【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

164 / 237
共鳴と呼ぶその楽器と心残り

「睦ちゃん、水はドバーっとかけていいんだよね!!」

 

 家庭菜園の水やりをモーティスがやりたいと言い出したこともあって、私は任せようとしていたけどモーティスはかなり大雑把なことをしようとしていた。

 

『ダメ』

 

「えー!!一気にかけた方が効率いいじゃん!」

 

『ちゃんと育たない』

 

「まあ……そうかもしれないけど」

 

 モーティスは私の話に納得は示してくれていたけど、ちょっとだけ不服みたいだった。というよりは、透子先輩のこともあってかモーティスはちょっと怒っているようだった。

 

『ごめん、モーティス』

 

「昨日のこと?別にいいってば、まあ睦ちゃんが簡単にあの先輩に丸め込まれているのはよくないと思うけど」

 

『モルフォニカまだ嫌い?』

 

 モーティスは言葉に詰まっている。

 額に指を置いて「うーん」と声を上げながらも、なんて答えればいいのか迷っているようだった。

 

「やっぱり、嫌い!!睦ちゃんもすぐに丸め込まれるし、まあモルフォニカの先輩のおかげで根暗睦ちゃんじゃなくなったけど……それはそれ。これはこれでしかないもん!!この話、はい終わり!!さようなら!!」

 

 強引に話を切り替えようとしていたけど、モーティスはなんだかんだ透子先輩達のことを認めてくれているのが伝わっている。声の発音からして、本当に憎んでいるわけじゃなくてほんのわずかに自分の気持ちに正直になりたくない思いがあるからモーティスは自分の意志を曲げようとしてないだけだって……。

 

「それより今日これ終わったら初音ちゃんとのギター練習だよね?余裕を楽しむんじゃなかったの?」

 

『今楽しんでる』

 

「ふ、ふーん?そ、そうなんだ?まあ、睦ちゃんがこうして私と休暇を楽しみたいって言うならまあ手伝ってあげ「モーティス、一か所に水あげ過ぎてる」」

 

 

 

 

 

「もー!!早く言ってよ!交代、睦ちゃん!!横から指図ばっかして!!」

 

 ジョウロを地面に置きながらも、選手交代を命じて来るモーティス。

 それに私はちょっとだけ表情を緩ませながらも、交代の指示を聞くことにしながらも私はこの余裕を楽しむことにしていた……。

 

 

 

 

 モーティスと共に……。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「睦ちゃん、準備の方は大丈夫?」

 

「大丈夫……」

 

 ギターを手に取りながらも、私は初音に合図を送るために頷く。

 それからして、お互いの音を弾き始める。初音のギターは情熱が込められていると私は思っている。初音の口から引き出すことができるその音色との相乗効果が合わさり、Ave Mujicaというバンドに良い具合に噛み合わせてくれている。

 

 ムジカというバンドは人形であるけれども、初音……ドロリスの歌声は力強くそれでいて熱さを感じさせるようなものが多い。暑苦しさとかそういう暑さとかじゃなくて、歌に込められてる力を司っている気がするから。

 

 なによりも、実際初音の相乗効果は確かなものなのかもしれない。

 初音に比べればまだまだ私は未熟だけれども、それでもいつかは初音にも見劣りしないギターの音を手に入れることが出来れば私は初めて自分のギターを得ることが出来るはず。

 

 

 

 

「ありがとう、初音……」

 

「ううん、私の方こそありがとう」

 

 初音の方からお礼を言われるとは思っていなかった私は首を傾げてしまう。

 

「あっ、えっとね、こうして二人でギターの音を合わせて練習するって中々なかったねって思ったんだ」

 

 確かにそうかもしれない。

 スタジオをわざわざ借りて二人だけで練習するということは、初音とは全くして来なかった。そもそも、ムジカのみんなとは全くこういうことをして来なかった。みんなそれぞれバラバラだったから……。

 

「それに嬉しかったんだ、前に睦ちゃんが言ってたよね?ギターのことを教えて欲しいって」

 

「言ってた……」

 

「自分が誰かに何かを教える立場になるなんて思わなかったけれど、教える立場になって分かったんだ。こういうのも悪くないかもって、ほら家庭菜園のときに先生って呼ばれてたことあったよね?そういうのもあって」

 

「じゃあ、初音先生……」

 

「今は初音でいいよ、嬉しいけど睦ちゃんの方がどっちかと言うと先生だと思う」

 

 心の中で「私が……?」となってしまう。

 何かを教える立場かと言われたら、全然そんなことはない気がしていたから。何度も人生の路頭に迷って、進むことに億劫になって泥まみれになってきたから。

 

「私が自分の過去と向き合えないとき、モーティスちゃんは本当は辛いんだって教えてくれた。睦ちゃんは自分の弱さを教えてくれた。そういうことを教えて貰えるって中々ないと思うんだ、だから本当に睦ちゃんの方が先生だと思うの」

 

 それは私だけに向けられたものではなかった。

 私達のことを先生と言ってくれる初音。心の中でモーティスが「先生!?」と言って喜んでいる声がしている。ちょっとだけそれに笑みを浮かべながらも……。

 

 

 

「今日もレッスンお願い」

 

「それだと、睦ちゃんが生徒だよ」

 

 お互いに顔を見合いながらも、私達はこのギターの練習という場でも和やかな雰囲気が出来つつあった。笑い合いながらも、ギターというコミュニケーションではなく会話による和やかさを得ることが出来ている。そう自分で気づいていると、私のスマホから着信音が鳴っている。

 

 その相手を確認すると、祥からだった。

 なにかあったのだろうか?と思って、すぐに電話に出ると……。

 

「どうしたの祥?」

 

「祥ちゃん?」

 

「初音も一緒にいらっしゃったのですわね、それならば好都合ですわ」

 

 祥が隣にいる初音の声に気づいたのか反応を示していた。

 好都合、もしかしてあのこと……だろうか。私は祥の話を待つことにしていた。

 

「なにかあったの祥ちゃん?」

 

「ええ、前から話していた件についてですわ」

 

「もしかして四県に渡るライブツアーのことかな?」

 

「ええ、そうですわ。神奈川・埼玉・東京・長野の四県に渡るライブツアーの詳細と日時の方が決まりましたわ、詳細の方は私達のグループに貼っておきますわ。内容についてはしっかりと目を通してお願いしますわ」

 

「分かった」

「分かったよ、祥ちゃん」

 

 私は冷静に、初音の方はこれから起きるライブツアーに楽しみという感情を抱えつつも反応しているようにも聞こえていた。

 

「楽しむ……」

 

 透子先輩が言っていたことを思い出す。

 余裕を楽しむという意味で先輩は言っていたけど、私は違う捉え方をしていた。というよりも、先輩が言っていた「使命感」だとか「義務感」のそういうものを全部ひっくるめて考えてしまうなら私が思うに……。

 

 バンドを楽しむことはとても重要なことだってことだった。

 

「そうだよね、レゾナンティア」

 

 視線を向ける、そうそれはレゾナンティアという名のギターに。

 

「ギターの名前?」

 

 初音が私の呼びかけに疑問を覚えているようだった。

 

「ん、あったほうがいいと思ったから」

 

「確かに愛着湧くもんね」

 

 勿論、それもあった。でも、私はどちらかと言うとこの子を知るために名前を付けた。レゾナンティアという名前は、ラテン語では共鳴とかそういうものを意味する。

 

『えー?ギターに名前?』

 

『ん、この子も私たちの一部だから』

 

『いいけど、なんか変じゃない?』

 

『変でもなんでもやりたい、それにもう決まってる。レゾナンティア』

 

 透子先輩との買い物を終えたその日のうちに私はギターに名前を付けることにした。こういうことはもっと早くにやるべきだったかもしれない。だからこそ、私は「遅れてごめん」と言いながらもギターを撫でる。

 

『ふーん?じゃあ、私はレゾって呼ぶね!!あだ名の方が愛着湧くから!!』

 

『あだ名……』

 

『あっ睦ちゃんはレゾ呼びダメだよ!!私が名付け親なんだからね!!』

 

 モーティスはギターのことをレゾと呼ぶと決めていた、それはまるで親のようにして……。それぞれ違う呼び方を決めつつも、私たちは新たなる一歩を踏み出そうとしていた……。

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 私は彼女に触れることで記憶に触れていた。

 こうしてギターに名前もつけた、名前をつけることで愛着も沸いた。彼女のことを知ろうとするきっかけにもなれたかもしれない。名前を付けて応えてくれるかと言われたら、それは違う。

 

「私たちが作り上げる……もの」

 

 名前の意味は勿論ある。だけど、そうじゃなくて名前を付けたことで三人で頑張って行くことが大事。みんなと一緒に作り上げていく舞台劇とバンドの演奏を私達で一緒に作り上げて楽しまなくちゃいけない。使命感だとか義務感だとかそういう固定概念に囚われないで、自分の色を出して行くことが大事。それは愛音と楽奈との演奏でも私がそう決めていたこと。

 

 なら、私がしなくちゃいけないことは最初から決まっている。

 

「絶対に成功させる」

 

「睦……」

 

 

 

 

「ええ、そうですわね!」

 

 覚悟と決心なら何度もして来た。

 その途中で振るい落とされそうになっていたけれども、自分という意志が此処にあるからこそもう迷うことはない。

 

 何故なら、私にはモーティスがいる。

 レゾナンティアがいる。そして……。

 

 

 

 祥達が居てくれてるから……。

 ただ、一つだけ……。

 

 

 

 

 心残りのことがあった……。

 

 

 

 

 

 

 心残り、それは私にとって大切な友人だった存在。

 今はもう何もかも違う、それぞれが違う場所へと向かって行った。もう道が共存することはない。CRYCHICというバンドに器はもうない……から。それでも、私は見捨てられないものがあった。

 

「ねぇねぇ、そよちゃん!!最近駅前に美味しいケーキ屋さんが出来たの!一緒にどう?」

 

 次の日、私は普通に登校していた。

 いつものように……。何事もなく……。ただ一つの現場に視線を向けていた。

 

「うーん?ケーキ屋さんかぁ、ごめんね。私最近ちょっと甘い物は控えてて……」

 

「えっ!?あっ、ご、ごめんね!そよちゃん!!」

 

 そよと他の子達との会話が聞こえて来る。

 そよのことを誘おうとしていた子が申し訳なさそうにしていると、もう一人の子が「そよちゃん、なに言わせてるの」と注意をしている。私はそんな会話にお構いなしに……。

 

 

 

 

「そよ……」

 

 入り込む。

 私がそよの名前を呼ぶと、他の子達が「え!?わ、若葉さん?」と声を出して驚いている様子だった。それは当然だったのかもしれない、考えてみれば私からそよに話しかけることは滅多になかったから……。

 

「みんなごめんね、ちょっと……席外してくれるかな?」

 

「え?あっ、う、うん……!!」

 

 そよに会釈をした後に、他の子達は私たちの前から去って行く。

 一瞬、そよと視線が合うけど……。

 

「……どうしたの睦ちゃん?」

 

 すぐに視線を全く合わせてくれなくなった。

 それどころか、素っ気ない感じがあった。私がそよに謝罪をしたときよりも、淡々としていて冷たかったけど……。完全に冷たかったわけじゃないのに気づいていた。何故なら、そよは指を弄っていたから。

 

 CRYCHICだった頃は全然やっていなかったその行為。

 CRYCHICが崩壊してしまってからはよくやるようになってしまったそのクセは印象的で、そよにとってどういう動作を意味しているのかは分かっていた。それはストレスを感じているときにやる行為だということを……。それでも、私は怯むことはしなかった。

 

 

 

 もう作り上げることはできない。

 袂は分かれてしまったから、それでも……。

 

 

 

 

「話があるの……」

 

 

 

 

 新しい道を作り上げることは出来るって私は信じたい。

 私が自分の道を選ぼうとしているように。モーティスと生きていくことを決めたように、そよとの未来も……。

 

 

 

 

『睦ちゃん、今日は何を植えているの?』

 

『トマト……』

 

『そっか、美味しく育つといいね』

 

 こういう未来がもしかしたら……。

 

 

 

 

『うん』

 

 

 

 

 ありえるかもしれないって信じたいから……。

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。