【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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変な客がやってきた。

「うーん……」

 

 私、千早愛音は物凄く悩んでいる。

 多分きっとこれまでの人生において最も悩まされている時間かもしれない。中学のとき、生徒会長をやっていたから色々と人の悩みを聞くことはあった。小さいものから大きいものまでそういったものが多かったけど、今回の場合はあまりにも強大すぎる。今にも頭を抱えそうな内容でどうすればいいのか、はっきりと分からなかった。

 

 いつもならギターを弾いたり、コスメ紹介とかメイク動画を見ているのに見る気全然起きない……。タブレットを持っていざ見ようと思ってもあの二人のことが脳内から離れないようと全くしない。

 

「そもそも……あの二人の関係って……普通の友達じゃなくない?」

 

 友達で衝突は普通にあり得る。

 そういった場合は大体お互いがお互いに「ごめんなさい」をすれば収まることが多いけど、燈ちゃんと結人君の場合それで済まない気がする。というか、そこから横のつながりとしてりっきーもいるから余計ややこしいし、アウトドアショップから帰るときの燈ちゃんのあの泣きようとか全然普通の友達って言えなくない……?

 

「あの涙見てるからなぁ……」

 

 これで一旦見て見ぬフリという訳にもいかない。

 燈ちゃんは結人君に大切な友人だったと言われて本当に救われたんだと思う。例えそれが過去形だったとしても……。

 

 

 

 

「ああもう……!あの三人……なんであんな空回っちゃうのかな……」

 

 正直あの三人のことなんてほとんど知らない。

 しいて言えば燈ちゃんとは同じクラスだし、ある程度のことは知っているつもりだったけど、燈ちゃんが言っていた通りもしかしたらまだ全然知らないことだってあるかもしれないし、ならそれをこれから知って行けばいい話なんだけど……。ってそんなことより今は結人君のことだよ……!協力してくれそうなのが燈ちゃんしかいないし、本当にどうしよう……。

 

 一番手っ取り早いのは本人から好きなものだったり、燈ちゃんのことを引き出すこと。それに関しては昨日私がやってみせた。燈ちゃんは正直変装に関しては得意じゃなさそうだし、すぐボロが出る。楽奈ちゃんも変装が得意じゃなさそうだし、何処で何をしているのかよく分からないから除外。りっきーはそもそも無理……!!本当だったらこういうときに居てくれたら心強そうなそよさんがいてくれたらいいんだけど、今は無理だし……。

 

 

 

 

 やっぱり、私しかいない……。

 

 

 

 

 

 

「本当に来ちゃった……」

 

 燈ちゃんとの為にアウトドアショップの前まで来ちゃったのは良かったけど、ほぼ無策に近いこの状況でなにをどうすればいいのか全く決めてない。この前みたいにやれば案外なんとかなる。今回も眼鏡と帽子を被って変装してきたんだし……。

 

「よしっ……」

 

 アウトドアショップの中へと入って行くと「いらっしゃいませ」という声が響いて来たのを聞いてくる。従業員の人がすぐ傍に近くにいるのだと分かり、私がそっちの方向を向くとそこには結人君がいた。

 

「あっ……!!あの……いいですか!!」

 

「は、はい……!!」

 

 結人君は私の方へ駆け寄って来ると、私の方を見て「あっ……」という表情を一瞬する。

 たった一度このお店に来ただけだというのにどうやらお客さんのことはちゃんと覚えているみたいだった。でも、少し困ったことがあった。結人君が私のことを覚えているとしたらこの後言われることは大体想像ができる。というのも、私は昨日彼に相談に乗ってもらったときにこう言ってしまっていたから。

 

『ちょっと友達と相談してから改めて来ますね!』

 

 と……、まさかすぐこのお店に来ることになるなんて全く想像もしていなかった……。

 とはいえ購入の意志がないと分かったら結人君との会話が終わってしまう。此処はなんとか誤魔化そうとしようと周りを見ていると、私はアウトドアでも使えるアロマを見つける。

 

「あ、あの……!あそこに置いてあるアロマでオススメってありますか?」

 

 まさかアウトドアショップでアロマが売っているなんて思わなかったけど、これはラッキー……!あわよくばこのまま結人君にオススメ聞いて新しいアロマを試してみるっていうのも悪くなさそう……!!

 

「あーアロマですか、それでしたら最近はこういうのが流行っていますよ」

 

 結人君が手に取って見せてくれていたのはリラックス用のアロマ。

 

「これ、ラベンダーの香りですよね?」

 

「ええ、そうですね。人気の香りです。リラックス効果があるので、キャンプで疲れた夜とかにぴったりですよ」

 

 アロマのことなら私もある程度は分かるけど、やっぱりこういうアウトドア関連商品ってこともあって結人君はかなり手慣れているようだ。私に話すときも手際よく説明をしていたし……。

 

「リラックスって言えば、ペパーミントもいですよね。血行を促進する効果があって、特に疲れがたまってるときとかにも……。あとはオレンジスイートは気分転換にも良いって聞いたことがあります……」

 

「詳しいんですね、アロマお好きなんですか?」

 

「ま、まあ……ちょっとだけなら」

 

 この辺はもう動画投稿者のにゃむちがアロマについての動画で喋っているのを偶々見てたから、その話を適当に詰め込んでいる状態だった。そもそも、何も考えずにここまで来ちゃったから結人君と何話せばいいのかなんて全然分かんないし……。今の結人君、店員さんだから雑談とかしていいのか分かんないし……てかしちゃダメだろうし……。

 

「あっ、でもアウトドアとかで使うのは初めてかも。例えば、テントの中で使う場合ってどんなのがオススメなんですか?」

 

 思いついたようにして私が結人君に発言をする。

 

「そうですね、ラベンダーとかカモミールが無難ですね。虫が気になるなら、ティーツリーやユーカリもいいかもしれませんよ」

 

「へぇ……」

 

 アウトドアって正直興味があるかと言われたあんまりないって感じだし、虫に刺されるのはごめんだからあんまり興味なかったけどちゃんと対策していけば刺されなかったりするのかなぁ……。でも、バンドメンバーの子でアウトドア興味ありそうなのって燈ちゃんぐらいしか居なくない?りっきーは「絶対やだ」とか言われそうだし、そよさんはなんかこういうのやんわりと断りそう。楽奈ちゃんはそもそも来てくれるのかな……。やっぱり、仮に行くならクラスの子と行った方がよくない……?

 

「その……男の店員さんからも聞いてみたいんですけどやっぱりキャンプでこういうのって使うんですか?」

 

「俺はあんまりですね。友人と行ったときは……使ってましたけど」

 

 この話もやっぱり燈ちゃんのこと……だよね。

 燈ちゃんが自然の香りとかが好きそうだからきっと結人君は使っていたのかも知れない。

 

 

 

 

「やっぱり、本当は離れたくないって気がするんだけどなぁ……」

 

 結人君には聞こえないようにして私は小声で言う。

 実際、こうやって友達の話を引用している訳だし本当に突き放したって感じじゃなくない……?かと言って、此処でその友達ってどんな人だったんですか?なんて聞いたら、結人君の地雷を踏みに行ってるようなもんだけど、やっぱりこの前に一気に踏み込んで聞くしかないのかなぁ……。でも、それやったらなぁ……。

 

 

 

 

 

 

「友人のこと聞きたいんですか?」

 

「……え?」

 

 え?もしかして……口に出してた……?

 やばいやばいやばいやばい……!無意識のうちに燈ちゃんのこと聞いてた……!?あっ、いや多分この様子を見るに燈ちゃんの名前は私出してなさそうだけど、幾ら何でもやっぱり踏み込み過ぎじゃない……!?一昨日、喧嘩別れしたばっかりの子だよ!?それなのにこの話聞こうとしているのよく考えてみたら、凄いやばいじゃん!!

 

「え?あっ、えっと……その……は、話したくないなら……話さなくても……」

 

 昨日、結人君から燈ちゃんのことを聞いたときはかなり間が空いてから話してくれたし、自分の中で全然折り合いがついてないのは間違いないし、これやっぱり聞くのマズかったって……!!

 

「ぷっ……!」

 

 私が頭を抱えながらも狼狽えていると、結人君が口元を抑えながら必死に笑うのを堪えている。

 

「あーちょっと今絶対変な奴って目で見たでしょー?」

 

「ああ、変な奴だと思ってたよ。人のプライベートに踏み込んできたかと思ったら、いきなりオロオロし始めたりして意味わかんない奴って……」

 

 結人君は必死に笑うのを堪えていたけど、抑えられなくなって来ていて笑っていた。

 その笑いは正直、何処か生き生きとしていたような気がしていた。

 

「あっひどーい!!ちょっと店長さん呼んできてもらってもいい!?」

 

「なんでだよ?」

 

 と結人君が困惑しながら答えると、私は自分でも分かるぐらいにやりと笑ってこう言う。

 

「お客さん相手にタメ口使ったり、変な人って言ったりする性悪店員の苦情を言ってやろうかなーって思ってさ」

 

 さーてと店長さん、何処かなーと思って歩き出そうとしたときだった。

 結人君が私のシャツを首の後ろの方から引っ張って来て、少し強引に引き留めていた。

 

「おい、俺の給料減るからやめろ……」

 

 その言葉と行動を聞いて、私は嬉しそうに笑い声を上げていた。

 結人君、燈ちゃんの話を聞いた感じだともう誰とも関わりたくなさそうにしていたけど、そんなこと無さそうだった。きっと自分の中でずっと苦しまされているんだと思う。抗おうとしている自分と、それを受け入れようとしている自分が……。だから燈ちゃんの話もしようとしてくれたんだと思う……。

 

 

 

 

「それじゃあ、また来るね!」

 

 私はペパーミントの香りがするアロマを購入してこの日は家に帰ることにしていた。

 結人君はただ「ああ……」とだけ返すだけだったが……。

 

「もう来なくていいぞ……」

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱ……コーヒーぐらいは出してやるよ」

 

 と言っているのが聞こえて「ありがとうね」と言って私は帰って行った……。

 結人君、燈ちゃんとりっきーのこともあって何処か不貞腐れてそうな感じで人を寄せ付けないようにしているような気がしていた。さっきの尖ったナイフみたいな喋り方だって他人を守るための防衛本能だと思う。でも……心の何処かでは分かっているんだと思う。

 

 

 

 

 

 

 他人と関わらないなんて無理だって言うことを……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コーヒー出してやるって言ったけど、大雨の中来いなんて一言も言ってねえぞ」

 

「し、仕方ないでしょー!まさか急に大雨が降るなんて聞いてなかったんだし……」

 

「だからってわざわざ俺が働いてるところまで来る必要性はねえだろ……コーヒー此処置いておくぞ。後、タオル使え。濡れたまんまで椅子座られたら最悪だからな」

 

 「ありがとう」と言いながらも受け取る。

 私は今日もアウトドアショップに来ていたけど、この日は本当に最悪だった。

 というのも結人君が働いているアウトドアショップの駅前に降りたときに急に雨が降って来てて、私は駅に逃げるのではなく結人君が働いているお店の方へと逃げてきてしまっていた。お店に入ると、結人君はすぐに私を見つけてタオルを貸してくれてその場で私がタオルで髪を拭くと、結人君はそのままお客さん用の休憩スペースを案内してくれていた。少し広々としているテーブルの上には紙コップに入っているコーヒーが置かれていたのを見て、有難くコーヒーを飲んでいると結人君は窓の方を見ながらもこう聞いて来る。

 

「お前さぁ……キャンプとか興味なさそうのになんで店来るんだ?」

 

 三度目の来店でいよいよ結人君に言われてしまう。

 

「あーえっと、ほらなんかこういうのって面白そうじゃん?」

 

 結人君は呆れた様子で苦笑いをしていた。

 

「アロマしか買ってないのにか?」

 

「痛い所突かなくてもいいじゃん!!私お客さんだよ!?」

 

 思わず立ち上がって私は抗議の声を上げてしまう。

 ぶっちゃけ、結人君の言っていることは凄い正しいと思うし反論なんて全然出来ない……。

 

「いや、その……ほらやっぱり普段から実用的なもの買いたいじゃん」

 

「じゃあアウトドアショップじゃなくてもいいだろ」

 

「ま、まあ……そうだけどさ」

 

 結人君は一瞬私のことを変な奴という目で見てからこう言ってくる。

 

 

 

 

 

 

 

「違うならいいんだけどお前ってさ……俺と何処かで会ったことある?」

 

 

 

 

「え……!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっき濡れてる髪タオルで拭くために……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帽子外したとき、妙に見覚えのある奴に似てたんだよな」

 

 

 

 

 やばい、これ本当にやばい……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうしよう……。

 

 

 

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