【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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根源たる私の大元の望みはそれでしかない

『逃げねえって言っただろ』

 

 『やり過ぎ』という立希から忠告が脳裏を過る。

 愛音にやり過ぎ……いや、あれは流石にやり過ぎているな。選択を先延ばしにしていたから、一気に駆け抜けようとでもしていたのか自分の行動を振り返ると、冷や汗が出て来る。よく考えなくても、事故で抱擁したのは……まあアレは仕方ない?仕方ないのか?そこは色々と事情があるから仕方ない……よな。

 

 ただ問題は次からだ。

 あれは絶対やり過ぎだ。今になって頭を抱える案件でしかねえ。

 実行できるというところを見せつけるために、俺は唇を重ねようとする、まずこれで一アウト。結局、それは愛音に中断させられたがあのままやってたら愛音の奴、どうなってたんだ?俺の方はともかく、マジで俺の方はどうなってたんだ?考えれば、考えるほどなんか凄い嫌な予感しかしない。その後の手引っ張ったまま座席の方に行くのもアレは普通にやり過ぎだよな、これでニアウト。

 

 なんか勢い任せに滅茶苦茶行動していたけど、すげえやばい行動しかしてなくないか?

 幾ら「言葉と行動」が重要と言えど、やり過ぎじゃねえのか俺……。そもそもの行動のせいで三アウトでしかねえ……。

 

「あのさぁ……隣でブツブツ念仏唱えるなら寺でやってくれば?」

 

 隣に座席に座っているにゃむが心底隣に座っている奴、ダルッて顔をしながら顔をしかめっ面になっている。

 

「いや、今懺悔していたところだ」

 

 自分のやらかしたことを脳内で正座しながらも、写経していると言いたかった俺。

 にゃむの言いたいことも分かるな、ブツブツ念仏唱えながらも写経なんてされていたら隣で座っている人間としても溜まったもんじゃないだろう。俺はあいつに気づかれないようにふと笑みを溢す。通路側に流すようにして……。

 

「じゃあ、教会行けばいいじゃん」

 

「ああ、神に誓ってやるよ。やり過ぎないようにするって、火炙りされながらも」

 

 ステンドグラスが張り巡らされている教会の中、光に照らされることもなく火炙りの刑に遭いながらも自分の罪を懺悔していこう。モーティスのさっきの発言を取り入れながらも俺は若干自分の罪を懺悔していた。

 

「……いつもした方がいいでしょ、絶対に」

 

 割とマジでどうでもいい会話をしている俺達……。

 とはいえ、自分の行動に気をつけなくちゃいけないのは確かなことだ。それこそ、そよが随分前に言っていたように、刺されるなんてこともあながちあり得る。それでも、今更日和って行動を慎むなんてしたら今度は初華に刺されるから覚悟を曲げるつもりはないが……。ちょっとだけ今回のことは反省した方がいい。

 

「にしてもさ、愛音みたいなのがタイプなんだ?なんか意外」

 

「うるせえな、ほっとけ」

 

 さっきの光景を見ていたのか、嘲笑に近い形で笑みを浮かべているにゃむ……。

 

「それよりお前こそ意外だと思ったんだが、よく睦達の誘いに応じたな」

 

 にゃむと睦の相性は最悪だ。

 そもそも、こいつが睦のことを未だに認めていないだろうし、もう一つの人格となるモーティスのことも絶対に認めているわけがないだろう。にゃむ自身の事情もあって、今回の函館旅に参加したんだろうが意外という二文字しか出なかった。

 

「単なる気まぐれ、それに逃げるつもりはないってだけ」

 

「睦達からってことか?」

 

「言い方腹立つけど、正解。あの子達に恐怖している自分をずっと抱えるより、あの頃の祐天寺若麦を貫く。まあ、出来ないだろうけどそれに近い自分で自分であり続けようと思った、それだけ……」

 

「なるほどな、お前はお前なりに考えてるってわけか」

 

「……そう思えば」

 

 成長していると思われるのが嫌なのか、特に感情を見せることはないにゃむ。

 冷たく返しているようにも見えるが、「それに近い自分であり続ける」という意志は俺も素晴らしいと思っていた。まあ、だからにゃむは褒められてると感じて嫌だったんだろうが……。

 

「応援してやるよ、にゃむの今後に」

 

「別にそういうのはいらないから」

 

「だろうな」

 

 今度こそにゃむとの会話を終えた俺は背もたれに寄りかかり、じっくりと睡眠を取ることを選んだ。あーその前にモーティスと睦のアイス買ってやらなくちゃいけないんだった……。俺は偶々通った車内販売の人に話しかけて、楽奈とモーティス二人にアイスを与えた。そして、にゃむと愛音にはそれぞれ好きな飲み物を与えていた。俺は適当なものを買っていたが、にゃむは受け取った後にこう忠告してくる。

 

「そういうところマジで気をつけた方がいいんじゃないの?」

 

「ああ、だからお前には遠慮なく言ってる」

 

 新幹線が停車して、駅に着いたのと同時ににゃむはそれ以上喋ることはなかった。

 俺に忠告しても無駄だと思ったのか、それとも別の何かを感じてたのかは知らないがにゃむならば意味が分かるだろうとなっていた。信頼しているというよりは、にゃむなら言葉の意味を汲み取れるだろうなと「個人」を信じているというのが近かった。

 

 

 

 

 

 

 そういうところが腹立つんだろうな、にゃむからすれば……。

 停車していた新幹線の中でペットボトルに手を触れて、中に入っているお茶を口に入れながらもこの長い旅路の補給をすることにしていた……。

 

 

 

 

 補給を終えて、俺は長い眠りについていた。

 前に一度聞かれたことを思い出していた。それは燈に言われたことだった。

 

『ゆいくんは旅で……大事にしていることって……ある?』

 

 その頃の俺達はもう関係が修復されていて普通に話せる関係になっていた。

 流石にキスまでしていない頃だったけど、そんな雑談混じりに話せる日がようやく来ていたことに俺は自分という人間がようやく人間になれたという形造りが出来ていた気がしていた。

 

『そうだな、五感も大事だけどやっぱり睡眠だよな』

 

 燈が小さく『睡眠……?』と疑問を覚えていた。

 

『ああ、まあ何を見て何を得たかのっても大事なんだけど、やっぱり大事なのはちゃんと睡眠っていう補給をすることなんだよ。睡眠をちゃんと取っていないと、次の日の旅の重荷になる。楽しい旅が辛くて苦しいものに成り代わる可能性だってあるんだ』

 

『要は記憶ってのは更新され続けて行くものだから、その記憶を覚え続けてくれる場所、脳が活性化してないと意味がないってことなんだ』

 

 難しい話だったかもしれないとなることはなかった。

 燈ならきっと俺が言いたい事が伝わるだろうとなっていたから。実際、その後燈はこう言ってくれていた。

 

『ゆいくんの話……分かる気がする』

 

『記憶って大事……。一瞬一瞬を踏みしめて生きていくのにも……多分ゆいくんが言いたいのは……五感を通じるものを得たりするのにはちゃんと睡眠を取る。そういうこと……だよね?』

 

 言いたかったことを上手く言語化してくれた燈。

 俺はそれに返事をするのではなく、軽く頷くことで燈の言う通りだという意志を示していた。そういう問い掛けを知っていたからこそ、今自分がこうして大切にしているものは五感だけじゃない。最も、この話を思い出したのは自分が眠りについたからじゃない。俺の方はその睡眠から解き放たれていた。

 

 

 

 

「起きたか、モーティス」

 

「……もしかして眠ってた私?」

 

「ああ、眠ってた。アイス食べてすぐに眠ってたらしいぞ」

 

「え?あっ、そ、そうなんだ……」

 

 起きてモーティスに見えた景色は俺に運ばれてる姿。

 そうなったのには理由あるが……。

 

「おんぶしてくれたんだ……?」

 

「ああ、起きる様子がなかったからな」

 

 俺の後ろでモーティスが目を擦っている。

 眠そうに欠伸もしそうになっていたが、口を膨らませることで俺には見せないように工夫をしていた。それに俺は苦笑いを浮かべながらも、何も言うことはしなかった。

 

「みんなは?」

 

「愛音達は三人で別行動を取ってる」

 

「そっか、そうだったんだ……」

 

 楽奈だけは此処に残ろうとしていたが、愛音が手を掴んで自分の方へと引っ張っていた。空気を読んだということなんだろうが、どうにもあいつの気持ちを抑えつけた感があって仕方ない気持ちになっていた。この辺は……後の埋め合わせでって感じになるが……。

 

「今何時、結人君?」

 

「今か?10時半だな」

 

「10時半……?10時半!!?」

 

「お、おい……どうした?」

 

 俺の背中に乗っていたはずのモーティスが突如として地面に足を置く。

 急に足を置いたせいで、俺の膝裏に彼女の足が何度かぶつかったがそれに俺は特に何も言うことはしなかったが困惑はしていた。急に時間を聞いて、暴れ出したからだ。

 

「ご、ごめん……ちょっと寄らなくちゃいけないところがあるの!!」

 

「あ、ああ……俺は構わねえが一人の方がいいか?」

 

「うん、ちょっとまなちゃんとこっちで会う約束してたの!!」

 

「まなさんと……?ああ、そういえばまなさんと来たことあるんだったか?」

 

「そ、そうなの!!ごめんね結人君、ちょっと行ってくるね!!」

 

 函館に一番最初に来たのはまなとだったのを思い出した俺。

 ドラマの撮影場所が確か函館だったからそのついでに観光もしていた奴だったか。あのドラマは確かそろそろ放映されるらしいだったな、今度俺も見てみることにするか。

 

「行ってこいよモーティス」

 

「うん、それじゃあまた後でね!!」

 

 大きく手を振りながらも、モーティスはまなと落ち合う為の場所へと向かって行ったようだった。一人取り残された俺はスマホを確認すると、立希からの連絡が数分前に届いていた。その内容は……。

 

 

 了承の返事だった。

 

「今度こそだな……」

 

 あいつのことだから余計な配慮はしなくていいとかそういうことを言われそうだなって思っていた節もあったけど……。ちょっとだけよかったという気持ちがあったのも事実だった、俺の中には……。

 

「さてと、とりあえず愛音達の方へ行くか……」

 

 モーティスとは反対の方向へと歩き出して、俺はゆっくりと進み始める。

 その足取りは確かなものであった……。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 やばい、やばい……。

 普通にやらかしちゃった。新幹線の中で寝ているだけならまだしも、その後結人君におんぶして貰ってもずっと介護して貰ってた。それ自体は嬉しい臨時ニュースだけど、問題はそこじゃなくてまなちゃんとの約束があったのに私は30分も遅れてしまったということ。

 

『まなちゃんも函館また行こうよ!!』

 

 一番最初に電話したのはまなちゃんにだった。

 まなちゃんは仕事が忙しくて今日来るのは中々難しいけど、合間を縫って来てくれると言ってくれていた。それだけで私は「まなちゃんってやっぱりいい人!」となった。あのお店でまなちゃんと一緒にもう一度行きたい、そういう想いがあったのに寝坊をしてしまった。ああ、もう最悪だよ……!!

 

「睦ちゃん!もっと体鍛えてよ!!」

 

『ごめん、運動音痴だから』

 

「……なんかごめん睦ちゃん」

 

 短い距離を走っただけですぐ息切れしちゃう睦ちゃんを知っているから、責めるにも責めきれなかったけど……。もうちょっと体を鍛えて欲しかったのは本音だった。だって、睦ちゃん運動に関しては本当にからっきしで走り幅跳びなんて飛んだ瞬間、足を捻ったりするほどの運動音痴なんだもん!!ちゃんと運動しないと、ゆいくんの旅なんて満喫できないよ!!!箱根のときだって、ほぼゆいくんに待ってもらってたし……。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 多重人格だからって私の人格の方が体力に優れているとか特にない。

 身体的なものは何も変わらない。睦ちゃんの貧弱な体なら尚更……。私は走り出した先にようやく辿り着いた場所……。

 

 膝に手を置いて、汗を拭いながらも後一歩というところで立ち止まっていると声がしてくる。

 それも聞き覚えのある声だった……。

 

「モーティスちゃん大丈夫!?」

 

「だ、大丈夫じゃない……」

 

 本音で話す……。

 声を掛けてくれていたのは私が走ってでも待ち合わせの場所に辿り着きたかった相手、まなちゃんだった……。駆け寄ってくれたまなちゃんからペットボトルを受け取って、中に入っている水を飲む。自分の喉が潤う、その瞬間を実感しながらも今度はタオルで汗を拭う。

 

「ご、ごめん……まなちゃん」

 

「ううん、私も今来たところだから全然気にしなくていいよー」

 

 「ありがとう」と感謝を示しつつも、私は一旦汗を拭いているとまなちゃんが話しかけて来る。

 

「結人君達と函館来てたんだよね?いいの?」

 

「大丈夫、結人君にはちゃんと伝えてあるから」

 

「そっか!なら大丈夫だね!!」

 

 いつも通りの様子で振舞ってくれるまなちゃん……。

 それだけで自分の心の中で「まなちゃんマジ天使」となっている馬鹿な自分が居たのは誰にも内緒。

 

「中、入ろう。まなちゃん」

 

「そうだね、お店の方まだ開店したばかりだから人も少ないみたいだよ?」

 

 なら、良かったとホッとしちゃう。

 前に来て無賃で働かせられていたときは滅茶苦茶お客さん居たから、今回はどうだろう?と尻込みしていたけど、どうやらおばあちゃんのところも経営に赤の様子が出て来たみたいだね。

 

「モーティスちゃん、バレちゃうよ」

 

「え?あっ、あっ……!うん!!」

 

 心声が漏れていたのか、まなちゃんは「ダメだよ」と指で罰点を作って指摘してくれる。

 危ない、危ない。あのおばあちゃんすぐ見抜いて来るから気をつけないと、先にまなちゃんが入ったのを確認してから私もそれを追うようにして中に入ると……。

 

 「いらっしゃいませ」の声が聞こえて来る。

  ただその声は覇気があって、元気のいい挨拶だった。この時点でもう星1すら付けたくなるのは前にも味わっていたからもう気にしないけどまたお茶が熱かったから今度は星0をつけちゃおうと意気揚々としていると……。

 

「なんだい、アンタまた函館来たのかい?」

 

 壁に寄りかかりながらも腕を組んでいるおばあちゃん。

 よしっ、この時点で星5から一気に星2に降格しよう。そう、しよう。

 

「食べログの評価を付けても構わないけど、私はそんな茶々な気にし「なんでわかるの!!?」」

 

 全部言い切る前におばあちゃんの発言を切ってしまう。

 思わず突っ込まずにいられなかったその一言……。

 

「もしかして店主さんはエスパーだったり?」

「そうなの!?」

 

 唐突なまなちゃんの予想に私は反応してしまう。

 

「おや、バレちゃしょうがないね。私はこの道何十年の除霊師でね」

「除霊師関係なくない!?エスパーに除霊師関係ないよね、まなちゃん!?」

「でも除霊師さんって霊視能力があるとか言うよ?」

「え!?いやいや、そもそもお化けなんて居るわけないじゃん」

「アンタの傍に居るって言ったら?」

 

 ふふーん?

 まさかぁ、どうせおばあちゃんは私のことを脅かすためにそうやって怖がらせようとしているんだね。そういう術中にはハマらないよと得意げに今度は私の方が腕を組んでいると……。背後から誰かに触れられた感覚がする。

 

 え……?

 となって振り返ると、そこには薄緑色の長い髪をした女性が私の背中に触れていた。怖い怖い、となった私はもう一度振り返るとそこには誰も居なかった。え?私の勘違い?ともう一度意識をしてみると……。

 

 

 

『食べない「睦ちゃんの馬鹿!大馬鹿者!!」」

 

『……ごめん』

 

「タイミングが酷すぎるよ!!」

 

 話しかけて来ていたのは明らかに睦ちゃんだった。

 多分、お腹を空かせていて早くご飯を食べようと言っててくれていたんだろうけど間が悪すぎて幽霊が出て来てしまったのかとビックリしていた。全く、怯えて損したよ。

 

「んんっ!!」

 

 咳払いをしつつも、改めて怖くなかったよと印象付けようとするとまなちゃんがにこやかな表情をしててくれている。おばあちゃんの方はくだらなそうにしながらも、準備をし始めていた。

 

「先に仕掛けて来たのそっちなのに早々に逃げないでよ!?」

 

「五月蠅いね、こっちは仕事があるんだよ。そっちも冷やかしに来ただけなら帰りな」

 

「ムカつくー!絶対、毎日いたずら電話してやるもん!!」

 

「着信拒否するだけだね、ほら頼まないなら帰りな」

 

「頼むもん!!」

 

 まなちゃんと私は空いている席に座る。まなちゃんが言っていた通り、まだお店は開店してすぐだということもあり人は少なかった。ふふっ、やっぱり赤字なんだねおばあちゃん。

 

「あんまり五月蠅いとアンタのだけ減らすよ」

 

「だからなんで分かるの!?」

 

「分かりやすいんだよ、そっちのお嬢ちゃんより全然」

 

「もー!酷くない、まなちゃん!?あのおばあちゃん!?」

 

「モーティスちゃんのこと気に入ってるんだよ」

 

 絶対違う、いや違うのかな……?

 確かにおばあちゃんは素っ気ない態度を取っていたけど、おばあちゃんが今どういう気持ちで居てくれているのかが私にはよく分かる。表情にこそ出ていなかったけど、おばあちゃんは私が自分の店にまた来てくれたことを喜んでくれている。そんな気がしていた、ただそう思いたいだけかもしれないけどこのおばあちゃんって本当に素直になれないだけの人だもん。

 

「なにか食べて行くかい?」

 

「ほら、やっぱり!!」

 

「……代金は頂くからね」

 

「うっ!わ、分かったよ!!」

 

 さっきまでいい人だなと思っていたのにいきなり商売を見せて来た……。

 いや、おばあちゃんもボランティアでお店やってる訳じゃないのはそうだけど!!感動の再会だったのに此処に来て「代金」とか言われたら、グッってなるじゃん!!?

 

「とりあえずいつもの!」

「いつものなんてウチにはないよ」

「前頼んだ奴!!」

「そんなものもない」

「気遣ってよ!?おばあちゃんと私の仲じゃん!!?」

「二度店に来ただけじゃないか、しかも一回は迷ってきただけじゃないか」

 

 痛いところを突かれて「うっ……」という声が出そうになる。

 二回目に函館に来たときは結人君から離れる為に、自分と睦ちゃんを殺すために来たときなんて言えるわけない……。あれ自体、逃避行だったしまあ今ではいい思い出だけど……。結人君とキス出来たし、愛音ちゃんとも仲良くなれたし……。

 

「あの……おばあちゃん前に頼んだ黄金海鮮丼二つ頼んでもいいですか?」

 

「黄金海鮮丼二つね、ちょっと待ちな」

 

「扱いが違う!!」

 

「当たり前じゃないか、ウチは喫茶店じゃないんだから」

 

 抗議の声を上げると、更にトドメを刺されて何も言えくなる。

 確かにこういういつものって「マスターいつもの」とか言ったり、居酒屋で通じる印象がある。つまり凄く場違い。馬鹿みたいな行動をしていただけだと気づいて恥ずかしくなりながらも、自然と立ち上がってテーブルの上に置いていた手を引っ込めつつ座り直した後に、お茶を飲む。

 

「あっつい……」

 

 前と何も変わらない……!

 おばあちゃんのクソみたいな接客もこのお店の汚さも、この暑いお茶も……!色々と酷すぎるからやっぱり、星1!!

 

「モーティスちゃん大丈夫?冷たくする?」

 

「えっ?あーそれはいいかな……」

 

 方法が分からないけど、多分フーフーだと子ども扱いされているみたいで嫌になるから私が拒むと口元をはっきりと見せながらも笑みを浮かべてくれている。まなちゃんの笑顔は本当に画になる。そういうものだった、飾らないからこそ「女優」らしさがないんだよね……。

 

「どうしたのモーティスちゃん?」

 

「えっ?あーえっと……そのまなちゃんって私のことどう思ってるのかな……って」

 

 笑顔を観察していたなんて言えるわけもない、私はまなちゃんが自分のことをどう思っているのか?に話を切り替えていた。これはよく睦ちゃんが自分のことを気にしていた頃に使っていた手法だけど……。私はそういうのどうでもいいから、やったことがなかったけどまなちゃんが私という人間をどう見ているのか気になっていた。

 

「うーん?私自身は睦ちゃんの方とあんまり共演とかしたことないのはモーティスちゃんも知ってるよね?」

 

 それに頷く、実際そうだから……。

 どっちかと言うと私の方が多いから。

 

「だから、睦ちゃんがどうとかは言えないけどね私から見てモーティスちゃんは活発でエネルギーがある子だなぁって思うかな?色々と考えずに進んでるけど、モーティスちゃんなりに考えてるとか」

 

「まなちゃん、それ褒めてるのかな……?」

 

「勿論、褒めてるよ。モーティスちゃんのそういう実直で真っ直ぐなところ私はいいと思うの。お芝居ってやっぱりどうしても綺麗で居ようとかそういうところが目立つけど、モーティスちゃんのは熱意とかそういうのが込められていて私は好きだよ?古いなんて言い方する人が居ても気にしちゃダメだよ?」

 

 ()()という言い方に覚えがあった。

 それはあるニュース記事に私の演技が激情的で感情的過ぎるから古いみたいなことが中傷的に書かれていることがあった。睦ちゃんはすぐにその記事を忘れるために見なかったことにしてくれていたけど、私の中でちょっとだけ気になっている部分はあった。

 

 実際、私の演技というのは周りに合わせる気がないと言われることが多かったから。

 それは睦ちゃんもそうだけど。あの「ひんながみさま」だって結局睦ちゃんの為だけの映画と言われるほどの映画だったし……。私達という存在は演技をするだけでそこに異質な存在感を出す事はできる。できるけど、異質そのものになっちゃう。それを抑えるための力が欲しいと思ったことはあるけどどうすることもできなかった。

 

 周りに合わせても、私という存在が色濃く残ってしまうから。

 まなちゃんと一緒に撮ったドラマだってそう。もうすぐ放送されるけど、あれも私の演技が凄いとかって演者の人たちから褒めて貰ったけど特筆し過ぎてて他が霞んじゃう可能性がある。強者だからとかじゃなくて、存在が強すぎるからこその悩みだった……。

 

「まなちゃん……」

 

 あの記事を読んだのか、それともまなちゃん自身が何かを感じ取ってくれていたのかその両方かもしれないけど私はまなちゃんという人間の人当たりの良さに触れつつもこういう光に満ち溢れている人の源を知りたくなった。

 

「まなちゃんは自分が変わりたいとかそういうことって思ったことある?」

 

「あんまりないかな?」

 

「え?ないの?」

 

「うん、確かに自分の道が見えなくなったとき挫折したくなったときってそういう方向転換って大事なことだと思うよ?でも、私にとって目標は前にも話したよね?」

 

「歌を通して届けられるものを誰かに届けたい……だよね?」

 

 まなちゃんは前に語ってくれていたこと……。

 のど自慢を通して自分が何をすべきなのか、何をやるべきなのかちゃんと目標を決めることが出来ていたと話してくれていたこと。それは小さな体験から大きな体験をしたからこそものなのかもしれなかった。

 

「うん、私は自分が歌手になりたいって思いがあったからそこに向かってコツコツと頑張ろうって決めた。勿論、そこに走り出すまで色々な努力とか練習はしてきたけど根源は変えなかった」

 

「歌手になりたいこと?」

 

「うん、例えばアイドルになるとかそういうものでもいいの。最初に自分がこうなりたい、ああしたいとかそういうものを考えておいてその目標に向かって頑張ることを続ければいいと思うの。そして、アイドルになりたいなら……」

 

 

「そこで頑張る為の大元の目標も必要だと思うんだ」

 

 頑張る為の大元の目標……。

 アイドルになりたいというのはきっと初華ちゃんのことを指していると分かっていた。そして、私の中でもう一人頭の中で浮かんでいたのはあの子、華音。あの二人は違う形であれどアイドルになろうとした。確かにそこの根源の部分も変わらないし、二人には大元の部分もあった。

 

 私の大元の部分……。

 モーティスとして生き続けていくための根源……。

 

『傍に生きて、それで……()()()を作って行こ?』

 

『そうやって小さな体験がやがて大きな体験に繋がる』

 

 睦ちゃんとおばあちゃんの言葉を思い出す……。

 それは私にとってかけがえのないもの。自分を形成する上での大切なもの。ああ、そうだね。睦ちゃん。おばあちゃん。私の答えなんて最初から決まっている。かつての私は結人君という王子様に憧れて、恋焦がれているだけだった。

 

『消えなくていい』

 

 彼に自分を肯定されることによって、彼を王子様にしちゃいけないってなれた。

 私は自分のままに生きて、睦ちゃんとも話そうとなれたからこそ今の自分がいる。立ち向かう勇気をくれたのが結人君だとすれば、あの二人はこれからの未来を形成する為の形を作ってくれた。そこに思い出があるから、結人君とも睦ちゃんとの思い出が出来上がれる。そう信じれている私がいるからこそ力強く言えることがある。

 

「まなちゃん、私の……私の根源は睦ちゃんとこれから楽しく生き続けること!辛くても苦しい日々もある、悲しい日々もあるかもしれない。それでも二人三脚で私達は頑張りたい!そして、大元はこれからもまなちゃん、結人君、そしてバンドの皆……おばあちゃんやそれ以外のみんなとも……」

 

 

 

 

 

「思い出を作っていきたい!!それが私の……」

 

 

 

 

「大元でもあって、望み!!」

 

 まなちゃんのことは最初は単なるういちゃんのおまけだと思っていた。

 そう、ういちゃんが人気があるから注目されているだけだって。それは一緒に函館に来たときに違うとはっきりと分かって知り得ることが出来たけど、今もまたそれを再認識させることが出来た。

 

 まなちゃんという存在は確かに光そのもの……。

 自分を持っている存在であり、その自分を強く持ち続けることが出来ている。私はそんなまなちゃんに背中を押して貰った。誰かに押してばっかりの人生だけど、それも悪くなかった。誰かと支え合うことが私にとっての人生……だから。

 

「ふん、威勢のいいことを言うね」

 

 高らかな宣言を聞いていたのか、おばあちゃんは黄金海鮮丼を置いた後にもう一品置いてくれていた。それはあのときおばあちゃんが夕ご飯として出してくれていたイカのお刺身。ありがたみ、体験を知ったあの夕ご飯……。

 

 まずは一口、イカの刺身を食べることにする前に私は……。

 

 

「いただきます!!」

 

 と大きな声で言う。まなちゃんとおばあちゃんから感じ取りながらも私は箸を持っていた。

 ゆっくりと落ちないように口の中に入れて行って私が一口を食べれば、そこに広がるのは味の宝石箱じゃなく……。

 

 

 

 

 

「美味しい!!」

 

 単純なもの。

 だからこそちゃんと伝えられるものがある、おばあちゃんから得た教訓を活かしたままそのままご飯を食べて行った後にまなちゃんに此処に宣言することにした。

 

「私、これからも頑張って行くねまなちゃん!!睦ちゃんと共に!!」

 

 自分の中にいる睦ちゃんにも届くような声。

 

「うん……!!」

 

 

 

「応援してるね!!モーティスちゃん!!」

 

 まなちゃんは首を傾けながらも、満開の花みたいな笑顔で私の背中を押してくれていた。

 そして、私はおばあちゃんの方を見る。

 

「おばあちゃん……!こんなに美味しいご飯を……」

 

 

 

 

「ありがとう!!」

 

「ふん、そうやって可愛げがあると逆に気味が悪いねぇ」

 

「なっ!?おばあちゃんさぁ、空気読めないってよく言われない?」

 

「それはお互い様だろう?全く……」

 

 

 

 

 

 

「少しは成長したみたいだね」

 

 声に温かみがある。

 そこに棘はない。いや、おばあちゃんの声色にいつだって棘はなかった。言葉はアレだけど、優しさはあった。けれど、今だけは完全に違った。その声は優しさであって、私の成長を認めてくれている。

 

 だって私の目の前にイカ飯を置いてくれているんだから……。

 

「ありがとうおばあちゃん」

 

 変わらないものはない。

 それでも、私にとって……なによりも成長してると言われることが嬉しくて仕方なかった。来てよかった、死にに行くために二回目の函館に来たけどおばあちゃんと一日を過ごして本当によかった。過ごさなかったらきっと……。

 

 

 

 私はこの温もりを得ることが出来なかったから……。

 だからこそ、私達はお礼を込めてこの言葉を送る。

 

 

 

 

 

 

 

「「ごちそうさまでした!!」」

 

 食べ終えた私達は……。

 お店に出るのと同時に作ってくれたおばあちゃんへのお礼を忘れる事はなかった。

 

 

 また会いに行きたい。

 

 

 

 

 そう書き残しながらも……。

 

 

 

 

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