【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
遅れていた新幹線。
まるで、私の心を突き動かしてくれている。それは今初音が見せてくれている景色なのが、一番強かった。
スマホの中に映し出されているのは……まなちゃんだった。
まなちゃんはたった一人でライブ会場で立っている。ただ立っているだけじゃない、彼女は強さ、想いというものを証明するためにあそこにいるんだ。私にも話してくれたことがあった、まなちゃんがアイドルを始めた理由……。
自分の歌を通して人々に届けたい。
その夢を聞いたとき、私は自分の意志がはっきりとある人なんだなってなっていたのを覚えていた。私がアイドルを始めたのは目の前にいる初華の夢を奪って祥ちゃんに褒めて貰いたいからという邪な心でしかなかった……から。
本来だったら、臆病な私じゃなくて初華がSumimiとして立っていたかも……。
そういう未来もあったと思う。こんなことを今この場で初華に言ったらきっと睨まれるだろうけど、そう思ってしまうときもあったのは事実だった、私には……。
「まなちゃん……」
まなちゃんは最後まで歌い切った。
そこに緊張も震えも全くなかった。勇気あることだと思う、恐怖もあったと思う。それでもまなちゃんはたった一人で最後まで届けようとしてみせた。Sumimiのまなとしてムジカの余興で美しい世界を見せてくれていた。賞賛の言葉を今にもスマホから送りたくなっていた。
誰にでも出来ることじゃない。
私にははっきりとした夢なんて今でもない、それでもSumimiの相棒が此処まではっきりとしたものを見せてくれた。誰かに届けたいという想いを歌という力に変えて見せようとしてくれていた。それだけで私は小さく拍手を送っていた。
ありがとう、まなちゃん……。
その一言を小さく呟きながらも、私は東京へと辿り着いた新幹線から立ち上がる初華と共に……。
新幹線が止まると、すぐにホームを降りて改札へと出る。
そこから駅からタクシーへと乗る。初華も乗せようと思って「乗りなよ」と言おうとしたときに初華にタクシーの扉を閉められる。
すぐになんで初華が自分は乗らずにタクシーの扉を閉めたのか心で把握出来た。
何故なら、初華が私に手を振ってくれていたから。まるで、此処から先は私が立ち入るべき場所じゃないって言って、応援してくれているみたいだった。だから、私は初華に……。
「ありがとう」
声にすることはなかった。
遠く彼方に見える初華は小さく笑ってくれている。
それは目の錯覚なんかじゃなかった。
初華にまた私は感謝をしていた。何度目になるかも分からない感謝を前向きなものとして私は送りたかった。きっとうんざりされるだろうけど、私の正直な思いだから届いて欲しかった。見えなくなっていく、初華を見送りながらも私は決心していた。
これから向かうライブ会場のために……。
「初音……」
「祥ちゃん、ごめん!遅れた!!」
タクシーで支払いを済ませる。
私が会場入りをすると、スタッフさんが他の関係者の人たちに呼びかけている声が聞こえていた。外で待っていてくれていた祥ちゃんが私に話しかけてくれる。
「無事来れただけでもよかったですわ初音、それより急いで準備をお願いしますわ」
「分かってる、それと……」
支度をする前に、私にはどうしても感謝をしたい人物がいた。
私は「ちょっと待ってて」と関係者の人に言ってから、「まな」と書かれている楽屋の中へと入るとそこにはまなちゃんがいる。楽屋の中に入った瞬間、頭を下げる。
「ういちゃん間に合ったんだね!?」
「ごめん、まなちゃん!!」
あまりにも勢いが良すぎて私の頭は床と密着しそうになってしまうほどだった。
「お、落ち着いてういちゃん!!」
「どうしても謝りたかった!そして、これだけは言わせて欲しいの……!!」
「私も鼓動を示して来るから!!」
それはSumimiのまなちゃんがそうしてくれたように……。
純田まながそうしてくれたみたいに私もあのステージに立って輝いて来る。まなちゃんが見せてくれた情熱。覚悟そのものを私もぶつけるというのは難しい。
「行ってくるね、まなちゃん!!」
それでも、私はまなちゃんの思いを受けて立つことを選ぶ。
「うん!」
「行って来てね!ういちゃん!!」
それが背中を押してくれたまなちゃんへのせめてのもの……。
手向けだから……。
「海鈴ちゃん、にゃむちゃん、睦ちゃん、モーティスちゃん遅れてごめん!」
「ようやく来ましたか三角さん」
ステージに続くステージ裏にみんなと遅れてやって来ると腕を組んでいるにゃむちゃんと、待ち侘びていたかのようにして髪を直し終えていた海鈴ちゃんが立っていた。そして、先頭には祥ちゃんが立っている。
「それで行きますわよ、ティモリス」
「アーモリス」
「モーティス」
「そして……」
「ドロリス」
みんながそれぞれムジカとしての名前を呼ばれてそれぞれ反応を示す。
私もまた祥ちゃんの言葉に反応を示しながらも、頷いているとモーティスちゃんがみんなより一歩遅れて歩いているのが見えて私は声を掛ける。
「お互い頑張ろうね二人共」
「うん、頑張ろうね初華ちゃん!!」
いつも通りにモーティスちゃんは私のことを「初華」と呼んでくれている。
なによりも、モーティスちゃんの心の中で「ん」と反応をしてくれている睦ちゃんが存在しているような気がしてならなかった。練習頑張ったもんね、お互いに……。だから、私達も一緒に頑張ろう。
心の中でハイタッチをしながらも、一緒にステージへと駆け上がって行く。
一歩ずつ噛み締めながらも、私はステージへと向かって行く……。そこに至るまでの信念を大事にしながらも……。
「今日という日を皆様方に刻んで貰いますわ!そう、これよりご覧になられますのは私達、人形達が
「一幕となりますわ!!」
舞台劇の最後の台詞を、祥ちゃんが……オブリビオニスが言ってくれている。
私はこの舞台劇で一つだけ急遽頼んでいたことがあった。それは「暁」という単語を入れて欲しいって頼んだ。それは初華、個人に向けたもの……。
あの新幹線での限定ライブを受けて、そして新しい暁と言う曲を一緒に歌って分かったことがある。此処から先は私が試される場面となる。それは何故かって言うのは自分でもう答えは出していた。
胸の中に秘めていたものがあるから、二人みたいになるのは無理。
無理だからこそ、私はこの手に持っているギターをしっかりと掴む。目の前にあるマイクに全部をぶちまける。今は「ドロリス」っていう人形だけど、今の私は「三角初音」でもあった。示さなくちゃいけなかった。
私の鼓動を……!
ギターから弾き出される音、そして私の声から発される確かな強さ。
その強さになっている動力源こそが、私がまなちゃんのライブを見ていたときに思ったこと。そして、初華と一緒にやったライブでのこと。それだけじゃない、睦ちゃん達とか、祥ちゃんや結人から貰ったものの集大成だった。
だけど、今一番大事にしたいのは……。
「やってみたい」という気持ちだった。
それは初華やまなちゃんみたいに。初心に振り返ってそういう気持ちになっていた。お客さん一人一人の顔や視線、表情を一つ一つ読み取るように……。喜びを表現してくれている人や、私達の世界に浸ってくれている人達、ブレスレットライトを掲げてくれている人たちとかそういうものが読み取ることが出来ていた。
お客さんの顔に視線を向けるというのは、何も難しいことじゃなかった。自分が作詞が出来るからそういう感情を読み取れるとかじゃない、今どういう顔をしてお客さんがどんな顔をしているのかは……私にとって一番重要なことだから。
自分がどう見られているかよりも自分という存在が今どう輝いているか知りたかったから。そして、二人はこれは違う形でやって見せて来ていた。こんな初心的なことをいつも……。
そうだよね、まなちゃん。
初華……。
二人はやって見せた。
初華は新幹線の車両を駆け抜けながらも、ハイタッチとかそういうものには応じていなかった。それは多分アイフラメとしてての行動。それでも、お客さんとの視線を合わせたりちゃんと感情まで読み取っていた。きっとああいう状況で楽しめなかった乗客の人の顔も含めてそうだったって確信できる。初華はそういう子だから。
まなちゃんもそう。
まなちゃんはこのライブ会場という場所のなかで、圧倒的にアウェイな空間の中でお客さん一人一人の顔をちゃんと見ていた。本当だったら怖かったと思う。あのとき立っているのはまなちゃんではなく、ムジカなのだから。それでもまなちゃんは立ってみせた。
二人はアイドルとしても一級。
凄いとしか言えないけど、私もそれを改めて初心に帰って実行しようとしていた。
観客席の方に目を向け視線を送り続けていると、そこには……。
「結人……」
結人が座っていた、そっか、来てくれたんだ……。
彼のことが視界に入ってすぐ私の中で記憶を思い出す。それは自分の中にある箱庭の記憶なんかじゃない。私自身の記憶。
『神様でも凄い人でもなくて、ただの人なんだって……』
『神様だと思っていなかったのにな……』
情けない自分を思い出してしまう。
『私は結人のことを神様だと信じてた、崇拝してた。違う、結人もただ一人の人間だって言い聞かせていたつもりだったけど、心の奥側にあるものが本当の私だったんだ』
私は彼のことを神様だと信じていないと言い聞かせ続けようとしていた。結人が初華を連れて来たとき結局私は裏切られた、傷つけられたと激昂してしまった。それは私自身が心の底では、彼のことを凄い人だとか「神様」だって崇拝していたから。
かつてはそうだった、だけど……。
今は違う。
今は違うってはっきりと言えるんだ。今の結人と私の関係性は……。
親友ってはっきりと言えるの……。
結人が初華が連れ出してきたことは今でも傷ついている部分はあるよ。それでも、結人は冷え切っていた私達姉妹の関係を見事に壊してくれた。普通そんなことしてくれる人なんていない。ただの友人がそこまでしてくれる訳がない。
だから、ありきたりな言葉で言うなら私は結人のことを親友だとはっきりと言える。
結人がどう思ってるかは分からな……違うよね、結人もきっと親友だと思ってくれるよね。これは信じるとかじゃなくて、結人の表情を見れば分かるよ。だって、今の結人は……。
私達の音楽に触れてくれている。
黙って私のことを見つめてくれている……。
それだけでもう充分だよ……。
だから、それを睦ちゃんにも共有してあげたい。結人君来てるよって……。もしかしたら、そこに睦ちゃんが出せるギターの答えがあるかもよ?って……。そして、私が睦ちゃんの方へと意識を向けようとしたときだった……。
何かが聞こえる。
それは胎動してくる何かだった……。気のせいかな?ってなりそうになる。ステージの熱狂というか私が歌声がステージのスピーカーから反響してそれが伝わったり、みんなの音が聞こえているだけなのかと思ってもう一度耳を確かめて私は思わず……。
睦ちゃんの方を振り向いてしまう。
これって……間違いない。
あのときと一緒だ、睦ちゃん……もしかして……。
分かるようになったの……?