【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
「え?初華!?」
「……初音って呼んで」
「え?初音?」
「私の本当の名前……。初華は妹の名前なんだ」
「えぇ!!!?」
事態が呑み込めずにいる愛音ちゃんの隣に座る私……。
学校で自分の本当の名前が初音って話したときもそうだった。本当に「どういうこと?」みたいな顔をされたけど、私はそれが自分なんだよと言い張り続けていた。海鈴ちゃんは何処か安らいだ顔をしていたのを覚えている。
「そ、そうなんだ……。え?えっと、じゃあ初華は偽名?」
「妹の名前、勝手に使ってたんだ……」
「え!!?ご、ごめん。絶対聞いちゃいけないことだったよね!!?」
「ううん、気にしないで」
こういうことが増えていくことになる。
それは自然のことだから私は「大丈夫だよ」と言いつつも、愛音ちゃんを落ち着かせていた。本当に申し訳なさそうな顔をしていたから……。
「ところで愛音ちゃんはなにかあったの?私に気づく前に結構ぼんやりとしてたけど?」
気になって聞いてみた。
いつもならこういうことには首をあんまり突っ込まないけど、愛音ちゃんの様子が明らかにおかしかった。空を見上げて「どうしよう」と言う顔をしていたから……。
「え?分かるの!?じゃあ聞いてくれる!?」
「うん、いいよ」
餌に掛かった魚みたいに愛音ちゃんは語り始める……。
「それがさぁ……ゆいくんって本当にヤバいんだよ!?私には抱きつくし、楽奈ちゃんにも……!それにともりんには愛してるとか言っちゃう始末なんだよ!!?それのせいでともりん暫く顔真っ赤にしていたし、私は私でどう反応すればいいのか分からないし!!」
「それなのに、りっきーと楽奈ちゃんは通常運転だしそよりんとかはなんか微妙に不機嫌になりながらも若干偶に笑みを浮かべてて怖いんだよね!!いやぁ、もうゆいくんって爆心地過ぎてやばいって!!」
いきなり盛り上がり始める愛音ちゃんに困惑する……。
「そ、そうなんだ……」
りっきーって言う人が誰なのかは私には分からなかった……。
多分名前が出て来た感じに立希ちゃんの名前が出て来ていなかったから、多分立希ちゃんのあだ名なのかな……?
それにしても……。
「もしかして結人ってヤバい人なのかな……?」
小声でそんな声を出す……。
愛音ちゃんの口から出た話だから、愛音ちゃん視点のことしか知ることはできないけど凄くやりたい放題やっているような……。結人の口から聞いたわけじゃないから、何とも言えないけど……。でもなんだか、愛音ちゃん……。
「嬉しそうだね」
楽しそうだった。
彼のことをヤバい、ヤバいと感情が乱されると訴えているのに嬉しそうに顔を緩ませていた。それはまるで恋する乙女みたいに……。
「え?わ、私が……!?いやいや、こう見えてもゆいくんの行動にもいつもビクビクしてるんだよ!?何し始めるか分からないって言うかさ、突拍子もないことを始めたと思ったらいきなり解決していたり大きく動いたりしてる……あれ?初音、笑ってる?」
「ううん、結人って何処でもそんな感じなんだなって……」
彼のことだから特定の場所とか特定の人物だけにそういうことはない。
なんとなく勘付き始めていたけど、本当に思っていた通りの子だということを知って思わずクスっと笑ってしまっていた。口元を押さえながらも私は自分のことを思い出していた……。
「私もね、同じだったんだ」
「え?どういうこと?」
「結人に怒られたんだ。逃げてんじゃねえって」
「え!?ゆいくん、そんなこと言ったの!?」
「あーえっとね、結人が悪いわけじゃないんだ……。寧ろ、自分がしてきたことから逃げ出してきたのが悪かったから……自分の罪の意識から逃げて他の誰かに擦り付けて来たのが私の方だから……」
全部を鳥籠という霧の中に包み込んで私はそれを仕方ないものと判断していた。
そんな鳥籠を破壊したのが彼だった。彼は私に「仕方なかった」なんて慰めを掛けるではなく、真っ向から対立してきた。それが私にとってどんな凶器よりも辛かったけど、今はその行為によって助けられていて……前へと進みだそうとなれている。
ちょっぴり可笑しな話だけど、彼には本当に感謝しても感謝しきれない。
「そうなんだ……」
愛音ちゃんは手を組んだ後に、何かを思い出しているのか手に意識を集中させている。
「実はさ、此処で私はゆいくんに怒られたことがあったんだ」
「愛音ちゃんも……?」
初耳だった……。
愛音ちゃんとの関わりなんて燈ちゃんと会話をしているときにほんの僅かにあったぐらいだけど、それでも結構コミュニケーション能力が高くてグイグイ来る子という印象があったから。結人に怒られるような子じゃないとなっていたからなのかもしれない。
「うん、私が色々あってバンドをやめるって言い出したときにゆいくんが凄い剣幕になって怒ってくれたんだ。誰かに何かを言われたぐらいでバンドをやめようとするんじゃねえって……。自分勝手だけどさ、心が温かくなってたんだ……。彼があそこまで熱い男の子だったなんてあのとき初めて知ったけど、それでも嫌な気分にならなかったんだ……」
照れ臭そうに頬を染めながらも、愛音ちゃんは話をしてくれている。
「こうも言ってくれたんだ、繋ぎ止めたのはお前だろって……。ともりんとゆいくんが溝があったとき、なんとかしなくちゃってなってたのは友達だから助けたいっていう一心があったからこそだけど、そこまで重く言われるとさ……なんかこっちも踏み止まってもいいかなってなれたんだ」
虹色になっていた……。
照れ臭そうな顔はもう何処にもなかった。それは彼と自分が繋がりがより強固なものへと変貌した。そういうものだと私は認識していた。こういうこと……こういうことなのかもしれない結人が話していたのは……。
「踏み止まるの大変だったけど、ゆいくんとかともりん達が居てくれたから頑張ろうかなってなれたのは事実だったんだ。逃げるなって言われたからなのもあるかもしれないけど、やっぱりそういう積み重ねって言うのかな?そういうものがあったからゆいくんの言葉が響いたんだと思う」
「積み重ね……」
それは前に彼が話していたことそのものだ……。
小さな言葉の積み重ねが大事だと彼は教えてくれた。まなちゃんもそうだった……。あの二人から教えられていなければ、私は愛音ちゃんの話に頷くことすら出来ずにただ「へぇ……」となっていた。
「愛音ちゃんは……繋がりが大事だと思う?」
「え?私……?大事かな……。まあ、私って見栄っ張りってりっきーとかそよりんに言われがちだけどそういうのって大事じゃん?それに見栄を張るにしてもやっぱりちゃんとそれが見てくれる人が居ないと意味ないしさ」
「それが結人?」
「え?い、いやぁ……ゆいくんとは限らないけどさ……」
硬直する愛音ちゃん……。
多分、これは結人のことをかなり意識しているっぽい……。立希ちゃん以外にもこういう繋がりの仕方があるんだな結人は……。
「まあ、それはおいておいて!!やっぱり、人と人の繋がりって大事じゃん?だから、私はそういう人と人の結びを大事にしたいんだ」
「人と人との結び……」
何度も聞いて来た「繋がり」や「結び」という単語……。
私の中でその答えがようやく導けそうになっていた。どうして結人が前に進みだそうとなれたのかを愛音ちゃんと話していてその一部に触れることが出来た。
『人と人との繋がりを結ぶ人になって欲しい、誰かとの繋がりを決して絶やしてはならない』
鵜呑みにするのではなく、自分なりに改変する。
彼のお母さんが言っていた繋がりとは違うかもしれないけど、私にとっての繋がりというのは結べば結ぶほど強く繋がり合っていく……。それは繋がり合うだけでなく、より強固なものへと変貌を遂げることもある。良い意味でも悪い意味でも……私たちがそうだったように……。
『それでも……よく頑張った方だと思うよ』
初華が認めてくれた。
私が進み出す一歩を……。
なら、私もこの先やることは変わらない……。
私が進むべきは……。
自分の意志を曲げないこと……。
これから先、睦ちゃんが言っていたように一人では出来ないという背後霊がやってくるかもしれない。過去の私が苦しまなくていいと言ってくれるかもしれない。それでも、私は逃げない。結人に逃げるなと言われたからじゃない。私が決めた。
もう逃げないって……。
あの日、父と対立すると決めたその日からもう決めていた。なら、私の出すべき答えは一つ。初華への連絡を送った後に、私は愛音ちゃんにこう伝える。
「────ありがとう」
「愛音ちゃん」
こういう行動の積み重ね。
それは決して小さなものなんかじゃない、私にとってとても重要なものだから……。
「あっ、そうだ……結人に連絡しておかないと」
『ありがとう、相談に乗ってくれて』
連絡をすると、返事はすぐに来る。
『気にすんな』
既読のマークがついた後に、すぐに返事が来ていて私はそれに安心感を覚えていた……。
その返事を見ただけで私は一人でなんとかしようとせず、彼に頼ってよかったとなれていた……。その返事は簡素だけど、彼の心が込められていたから……。