……初華」

 

「別に私は何もしてないし、Sumimiだけは初華として続けていくって決めたんだからそれぐらいはやって貰わなくちゃいけない。そう思っただけ」

 

 フードの中に初華の表情が隠れていたから、そんなに見えることはなかったけど前のように牙を向けている表情は全くなかった……。

 

「まあ、あのクズ記者がカスだったのは間違いないけど。大方、どうせ豊川とアタシ達の繋がりの噂でも掘ろうとしたんだろうけど……。というか、初音もそうだけどまなさんも仕事選んだ方がいいですよ。あの記者は結構悪い噂多いですから」

 

「確かにマネちゃんから聞いたとき結構変わってる人だって聞いたかも……」

 

「ええ、なんでも芸能人のゴシップを探るために色々と危ない橋を自分で渡っている人らしいので。まあ、私としてはある意味睨みを効かせるちょうどいい機会かと思って取材を受けたんですけど」

 

 どうやら初華は先ほどの記者がどういう人なのか、知っているようだった……。

 そして、それも私も知っていた。多分、こうやって含みを混ぜた言い方をしていたのは気づいているだろうから危ないところに居ないでちゃんと仕事を選べと言いたかったのかもしれない。

 

「まあ、おかげでsumimiの初華としての意地は見れたけど……ね?初音」

 

「本当にありがとう初華」

 

「別になにもしてない……私は覚悟を知りたかっただけ。アンタがそうやって生きていくって決めたんだから」

 

「……そうだね」

 

 私は呼吸をする……。それはあの後、マネージャーを通しての連絡だった……。

 

『sumimiは初華でいい。アンタもその方がいいでしょ?』

 

 私が自分が初音であると打ち明けているのを何処かで知ったのか、初華はsumimiだけ初華として続けていく……。それは唯一初華が言ってくれたことだった。今までのファンからすれば自分の名が変わるということはちょっとだけ不安になることもある。それを考えてくれた初華はsumimiの間だけ初華で居ることを許してくれた。本当に感謝しきれない、自分の妹に……。

 

「それじゃあ、私は帰るから……」

「あっ、アイちゃん!ドーナツ食べ「食べていきます、ポンデリングありますか?」」

「あっ、あるよ!!」

「ありがとうございます、いただきます」

 

 先ほどまで確かに居たアイフラメがただの初華と化していた……。

 

「ねぇねぇ、それってスタバの?よく行くの?」

「え?まあ、行きますけど」

「じゃあ、今度オススメのトッピング教えて欲しいな」

「すみません、私ホイップ多めしか頼まないんで……。力にになれないと思います。ただ最近のオススメとかならまあ教えられますけど」

「え!?本当、じゃあ教えて欲しいな!」

 

 そこにいるのは……ただの14歳の中学生で三角初華そのものだった。

 あの頃の純粋無垢の初華の姿は彼女の中に残り続けていた……。

 

「なに笑ってんの?」

 

 ムッとしながらも私のことを見つめる初華に私は首を横に振る。

 

「ううん、私ももう一個いいかな?まなちゃん」

 

「はい、どうぞ!ういちゃん!幸せはみんなのものだもんね!!」

 

 幸せ……。

 一歩を踏み出すということは本当に難しい。結人や睦ちゃん……。

 

 そして祥ちゃんや初華もそれを実行して見せた……。

 私にたった今それが出来た気がしたけど、もう一つ……。もう一つ何かを知ることが出来れば、私はもっと進めるような気がしていた。地道に進むことも大事だけど、それ以上に進むという覚悟を決めるなら……それが必要だから……。

 

 

 

 

 

「あれ……もしかして……!?」

 

 雑誌の取材を終えた……。

 既に夜になっていた。今は買い物をしに行こうとしていた。いつものショッピングモールへと向かおうとしていたときだった……。外階段の方へとめをむけたときに、見覚えのあるピンク色のロングヘアーの女性が座っていた。声を掛けて来たのは向こうから……。

 

 

 

 

 

 

「愛音ちゃん……?」

 

 

 

 

 

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