【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
『Sumimiがういちゃん一人だけじゃないってことを……!証明したいから!!』
Sumimiとして一人でライブに立つことになる。
それはういちゃん抜きで一人で舞台に、ステージに立つってことを意味する。本来だったら、ダメだと思う。Sumimiは今まで悲しいことも、思い出も半分っこしてきた。ういちゃんの方は私に隠してきたことだっていっぱいあると思う。
自分自身のこと、Sumimiを初めてからのアイドル活動のストレスだったりそういうものとか色々あったと思う。敢えて、私はそれに触れないでういちゃんと一緒に活動してきた。それは触れるのが怖かったからじゃない。寧ろ、ういちゃんが話したくないならそのままでいいよという意味だった。
『ドーナツみたいに半分に割るなんてことは出来ないけど、誰かと話すことで痛みだとか苦しみだとかそういうものを和らげることが出来るんじゃないのかなって思うの……!』
勿論、それは逃げだったかも……。
ういちゃんと色んなことを半分っこしていこうと決めていたはずなのに、聞こうともしなかった。そう非難されても仕方ないかもしれない。それでも、あのときういちゃんに言ったことを後悔したことなんて一度もない。
私はういちゃんがSumimiの相棒となったときからずっと思っていたから。
『ういちゃんが話したくないのに無理矢理聞いても辛いだけでしょ?」
私はいつだってういちゃんの味方だよ。
例え、それが妹への妬みでアイドルを始めたものだとしても、誰かの思いをバネにしてアイドルを続けていたとしても、私はいつだってういちゃんの味方だって。何度だって言うよ。
だって、それがSumimiだから。
難しいことも、簡単なこともお互いに半分っこしていきたい。
でも、今だけは違うの。
今此処では、意地を張らなくちゃいけない。Sumimiのまなとして、ただの純田まなとしてプライドを賭けて立ち上がらなくちゃいけない。それは親友のためでもあり、相棒のためでもあるけど。自分自身の為でもある、何故なら此処に私が追い求めていた。
『歌を通して届けられるものを誰かに届けたい』
それを届けることが出来る。
ういちゃんだって、きっと新幹線内でどうにかしようと頑張っているのかもしれない。それだったら、私だって……私だって自分を証明したい。
Sumimiが一人だけでも出来るっていうことを……!
なによりも、今歌っているこの楽曲は誰よりも純田まなを体現した曲……なんだから。
この歌声で証明したい。
例え、いつもとは違うお客さん達の前だとしても私は私の歌を歌い切るだけ、このマイクに一語一句。
「それでは聞いてください!!」
私の歌を奏でるだけでしかない……!!
緊張も震えもない、私には今あるのは覚悟だけだった。前を向いて歌い切るというそれだけだった。張り詰めたものなんてない、ただ歌い切る。
それだけだった……。
「ありがとうございました!!」
突如として始まったAve Mujicaのライブの余興を私がする。
それは前代未聞の試みだった。誰もが予想できなかったものだと思う。それでも、私は全力で歌い続けることにした。自分の信条を、想いを胸にしながらも……。そこには本当に震えも緊張もなかった。ただ、Sumimiのまなとして純田まなとして歌い切った。完全なアウェイな空間で私は歌声を届けた。そこに後悔はない。悔いもなかった。
何故なら……。
観客席には最初こそ戸惑いの視線があったけど次第に拍手喝采へと変わって行った。
通じたんだ、歌から込める私の思いが、情熱を……。それだけで良かったとホッとする思いを背負いながらも私はステージへと降りて行くと……。
「まなちゃん、良かったよ!!えっとね、まず!まなちゃんの笑顔がとびっきり良くてね!それでね、歌声も言わずもがなでね!!ステージの照明の加減と共に映し出されるまなちゃんの表情一つ一つどれを撮っても画になっていてね!!カメラがあったら、思わず撮影したかったよ!写真撮影駄目だけど!!」
「ありがとう、モーティスちゃん」
舞台裏へと行くと、真っ先にモーティスちゃんが私に抱きついて来る。
涙を流しながらも私のことを祝福してくれているモーティスちゃんの頭をそっと撫でてあげた後に、私はモーティスちゃんとその中にいる睦ちゃんにこう伝えてあげることにした。
「次は二人の番だよ」
二人の髪にそっと触れながらも、私は次の本ステージへと託すことにした。
この二人に……。
それは昔のことだった。
初華は覚えてないのかも……しれない。もうかなり昔のことだし、初華はまだ私のことを完全に許してくれた訳じゃないのも知っているから。ただこういう場で即席の二人だけのライブを行うことになるというのはある意味で子供の頃の夢が叶った気分になっていた自分もいた。
『ねぇ、お姉ちゃん!大人になったら私とお姉ちゃんでアイドルになろうよ!!』
『え?わ、私も……?』
『うん!姉妹でアイドルなんていいよね、こうロマンがあって!!』
あの頃の初華はアイドルに憧れを向けていた。
その憧れはきっと情熱へと変わり果てただろうけど、アイドルを真剣にやるという意志は彼女の中に強く宿り続けている。そういうところは子供の頃から何も変わっていないと思う。こんなことを言ったら、初華は嫌かもしれない。それでも、どうしても思わざるを得ないことがある。
私は今が楽しいって……。
『歌う曲だけど、この曲でいい?』
『この曲ってえっと確か……Kein Frühlingの後に出した曲だよね?』
デッキで二人だけで会話をしていたときのこと。
初華はフードを被ったまま、話を進めている。
『……知ってたんだ?』
ちょっとだけ口元を開いていた。
それは意外というよりも、やっぱり知ってんだという顔つきをしている。
『アイフラメの情報は追いかけていたから』
『なら歌えるでしょ?どうせ、私の歌とかも聞いてたんでしょ?』
それも否定しなかった。
初華と別れた後も、私はアイフラメのことについては追っていた。初華の悪口とか陰口を見たい訳じゃないから、本人のSNSしかずっと追っていなかった。だから、新曲のことも知っていた。そして、その曲に込められている曲の意味も……。
『それじゃあ、行くよ』
『うん、よろしく頼むね初『アイフラメね』』
『足引っ張らないでよね』
『……そっちこそ』
売り言葉をそのまま、投げ返すと頭を外の方に向けながらも初華は鼻で笑う。
『言うじゃん、それじゃあ今度こそ……行こうか』
そして、始まった。
私達の最初で最後になるかもしれない姉妹のライブを……。
車掌からアナウンスこそはされていたから、驚かれはしなかったけど乗っていたお客さんからは「本当にやるんだ!?」という驚きの顔を向けられていた。特殊な環境で歌うということは、本当に慣れないことばかりで大変でしかなかった。新幹線ということもあって、他の車両にいるお客さんも楽しませないということもあって、何度も車両を行ったり来たりするということは本当に大変だった。
それでも、私がこのライブを一生懸命やろうと思えていたのは初華とのライブだから。
なによりも、初華が提案してくれたこの楽曲だっていうのも良かった。
この曲のタイトルはNeue Morgenröte。
和訳で「新しい暁」という意味。前の曲、
そう、この曲は初華なりの彼女の肯定へと捉えられる曲だった。
その曲を私と一緒に歌ってくれる。それだけで私は嬉しかった。なによりも、この曲は初華なりの自己肯定の曲でもあったから。それは勿論、私のことを許してくれるという曲なんかじゃない。
だから、私は嬉しかった。
こうして初華と一緒に歌えることが……。
この曲の歌詞の通り、お互いの痛みは消えない。
それでも、私は……。
痛みごと未来に連れて行ってくれると信じてくれる……から。
「ありがとう、初華」
自分でも驚くほどに息ぴったりな歌声だった。
初めて合わせたはずなのに、呼吸の仕方すらもお互いに一緒だった。ビックリするほど歌えていたのに初華の方はちょっと疲れ切っていた。タオルで汗を拭きながらも初華は言う。
「……これで最初で最後だから」
二人で「ありがとうございました」と言った後、私たちは再びデッキに戻っていた。
車掌さんからはお礼の言葉を言われたけど、初華は「やりたくてやっただけです」という態度だった。多分、初華は本気でそれだけだったんだと思う。もしくは、私たちのライブを楽しみにしてくれた人たちを退屈させないようにしてくれていたのかもしれない。
初華の方はスマホに目を通していた。
それは恐らくエゴサをしていたんだけど、満足げの表情をしていた。白い歯を立てて、満足しつつも初華はスマホをしまい込んでいた。その動作はただポケットの中に投げ込むのではなく、ゆっくりだった。
そして、そのゆっくりと堪能している初華に私は……。
「最後じゃなくて……またやろ?」
「考えておいてあげる」
変装をしっかりとした後に初華は……。
座席の方へと入って行った……。
初華のその背中には……。
新しい暁が宿されている。
そんな気がしてならなかった。
新しい暁……。
これは私の痛みと希望を込めた一曲。ただそれはいつものように恨み怒りをぶつけるような曲じゃない。これはあの季節への答えでもあり、今は夏へとなってしまったからその答えでもあった。
ぶっちゃけた話をすると、初音と此処まで息ピッタリで歌い切るというのはちょっと不気味でしかなかった。私の歌を耳に叩き込んでるにしても、ちゃんと合わせることが出来てる。文句がつけようがないからこそ、ちょっと「怖っ……」という感情にもなっていた。まあ、あんまり言いたくないけど「姉妹」ってのもある……のかもしれない。此処まで通じ合ったのは……。
ちょっと複雑な気持ちを覚えながらも他のことを考える。
それにしても……。
『最後じゃなくて……またやろ?』
最後じゃなくて、またやろうか……。
こういうのって鮮度とか頻度とかそういうのが大事だし、最後って言っちゃったからにはあんまり何度もやりたくないという想いは普通にある。それに安売りはしたくないし、傍から見れば全く意味分からないコラボでしかない。
アイフラメと
そういうのも悪くない。
だとすれば、そういうアイドルになれたときに……。
またコラボしてやってもいいのかもしれない。
お互いに……。
だから、私が送るのはこれだ。
「考えておいてあげる」
それが私の選択だった。
お互いにアイドルとして成熟したときにこういう環境ではなく、ちゃんとした場で歌い合おう。ムジカのドロリスとして歌うことは初音が歌うことは難しいだろうけど、一緒に歌うことぐらいは可能だろうから。
それに……あの人だって覚えているかもしれないから。
こういうのって姉妹でやったらロマンがあるって……。まあ本人が覚えているか知らないけど。若干ほくそ笑みながらも、そういう望みを抱きつつ私は座席の方へと入って行く……。
「これ、まなのライブ」
初音が座った後にスマホでムジカのライブ配信を確認すると、予定通りまなのライブが行われている。それと同時に運よく、車掌からのアナウンスで新幹線がようやく動き出すというアナウンスが入る。それを聞いた私は初音にこう伝える。
「ライブ頑張りなよ。期待しといてあげる」
背中を押す。
それは姉妹だからじゃない。
「うん、期待してて」
同じ音楽の道を行ったものとして……。
私はその背中を押す為に初音にまなのライブ映像を見せることにする。彼女はそれに食い気味で覗き込んでいたから、私は見やすいようにしてあげていた。
「アンタの相方はやってみせてる、アンタも応えるべきでしょ?」
なんて無粋なことは聞きはしなかった。
何故なら、答えはさっき聞いたばかりだから。
それにちゃんとまなのライブを見届けようとしているし、自分の力に変えようとしている。
それだけで充分じゃん、伝えなくても……。