【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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金色の輝きは私を照らしてくれる

 今日の旅行は楽しかったな……。

 まなちゃんとも会えたし、おばあちゃんとも会えた。愛音ちゃんに色々とちょっかいかけられたり、睦ちゃんには悪戯されたり色々と大変だったけどまあ……悪くない一日だった気はするかな。結人君も私に色々とお土産を買ってくれたり、楽奈ちゃんとは色々とお話ししたり、にゃむちゃんはにゃむちゃんかな。

 

「それに……」

 

 大事なことを学んだし、自分の目標を見つけ出すこと。

 大元と根源。その二つを私はまなちゃんの前で誓うことが出来た。私の根源は睦ちゃんとこれからも楽しく過ごすこと、一緒に。そして、大元はこれからも結人君達と楽しい思い出を作っていきたいってこと……。

 

 それが今の私の望み……。

 

「よしっ、出来上がった!」

 

 今日行った場所、今日起きたことをまとめてるメモリアルノート。

 それはただ行ったところを書き記すだけじゃなくて、どう思ったのかとかも。「楽しかった」とか「よかった」とかそういうことをまとめるノート。大雑把に言っちゃえば、そんな感じのノート。

 

「うーん!!」

 

 椅子に座ったまま、手を天井に伸ばしていると凝り固まっていた背筋がまっすぐになったような気がしていた。そろそろ整体とか言った方がいいかもなんて考えていると、心の中の睦ちゃんが葬式会場になっていることに気づいた。

 

「どうしたの?睦ちゃん?今日は楽しい思い出がいっぱい作れたのになんで落ち込んでるの?」

 

 楽しかったときぐらい、楽しいって思おうよと言おうとしたけどちょっとだけ抑えた。

 多分、睦ちゃんが今そういう気分じゃないかも……だから。

 

「私は変わってない」

 

「……なにが?」

 

「モーティスは自分を確立することが出来た。でも私は違う」

 

「え?睦ちゃんにはギターって確立したものがあるじゃん、何を言ってるの?」

 

 それにあの誓いは私だけのものじゃない、私が睦ちゃんとこれからも一緒にと願ったように。睦ちゃんだって、これからも私と一緒に願ってくれる。なによりも、睦ちゃんはバンドという音とギターという音を得ようとしている。それだけで充分なのに、なんでだろう……?

 

「見つけてないから、まだギターの音」

 

「うーん、焦っても仕方なくない?睦ちゃん」

 

 背もたれに寄りかかるのをやめて、私は机の上に肘を置いた。

 

「そうやって焦って見つけられるならいいかもしれなけど、焦っても見つけ出せるものじゃないよ!それにこれから見つけていくって誓ったじゃん!!」

 

「そう……だけど」

 

 

 

 

 

「それでも私も……前に進み出したいから」

 

「もー!!睦ちゃんは暗すぎるよ!!根暗!!」

 

 結局、似たようなことを言ってしまう。

 それでも、やっぱり睦ちゃんがどうして此処まで自分を下げているのか私には分からなかった。だって、楽奈ちゃんと愛音ちゃんとのセッションでようやく自分だけのギターを得ることが出来た。音は奏でることができないけど。

 

 そして、まああんまり認めたくないけどモルフォニカの人達のおかげでまた睦ちゃんはバンドをやりたいってなれた。そこまでは良かったのに、どうして振り出しにまた戻ったんだろう……。

 

 考えてあげても考えてあげてもよく埒が明かなかった。

 私には分からなかったから……。でも、一つだけ思い出したことがあった。

 

 

 

『私は変わってない』

 

 もしかして、あの言葉って……。

 私は目標を確立できたのに、自分は未だに曖昧……。

 

 

 

 

 そういうことを言いたいのかな……。

 確信はないから睦ちゃんに何かを言えるわけじゃない。それでも、それしかないと思えたのは間違いなかった。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

『勿論、そこに走り出すまで色々な努力とか練習はしてきたけど根源は変えなかった』

 

 深夜2時、まなの言葉を思い出す。

 真夜中の部屋のなかはいつだって暗くて、心を表しているみたいだった。

 

『そこで頑張る為の大元の目標も必要だと思うんだ』

 

 頑張る為の大元の部分、私にはそれが足りていなかった。

 これから先変わることを選んでも、私には根源の部分があっても大元の部分がまるでなかった。モーティスにはそれができた。初音にもそれがある、私には……。

 

 

 

「それがない……」

 

 ようやく踏み出すことが出来て、一歩ずつ上がっていた階段の一つずつを噛み締めることが出来ないでいる。それどころか、引き下がってしまっている感覚にすらなってしまっている。自分がどれだけ無力で、自分が脆いのか知ることになってしまう。

 

 苦しい痛みだけど、それでも私は耐えようとしていた。

 この痛みがきっといつかの自分に乗り越えられてよかったねと笑い合える日が来るかもしれないと信じたかったから……。

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 誰も居ない音楽室……。

 手には弦を握っていて、目線には楽譜がある。それだけで充分、練習というものをしているはずなのに私は何処か自分が練習に取り組んでいないような気がしてならなかった。本気じゃないとか、そういう問題じゃない。

 

 多分、気持ちの問題……。

 

『お前ならギターともっと向き合うこともできるし、ムジカの奴らと向き合うことだってできる。俺はそう信じてるぞ』

 

 弦に触れようとしたとき、結人の言葉を思い出す。

 彼の言葉はいつだって、私にとって自分を突き動かすにはいいものだった。

 

『睦も睦で自分の魂に向き合える、正直になれる。そういうバンドの中のギターを目指せばいいんじゃないねえかって……自分なりの』

 

 小さな指で弦にまた触れると記憶が浮かび上がる。

 そして、曲を弾き始めると今度は……。

 

『祥の隣に立つ、そして今度こそムジカで……』

 

 

 

『私のギターを弾き出したいから』

 

 今にしてみれば、あれは大層なことだったのかもしれない。

 私は祥の隣を歩いてバンドをまたしたかった。それはモルフォニカという羽が私にそうしてくれたように、先輩達のバンドを通してバンドは「形」が大事だということを……。それは多分、出来たと思う。つくし先輩が言ってくれたことは……。家庭菜園という枠組みの中で私達のバンドは一つになれたような気がするから……。

 

 そして……。

 

 

 

 自分がやりたいようにやって見せればいい、進むことの恐怖心も。

 一歩下がることの恐怖心も、そう私は教えて貰った。

 

「じたばたしてられない……」

 

 透子先輩、ましろ先輩、つくし先輩から教わったものがある。

 自分で決めたことがある、逃げ続けていたら自分を得ることが出来ないでずっと浅い闇の中を彷徨うことになる。

 

 それこそ……。

 あの子達(自分達)のように……。

 

 

 

 覚悟は決めた、私は再びギターに手を触れようとしたとき音楽室の扉が開く音がする。

 そっちに意識を向けると、綺麗な金髪を靡かせながらも私の手を掴んでくれていた。

 

「透子先輩……?」

 

 音楽室に入ってきていたのは透子先輩……だった。

 誰かが此処に入って来ることは考えてもいなかったから、ちょっとだけ動揺していた。

 

「あの……先輩?」

 

「指切れてんぞ」

 

「怪我?」

 

 透子先輩が私の手をどうして掴んでいたのか気になっていた。

 そして、その理由は先輩が言ってくれたおかげで理解できた。右手の人差し指は弦で切ってしまったのか、血が出ていたようだった。

 

「人差し指はピック持つときに重要なんだからあんまり怪我すんなよ?」

 

「ごめんなさい」

 

「あーいや、別に怒ってるわけじゃなくてな……。ほら、ムジカって結構有名なバンドだろ?だから、あんまりこういう怪我って目立つだろうしって思って……」

 

 先輩が「ふーすけから貰った絆創膏何処だったっけな」と言いつつもバッグの中に入れてあった絆創膏を私に貼ってくれていた。その絆創膏はデザインもなく普通の絆創膏だったけど、何処かつくし先輩らしさがあった。

 

「はい、これで大丈夫だな!擦り傷だから、大したことはないけど次から気を……ってそうじゃないよな。ムツは一人でギターの練習をしてたのか?」

 

「ムツ……?」

 

「あー若葉睦だから、ムツ。駄目だったか?」

 

 ムツ、あだ名……。

 にゃむ以外でそういうふうに呼ばれるのは初めてだったから。何処か新鮮な感じがしている。自分の中で何かが湧きだすなんてことはなかった。それでも、何処かこういう温かみのあるあだ名は悪くないもの……だった。

 

「なにかあったのか?あたしが入ってたとき、かなりボーっとしてたけどさ」

 

「その……自分でどうすればいいのか分からなくなって……」

 

 正直に話をすることにした。

 自分の膝に手を下げて、その手には完全に力が入っていなかった。

 

「うーん、多分だけどムツってもしかして自分がやりたいからやりたいからやってるけど……なんかこう気持ち的に」

 

 

 

 

「やらなくちゃいけないから、やってないか?」

 

 やらなくちゃいけないから、やってる……。

 それはいったいどういう……?となっていると再び音楽室の方が開いた。

 

「よしっ!ムツ、ちょっと待ってろ!!今ギター持ってくるからちょっと一緒に練習してみようじゃん!!」

 

「透子先輩とですか……?」

 

「そうそう、こういうのって口で説明するよりも実際に一緒に弾いた方が早いって!じゃあ、ちょっと待っててな!」

 

 音楽室を出て、楽器を取りに行った先輩……。

 音楽室に取り残された私はギターのボディ部分に触れつつも、彼女に語り掛けていた。やらなくちゃいけないからやっている。

 

「使命感……?」

 

 ギターに話しかけながらも、私が待っていると透子先輩がギターを持って中へと入って来ていた。慌てて入って来たせいか、扉がちょっと空いていたのに気づいて、そのまま勢いよく締め直していた。

 

「それじゃあ、一曲弾いてみるか?」

 

「先輩達の曲でもいい……ですか?」

 

「え!?あ、あたし達の!?」

 

「ダメ……ですか?」

 

「い、いや……ダメじゃないけど後輩の前で一緒に弾くのって緊張するなって……。やったことなかったし」

 

 透子先輩は途端に出て来た汗を手の甲で拭いながらも、楽譜を出す。

 私もそれを見ながらも、一緒に楽曲を弾き始めるとこの音楽室に波が起き始める。それは本来、起きるはずもなかった波だった。透子先輩との作り出す音、先輩の音は何度聞いても私と正反対の音だった。

 

 それは性格もそう……だけど。

 自分の近くの人間で言えば、それこそ愛音に近いものを持っていたけど透子先輩はちょっと違う。ギターを弾かせるだけで陽だまりみたいなオーラを放つことができる。他の楽器の邪魔になってない。月ノ森の生徒とは思えないほど人なのにギターを弾く動作・雰囲気・表情。それぞれに月ノ森の生徒として節々に感じさせてくれている……。

 

 それが何故なのかは分からない。

 でも、それはましろ先輩が前に言っていたことがヒントなのかもしれない……。

 

『あなたの輝きが道を照らす、若葉さんもこの言葉知ってるよね?』

 

 それは月ノ森の校訓でもあるもの……。

 あなたの輝きが道を照らす、ましろ先輩はあのときこの先も輝ける未来に辿り着けることを出来るかもしれないと信じてると言っていた。透子先輩は、透子先輩はどうなんだろうか。やっぱり、自分がやりたいことを通す。そういう気持ちがある……んだろうか。

 

 

 

 

「うーん?なぁ、ムツ……ちょっと一人で弾いて貰ってもいいか?」

 

 二人での演奏を終えた後、透子先輩は首を傾げながらも一人で弾いて欲しいと頼まれて私は前奏をある程度弾くと、先輩が手を叩いて「止め」と言った後におでこに手を置きながらも「うーん?」と暫く唸っていた。

 

「ムツ、一つ聞いてもいいか?」

 

「はい……」

 

「お前さ……」

 

 

 

 

 

「ギター弾いてて楽しいって思ったことあるのか?」

 

 それはかつてとどめを刺したものに似ていた。

 バンドを楽しくない、祥を守るための発言でもあり自分の本心を言ってしまったものでもあった。久々にそれを指摘された感覚になった自分は胸をキュッと締め付けられていると眩しさが広がる。

 

「なんかこうしなくちゃいけない、自分はギターの音を出さなくちゃいけないに囚われ過ぎてる気がしてさ。上手く言語化できないんだけどさ、そういう使命感でギター弾いてても楽しくないだろ?ムツが」

 

「そりゃあ自分がやりたいことをやるってのも大事じゃん?やりたいって気持ちばっかじゃついて来れないって!例えばだけどさ……ってあーもう!!!」

 

 頭を掻き毟った後に透子先輩……。

 それは抑えていた何かを今から全面に出そうとしているみたいだった。

 

「後輩だからちょっと濁して言おうとしたけどやめ!!そもそもあたしそういうの苦手じゃん!こういうのはやっぱ、ガツンと言わなくちゃダメだよな!ムツ、いいか?よく聞け!」

 

 

 

 

「今のお前とギターはやりたいからじゃなくて、今勉強したくないけど勉強しなくちゃみたいな感覚ってこと!ほら、夏休みの課題が残っているけどやりたくねえ!!ってのと一緒……。あっ、これ体験談じゃねえからな?とにかく……!」

 

 咳払いをしながらも先輩は話を続けてくれている……。

 

「義務感だけじゃ音なんて出せねえって!さっき一緒に弾いてたときだって、途中から無意識にあたしの音に合わせようとしてた。それは悪いことじゃないし、合わせようとしてくれるのは中々すげえと思うけど欲しいのは自分だけの音だろ?」

 

「今のムツは途中で萎縮しちゃって逃げちゃってるんだよ。それじゃあ、ダメだって。じゃあ、どうすればいいかとってのは要は……」

 

 

 

 

 

 

「楽しいと思わなかったら、弾けるわけないんだってこと!なんかこうぐちゃぐちゃになったけど、私が言いたいのはこういうことだからな!」

 

 楽しく……。

 そういえば、愛音と楽奈と弾いたとき私は自分の心のままに弾けていた。あの二人に敵わないのは分かっていたけれど、あの二人で弾くことで自分のギターを得れるかもしれないとなっていたから。なによりも、あの二人と弾くのが楽しかったから。

 

 そして、ムジカを再結成してバンドを始めてから楽しかったと言う気持ちは確かにあった。

 それはみんなが居たから、モーティスが居たから。なのに、いつからだろうか。私がまた自分に自信を持てなくなったのは……。

 

 

 

 

 

『私たちだけの物語を……いえ、()を作っていきたいですわね』

 

 未来に期待を乗せたの私の方だった。

 とどめを刺したのも私だし、祥の未来をまた明るくしたのも私だったのかもしれない。なのに、私はどうしてまた迷走をしたんだろうか。

 

 いや、その答えは知っていたはず……だった。

 初音に自分のことを話したあのたった一言が自分という人間を証明していた。

 

『自分で何もできないって気づきたくない、から……』

 

 初音はあのとき自分はそこまで冷静に分析できないと言っていた。

 モーティスには辛気臭いと怒られた。今、モーティスは出来てたりはしてないけれども多分今も辛気臭いと思っている。結人に助けて貰ったから、先輩達に助けて貰ったから、楽奈と愛音に助けて貰った過去があるから誰かに支えて貰わないと生きていけない、弱い人間だと思い込んでしまっていた。

 

 なによりも、私にとって苦痛だったのは……モーティスが目標を見つけたから。

 皮肉でしかなかった、それは自分にとってモーティスは邪魔になるから消そうとしていたときに抱えていた焦燥感と一緒でしかなかった。そして、なによりもモーティスが言っていた焦っていてもしょうがないという言葉は透子先輩が言っていたものに近かった……。

 

「あーもう!!ムツ、ちょっと来い!!今日はギターの練習終わりだ!外出るぞ!」

 

「……何処に?」

 

「あーえっとそうだな、コンビニでも行くか!とりあえず今日は……」

 

 

 

 

「オフを楽しむ!あたしと一緒に!もう決定事項だからな!いやぁ……補習抜け出せて良かった

 

 私がギターケースを背負おうと、そのまま先輩に手を掴まれて音楽室を一緒に後にする。

 自主練をしに来ただけなのに、とんでもな一日の始まりが幕を開ける。

 

 

 

 

「それじゃあ、行くぞ!!ムツ!!」

 

 

 そんな気がしていた……。

 でも、悪い気分じゃ……。

 

 

 

 

 

 

 なかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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