【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
五人の少女たちのなかで二人の少女は決める。
これから先、どのように生きていくのか……。
これは……
最初で最後の開幕
「……別に迎えに来て欲しいとまでは言ってないんだけど」
右手を腰に当てながらも、めんどくさそうにしてしまう。
ただライブに来るだけならまだ全然良かった。問題は目の前に初音が居るということ……。
「妹がこっちに来てくれるって言ってくれてるのに私から来ちゃダメな理由はないよね?」
「はぁ……好きにすれば」
どうせ言っても聞かない。
それに大阪までに来たのに今更帰れなんて言えるわけがない。どうせなら、こっちでライブ開催してくれればよかったのに。まあ、ムジカとしても色々と作戦があるのは確かだと思う。わざわざ関東付近にだけライブ開催を集中させたっていうのはまず試験的っていう意味だろうし。
それにしても……。
「長野・神奈川・埼玉公演成功おめでとう」
「初華……見ていてくれたの?」
「配信だけど、って……なにその顔?意外って言いたいの?」
ちゃんと褒めてあげると珍しそうにしている初音。
私が褒めるのがそんなに珍しいことな訳?と疑っていたけど、言われてみればこうして面と向かって賞賛するって言うのは初めてかも……。それこそ、取材のとき以来……?
「ううん、ありがとう初華……」
私の賞賛を素直に受け取ってくれているようだった。
実際、そうだ。最初の公演は長野という場所。いや別に悪い場所ではないと思う。自然も多いし、スキーも出来るし。ただ、ライブをやるに適しているかと言われたらちょっと微妙な気はする。アリーナはあるからやれなくはないけど、Ave Mujicaという形を見ればどうしてそんな地方でやるんだろう?という疑問が誰にでも残ってしまうのは事実。
そんななかで、大成功を収めたのは祥ちゃんのおかげというよりは……。
ムジカ全体のおかげの方が強い。祥ちゃんや海鈴さんは言わずもがなだけど、祐天寺さんも自分の出来る限りの全力をやり遂げて見せていた。そして、睦さんやモーティスだっけ?あの人たちもよくやっていた。特にモーティスさんの方はアイドルの私でも目を見張るばかりの演技力があった。
人形劇という前菜の中で彼女は最も輝く水晶。
目力も表情も口の動きどれを一つ取っても、拍手を送りたくなるよう内容だった。睦さんの方はなんというか、未だに自分を出すのを未完成っていう状況な気はする。言語化するなら、それは音は出せているけどまだ足りない部分があるっていう感じ。それも多分だけど、もうすぐ殻を破ることは出来ると思う。ただ、それが何かまでは分かんないけど。
それにあの人なら大丈夫でしょ……。
『助けて欲しいって言って』
あの人は助けてを求める方法を知っている。
どうしても自分の音を出せなくなって行き詰まったとき、自分がどうするべきか知っているはず。だから、私は心配なんかしていない。それに私の方が教えられたことの方が圧倒的に多いから信じているのかも……。
「ほら……」
「ありがとう」
そうやってムジカのメンバーのことを分析していると、気づけば私は新幹線に乗っていた。
初音に乗務員から貰ったコーヒーを渡した後に、変装が気になってしょうがなかった。
「いつも帽子だけなの?」
「えっと……変装のこと?」
「バレないの?」
「あーまあ、割とバレたりはしてるかな……?」
「じゃあ、ちゃんと変装して。マスクあげるから、帽子だけとか無防備過ぎ。誰もが何処で見ているのかなんて分からないんだから」
用心したことには越したことはない、この前のクソ記者みたいな奴が何処から見ているかも分からないから。私は背もたれに寄りかかっていると、初音が話しかけて来る。
「初音はいつも変装してるの?」
「誰かさんのおかげで偽名まで貰う程ぐらいだから慣れてはいる」
「ご、ごめん……」
「……別にいやがらせとかじゃないし」
自分で微妙に空気を悪くしてしまう。
嫌味というか自虐で「華音」と名乗っていた時代もあるから、そんなの気にしていないって言おうとしていたつもりだったけどどうやら逆に初音を嫌な思いにさせてしまったようだった。別にこの人が嫌な思いしようが、どうでもいいけど申し訳なさそうにされるとなんか嫌っていうか……。
「東京公演楽しみにしてるから」
「ありがとう」
「……クソみたいな公演見せたらアンケート全部1にしてやるから」
それ以上私は何も言わず、そのまま目を瞑ることにした。それが私にとっての初音への期待でもあったから。長い髪が頭に当たりながらも、私は東京に着くまでの時間眠りにつくことにしていた……。
「まずいですね……」
「どうしたのウミコ?」
「いえ、開演もうすぐなのですがこれを見てください」
「……遅延?」
楽屋の中であまりにも神妙な顔でタブレットを確認していたウミコに話しかける。
楽屋の外では騒々しい音だけがしている。
「はい、電車の遅延のようです。大規模な障害があったみたいです」
「それってつまりムジカのライブの観客にも関係するってこと?」
「そういうことです、ライブ開演まで数時間あるとはいえ、こういう遅延は私達のライブの方の満足具合にも関わります。現時点で会場に来れている人も居れば、会場に来れない人も居ます。それは三角さんも同じですが……」
ハツコも同じだという話をすると、ムーコが反応を示している。
このライブツアー中、ずっとハツコと一緒に練習をしてきていたからこそハツコが居ないまま、ライブが始まるからもしれないという状況に気づき始めている。
こいつが音を合わせられないとか、未だに音を探せてないとかはどうでもいいけど。
足を引っ張られるのだけは面倒でしかない。言いたくはないけど、あっちのあいつはかなり満足できるものが出来上がっているけど、ムーコの方はまだ全然でしかない。ハツコのおかげでどうにかなっているというのが強い。
「んで、どうすんの?サキコ?」
「決めるのは……」
「アンタ」
ウミコが提示していたタブレットを凝視しながらも、ペットボトルを握り締めているサキコにどうするのかを問いかける。あくまでもムジカのリーダーはサキコ。どうするかはあいつが決めるべき……。
私は視線を向けながらもサキコがどうするのかを答えを待ち続けることにする。
自分には似合わない静寂を纏って……。
此処で私が選ぶべきは二つしかありませんわ……。
ですが、その二つの選択肢はあまりにも大きなものですわ。一つはこのままライブを続行する。これをすれば、今会場にいるお客様達は満足したままライブを終わることが出来る。但し、それをすれば交通網の遅延で遅れている人達を犠牲にすることになる。
「ねぇねぇ、海鈴ちゃん。伸ばすって出来ないの?」
「そうですね、簡単には無理だと思います」
「じゃ、じゃあ……その物販紹介とか」
「私達人形なんだけど、そういうの販促みたいなの持ち込むのは違うでしょ」
「うっ……」
モーティスがどうにかしてアイデアを出してくれようとしてくれていましたが、祐天寺さんに完全否定されていましたわ。祐天寺さんの一言は正しかったですわ、勿論それで伸ばせる時間も存在こそしますが、あまりにもそういうものを持ち込むのは得策ではありませんわ。
それでも……。
「ありがとうございますわ、モーティスさん。私達には私たちのコンセプトがありますわ」
「分かってるけど、初華ちゃんを置いてライブ始めたくないもん……」
「それは私も分かっていますわ」
「…………うん」
モーティスさんは引き下がったのか睦に戻っているようでしたわ。
彼女も初音のことを諦めたくないからこそ出してくれたもの、それを勿論私は分かっておりますわ。そして、なによりもモーティスと睦にはこのライブを諦めたくない理由がある、そうですわね。
『そよも来る……』
『そよが、ですの……?』
その話を聞かされたのは昨日でしたわ。
睦からそよもライブを見に来るという話を聞いたとき「まさか」と思っていましたわ。そよはなによりもムジカのライブを来たがらないとそう思っていたからですわ……。
『私が呼んだ、来て欲しいって。私たちの今を見て欲しいって……』
『今を見て欲しい……』
今を見て欲しい、それはきっと今の私と睦にも必要な行為。
立希や燈よりも、長い関係があったそよだからこそ私達の今の姿を見せる必要がある。
「そうですわね、睦……」
そう、このライブは何も観客に見せるだけのライブではありませんわ。
そよも来ているライブ、そのライブで無様な結果を見せるようなことがあれば許されるはずがありませんわ。返って、そよを怒らせる結果になる。
「モーティスさんの案も一つの案としてはありですわ。ですが、それは……」
思考を研ぎ澄ませる。もう一つは、ライブの開演時間を伸ばす……。
これをするのは簡単なことではありませんわ。違約金も発生する、勿論会場にいるお客様に満足ができる説明と待ち時間の間どうにかするかの選択を迫られますわ。答えは決まっているはずですが、私は記憶に触れる必要がありましたわ……。
『祥子、今日のライブお父さんも見に行くから』
『お父様も……ですか?』
『ああ、仕事の方実は東京公演の日だけ上司の人から休みを貰って、娘のライブを見に行ってあげなさいと言われたんだ』
『まあ、そうだったんですのね……!?』
お父様が今回のライブツアーは来れないと思っていましたわ。
それは仕方のないことですから、私は何も言わないつもりでいましたわ。
『お仕事の方はいいんですの?』
『さっきも言っただろう?祥子、大丈夫さ』
そう、お父様は私もこうしてムジカを活動再開したこともあってか立ち上がることが出来た。
無気力になって何もできなくなっていた私を見てどうすることも出来ずに居たお父様。そして、お父様はお祖父様との対話でようやくかつての心を……。いえ、そうではありませんわね。
新しいお父様の心を持って、こうして立ち上がってくれたんですわ。自分が起こしてしまった過ちから立ち上がって、私のことを傍で支え続けたいという理由で……。
『それとほら、祥子……!今日のお弁当だ!』
『あ、ありがとうございますわお父様……!』
『今日のライブお父さんも絶対見に行くから、そのお弁当でしっかり栄養を取るんだぞ!』
『分かっておりますわ、お父様!!』
私はお父様お手製のお弁当を手に握りながらも誓い合った。
前より、ちょっとだけ暑苦しいお父様になってしまいましたが、私はそんなお父様を嫌いではありませんでしたわ。今のお父様は輝きに満ち溢れていますから……。
いつも私の心配ばかりしていますが、それは私のことを愛してくれているという証そのものですわ。そのお父様にライブを見せてあげたい。なによりもこのライブには負けられない、曲げたくない理由があるんですわ。
私達の未来を照らす為にも……!!
「いただきますわお父様!!」
手を合わせてから、弁当箱を開けて私は箸を持ってお弁当箱の中身を口の中に駆け込む。
中に入っているのは玉子焼きやらウィンナーやら、おにぎりや唐揚げなどという至って普通のお弁当でありましたわ。しかし、お父様が自分で作ったという味がそこには沁みついておりますわ。
私との料理教室もあったからこそなのか、そこには歪さなどありませんでしたわ。
それはそれでちょっと残念でありましたが、今此処に浸っている場合ではありませんわ。
「大事なときに弁当って……はぁこのお嬢様の考え読めないんだけど」
「そういうところが豊川さんらしいのではないのですか?」
「祥、水……」
睦からペットボトルを受け取って私は全て食べ終えて「ご馳走様でしたわ!」と言った後に弁当箱の蓋を閉める。そして、もう一度水を飲んだ後に私は改めて祐天寺さんの質問に答える。
「そうですわね、祐天寺さん」
もう一度頭の中で整理しますわ、此処で選ばなくてはならないのは二択ですわ。
このままライブを強行するか、それともライブの開始時間を待って貰う。後者の場合は、私たちのライブの開演が遅れるを潔く伝えなくてはならないですわ。納得してくれる人達も居れば、冷めてしまう人たちも居るのも現実ですわ。
こういうものは鮮度が必要ですわ。
それでも、私は一度決めたことをやめるつもりはないですわ。Ave Mujicaというバンドは五人揃ってこそ意味がある。それは私が決めた信条ですわ。例え、それで縛り付けられることになったとしても私はそれを変えるつもりはないですわ。なによりも、そよもお父様もそれこそが「私らしさ」だと思っているはずですわ。
「選択は一つですわ、ライブの開催を遅れさせますわ」
「それで、どうすんの?アンタの信条って奴に任せるならそれは観客を待たせるということでしょ?生憎、交通網が死んでるから納得してくれる観客も居ればそれまでに冷める観客もいる。昨日好きでも今日飽きた。そうなることだってあり得る」
「ええ、そうですわ……。だから、此処は一つある提案をしますわ」
「提案……?」
私が提案したのはこういう内容でしたわ。
スタッフや関係者一同に頭を下げて、違約金たちは自分達が払う。だから、もう少しだけ待って欲しいと率直に伝えるという内容ですわ。あまりにも現実的過ぎない内容ですが、こうするしか他ならなかった。
お父様との約束、そして睦が語っていたそよとの約束。
バンドのことを考えればこうするしかなかったんですわ。
「八幡さん、ついてきてください」
「分かりました、行きましょ「待って、祥子ちゃん!!」」
「祥子ちゃん」、その呼び方に気づいて私が振り向くとそこに立っているのは……。
「まなさん……?」
楽屋の扉を開けて入って来たのは意外な人物でしたわ。
そのお方は、Sumimiのまなさん。初音の相方でしたわ。どうして彼女が此処にと疑問になっていると、彼女の方から口を開き出す。
「はぁ……はぁ……!!」
「話は全部聞いた!ういちゃんの到着が遅れているのも全部、だから私にちょっとだけ時間を欲しい!!」
「欲しいとはいったい……?」
「Sumimiのまなとして私が余興をする!ういちゃんが来るまでの時間を私が稼ぐよ!!」
気持ちは有難かったですわ……。
まなさんがこうして私の友人である初音のことを気を遣って、一人でステージで余興として登壇してくれる、しかし、それではSumimiが一人でステージに出るということになってしまう。
「私のことならいいから気にしないで祥子ちゃん!Sumimiがういちゃん一人だけじゃないってことを……!」
「証明したいから!!」
私は思わず「まなさん……」と小さく言ってしまいましたわ。
こんなことを言ってしまえば、矛盾しているかもしれませんが今この場を私はまなさんにお任せしたくなっていましたわ。Sumimiというグループは本来二人でなければ意味がないというのに、私はまなさんの強い熱意に負けて託して見たくなったんですわ。
「ええ、お任せしますわまなさん!!」
なによりも本人の意思を尊重して……。
「遅延って……」
状況は最悪だった。
大規模な障害があって、今電車の交通網が死んでいる状況になっている。私はこの事態をどうするべきか考えながらも、新幹線の中でみんなに連絡を入れようとしたときだった。
「これ読める?」
「嘘……まなちゃん?」
私の隣に座っている初華がスマホから見せてくれたのはそこにはムジカのライブに余興としてまなちゃんが出るという流れになっているということだった。理由はムジカのメンバーである、私が現在到着に遅れているからという予想まで立てられていたけどこれは間違いない。
まなちゃんは私の為に時間を稼いでくれている……。
Sumimiの相棒として彼女が奮起してくれているその姿だけで私は居ても立っても居られなくなってきていた。
「そんで、初音はこんなところで諦めるつもりなわけ?」
「諦めた訳じゃない」
腕を組んで座ったままの初華が私の目の前に立ったまま、「まだやることがあるでしょ?」と問いかけて来る。それはまるで、私のことを奮い立たせてくれているものだった。そして、私はものの見事にそれに立ち上がることが出来た。
「まなちゃんが立ち上がってくれた、なら……私だってやらなくちゃいけない」
「っそ、じゃあやることはとっくに決まってるでしょ?初音も協力して」
腕を組むのをやめて、私の前に立っていた初華は自分の手に持っていた栄養ドリンクを一気に飲んだ後に言う。
「協力ってなにを……?」
「なにって決まってんじゃん、本来であれば敵対するはずだった敵同士のアイドル」
「sumimiの
「新幹線でやるってこと」
それは私にとって願ってもないものだった。
憎しみ合い、お互いの存在を忌み嫌って生き続けて来た私達が二人でこの新幹線の中でライブをするというのは……。
「此処にはムジカとしてのアンタのライブを楽しみにしてくれているファンもいるかもしれない、それにアンタと私のネームバリューを出したら快く受け入れてくれたからさ、車掌も……」
表情筋を緩めながらも、白い歯を見せて来る初華。
「早く立ちなよ」と言いたそうにしている初華を見て私も立ち上がる。
「やるの?それとも、アンケート全部1にされたいの?」
「やる、私は……!」
「やる!初華とやりたいから!」
「じゃあ、始めようじゃん」
「私とアンタだけの最初で最後のライブって奴をさ」
初華はきっとこのとき、私への憎しみとか因縁とかそういうものよりも今この場で起ころうとしている……。
奇想天外のものを……。