【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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変わった自分と不変的なもの

 言いたいことは全て言えました。

 これで若葉さんへの借りを減らすことは出来たでしょうか。チャラにするのは流石に難しいかもしれませんが、これからは彼女のことを彼に言われていた通りに支えるのではなく若葉さんが進んで行く道筋を見守りながらも……。

 

 必要であれば、支えるということをしていきたい……。

 そう、その方がいいですよね……。

 

 

 

 

 

「立希さん」

 

「なに?いきなり話しかけて……」

 

「ちゃんといつもの品は渡しましたよ」

 

 今は学校、あの家庭菜園の日を終えて次の日……。

 つまりは今日がやって来たという奴ですね。それも、今回に関しては晴れやかなものです。

 

「バイト中なんだけど……海鈴が此処に来るの珍しくない?」

 

「そう言われれば、確かに私がRINGのカフェに来るのは珍しいですね。いつも用事があるとしても、スタジオの方でしたから」

 

 カウンター席に座りながらも立希さんとの会話を続ける。

 来なかった理由はただ一つです、別に立希さんの邪魔をするつもりはなかったからというのが一番の要因ですね。カフェの方に来ても立希さんの邪魔になるだけですし、彼との時間の邪魔になるのも……。

 

「そういえば海鈴、バンドの方はどうすんの?」

 

「掛け持ちしているバンドのことですか?それならば、ムジカ以外全部辞めて来ました」

 

「は?バンドってそんな簡単に辞めるもんじゃないでしょ」

 

「勿論、それは重々承知の上です。バンドを抜けるということは簡単なことではありません、それは一つのバンドという選択肢を歪めることになります」

 

「分かってたのに辞めたわけ?」

 

 失望したかのような冷ややかな目線を向けて来る立希さん……。

 いえ、そうなるのも無理はありません。実際、私もバンドを辞めようとしたときそうなることを予期していましたし殴られることも想定の中に入れていました。しかし、現実というのは甘いものだったのかもしれません……。

 

 

 

 

『最後に一つ海鈴ちゃんに聞いてもいいかな?海鈴ちゃんにとってバンドってどういうもの?』

 

 ディスラプションのリーダーにバンドを辞めるということを伝えに行ったとき、聞かれた内容……。

 

『私にとってのバンドは……自分を表現してバンドメンバーと共に何を作り上げ、信じ続けることです。それが私が求めているバンド……です』

 

 あれこそ立希さんの言う通り、わがままでしかない。

 自分が信じるバンドを信じてみたい、それはつまるところ貴方達のバンドでは自分を満たすことが出来なかった。音楽の方向性が違うと言っているようなものです。それでも、私はこれ以上自分という『偽りの仮面』を被り続ける訳には行きませんでした。

 

 三角さんがそうであったように……。

 彼女もまた自分が三角初音であることを隠すことをやめていた。花咲川の生徒から『初華』の名で呼ばれたとき、彼女は『初音』と答え直していました。自分を偽らずに本当の自分を見せるということはどれだけ過酷なことでしょう。それは私にも図り知れないことですが、それでも私も実行してみたかったんです。

 

 後悔はしていません……。

 それがどれだけ自分勝手な都合でも、なによりも否定してくれませんでしたから……。

 

 

 

 

『頑張りなよ!海鈴ちゃん!!』

 

 夢を否定することなく、応援してくれました。

 リーダーはとても物分かりがいい人であり、面倒見がいいのは知っています。それを何度見てきました。ライブ会場のスタッフには労いと称してお菓子などを配ったりしていました。ライブが終われば、打ち上げをするのも日常的でした。私は打ち上げは参加したことはありませんが、とても楽しいと言うのは聞いたことがありました。

 

 そういう人に甘えて自分がこうやって旅立つということはどうにも甘えてしまっているという気がしていましたが、それでもいいとなれていたんです。これも一つの成長、信頼の形なのだと知っていたから……。

 

 

 

 コーヒーの中に映り込む自分の姿を見下ろしながらも、私が一気にコーヒーを飲む。

 現実の世界に戻って来る、記憶を自分の脳に置きながらも……。

 

「そうです、私は分かっていてムジカ以外のバンドを辞めて来ました。Ave Mujicaというバンドの形は確かに関係修復不可能なところまで行きました。それでも、また同じバンドを始めることが出来たというわけです。これは奇跡以外の何者でもありません。本来であれば、もう戻ることのないはずものでしたから」

 

 手に持っていた皿を強めに置いてしまう音がしていました……。

 

「すみません、立希さんのことを言っているわけではなく「別にいい、気にしてないから。CRYCHICのことなら祥子が謝って来た、もう価値がないものだけど……。睦の方はあいつが悪いわけじゃないから。それに……」

 

 

 

 

「あいつとも……その……」

 

 

 

 

また話せるようになったし……

 

 あいつというのが誰のことを指しているのかなんていうのはもう明白でした。

 

「そういえば、最近は星乃さんとの関係の方はどうなんですか?」

 

「は、は!!?な、なんでそんなこと聞いてくるわけ!?う、海鈴には関係ないでしょ!!?って……あっ!!」

 

 「あっ!!」という声が聞こえて来たのと同時に、何かを落としたような音が聞こえる。

 一応念のため、様子を見に行くとカウンターの向かい側で皿を数枚割ってしまっていたようだった。

 

「……手伝いましょうか?」

 

 流石に深追いし過ぎましたかとなった私は手伝おうとしますが、立希さんが首を横に振っていました。それからして、すぐに箒や塵取りを取りに行くのではなく私の方に視線を向けてくる。

 

「もしかして怒ってます?」

 

「違う、いや海鈴が結人のこと聞いて来たのはちょっとアレだけどそうじゃなくて……」

 

 

 

 

「変わったって思っただけ」

 

 変わった、ですか……。

 色々な要因が重なった結果、そうなることになった……。必然的だったのかもしれませんし、偶然的だったのかも知れません。それでも、私が今自分をこうしてこれから先「信頼」というものを形作れるのだとすれば、それはかつて自分が失ったバンドの形を……。

 

 

 

 今度こそ『後腐れもなく』再構築できるかもしれません。

 それこそ、あのとき組んでいたバンドのメンバーに反省の意味を込めて自分がどうしているのかを此処に記したいんです。

 

「それはいい意味でですか?」

 

「まあ、いい性格になったとは思う」

 

「褒め言葉として受け取っておきます、そちらの方も続くといいで「はいはい、もう分かったから」」

 

 話を遮られながらも立希さんは箒を取りに行く……。

 取りに行くときに僅かに表情が見えていましたが、頬が赤くなっていました。それだけで関係がどれほどまでに進んでいるのか。その一端に触れることすら出来ていました。

 

 

 

 

『CRYCHICのことなら祥子が謝って来た、もう価値がないものだけど……。睦の方はあいつが悪いわけじゃないから』

 

 コーヒーに映る自分の顔を見るのではなく、立希さんが落とした皿の破片に注目しながらも先ほどの内容を思い出していました。若葉さんの方は立希さんとしてもそこまで責められるではないと思ってくれているみたいですが、豊川さんの方は許す許さない以前の問題……。

 

 いえ、そうではありませんね……。

 あの表情を見るに心の底では豊川さんが元気にしてくれていた。また立ち上がってくれていた。それを喜ばしいとかつての元鞘のメンバーとして祝福してくれていたのかもしれませんね。これはあくまでも私の勝手な妄想ですが……。

 

 それにしても……。

 

 

 

「立希さん、遅いですね」

 

 箒と塵取りを取りに行くだけでこんなにも遅くなるものなのでしょう、か……。

 あまり店の中に入るのは忍びないですが、皿の破片は集めて置いてあげましょうか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

『好きっていうなら……その……その……ちゃんと態度で示して』

 

 海鈴のせいで自分がやってしまった過ちの一つを思い出してしまっていた。

 スマホを取り出して今日バイトが休みの結人に電話を掛ける、そして繋がった瞬間に……。

 

 

 

 

「あのこと絶対に誰かに言ったらお前とは絶交だから!!二度と口聞かないから!!」

 

「あのことって……RINGでしたこ「口に出さなくていいから!!本当に言わないで!!お前とその……」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「舌入れてそのしてたことバレたら……」

 

 

 

 

 

 

 

「本気で恥ずかしいから……!!」

 

 さっき、自分がしてきたことへの後悔と言っていたけど……。

 後悔なんかしていなかった、私はあいつのことが……あいつのことが……。

 

 

 

 

「電話切「俺は後悔してねえぞ」」

 

 

 

 

『ちゃんと責任取って……』

 

 あいつなりに責任を取ってくれようとしているのは伝わっている。

 あいつから舌を入れられて、その後に自分から舌を入れるとか場の空気に流れ過ぎていたと自覚はしていたけど、後悔していないなんて言われたら……。

 

 

 

 

「馬鹿……」

 

 

 

 

 掠れ気味でそう返すことしか出来ないなんて……。

 

 

 

 

 

 分かりきってるくせに……。

 

 

 

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