【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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破裂しそうな心臓に彼は遠慮を知らない

「睦から……?」

 

 朝、自分の部屋から起き上がるとスマホには睦からの連絡が来ていた。

 朝から睦から連絡が来ることは割と珍しかった俺はすぐにその内容を確認する。

 

『函館行く?』

 

 特に理由も明記されていない簡潔な内容で来ていたこともあってか、頭の中で「函館?」という疑問が浮かぶ。そういえば、愛音が函館から帰るときに言っていたような……。

 

『ねぇねぇ、今度函館来たときはちゃんと観光して行かない?』

 

 なるほど、睦の奴はそれを覚えていたってわけか……。

 とはいえ、覚えていなかろうが覚えていようが俺は前に「睦もちゃんと何処かに連れて行く」と言っていたし、これは良い機会だな。

 

『分かった』

 

 と簡単な返事をすると、すぐに睦から返信が返って来る。

 俺はそれを見ながらも、あいつが本気で函館で思い出を作りたいという気持ちがあるんだろうなと微笑ましくなりつつも、睦だけではなくそれはきっとモーティスもそうだろうとあいつらの期待に応えよう。とにかく、来週の土曜日が楽しみだ。

 

「何処、か……」

 

 そういえば、結局俺は立希との出掛ける約束なかったことになったんだよな。

 ふと思い出していた。祥子のこともあってそれどころじゃなくなったから仕方ないがやっぱり俺は立希とも何処かに出かけたいという気持ちがあった俺は迷うことなく、立希に送る。

 

『今度何処か出かけるか?』

 

 即決即断なのはちょっと自分でも面白いと思いつつも、連絡を送った後に俺は昨日のことを思い出す。

 

 

 

 

『俺は後悔してねえぞ』

 

 立希に口止めされたあのこと……。

 元から誰かに言うつもりなんてのはなかったが、俺はあの行為に関して一ミリも後悔はしていなかった。それでも、自分の気持ちに嘘をつくつもりはないと言え、流石にあの行動は立希も言っていた通り、「やり過ぎ」なのは自覚していた。

 

 まあ、こういうところがそよにバンドクラッシャーと言われるが所以なんだろうな……。

 

「とりあえず、来週の土曜日覚えておくか……」

 

 自分のスマホにメモを残しておきながらも……。

 函館に行くことを楽しみにしていくことにしていた。

 

 

 

 

 

 

 睦に約束をされたその土曜日……。

 

「あっちぃな、マジで……」

 

 汗を拭きながらも俺が品川駅に行くと、そこには荷物を背負っている奴と持っている奴が複数人居た。一人はというか、愛音は楽しそうににゃむに話しかけている。

 

「モーティス、睦は?」

 

「あっちゃんといるよ!安心してね!変わる?」

 

「大丈夫、乗ったらアイス食べよ?」

 

「私も食べる!!」

 

 楽奈の方は睦に偶に会話を挟みつつもお互いの間を楽しんでいるようだった。

 この様子を見るに多分、俺が知らない間に結構会っているみたいだな、この二人は……。

 

 

「あっやっと来た!!」

 

 一歩前に出ると、一番真っ先に俺に気づいたのはモーティス……。

 睦ではなくモーティスが主人格となっているのは、函館に思い入れがあるモーティスだからってことだろう。気合が入りまくってるのはいいことだ。

 

「悪い、待たせたか?」

 

「待ったよ!もー!結人君来るの遅いんだもん!」

 

「悪かった、ちょっと時間掛かってな」

 

 モーティスは頬を膨らませながらも俺に抗議をしている。

 

「ゆいと、アイス」

 

「分かってるって」

 

 楽奈にアイスをせがまれながらも、俺は買ってやるから安心しろと意味合いも込める。

 俺が駅に辿り着くのに遅れたのには理由があるけど、それを説明する必要はないと思っていた。結局のところ、いつもみたいに優しさを振りまいてただけだしな……。

 

「私の分もね!!」

 

「ああ、それも分かってるって……というか押すなよ」

 

「いいじゃん、早く新幹線乗りたいだし!!」

 

 モーティスに押されながらも、俺は新幹線の中へと入って行く……。

 愛音と一瞬だけ目が合ったが思いっきり逸らされる。まあ、こっちもこっちで色々と俺がやっちまったせいなんだが……。流石にどうにかしないと立希から苦情が来そうな気がする。バンドに支障が出てるって……。

 

 

 

 

 

 

「なんで隣なわけ?」

 

「嫌なら愛音と変わればいいだろ」

 

 俺が隣だと分かってにゃむはすぐに睨め付けて来る。

 新幹線の席のチケットを渡された際、皮肉にも一番隣に置きたくない奴と隣になってしまったにゃむ。嫌がらせなのか、荷物が俺の席に若干はみ出ている。

 

「あいつに断れた」

 

「そうかよ……」

 

 愛音が何故席を交換するのか、拒否したのかははっきりと分かっている……。

 

「なんかしたわけ?どうでもいいけど」

 

 愛音と俺の関係に何か気づいたのかマジでどうでもよさそうに聞いてくる。

 腕を組みながらも聞いて来ているしな……。

 

「まあ、色々な」

 

「っそ、どうでもいいけど……」

 

 素っ気なく返され、聞いて来たのはそっちだろとまた言いたくなっていた。

 いや、此処でこいつの土俵で戦おうとしたら面倒なだけだと俺は通路側の背もたれに寄りかかっていた。

 

「結人ってさ、滅茶苦茶余計なことばっかに首突っ込むよね」

 

「お前を助けたことか?」

 

 これに関しては、事実も事実だから否定するつもりはなかった。

 にゃむを助けた意外にも本当に俺が余計なことに首を突っ込んでいる。それは立希には何度も突っ込まれて来たこと。あいつは今更それを突っ込むようなことはしてこなかったけど、やっぱりアレはそうだな……。

 

「なにニヤけてんの?キモイんだけど」

 

「別にニヤけてねえよ」

 

 そんなつもりはなかったが、もしマジでニヤけていたなら気をつけなくちゃいけない。呆けている場合でもないし、惚気ている場合でもねえしな……。初華のことも初音のことも一通り終えて、俺は日常という物を過ごしている。

 

「日常、か……」

 

 モーティスのことを箱根に連れて行ったときも思っていたが、睦やモーティスにこうやって何かを楽しむという日常が戻って来たことがよかったと思っているし、ホッとしている。あいつらにはこれから先幸せで居て欲しい。

 

 未来永劫ってのは叶わないかもしれない。

 楽しくないことだってあるだろう。それでも、あいつらが笑える日々を俺は作ってやりたい。それは勿論、あいつら自身で作るものでもあるだろうけどな……。

 

「楽しそうだなあいつらは……」

 

 前の席で楽しそうに楽奈と話しているモーティスの声がしている。

 それだけで自分が楽になれている気がしていると横槍が入って来る。

 

「また表情キモくなってるけど」

 

「うるせえな、いいだろ別に……」

 

「今度は否定しないじゃん?」

 

「する必要もないからな」

 

 開き直っているようにしか見えないだろうが、それを否定するつもりもなかった。

 それが面白くなかったのかにゃむは窓の方を見つめていた。

 

「……感謝する訳じゃないけど」

 

「私のことを病院まで運んでくれたことは一応感謝してあげる」

 

「偶々居合わせたそれだけだからな」

 

 どれだけこいつに嫌われていようとそこは曲げるつもりはない。

 俺はただ助けたいから助けただからな……。そして、こいつにお前が掲げている信条っていうのに愛が含まれているだろという話も全部が全部俺が勝手にしたことでしかない。ただ、それがにゃむにとってはやっぱり気に喰わねえんだろうな。

 

「はぁ……」

 

 頬杖をつきながらも溜め息をついている。

 

 

 

 

「結人のそういうところマジで嫌い」

 

「何度も言うが……」

 

 

 

 

「知ってる」

 

 何を言われようが俺はどうでもよかった。

 おれはこのピリついた空気感が嫌いではなかったから。寧ろ、清々しいほどだった。

 

「ちょっとデッキ行ってくる」

 

「勝手にすれば」

 

「ああ、勝手にさせてもらう」

 

 スマホにある人物に連絡を送ってから、俺は立ち上がって荷物だけ置いて行くことにしていた。

 心底面倒そうにしているにゃむの顔を横目にしながらも……。

 

 

 

 

「来るか、来ないかあいつ次第だな……」

 

 座席の通路に繋がる場所、デッキに来ていた。

 新幹線に乗っていて毎度思うのは此処で電話したりする行為って割と邪魔なんじゃねえのか?って思うが、まあ此処しかないから俺は呼び出した。

 

「さて出来れば来て欲しいが……」

 

 新幹線の扉から見える田園風景に俺は目を奪われながらもこういう景色を悪くはないとなっていた。視覚的な効果で俺の気持ちを軽減しつつも、愛音のことを改めて整理していた。

 

 正直なところ、あいつが来てくれるとは限らない。

 既読もつけて来ない。

 

「まあ来なければ来ないで函館に着いてから行動をするだけなんだが……」

 

 どの道、なにかしらのことをすることには変わりない。

 暫くスマホと睨めっこをしていると、座席の方の扉が開いた。俺は景色からそっちに視線を向けると……。

 

 

 

 

「は、話ってなに……?」

 

 愛音の言葉と共に座席の方の扉が閉まる。

 それはまるで俺と愛音の逃げ場所を失くしたみたいだった……。

 

 

 

 

「逃げ場所……」

 

 そうだな、よく考えてみればぶっちゃけ俺は燈に「愛している」と伝えた後、あいつの顔すらロクに見れていないアホになっている。それこそ立希に言質を取ったと言われているのに、俺と燈の間であの頃よりも奇妙な溝が出来ている。

 

 もう一つ、俺自身が作ってしまった溝がある。

 それが愛音だった。

 

「愛音……話しておきたいことがあ「や、やっぱなしで!!」」

 

「は!?」

 

 反対側に立っている愛音が急いで逃げようとしている。

 俺はそれに呆気を取られそうになる。

 

 

 

 

「だ、だって……」

 

 

 

 

「聞いたら後悔しそうだし!!」

 

 俺と愛音の中で妙な間が生まれる。

 それはお互い話しかけるのは賢明じゃないという間だった。それでも、俺は今此処で直接愛音にぶつけようとしていたのは自分の思いでしかなかった。これは下手したら「起爆剤」になる可能性の方が高いが、昨日の立希との電話で俺はやっぱり逃げるべきじゃないってなった。自分がMyGO!!!!!や睦達のことが好きだと言うことからには……。

 

「おい、待て最後まで話を聞……!!?」

「!!?」

 

 新幹線が急加速し始めたせいで、俺と愛音は体勢を崩してしまう。

 

「きゃっ!?」

 

 愛音が壁に思いきりぶつかりそうになっている。

 

「大丈夫か愛音!?」

 

 俺は後先考えずに腕を掴む。腕を掴んだのは良かったが、この後どうすればいいのか分からずにそのまま自分の方へと引っ張ったのはいいものの……。

 

「やべっ!?」

 

 状況が更に最悪になる。

 勢い余り過ぎてそのまま反対側の壁に俺の背中がぶつかって背中に痛みが伴う。愛音を抱いたままというとんでもない状況になってしまう。

 

「「…………」」

 

 お互いに抱いたまま、記憶に新しいことを思い出しそうになる。

 それは愛音の玄関で俺が事故でこいつをそのまま床に押し倒したことだ。思えば、愛音とはこういうことばっかり起きていてなんとも言えない気分になってしまうが、俺は自分の気持ちを切り替える。

 

「好きって言ったら受け止めてくれる?って言ってたよな」

 

 あのときと心臓の音は近かった、新幹線の急加速は止まっていた。

 まるで俺達の空気を読んだかのように……。

 

「き、気のせいだってば……」

 

 ただ、あのときと明確に違うのは愛音の鼓動が明らかに前よりも早くなっている。前は突然のことでもあったから仕方なかったが、今回は愛音としても俺との関係で色々とあったからまともに顔も見れない。そんな状況の中なんだから当たり前でしかねえだろうな……。

 

「いや、言ってただろ。まあ、いいんだが……」

 

 最も、俺も心臓の音やばいんだろうけど……。

 それでも今から言うことを止めるつもりはない。

 

「じゃあ、今から言うのは戯言でもなんでも思ってくれ。俺は……」

 

 覚悟なら出来た、後は言うだけだ。

 

 

 

 

 

「逃げるつもりはねえ。お前達の関係からな」

 

 顔を背けたまま、話を聞いているのか聞いていないのか分からない愛音。

 それでも、顔を伏せたままで何を思っているのか分からないが確実に言えるのは伝わっているということだった。それが分かるのは愛音の心が今揺れ動いているから……。

 

 

 

 

 それでしかなかった……。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 新幹線が動いている……。

 いや、違う。多分私の心が揺れ動いている。ゆいくんのせいでいっぱい頭がほわほわしていて、自分がどうすればいいのか分からなくなっている。というか、ゆいくん普通にいい匂いしているから余計混乱の元が増えてる。そう、これは洗剤の匂いと自分で自問自答しながらも意識をすることを減らそうとしているけど……。

 

 

 

 無理……!

 無理だってば……!!

 

 

 そもそも、そもそもだよ?

 ゆいくんの言っていることって俺はお前のことも好きだけど、他の子のことも好きってかなりクズみたいな発言してるよね!?え!?なんで私こんな人のこと好きになっちゃったんだろ!?

 

 なんか暑苦しい顔して、全部責任取るとかそういう顔してるけど言ってること凄いヤバくない!!?というかともりんに「愛してる」って言ってたじゃん!?女の子二人も!!?いや、多分二人以上だよね!!?試しに今何人なのさー?と聞いてみたいけど、怖いって!!

 

「……?」

 

 チラッとだけ彼の顔に視線を向けると、目が合ってしまう。その瞬間に、ゆいくんが私の長い髪に触れていた手を背中に移動させていた。もしかして、今意識していたの……かな。そういう動揺もあってか、私は……。

 

 

 心臓が手で鷲掴みされた感覚、自分の心臓がぐちゃぐちゃになる音がしていた。ただ視線を合わせただけなのに……。気の迷いとかそういう奴だったって信じたかった。ゆいくんのことを意識し過ぎて鼓動が止まらない。絶対にゆいくんにバレてる……。

 

「……」

 

 ちょっとだけ自分の気持ちに正直になってみる。

 ゆいくんの肩に顎を乗せるという大胆な行動に出ると、ゆいくんの心臓の鼓動が明らかにさっきよりも早くなっている。それはまるで降り注ぐ雨粒みたいに……。

 

 なんだ、ゆいくんもカッコつけたこと言ってるけどちゃんと意識してるんだ……。

 そうだよね、こっちがこんなにも心臓が破裂しそうなぐらい意識してるのにゆいくんが意識してない。そんな訳ないよね、だってゆいくんも……。

 

 

 

 弱さを抱えてるもんね……。

 自分の記憶を思い出す、それは今最も必要なことだから……。

 

 

『ゆいくんのことが好きなんだ……』

 

 あのときの気持ちに間違いがなかった訳じゃない、あの事故でなっちゃった温もりを忘れる訳がない。なんかこう受け入れたら色々とやばいという自分がいたから、視ないようにしてきたけど初音には言っちゃったもんね……。

 

 

 

 ──人と人との繋がりが大事だって。

 じゃあ、もういいや。悩んでる時間の方が無駄だよね。私だって、ゆいくんのことが好きなんだし……。ゆいくんの言葉に助けられてきた。それは何も変わる事はない音だもんね……。だったら、本気でもういいよね。

 

 

 

 

 逃げなくて……!!

 

 

 

 

「ゆいくんが言ったんだからね」

 

 それは責任転換でもなんでもない。

 ゆいくんが言ったから、自分でもゆいくんを支えて来たんだからその責任をお互いに取ろう。そう言いたかった……。

 

 

「ああ、任せろよ」

 

「なんかあんまり説得力ないなぁ」

 

 ゆいくんの肩に顎を乗せながらもちょっぴり甘えながらも私は自分の頬を緩ませてしまう。

 それは彼にだからこそ許したちょっとした意地悪……。

 

「なんだよそれ。じゃあ、説得力あるようにしてやるよ」

 

「えー?ゆいくんの説得力ある行動ってちょっと怖いな~」

 

 実際、マジで怖い。

 ゆいくんってほら、なにをやらかすか分からないみたいなところがあるから怖いんだよね……。一言一言が覚悟して聞かないといけないって言うか……。まあ、それでも居て楽しいのは事実なんだけど……。

 

「分かった、じゃあ証明すれ「ダメ!!それは絶対ダメ!!」」

 

「なんでだよ?」

 

「今はダメ!!唇重ねようとしたでしょ!?」

 

「いや……」

 

「絶対しようとしたんじゃん!!その……嬉しいけど今じゃないって」

 

 完全に言葉狩りされてもおかしくはないのに、私は「今じゃない」という単語を使ってしまった。ゆいくんは歯切れを悪くしていたけど、納得してくれたのか引き下がってくれた。とりあえず、今の事態が更に悪化するような状況にならなくてよかったとホッとしていると……。

 

 

 

 

 音がする……。

 

 

 

 

 

 

 デッキと座席に繋がる扉が開く……。

 

 

 

 

「あー結人君……!」

 

「「!!!?」」」

 

 まさかデッキに知っている人……。

 しかも、あの子がやってくるなんて想像していなかった私とゆいくんは驚きのあまりに勢いよく離れてしまう。先に離れたのは私の方で慌てて何事もなかったようにしていたけどそれは無意味でしかなかった。

 

「私と睦ちゃんたちという者がありながら!!もー!!これだから詐欺師な結人君は……!」

 

 モーちゃんが腕を振りながらも抗議の声を上げている……。

 

「いやだから、詐欺師じゃねえって……。悪い、函館着いたときにお前達の埋め合わせしてやるから。それでいいか?」

 

「…………ちゃんと埋め合わせしてよ?しなかったら、結人君は火炙りだからね?」

 

 火炙りという単語を聞いて、顔をちょっとも歪めることもなくゆいくんは……。

 

「してやるから、というか手に持ってるのノートか?」

 

「え?うん、そうだけど?」

 

 モーちゃんが手に持っているノートを指すゆいくん……。

 肝心のモーちゃんの方はどうしてそんなこと聞いてくるの?と顔をしながらも答える。

 

「これ、私と睦ちゃんの思い出を綴ってるの。いっぱい思い出作りたいから」

 

「そうか……じゃあこの旅でいっぱい作れるといいな」

 

「うん……!さっきの約束絶対に忘れないでよね!!」

 

「ああ、分かってるよ」

 

 それだけ言い残してモーちゃんは去っていく……。

 ちょっと関心していた、それはさっきの「作れるといいな」っていう言い方。いつものゆいくんなら俺も手伝ってやるとか言いそうだけど、そこは二人だけの思い出だからゆいくんはなにも手を出そうとはしていなかった。ただ優しいんじゃなくてちゃんと線引きしている。そこはアウトドアショップと出会った頃からの彼とは変わった気がする。

 

『そっか。じゃあ、その()()()()をちゃんとやれる結人君ってやっぱり凄いと思う』

 

 カラオケの個室で私が言ってあげたこと……。

 あそこの根本はきっと全く変わってないんだろうなゆいくんって……。そこはまあ良い所かなって思う。冷静に分析した後に、私は得意げにいつものような笑みを溢しつつも意地悪をしてみる。

 

「ゆいくんがしたことなんだからね?」

 

 まるでモーちゃんのことも私のことも全部ゆいくんからなんだよ?という含みを混ぜた言い方で……。

 

「……分かってる」

 

 

 

 

 

「行くぞ、承認欲求強めのギタリスト」

 

 

 

 

 

 

「お前の方の埋め合わせもしてやるから」

 

 

 

 

 

 

「っ~~~~!!そういうところだってば!!!」

 

 

 

 

 

 

 こういうところなんだよなぁ、ゆいくんがズルいのって……!

 モーちゃんにしてもちゃんと()()()って言ってあげてるし……!!

 

 

 

 

 

 ズルさの極みなんだけど、なんかこう……。

 ゆいくんらしいなって思っちゃう自分が末期だってわかっちゃうのも……。

 

 

 

 

 

 なんか凄い複雑……!!!

 

 

 

 

「おい、中戻らないのか?」

 

「え、え?あー戻るけど」

 

「ほら行くぞ」

 

 手に触れられたような感覚を受ける。

 その瞬間に自分の心まで満たされてゆいくんの色を付け足されたような感覚を受ける。それを拒みたい訳じゃないけど、突発的過ぎるというかゆいくん過ぎる行動に何も出来ないでいると流石に影響を受け過ぎると考えた私は足を無理矢理止めさせる。

 

「ええ!?ちょっ、待っ!!?手繋ぐのはダメ!人に見られちゃうから!!ダメ!!」

 

 必死に抗議するものの、手を離さない。

 やばいやばい、絶対これやばいって……!!

 

 

 

 

 

「色々とダメ!絶対にダメ!!」

 

「逃げねえって言っただろ」

 

「ゆいくん、一回そういうの辞書でちゃんと言葉の意味調べた方がいいよ……」

 

「うるせえな、いいから行くぞ。此処に居ても邪魔なだけなんだからな」

 

「連れて来たのゆいくんじゃん!?って、座席に戻るのはいいけど手はせめて離してよ!!」

 

 手を繋がれながらも、私はそのまま座席の方へと連行される。デッキから座席の方へと場所が変わったというのに、私の心はずっと真っ赤なまま。この異常なまで行動力に惹かれている自分が怖いとなりながらも、言いたかったことがある。

 

 

 

 

 やっぱりゆいくんって……。

 

 

 

 

 

 

 行動力バグってるって……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 これ当たり前かなぁ!?絶対違うってば……!!

 

 

 

 

 

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