【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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決意の裏には不穏な影が在り

「睦……貴方にも改めて謝っておきたいですわ……」

 

 一度はしたこと……。

 それ以上、する必要がなくて私は改めてこうして謝りたかった。

 

「貴方には今まで辛いことを背負わせてしまった……。CRYCHICの頃からそうですわ、私は貴方に全部を押し付けてそよへの仲介役と化していた……。自分が今どういう状況なのか、貴方から通してそよに話をさせることで、貴方はきっと傷つくこともあったはずですわ。だから……」

 

 

 

 

「ごめんなさいですわ……」

 

 CRYCHICでの初めてのライブを終えた後、私はお父様のことをどうにかしないということばかり考えていましたわ。きっといつかは自分の足で歩いてくれる。ほとぼりが冷めたら、またあの頃みたいに笑ってくれると信じていた自分がいたからですの……。

 

 それを免罪符として私は睦に全部を押し付けていた……。

 その結果、睦に全部押し付けて彼女を傷つけさせることになったこれでは幼馴染失格ですわ……。

 

「祥のことを疫病神として思っていた時期もあった、それを否定しようと霧払いしたときもあったけど自分の中で抱えている感情を払うことなんて出来なかった。だから、私は自分を受け入れるのに時間が掛かった……」

 

「私は……祥のことを恨んでない……。私もそよ達を傷つけた、本当のことを知っているのに上手く誤魔化すことが出来なくてそよに怒られることもあった……。みんなみたいに上手く話すことが出来なかった……。悪いのは私も……だから。上手く伝えなかった……から」

 

「それでも……私は今……祥と……」

 

 

 

 

 

 

「バンドがやれていることが嬉しい……」

 

「睦……」

 

 それは睦という人間の本音でしかなかった……。

 自分という人間を掴み取ってからというものの、睦は何度も私に本音というものをぶつけてくれていた。モルフォニカのライブを見に行きたい、ムジカをまたやりたい。嫌われているはずなのに、あの祐天寺さんにすら向き合おうとしてた。

 

「本当に……」

 

 

 

 

 

「本当に変わったのですね、睦……貴方は……」

 

 その意志は本当に素晴らしいとしか言いようがありませんわ……。

 

『祥の隣に立つ、そして今度こそ……ムジカで……』

 

 それはあのとき、私に初めて自分の意見を述べてから貴方は真っ直ぐに進んでいるんですわね。なら私は友としてお祝いしたい、そういう感情すら芽生えていましたわ……。

 

「睦……どうしたんですの?」

 

 周りを確認し始める睦……。

 

「誰かいた?」

 

 いきなり怖いことを言い始める睦……。

 いえ、この場所は誰が居てもおかしくはありませんわ。

 

「此処は歩道ですわ、誰か居てもおかしくはありませんわよ?」

 

 誰も通ってない歩道の中で私は不確かなことを言いましたわ……。

 だからこそ、睦の言う気配が多少不気味に感じたんですわ。

 

「そうだね……」

 

 睦が消え入りそうな声になりながらも自己主張していた……。

 睦、いったい誰を見たというんですの……?歩道であるならば、誰が居てもおかしくはないと言うのに……。

 

「とにかく行きますわよ睦……」

 

「わかった……」

 

 私と睦はその気配を見なかったことにして帰りましたわ。

 しかし、後になって気づいたんですの……。

 

 

 

 

 その気配が本当だったと言うことを……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、朝……。

 私はムジカとしてではなく、一人の学生として制服を着ていた……。但し、それは学校という場所に行く前に私はある場所へと来ていた……。そう、それこそが……。

 

「お母さま、報告をするにはかなり遅れてしまましたわ……思えばお母様が死んでから私は突発的な行動をするようになったのかもしれませんわ……」

 

 墓石の前で私はただ一人呟く……。

 

「あの日からですわね、私がそうだったのは……」

 

 お母様が死んで亡霊のように生き続けていた私……。

 睦の前やお父様の前でせめて笑顔で居続けようとする。それがどれだけ自分に鞭を打っていたことか、だからこそあの日私はモルフォニカというバンドに強く惹かれた。高等部の先輩方はこんなにも素晴らしく感情的な曲を歌うことができる、弾くことができる。私の胸は焦がれて居ましたわ……。

 

「そして、あの日燈と出会った……」

 

 燈があの日、歩道橋を飛び越えようとしてるのを見て止めた。勘違いで終わってしまったことは、偶然にも燈という一人の人間をバンドという形に引き込む形になった。

 

 偶然的であれども、私は燈のノートを見たとき思ったんですわ……。

 これは歌だと……。感情の羅列、自分の心の内側で抱え込んでいることを書き出しているあの内容は……。

 

「人間らしさ、そのものだと思ったんですわ……」

 

 バンドを誘ったのはそれが要因でしたわ……。

 母を亡くして、私自身の孤独や喪失感を表明してくれていた。寄り添ってくれていたような気がしていた。抑圧された感情が孤独の「歌詞」となっていた、本当に偶然と偶然の出来事が重なって私に一筋の光を導いてくれたような気がしていましたわ……。

 

「貴方、そう思っておりますわよね……?」

 

 

 

 

 

「星乃さん……」

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「悪いな、盗み聞きするつもりはなかった」

 

 この朝早くに墓参りするというご苦労な奴が居ると思えば、それは祥子だった。

 真剣そのものな表情で母親に自分の決意を伝えているのを見ていたから、俺はとっとと去ろうと決めていたがどうやら気づかれていたようだ。

 

「構いませんわ、貴方も墓参りですの?」

 

「そんなところだ、色々あったからな」

 

「そうですわね、本当に色々ありましたわ……」

 

 此処に来るのは……最近では二回目だった。

 そんなときはまだ睦のことや初音達のことはなかった。まあ、燈とまた仲良くやれているよという報告をしに来ただけだが……。今回は色々あり過ぎてその報告と俺がどう変わったのかを話しておきたかったのもあった。

 

「親父さんの方は元気してるか?」

 

「昨日は私の為に肉じゃがを作ってくれましたわ……。じゃがいもはほぼ潰れかけでお汁の方も何処かしょっぱいですけれども、お父様もお父様で頑張ってくれていますわ……。この前も部屋の掃除をしてくれましたわ、不器用で誠実なお父様が料理や掃除をしてくれるなんて私の未来にはあまり想像できませんでしたわ……」

 

「でも見れたんだろ?」

 

「そうですわね、見たかった光景が今はにありますわ」

 

 短いながらも、父というどういう関係なのかを読み取れていた。

 

「それに、あの日初音達の問題はお父様が居なければきっと解決できませんでしたわ……。だからこそ、貴方には伝えておきたいことがありますの……」

 

 

 

 

 

「お父様、睦……そして初華や初音達のことなにからなにまでありがとうございましたわ……」

 

 今にしてみれば、俺はとんでもない数のことに首を突っ込んだ気がしないでもない。

 自分のことを本当に余計なことばかりしていたような気がしないでもないと笑いたくなりそうになっていたが、俺はこう返していた……。

 

「祥子もよく頑張っただろ」

 

「いえ、私はまだまだですわ」

 

 簡潔的な言葉だが、俺はそれだけを述べた。

 実際、RINGでの三人のライブに勇気を持って踏み出して、睦に声を掛けた。ムジカも再結成させた。初華達の問題を解決した。それだけでかなり充分なことをやっている。俺は素直に祥子のことを賞賛したかった。

 

「お前は自分のことをそう思っているかもしれないが、睦は一緒にやると決めてくれた祥子だからこそ一緒について行こうとなれたんじゃねえのか?俺は少なくとも……そう思うぞ」

 

「一緒について行く……そうですわね、あの子もきっとそう言うと思いますわ」

 

「まあ……お互い過去はロクでもねえことしていたのは事実だ。俺の方は燈や立希を傷つけて、祥子もCRYCHICという形を壊してそれぞれを傷つけた。そして、ムジカという形も……。過去を変えることは出来ないし、曲げることはできない。それでも……」

 

 

 

 

 

「どうやって今を未来を生きていくのかが重要なんじゃねえのか……?」

 

 人のことを言えるわけじゃない。

 自分のしてきたことを忘れたわけじゃない。俺が立希に今の自分がちゃんとしてると証明するのに時間がかかった。今でもそれは続いてると自覚してるし、これからもそれをしていきたい……。

 

「そうですわね、私も未来に向かって行きたいですわ。それが例え、一生許されなくても私は進みたいという意志がありますわ」

 

「それでいい……俺たちは進むしかねえんだからな」

 

 例え、許されなくても進むしかない。

 自分がこれから償っていくことを決めたからにはそうするしかない……。

 

「だけど、一つ言わせてもらうが……睦たちのことも忘れんなよ。少なくとも、あいつはきっと祥子が躊躇っていれば背中を押してくれる。そういう奴だからな」

 

「そうですわね、あの子は強い子になりましたわ……星乃さんのおかげで」

 

「別に俺は何もしてねえよ……」

 

 お決まりの自分は何もしていないと言ってしまう。

 気をつけるようにしていたはずなのに、誰かに感謝をされると言うのはやはり苦手意識が続いているようだ。

 

 

 

 

「どうにも慣れねえな……全く……」

 

 独り言をした後に、俺は祥子の母親の墓に手を合わせる……。墓石を鏡代わりにすると頬が赤くなっている自分が居てすぐにその頬を消したくなっていたが、俺はそれでも手を合わせていた。それは彼女が知っているかもしれない、初華達のことや祥子、そして清告さん達の未来を願ってのものなのかもしれなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 その日の夜、東京のあるライブ会場の楽屋の中……。

 

 

 

 

『睦たちのことも忘れんなよ……』

 

 星乃さんが言っていたあの一言。

 あれは紛れもなく私にとっても大事なこと……。彼は睦の名前を出していましたわ。しかしわ今の私には睦だけではない。初音も居てくれている。

 

「ライブ時間です、豊川さん……。今回のライブは全国ツアーに向けて大きな一歩になることは間違いありません」

 

 海鈴が予定の時間数時間前ということで私たちに確認の連絡を入れて来ましたわ……。

 

「そうですわね、海鈴さん。ベーシストとしての腕の方期待しておりますわ」

 

「ええ、勿論です。ティモリスとしての腕前もお見せいたします」

 

 楽屋の中……。

 ムジカの五人が揃っている……。私たちは問題を乗り越えて、五人として此処にいる。先ほど八幡さんの名前を出していませんでしたが、貴方が私を呼び出してくれなければきっと睦の前に出ることはできなかった。感謝しかありませんわ……。

 

「誰か廊下を走ってますね?」

 

「なにかあった?」

 

「そういえばまだ祐天寺さんがいらっしゃってませんわね……」

 

 初音の方は既に現地入りを果たしている……。

 連絡もありませんでしので八幡さんや初音に任せておいたのですが、まだ連絡がつかなかったようですね……。そろそろ私も祐天寺さんのことを確かめに行かなくてわ……と思った矢先に扉が開く……。

 

「どうしたんですの初音?」

 

 息を切らしながらも、中に入って来た初音……。

 

 

 

 

 

「みんな聞いて大変なの……!!」

 

 

 

 

 

 

 

「ライブ会場に来る前に……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にゃむちゃんが倒れたって……!!」

 

 

 

 

 

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