【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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こじ開けられた扉は開くにはもう少し

『話があるの……』

 

 いつもの私だったら、そよと話すことすら億劫になっていたはずだった。

 CRYCHICの頃からそう。私はそよと話すと自分がどれだけ惨めなのか思い知らされていた。どれだけ、ちっぽけな存在なのかを……。その度に心を痛めていた。祥のために言い聞かせていたけれども、私は自分が傷ついていたことを知っていたはずなのに……。それを見て見ぬふりをしていた。

 

 今にしてみれば、私は祥のことを「疫病神」だと認識していたということは此処から来ていたことに正したかった。私はそれを認めたく無かったから、否定し続けていたけれども……。「月ノ森」という場所の中で唯一「友人」だったはずのそよとの溝が出来てしまったから。

 

「それで話ってなにかな?睦ちゃんから私に話をしたいなんて珍しいね」

 

「結人君とのことなら私は相談に乗れないから」

 

 それは自分が結人の影響を受けているからというよりも、結人のことであんまり関わりたくない。そういう話し方をしている気もしていた。嫌味とかそういう訳じゃないのは分かっているけれども、やっぱり何処かそよらしさを感じさせてくれている。

 

 らしさに触れつつも、私は静けさに包まれつつある教室の片隅で覚悟を決める。

 張り詰めた空気を更に地獄にするために……。

 

「そよ……ムジカのライブ来て欲し「嫌がらせのつもり?」」

 

 一瞬だけそよの目つきが鋭くなる。

 踏んではいけない地雷なのは分かっていた。自分で意図的に踏んだのも分かってる。それでも、私は止めようとしない言葉を……。

 

「私と祥を見て欲しい」

 

「……未練を断ち切って欲しいから?」

 

 違う、そうじゃない。

 私が言いたいのはCRYCHICが解散した今でも、私にとってそよは大切な友人であることは変わらないということ。昔みたいに笑い合うことはできないかもしれないけれど、それでもきっと別の道があると信じたかった。

 

 あの頃みたいには無理かもしれない。

 それでも、私とそよは……。

 

「繋がりで……あることには変わらないから」

 

 飛び出したものはそれだけだった。

 もっと伝えるべきことがあったはずなのに、私にはそれが出来なかった。口下手だから?余計なことを言ってしまうから?違う、きっとそれはそよならわかってくれるかもしれないと言う傲慢さから来ていた。

 

「それ結人君の受け売りだよね?」

 

「受け売り……」

 

 そう、これは結人がよく言っていた「繋がり」という言葉。

 私はこの繋がりという鎖を断ち切りたくなかった。そよとの関係を……。だから、今もこうして私はそよとの会話をしようとしている。そよはそれをしたくないのは充分に伝わっているけれども、私はやめるつもりはなかった。

 

「結人の言葉だとしても、私はそよとの関係を断ち切りたくない。私にとってそよは月ノ森で唯一残されたたった一人の……」

 

 

 

 

()()だから!!」

 

 力を込める。

 こういうことを今まで何度して来たのか?と問われたら、私は自分という人間を変える為に必死になってから精一杯声を出そうとしてきた気がしている。それはただの燈や立希の劣化なのかもしれない。例え、そうだとしても私は自分のやり方を貫きたかった。

 

『睦も自分がやれると思うことをやればいいんだよ……!』

 

 結局、此処に戻って来る。

 結人が教えてくれた「自分は自分で居ればいい」も凄く大事な言葉だけれども、それと同じぐらい大事なのは透子先輩が教えてくれたこと。自分のやりたいことなんて優先したことなんてこれまでなかった。誰かに助けて貰って、誰かに依存してそれが正しいと思っていたから。

 

 だから、私は余裕を楽しむことも出来なかった。

 自分と向き合うことも出来なかった。ギターは未だに自分の音を出せてあげられていない。それでも、私にとって重要なのは「関係」というものを断ち切りたくないこと。CRYCHICという関係はもう復活することは……ない。それはきっとそよも分かっているはずだった、それでもそよが、CRYCHICを忘れることが出来ないのはそよにとって……。

 

 

 私達にとってそれほど大事なバンドだったということだから。

 それぞれ思いは違ったと思う。CRYCHICというバンドに向けていた感情も違うと思う。燈は自分自身の為に、立希も自分自身の為。祥も自分の為に。そして、そよは……。

 

 

 

 自分の為じゃなくて……。

 

 

 

 

 運命の出会いそのものだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 睦ちゃんは凄いと思う。

 こんな単純なもので言い表せるほど、自分という人間が臆病であると言うつもりはない。それでも、睦ちゃん。睦ちゃんという人間達は自分という存在を得ることが出来た。自分を強くさせることが出来た。それは凄く手放しで拍手を送りたくなるものだった。

 

 それは睦ちゃんが芸能人の娘だからやっぱり睦ちゃんは凄いとかじゃなくて、一人の人間として見てちゃんと「凄い」って言うことが出来る。抽象的なものばかりで何一つ何処が凄いなのかよく分からなくなりそうだけれども、確かなことは言える。

 

 

 

 睦ちゃんは……。

 自分を認めてくれる存在が居てくれた。ただそれだけの話でしかない。私にもそういう存在が居た……だろうか。

 

『俺も一緒に進んでやるから』

 

『俺はいつまでもMyGO!!!!!だよ』

 

 ああ、もうノイズがかかってしょうがない……。

 分かっている、一人になろうとしたら彼が全速力でやってくるなんてことぐらい。そういう人だっていうこと。絶対に一人にしてくれないタイプだということも、愛音ちゃんを更にめんどくさくしたタイプだということも。全部知っているからこそ、溜め息ばかりしたくなる。

 

 幸せが逃げるなんていうけれども、今まで何度も幸せを逃がしてきたからもうどうでもよかった。知ってるつもりだった、私にも自分を認めてくれている存在が居てくれているということを。そして、なによりも……私にとってMyGO!!!!!という場所が居場所になりつつあるということも知っているはずだった。

 

 それなのに、未だに私はCRYCHICという傷を、過去を忘れることが出来ない。

 前に走り出そうとはなれている。なれているけれど、自分の中であのバンドだから私はヒントを得ることが出来たとなれていた。自分が変われるかもしれない、そういう存在になり得ることが出来るかもしれないなんて思いあがっていたから。そういう自分を忘れることが出来ないから、今目の前にいる睦ちゃんを直視できなかった。

 

 それは燈ちゃんや立希ちゃん、そして……。

 

 

 祥ちゃんもそうだった。

 

『それでも私は謝りたかったんですの……』

 

 あの祥ちゃんがCRYCHICのことを謝罪してくれた。

 私はあのとき許すことなんて出来ない、自分勝手だと言っていたけど心の何処かでは安堵している自分が居た。祥ちゃんも自分の非を認めてくれた、性格の悪さが滲み出ているものだけれども私はそれにホッとしている自分が居てしょうがなかったけど、許すことは出来なかった。

 

 あの謝罪はあまりにも自分勝手過ぎるから。

 自分が謝りたいから、謝るそれでしかないから。誰かの納得も受けずに……。でも、そういうところに安堵を覚えたのかもしれない。それでも、謝罪しようとしてくれている勇気に……。

 

 そして、その勇気っていうものは……。

 今此処にもある、睦ちゃんという存在が……。

 

 

 

 認めるしかなかった。

 睦ちゃんが此処まで来るとは思っていなかった、もう私の扉は開かれていた。それは色んな人にこじ開けられたこともあったけど……。

 

 

 

 

「分かった、そこで……」

 

 

 

 

「見極めるから」

 

 

 

 

 

 睦ちゃんもその一人だから……。

 だから、もう認めているも同然だった。

 

 

 

 

 

 

 

 睦ちゃんのことを……。

 

 

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