【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
ノートがぼやけて見えている。机の上に座って授業を受けているはずなのに全く耳に入って来ない。私はあのときあれで良かったんだろうか……。
燈を守るために……燈をこれ以上傷つけさせないために私は結人に燈に二度と関わるなと言った。本当は分かっている、燈も傷ついていたけどそれ以上に傷ついてたのは私自身……。燈が突き飛ばされているあの現場を見て、結人に裏切られたことは許せないと……。
「昨日の今日で随分と落ち込んでますね」
気づけば授業は終わっていたようで、私は机の上でふて寝するようにして顔を隠していると同じクラスの
私は海鈴の言葉を無視していると、海鈴が何か目に入ったのかこう聞いて来ていた。
「いつも付けていたストラップ今日はつけていらっしゃらないんですね。フィルムに入れているほどだったので、てっきり大事な人からのプレゼントだと思っていたのですが……」
「別に……」
「もうどうでもいい奴だし……」
海鈴が「そうですか……」と言いながらも去って行く……。
……そうだ、私にとってはもうどうでもいい奴。
これから先燈に関わることもない、私に関わることもない……から。
「いらっしゃいま……
ライブハウス『RING』……。
学校が終わった後に私はすぐに此処に来ていた。いつも通りのバイトという訳には行かず、愛音がカウンター越しから軽めに叩きながらも私の前に立っていた。
「昨日、結人君と喧嘩したの?」
愛音が私に対して何か物申したそうにしている。
「したからなに?元はと言えば燈のことを突き飛ばしたあいつが悪いんでしょ」
「燈ちゃんは結人君のこと助けようとしてたんだよ?」
「だから?助けようとしていた燈をあいつが突き飛ばした。私はあいつのことを絶対に許すつもりはないから」
燈からのあのときのことは聞いていた。
燈が結人のことを助けようと必死に手を差し伸べようとしていたことも知っていた。それでも私は結人のことを許すことが出来ない。あいつは燈の手を払いのけた上で突き飛ばして更に悲しませた。例え、それが約束になかったとしても燈にとってあいつは大切な存在だったのにあいつはそれを拒絶した。
そうだ、どれだけ言い訳をしようが事実は変わらない。
「燈ちゃん、行こ……!!」
「燈……?」
愛音が燈の名前を呼ぶ声が聞こえる。
私は愛音が振り向いた先の方を少し見ると、ライブハウスの入口の方で燈が立っていたけど私はすぐに視線を逸らしてしまう。私は今燈に言葉をかけること出来なかった。それはきっと燈も一緒かもしれないけど、私が燈に声を掛けられなかったのはきっと結人にも言っていた、自分自身の弱さが関係しているとしか思えなかった……。
◆
「愛音ちゃん、ありがとう……」
「ううん、いいって……。燈ちゃんも今はりっきーと話すの辛いもんね」
「……うん」
ライブハウスに入ることが出来なかった。
入ろうとした瞬間、重く何かがのしかかってきてしまっていた。きっと今の立希ちゃんと話すと言うことが出来なかった。あの後で何をどう話せばいいのかなんて私には分からなかった。きっと今の立希ちゃんに話しかけても沈黙だけが続いてしまう。言葉なんてものは出ない。
「愛音ちゃん、その……やっぱり私は結人君のことを諦めたくない……。少しずつだけでもいいから結人君のことを知って行きたい。私は今まで結人君のことを知らないままだったと思うから」
あのとき、結人君から羨ましかったと言われたとき私は驚いた。
あのこともそうだけど、きっと私は結人君のことを知っているようで知らなかった。だから、結人君と仲直りする前に結人君のことを知っておきたい。ちゃんと結人君と向き合いたい。そよちゃんのことも気になるけど、今結人君と仲直りしなかったら一生仲直りなんて出来ない気がするから……。
「じゃあ、一緒に探して行こ?その方が見つかりやすいこともあるかもしれないじゃん」
「うん、ありがとう……でもどうやったら……」
私はその後、愛音ちゃんに結人君がバイトをしているということを話した。
ただバイト先のことまでは全く知らなかった為、私は愛音ちゃんと一緒にどうするか悩んでいると、ある一つの方法を思いつく……。
「あっ、結人君のお父さんなら知ってるかもしれない」
「結人君のお父さん?」
「うん、結人君のお父さん冒険家で基本的にお家にいないみたいだけど……」
「へぇ、冒険家なんだ……!って……それ結人君の今のこと知らないじゃ……」
確かに言われてみれば今の結人君のことを知っているかどうかなんて分からない。
いつも長期間冒険をしているみたいだから、もしかしたら今の結人君のことを知らないかも知れない。それでも私は駄目元で結人君のお父さんに電話を繋いでみると、すぐに繋がった。
「あの、結人君のお父さんですよね……?」
「ん?ああーもしかして燈ちゃんか!?懐かしいな!?元気してたか!!?」
電話を繋げると、結人君のお父さんの大きな声が聞こえてくる。
初めて結人君のお父さんの大声を聞いたとき自分の声が押し負けて消え行くのを感じ取ってしまうほどだった。結人君のお父さんは凄く豪快な人……。いつも何処かに行っていると思ったら、次の日に帰って来たり数ヶ月経って帰ってきたりして時には山登りしたり、アマゾンの奥地に行ったりしてきたと言ったり本当に豪快で大胆な人……。
「は、はい……」
「そうか!いやぁ、最近結人と話していても燈ちゃんの話を全く聞かなかったからどうしたもんかと思ったが、そうか!!連絡しているならなによりだ!!それで何か俺に用か燈ちゃん!?」
「結人君が何処のバイト先で働いてるかって知ってますか……?」
「あーあいつのバイト先かぁ、何処だったかなぁ……」
髪を掻きむしるような音が聞こえてきている。
「あー思い出した、あいつ今確かアウトドアショップでバイトしてるぞ。確か名前は……」
私は結人君のお父さんから結人君のバイト先の情報を教えてもらっていた。
アウトドアショップやっぱり結人君そういうの今でも好きなんだ……。ちょっぴり昔のことを思い出しながらも心が弾んでいた私は結人君のお父さんにお礼の言葉を述べてから、その後に結人君の学校のことも聞いた。
結人君のお父さんは私が質問を重ねていると少しだけ「んー?」となっていたけど、何かを聞いて来るということはなかった。もしかしたら、結人君とのことは気を遣ってくれていたのかもしれない。
「結人君のお父さんなんか凄そうな人だね……」
「うん、本当に凄い人だと思う」
実際、結人君のお父さんはどんな場所にもどんな所に行ってしまうような人だから本当に凄いと思う。
「此処……かな?」
愛音ちゃんと一緒にやって来たのはアウトドアショップ『
扉の先に入ると、「いらっしゃいませ……!」という声と共に中へと歩き出していた。
中へ入ると、すぐ目に入って来たのはアウトドアで使うような椅子だった。テーブルが付いているものだったり、機能性が抜群そうなものが置かれている。それなりに安いものもあれば機能性に優れている椅子は値段に目を瞑りたくなるものもあった。
愛音ちゃんの方を見ると、テントの値段を見て「こんなするもんなんだ……」と言いながらも眺めていたけど、当初の目的を思い出して結人君を探し出すのを再開していた。結人君今日は出勤しているのかな……と思っていると、少しチラッと見た先に品出しをしている結人君の姿が目に入る。私と愛音ちゃんはすぐに隠れると、愛音ちゃんがバッグから眼鏡ケースと帽子を取り出していた。帽子を深く被って眼鏡ケースから眼鏡を取り出して耳に掛けていた。
「あ、愛音ちゃん……?」
「此処でジッと見ているより話しかけて結人君がどんなこと好きなのかとか聞いた方が早いじゃん?燈ちゃんこういうの苦手だろうし、ちょっと行ってくるから待ってて燈ちゃん!」
心の中で用意周到だねと思いながらも、私は愛音ちゃんの様子を近くから見つめていた。
「あの……!!すみません、少しいいですか!!」
変装している愛音ちゃんが結人君に近づいて声を掛けている。
「はい、どうなされましたか?」
「あの……!実はキャンプを初めてみたいんですけどあんまりどういったものが必要とかよく分からなくて……」
「あーそれでしたら、こちらの商品とかどうでしょうか?こちらは初心者の方にお勧めされているものになりまして、使い勝手もかなりいいんですよ」
愛音ちゃんが結人君に案内されたのはアウトドアの椅子だった。
「あれ、最初はテントとか寝袋とかじゃないんですか?」
愛音ちゃんは一番最初に案内されたのが椅子だったようで少し困惑しているようだった。
確かに言われてみれば、一番最初に案内される場所がテントじゃなくて椅子なのは不思議なのかもしれない。キャンプと言えば、テントの印象があるから……。
「確かにキャンプと言えば、テントが核となる部分ではあるんですがアウトドアで使うような椅子って実は結構汎用性が高いんですし、なにより椅子と向き合う時間って結構長かったりするんですよ。例えば、花見だったりBBQで使えたりするんですよ」
「アウトドア用の道具としても使えるってことですか?」
「そうですね、だから俺としては椅子からっていうのがいいと思いますよ」
……そういえば、結人君と結人君のお父さんとキャンプ場でキャンプをすることだったり、私のお母さんたちも巻き込んで一緒にBBQしたりすることがあった。そのときも確かに結人君の言う通り、椅子に座って何かをするっていう時間は多かったし、結人君のお父さんも「アウトドアにおいて椅子ってのは重要だからな」と言っていたような気がする。やっぱり、そういうところは結人君、お父さんと似てるんだ……。
「じゃあ、テントとかはどれが良かったりとかあります?大体、五人ぐらい入れるのが良いんですけど」
「あーだったら……」
結人君は少し歩いて今度はテント売り場の方へ向かう。
一人用から多人数までテントがいっぱい売られている。数が多くてどれを買えばいいのか全く分からないとなっていると結人君が立ち止まって解説を挟み始めていた。立ち止まったのはベージュ色のテントだった。
「こういうのはどうですか?」
結人君が立ち止まったのを見て愛音ちゃんも立ち止まる。
愛音ちゃんが先に五人ぐらい入れるテントとして指定していたこともあって、それぐらいは確かに入れそうなテントになっている。それにしても、愛音ちゃん流石のコミュニケーション能力……。
「こちらは女性でも簡単に設営できるものになっていますよ」
「えーそうなんですか!?じゃあ、力のない人でも簡単に作れるんですね!!」
「はい、そうなりますね……紫外線対策、防水性にも優れていて風通しもいいので夏の暑い日や雨が降って来たときとかでも大丈夫ですよ」
結人君がテントの説明をしていると、私は結人君とキャンプに行ったときのことを思い出す。私の誕生日の次の日にもキャンプに行ったりして記憶には今でも新しいけど、あの非日常的な感じが大好きだった。なにより結人君と一緒に眺めるキャンプ場からの星空の景色が大好きだった……。
結人君はあんなことどうでもいいと捨ててしまっているかもしれないけど、それでも私はあの日のことを今でも忘れられない……。
「アウトドアショップの店員さんって本当に詳しいんですね。やっぱり、普段からキャンプとか行ったりするんですか?」
「最近はまああんまり行ってないですけど、昔は父親とかキャンプ地に行ったり……」
「友人と一緒に行ったりすることもありましたよ」
「!!?」
今、結人君……。友人と一緒に行ったりすることもあるって言ってたよね……。
その友人が私のことは限らないけど、今間を空けて友人と行ったりしたりしていたって確かに言っていた……。
「その友人って、どんな人だったんですか?」
「俺にとっては……」
「
自分の方が微かに震えながらも今にも出そうになっている涙を抑えながらもお店を出る。結人君の言葉を聞いて私は確信へと変わっていた。間違いない、あの友人というのは私のことを言っている。何故そう思ったかと言われたら、私は何度か結人君から言われたことがあった……。燈は俺にとって大切な友人だからと……。私は今までその言葉を言われる度に嬉しくて涙が出そうだった。それが突き飛ばされた今でも結人君は私のことを突き放した今でも……例え過去形だったとしても私は……嬉しかった。
だって……。
こんな私のことを大切だと、友人だと言ってくれたのは結人君が初めてだったから、本当に嬉しかったんだ……。