【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
「まなちゃ~ん!!」
まなちゃんの手をしっかりと繋ぐ私……。
やっぱり、折角函館に来てくれたなら私もまなちゃんと一緒に遊びたい。お仕事がこの後も入っているらしいから、あんまりお邪魔はしちゃいけないのは分かるけどやっぱりまなちゃんとの約束でもある。「遊ぶ」という行為をもっとしたい……。
時間という制約がなければ、まなちゃんともっと遊ぶことも出来るのに……。
時は金なりなんてまさにこのことだよ。いっそのこと時を止められるなんてことができれば都合がいいのに。時間を弄れるでもいいけど……。あーそれだと、私が毎週楽しんでいる習慣の漫画を待っている感覚が無くなっちゃう。それはちょっと……嫌かも。
なんて俗っぽい声を出していると、まなちゃんが私の手を握り返してくれている。
「モーティスちゃん、また一緒に遊ぼ!それでね、今度は犬カフェに行ったり二人で一緒にご飯を食べたりしよ!!」
「犬カフェに……ご飯……!!うん、行く!!絶対に行くからね!まなちゃん!!」
「素敵」という二文字が似合うほどのとびっきりの笑顔、言わば永久保存版の笑顔を見せてくれるまなちゃん。その笑顔と握り返してくれているその手は陽だまりに包まれていて私という月を照らすには充分なものだった。本当に何から何までまなちゃんは天使そのものだよ……!!相方の初華ちゃんも天使そのものだし、sumimiは天使そのものだよ!!
海鈴ちゃんを除くムジカとは大違いだよ……!!
『祥もいい人』
なんて睦ちゃんの声が今聞こえたような気がしていたような気がしていたけど、無視だよ無視。此処はまずまなちゃんに伝えないと、ありがとうって……。
「まなちゃん、ありがとう!今度絶対誘うね!!あっまなちゃんから誘ってくれても全然構わないよ!!」
「うん、じゃあまたいつかね!!」
「連絡待ってるね!!」
大きく手を振りながらも、タクシーに乗り込んで行くまなちゃんと別れを済ませる。
まなちゃんもタクシーの窓から手を振ってくれていた。タクシーは徐々に小さくなっていき、私は見えなくなるまでずっと手を振り続ける。
『睦ちゃん、あんまり海ばっかり見てたら吸い込まれちゃうよ』
『ごちそうさまでした!』
『そういう思いで……音楽を始めたんだ!』
『また行こうね、睦ちゃん!!』
また行こうね……。
それは私じゃなくて、睦ちゃんに投げかけてくれたものだろうけどそれでも私が変わっている状態の中で睦ちゃんは普通に接してくれていた。知らなかったからというのも大きいのかもしれないけれど、まなちゃんは私のことをありのまま受け入れてくれた。
あれこそが本当に変わらないもの……なのかもしれない。
まなちゃんは根源の部分は変わらずに大元の部分を次々と増やして行くみたいなことを言っていたけど、きっとまなちゃんはその大元をどれ一つとして根っこを絶やしてはいないんだ。ちゃんと成長させて丈夫にさせている。
そんなことが出来るかな?
私にも出来るかな?根源たる部分を変えないで自分の目標を増やして行くことが……。
「出来る、出来ないじゃないよねおばあちゃん」
店の方を振り返ると、砂利の地面をしっかりと踏みしめる。
それは私の覚悟を生み出す為の足取り。僅かなものでしかないけど、それでも私が踏み出そうとしている足取り。
「なにをかっこつけたことを言っているんだい、アンタなんか私から見れば単なる青二才でしかないよ」
「もー!!おばあちゃんはいつだってそうなんだから!!私がセクシーな女優になってお店を宣伝して欲しいなんて言っても宣伝してあげないからね!!べーっだ!!」
「はんっ、アンタみたいなガキの取材を受けたらその店の評判がた落ちになりそうだね」
「なっ!?減らず口ばっかり言って!!もういいもん!もう来ないから!そのまま閉店しちゃえばいいんだもん!!」
全くデレてくれないおばあちゃんに私は強めな言葉を投げかけながらも、店前から歩き出そうとしていたけど私は足を止めてしまう。どうしても、おばあちゃんに話しておきたかったことがあるから。
「おばあちゃん……」
「なんだい?」
「あのとき、私のことを助けてくれてありがとう……」
溜めることはなく感謝を伝える。
間って大事かもしれないけど、一番大切なことを伝えるのはやっぱり緩急つけずに直接ぶつけたいという気持ちがあるからこそだった。おばあちゃんは素直じゃないから、これも辛辣に投げ返される可能性は充分にあったけれど、怯むことはなかった。
だって……直接伝えたいって気持ちは本物だから。
ただ自分に素直になる。それって難しいことだけど、出来ないことじゃない。過去の私ならきっと出来なかっただろうけどおばあちゃんからは大切なことを教えて貰ったから。
「ありがたみ、体験。その両方は私にとって一番重要なものなんだ。その二つを教えてくれたおばあちゃんに感謝しかない。だから、ありがとうって言いたかったんだ」
「それじゃあね、おばあちゃん……!!」
今度こそ別れを告げる。
その別れは寂しさを感じさせるものじゃなかった。寧ろ、これから先続いて行く物語を書き記して行くためのものでしかなかった。自分が進み出す為の足取りを確かにする。決心しながらも、歩き出そうとした瞬間、おばあちゃんの声がする。
「また来るんだね」
優しくて不器用で温かい、その声がしている。
「うん、絶対に来るね!!」
私の返すものなんて決まっている。
それは一番大切でこれからも変わらない私の根源部分……。
だから……。
モーティスと別れて行動するようになってから、どれぐらいの時間が経っただろうか。
今は時間帯は昼前ってところだろう。
「ゆいくん、買ってくれてありがとう」
「ん?ああ、構わねえけど……」
俺達は今のんびりとコンビ二を屯っていた。
目的地にさっさと辿り着いてもよかったけど、モーティスを置いて楽しむというのも違う気がしていたから俺達はのんびりとしていた、俺は元よりこういうのんびりとした旅ってのが嫌いじゃなかったから、案外悪いものでもない。
他の奴らがどう思ってるかはちょっと悩ましいところではあるが、愛音も楽奈の方も楽しんでくれているようだ。にゃむはちょっと不満げだが、それは観光というよりは俺自身にって感じだろうし。
「それにしても、私が出してもよかったんだよ?」
「前にも言ったけど、趣味じゃねえんだよ。女子に払わせるのは」
「へぇ、そういうところはしっかりしてるんだ結人って」
「悪かったな」
にゃむが割り込んで話をしてくる。
何処かで聞いたことがあるようなやりとりに俺と愛音はちょっと苦笑いを浮かべていた。この話は俺と愛音とでもしたことがあったからな。
「でも私って基本的にゆいくんに払ってばっかりじゃん?だから、そこはちゃんと自分で払いたいかなーって」
「気持ちは有難いけど、俺は別にそういうの要らねえぞ。なんなら、俺の方が払いたいぐらいだからな」
「どういうこと?」
「ほら、MyGO!!!!!のライブをいつも聴かせて貰っているだろ、だからその感謝って言うか」
「うーん?なんかそれはそれで違くない?チケ代は払って貰ってるんだし」
確かに言われてみりゃ、ライブのチケ代が収入の一部になることはある。
管理しているのは凛々子さんとか一部の人達だからどういう仕組みなのかはよく分からないけど、この前あるバンドの人達が自分達で赤字だとか嘆いていたからバンドも一筋縄というわけじゃないんだろうな。
愛音達がどうなのかは知らないけど、こういうのってチケットノルマみたいなのもあるっていう。その点、愛音はノルマとか全く気にしなくていいだろうな。逆に燈とか立希が一番気になる。そよはああ見えても外面はいいし、楽奈はなんだかんだ割と面倒見て貰っているみたいだしな……。
でも、燈もそういう面もあるし一番やばいの立希なんじゃないのか……。
「ど、どうしたの?ゆいくん?」
「いや、一番身近でバンドを大切な奴がしている奴が一番切羽詰まってそうだなって思っただけだ」
「ど、どういうこと?」
「こっちの話だからあんまり気にしなくていいぞ」
どう考えても今は関係ない話だしな……。
あいつもバンドのことを大事だと思っているし、自分でどうにかしなくちゃいけないときはどうにかするはずだ。
「あっそうだった!さっきライブで還元してるって話してたじゃん?それだけどさぁ、私がANON TOKYOを創設したときはゆいくんに是非長期に渡るご購入をお願いしたいって言うかさ。勿論、メンズ関連の商品も出すからさ」
「そう来たか……」
あまりにも唐突であったが、愛音はまだ創設もしていない自分アピール出しまくりの会社で自分の商品を買って欲しいと言い出していた。俺はそれでも構わないけど、それって……。
「自分の為にならなくないか……?」
「えっ?あっ、確かに……そうかも」
「買うのは構わねえけど、最初の時点で俺に買わせてたら意味ねえだろ……」
「うっ……それも確かに……」
実際買ってやること事態は全然構わないんだけど、最初から店の商品を俺に買ってもらうってのもどうなんだ?と真面目になってしまう。その重要性に気づいたのか、愛音も何処か何も言えなくなっているようだった。
「ANON TOKYOってなに?」
「自分の名前」
「あーそういうこと」
愛音が言葉に詰まっていると、楽奈とにゃむの会話が聞こえて来ていた。
一見、単なる質問をしていただけなのに何処かシュールに聞こえて俺は笑いそうになっていた。
「ま、まあ……!ゆいくんの気持ちは有難いけど、ちゃんと払わせて欲しいって気持ちもあることは覚えて欲しいかな~って」
「分かったよ、ちゃんと覚えておいてやる」
払わせるとは一言も言ってないけど、頭の中に入れておくだけでも結構変わって来るだろう……。あんまり趣味じゃないから払わせる気なんてないんだが……。
「それにしても、モーちゃんまだかな?」
「もうすぐこっち来るって言ってたからもうじきじゃねえか?」
まなさんと居るようだし、あんまり急かすも嫌だったから特に連絡を送ることもしなかった。
愛音は気になっているようだったがな、どっちかと言うとまなと居ることが気になっていたようだが……。
「モーティス……?」
「どうした楽奈?」
一台のタクシーを指す楽奈……。
中には人が乗っているようでその中を見ると、モ―ティスらしき人が乗っている。俺と愛音が気づいて、待っていると中からモーティスが出て来る。
「あっ結人君!!ごめん、待った!?」
タクシーに「ありがとうございます!」と言って出て来たモ―ティスを見て、胸の奥で小さな火がついた感覚が起きていた。それはモーティスという人間の成長を見れたからというのが一番デカいのかもしれない。
蕎麦屋でもあいつはお礼を言ったりしていなかったら、尚更そういうところに敏感になっている自分がいたんだろう。
「いや……」
「行くか、モーティス!」
今回は安易に成長したなと伝えることはしなかった。
それはきっとモーティス自身がよく知っていることだろうから、今日はただ観光という日常を楽しみに来ただけに過ぎない。それならば、今日はお互いに羽目を外すべきだと思っていたからだ……。
時間帯は夜になり、俺たちは函館山に来ていた。
夜になったから、函館も流石に寒いだろうと想定していたが流石にそんなことはなかった。最近は北海道でも全然暑いと聞くしな……。
「現実はそう上手くは行かないか……」
「何の話してるの?」
「いや、なんでもねえよモーティス」
此処のところ独り言が増えた、自分で何回したかまでは流石に覚えてはいねえがそんな気がしてならなかった。それほど余裕が出来たということなんだろうな……。夜になっても俺はまなさんとの出来事を聞くことはしなかった。
「ねぇ、結人君……」
「なんだ?」
「私ね、自分だけの道を見つけられた気がしたんだ。睦ちゃんとこれから楽しく生き続けること。そして、結人君達やバンドのみんな……。そして楽奈ちゃん達とも思い出を作っていきたいって」
後ろで景色を眺めているにゃむの視線が俺達の方へと向けられていた……。
「……モーティス」
それは恐らく、モーティスがこの旅で得たものだったんだろう。
まなさんとの再会で得て、彼女は今こうして標高334mの山から街並みを見つめていた。街頭や建物の明かりが色彩を与えていて、広がるこの景色は素晴らしいものでしかなかった。そして、それを噛み締めるようにしている。
「ねぇねぇ、モーちゃん!私は!?私は!!?」
「えっ?愛音ちゃん……?」
「え!?私とは作ってくれないの!?」
「いい……けど。その……そよちゃんや楽奈ちゃんの方が優先」
「優先順位低いってこと!?!」
目を逸らしつつも、モーティスは愛音から逃げると愛音がそれを追い掛け始めていた。
山の中で奇妙な逃走劇が始まっていると、楽奈が俺の隣とやって来ていた。
「ゆいと、なにか面白い話ない?」
とうんちくを語れと言われた俺は口元に手を置いてから思いついたことを語り始める。
「楽奈、お前が興味ないかもしれねえが函館山にはこんなうわさ話があってな。函館の夜景の中にハートって字が隠れており、見つけることができれば、一緒に見た人と幸せになれるってな。お前はそういうの興味ないから、あくまでもこれは競争として楽しむってのはどうだ?」
「競争……面白そう」
「なら、どっちが早く見つけ出せるか競争と行こうぜ。にゃむもや「興味ない」」
「だろうな、じゃあ始めるとするか!」
一応にゃむも誘ってみたが、案の定却下される。
どうせこうなることは予想していたんだが……。とりあえず、切り替えて二人で競争をすることに決めたが愛音とモーティスも一緒になって探し始めていた。逃走中していたんじゃなかったのか……。
「うーん、何処だろう」
「こういうのって根気よくだもんね」
愛音とモーティスが目で追いながらも、ハートを探している。
モーティスの方は指先で夜景を見下ろしながらも、目で追っている。隠れ文字を探すというのはなんかこう。
「隠れミッキー探しているみたいだな」
「あーそれ分かるかも!!」
愛音と俺の話に共感を示してくれる。
「あっ今度ディズニー行かない?」
「急だな、別にいいけど遊び過ぎてると立希に怒られるぞ」
「うっそれはそうだけど……」
立希も鬼じゃないから、ずっとバンドの練習をこの夏休み期間に立て続けてに入れて来なかったみたいだけどどうやらライブはやる気があるみたいだしな……。そろそろ忙しくはなるだろう。
「夢の国!?私も行きたい!千葉ってそれしかないもんね!」
「一応、牧場とかあるんだけどな」
「ねこいる?」
「猫カフェ行った方がいいんじゃないのか、それは……」
「あっ私子ブタカフェとか行ってみたいかも!!」
次々から注文を追加してくる愛音とモーティス。
そして、横から楽奈の声が聞こえて俺はそれに思わず反応してしまっていると、楽奈が「あっ」という声を出す。
「どうした楽奈?」
「あった」
「本当か?」
楽奈は無言のまま首を縦に振っている。
モーティスが「え!!?」という声を出している。
「MyGO!!!!!がこれからも続けられるようにって願った」
四葉のクローバーのように「しあわせ」を届けてくれるものでもないし、願い事を叶えてくれるようなものでもないが楽奈はいつものように笑顔満天で誇らしげに話している。楽奈らしさ、そういうものを感じているとまた横から声が聞こえてきた途端と思った途端、声色が若干変わる。
「あっ「だから睦ちゃん!」」
「あった……」
「だから睦ちゃん!?なんで邪魔するの!?」
箱根のとき同様、睦が人格を変えて表に出て来ていた。自分が先に見つけたと言い張っていてモーティスと言い争っていた。視線だけで指差すことはせず、小さいな声でモーティス……睦が安心しきったような表情になりつつも徐々に表情が緩んでいる。また一つ、睦の中で思い出が作ることが出来たそれを掴み取れたんだな、ただこれはある意味面白い光景でもあるが……。
「むきー!!愛音ちゃんよりも先に見つけ「あっあった!!」
「愛音ちゃん大嫌い!!」
モーティスは睦から人格を交代して、今度こそ見つけ出そうとする。
愛音に先を越されて、俺は思わず吹き出してしまう。
「えー?それはちょっと理不尽じゃ……?」
「いいもん!もう二度と口聞かないし!!」
「ごめんってば!後で何か買ってあげるから許してよ!!」
「ちょっと……考えてあげる」
「あっ許してくれるんだ」
「やっぱり大っ嫌い!!」
今度吹き出すだけはなく、ちゃんと笑ってしまう。
愛音がその場を乗り切るためになんとか策を考えていたが、自分でもそれだけで許してくれるとは思っていなかったのか声に出してしまっていたようだ。実際、愛音は「え?チョロくない?」みたいな顔をしていたから、思わず笑ってしまう。
そして、また始まる逃走劇をただ視線を向けているとにゃむが声を出していた。
「馬鹿ばっか……」
「だな……」
「アンタも含まれているんだけど?」
「知ってる、でもいいんじゃねえのか?こういうのも……」
「思い出って感じで……」
夜の山に相応しくない騒がしさかもしれない。
それでも、俺は今この場における自然的な匂いと山特有の静かさに……。下には無数の街明かりが騒々しさを教えてくれている。そういう違いが起きているなかでの楽しみというのもまた一興だ。キャンバスがあれば、此処に描きたくなるぐらいには……。
「モーティス一緒に探すか?」
ようやく逃走をやめて走り疲れていたモ―ティスに声を掛ける。
「えっ?えっと……うん探す!!」
モーティスの方は躊躇っていたが、すぐに
「そうか、じゃあ俺はあっち探すからお前はそっち探せよ」
「う、うん!!じゃあ……」
「お願いね!結人君!!」