【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
よろしくお願いします
「若葉さん、大丈夫ですか?」
楽屋のソファーに座っていると、海鈴が話しかけて来る。
私はそれに「ん」と声に出して頷いた。その後に、海鈴はテーブルの上に「きゅうりジュース」を置いてくれる。
「……それなに?」
「きゅうりジュースですが?」
「いや、見れば分かるけどきゅうりジュースってなに?」
「きゅうりはきゅうりだと思いますが?」
「はぁ……もういいや」
私の目の前でまるでお笑い芸人みたいなコントが繰り広げられている。
お父さんのお笑いライブもこんな感じだったような気がすると思って、ちょっとだけ笑うとにゃむが顔を歪めている。
「ったく……なんなのマジでムジカって……」
呆れる、まるでそう言いたそうにしながらもにゃむは楽屋を出て行く……。
楽屋外の喧騒が一瞬、耳に残る。扉をしまったのと同時に、海鈴は隣のソファーに座る。
「若葉さん、一つだけお伝えしておきたいことがあります。まず、今回のライブツアーのことです。残すところ、東京公演のみになりました。これは若葉さんの力無くしては此処まで大成功させることは出来なかったと思います。それは勿論、皆さんの力もです」
これまでの公演のことを振り返っている。私はこれまでの公演、ずっと探し続けていたものがある。それは自分だけの音というもの。結局、それは私は此処に至るまでそれを掴むことが出来なかった。もうすぐ、もうすぐなはずなのに……。
「若葉さん」
テーブルの上に自分の飲み物を置き直してから、海鈴は話を再開する。
それはまるで私を励ますかのような名前の呼び方……。
「焦らないでください、そしてもしこの公演内で音を探したいなら……」
「耳を傾けてください、自分自身に」
焦らない、そう言ってくれていた海鈴はこの公演中での話をしている。
矛盾しているようなのに、私は自分の中に刻み込もうとしていた。自分自身に耳を傾ける。それはあのときだって……。
『貴方も……私だった。貴方はまだ未発達な子だった。私にはなれていなかったのかもしれない、それでも……貴方は私だった』
私はやってみせた……ことだから。
私になれなかったと思っていた私はもう居ない。そして、もう少しでもう少しで辿り着けそうな気がする。足りなかったものに……。
「ありがとう、海鈴」
焦らない。
それは透子先輩からも学んだこと……。それでも、私はこの公演内でようやく答えが出るような気がしてならなかった。喉から手が出るほどずっと欲しがっていたあの答えに……。それは慌てている訳でもない、焦っている訳でもない。
なんとなくだけど、本当にそんな気がしていた……。
私は自分の手に持っていた飲み物を改めて飲んでいると、モーティスが話しかけて来る。
『まなちゃんのライブ見よ!!』
「分かった……ただちょっと待って」
『えー?またレゾちゃんに話しかけるの?』
「すぐ終わる……から」
ムジカの楽屋の中に入れていたギター。
ギターケースの中に入っている彼女に触れながらも、私はこう伝える。
「行ってくる」
モーティスが心の中で『行ってくるね!』と言っているのが聞こえて来る。
楽屋を出てすぐにまなのライブを見に行く、今から始まるということもあって私もモーティスも気になっていた。まなが一人でどんなライブを見せてくれるのか気になっていた……から。
『睦ちゃん、レゾちゃんって名付けたからずっと話しかけてるよね』
レゾナンティアに声を掛けたこともあってか、モーティスが毎日の日課について聞いてくる。
「日課だから」
『私もやるようになったけど、最初睦ちゃんはレゾちゃんにおやすみだとかありがとうとか言ったときは病気か……あーごめん!!」
「気にしてない」
実際、病気だと言われたら病気でしかないと思う。
最初こそは周りがいないときにそうやって話しかけて来たこともあった。ただ、その現場を初音に見られてからはあんまり気にしないようにしていた。
『レゾナンティアに話しかけたの?』
『えっ……』
『睦ちゃんにとってその子も半身みたいなものだもんね』
『半身……』
それは二人で練習する前にまだ初音が来ていないと思って、私がギターに『今日もよろしくね』と伝えていたときのことだった。初音は否定していないでくれた。私のやっていう行為を当然だと言ってくれた。それだけで自分が認められた気分になって嬉しかった。
今もこれは日課になっている。
それがモーティスがまなと行ったあの函館で学んだ。
「ありがたみ」だと思う。
なによりも、まなから学んだこと大元であり根源な部分、それが知れたからこそ私はまなが見せてくれる景色を見たかった。
どういうものなのかを……。
『…………』
心の中は静寂に包まれていた。
当然でしかなかった、私達が今釘付けになっているのは……。
「本物のアイドル……」
にゃむの言葉を借りている言うなら、「本物」というものが相応しかった。
カメラ越しという映像のなかでまなの明るく元気な声が会場中を響き渡らせている。その元気っていうのは、ただ元気じゃなくてまな自身の表情や顔つきとか視線とか目つきとか全部がアイドルとして優れている。
私はアイドルというものを『パスパレ』ぐらいしか詳しくない。
それ以外だと、演技の仕事で他のアイドルと一緒に仕事をすることはあったぐらいだからアイドルの知識は乏しい。それでも、今のまなは輝いている。観客の視線に合わせるように手を振ったり、ハイタッチをしてあげたりウィンクをしてあげたりムジカのライブの中で自分の世界というものを証明している。
「自分の世界……」
混乱、困惑していた観客達もそのまなの情熱に呑まれるようにしてそれぞれ思い思いに楽しんでいる。それだけでもう今目の前にいる純田まなという人物がどれだけ「アイドル」になれているのかなんてのは明白だった。
『私……まなちゃんに謝りたい!睦ちゃん代わって!!』
まなのライブが終わった後に、その影響を受けたモーティスが変わって欲しいと頼んでくる。
私は目を瞑って、そのまま……。
モーティスへと変わる。
謝りたかった、どうしても謝りたかった。
だって、私はまなちゃんに何度も酷いことを言った。初華ちゃんの単なるおまけだと思っていたこともそうだけど……。
『まなちゃん、私と全然関わりなかったなのにどうして誘ったの?みなみちゃんからお仕事貰いたいの?』
『えー?でもお店で御馳走様って言うのおかしくない?お家じゃないんだよ?』
『まなちゃんはどうして女優やってるの?やっぱり目立ちたいから?』
走り出した思いは止めることなんて出来なかった。
睦ちゃんの許可は貰った、これはちゃんと許可は貰った。だって、どうしても伝えなくちゃいけないことがあったから。さっきのまなちゃんは私にとって「かけがえのない体験」そのものだった。
おばあちゃんが教えてくれなかったら、こんなことも微塵も思わなかった。
結人君が五感の大切さを教えてくれなかったら、まなちゃんの強さを知らなかったらきっと私は自分という人間が此処まで強く感動できるものに出会えなかった……。だから、その感謝と謝罪をしたかったまなちゃんに……!
「まなちゃん……!」
舞台裏に辿り着くと、私は勢いよくまなちゃんに抱きついた。
謝罪からしようと思っていたのに……。
「まなちゃん、良かったよ!えっとね、まず!まなちゃんの笑顔がとびっきり良くてね!それでね、歌声も言わずもがなでね!!ステージの照明の加減と共に映し出されるまなちゃんの表情一つ一つどれを撮っても画になっていてね!!カメラがあったら、思わず撮影したかったよ!写真撮影駄目だけど!!」
もっとちゃんとしたことを言おうって決めていたのにふわふわとしたこと喋れない。
「ありがとう、モーティスちゃん」
まなちゃんはそれを私らしさだと抱擁するようにしてくれて背中に手を回してくれている。
「次は二人の番だよ」
自分の魂が満たされていく……。
それだけで……それだけで充分だった。私にとって自分を肯定してくれるものだってなれたんだよ……。だから、私は今度こそ言うことが出来た。
「ごめん、ごめんねまなちゃん……。私まなちゃんに今まで酷いこと言った……!!初華ちゃんのおまけだとか、みなみちゃんに近づきたいからだとか、家じゃないのにおかしいだとかそんなことばっかり言って!」
顔がぐちゃぐちゃになってしまう、ダメだな怒られちゃうかもメイクリストの人に……。
お化粧してもらったばかりだというのに私は泣くことを抑えることなんて出来なかった。出会えてよかった、本当に出会えて良かったまなちゃんに出会えてよかった。
「私とモーティスちゃん達の仲だよ、気にしないよ」
それに私は元気いっぱいに頷く……。
函館に行ってよかった、よかった。まなちゃんと行ってよかった。
まなちゃんは言ってくれた。
今度は二人の番だって……。
だから、このライブで見せるよ。
まなちゃんの為にも……。
私達の全てを……!
私からは舞台劇で……!!
舞台はもう開けようとしていた、まなちゃんのライブからもう20分ぐらいは経っていた。現場には初華ちゃんが急いでやって来ていた。
「睦ちゃん、モーティスちゃん遅れてごめん!」
相変わらず初華ちゃんちゃんと私のことも呼んでくれる。やっぱり、Sumimiは二人揃って天使だよ。そろそろ覚悟を決めなくちゃいけなかった。でも、覚悟ならとっくに決まってる。そもそも決まってないのは睦ちゃんの方。
『ごめん』
「あーもう!すぐネガティブにならないでよ!今この場でもそれはまずいって!!」
海鈴ちゃん、まなちゃんにもケツを叩いて貰った。
貰ってばかりなのは良い気分じゃない、此処から挽回しなくちゃいけないのにグチグチ言ってたらまずい。とにかく、顔を見て化粧が直っているか確認し直していた。
まなちゃんと一緒に泣いた後に私はすぐに楽屋に戻ってお化粧を直して貰った。ちょっとだけメイクリストの人に怒られたけど。ちょっとぐらいいいのにね。
「うん、頑張ろうね初華ちゃん!!」
心の中で睦ちゃんも返事をしながらも、私たちは仮面を被ってステージへと立ち始める。
文字通り「モーティス」としてステージに立つ。そして、その前に私は手に持っているギターを一旦スタッフに預ける。
レゾちゃんには「行ってくるね」と伝える。
そして、睦ちゃんには……。
「最後までやろう、睦ちゃん。私達を」
『モーティス、お願い』
「任せてよ、睦ちゃん!!」
一歩一歩ずつ踏み出す。
「結人君にもそよちゃんに!!後来てるか分からないけど、モルフォニカの先輩にも!!まあ最後は来てなくてもいいけど!!」
「行こう!!睦ちゃん!」
自分達の足で踏みだしながらも、私達は歩み出す。
これが私達だということを証明するために。なによりも、私の根源たる部分である睦ちゃんとこれから楽しく生き続けること。大元である思い出を作りたいっていう望みを叶えるためにも私は立ち上がる。
そこに恐怖なんかない、寧ろ楽しみしかない。自分の道を示せる機会なんだから。
歩き始めた私達が歩んだのは最初の体験、物語……舞台劇。
「あー!あー!どうして、どうして私はこんなにも!!」
アモーリスの声がする。
その悲痛な声はまるで何かを欲しているみたいだった。赤く照らされた照明の中で手を広げながらも、渇いているアモーリス。ちょっと面白くて、ざまあ見ろって思っちゃう。
「おやおや、人形が人間らしくあろうとしていますね」
「仕方のないことですわ、私たちは人間達に育てられた人形。心を失うことなど出来ませんわ」
冷酷で冷淡なティモリスとオブリビオニスがしてくる。
二人の声はまるでアモーリスを観察しているみたいだった。
「心さえなければ私たちはこんな思いをしなくて済んだのかもしれない……」
私の声がステージに反響する。
こんなことを言うことになるのは、思うところがなかったわけじゃない。心さえなければというよりは、睦ちゃんがもし心が強かったらもしかしたら自分達は生まれていなかったんじゃないかって……。もしもなんて思うだけ無駄かもしれないけど、ちょっと気になってしまう。
「そう、これは自分の醜い心を失いその心を必死に取り返そうとする人形の物語」
初華ちゃん、ドロリスの声がしてくる。
正直此処から先は耳を塞ぎたくなる。脚本があんまりにも睦ちゃんを刺激する内容……だから。
『人形達は自分達を見捨て、館ごと燃やされそうになっていた人間達に復讐を誓おうとしていた。しかし、その道中で人形達の中でそれぞれの感情を覚え始めていた……。特にモーティスは……』
スポットライトが私に当てられる。
ごめん、睦ちゃんと覚悟を決めながらも私は深呼吸する。この会場に私の全身全霊をぶちまけるようにして……。
「どうして!?どうしてダメなの!!?」
「何度言ったら分かるんですの、モーティス。人間達は信用してはなりませんわ、私達がされてきたことをもう忘れたんですの?」
「忘れてない、忘れてないよ!!それでも私はやっぱり人間達と戦って死ぬなんてやだよ!!オブリビオニスだって見たでしょ!?人間達の中にもいい人達だって居るんだよ!?その人達まで傷つける必要はないよ!!」
自分の心臓をがっしりと掴むようにして、私は衣装を強く掴む。
強く叫び、強く声にするそれを意識しながらも……私はステージに立っているとお客さん達はただ黙って聴いてくれている。それこそにゃむちゃんが前に言っていた中二病だとか思っている人は少なさそうだった。
「モーティス、貴方はまだ分からないのですね」
オブリビオニスが仮面の下でまるで私のことを嘲笑っていた。
「分からないって何が!?」
「人間達が私達を愛していたのは、私達が従順な人形だったからですわ。心を持った今の私達など、彼らにとっては不要な存在……」
「……愛していた?」
音楽が途切れた、それは一線を越えたみたいに……。
突っかかっていたのは、アモーリス。酷くオブリビオニスのことを睨みながらも、まるでそれは冗談でしょ?みたいな言い方。
「それは流石に冗談でしょ?人形なんて所詮、大人になれば捨てられる。大人になってまで人形可愛いよねぇなんて馬鹿みたいでしょ?」
「えっ……?じゃあ、じゃあ最初から……」
「そう、私たちなんて所詮は捨てられる運命でしかない。そこは変わらない、なのに期待していたとかバッカみたい。愛なんて所詮は紛いものでしかない、人形が愛されるのは子供時代まで。従順とか関係ない」
「じゃあ、ボクたちはいったいなんのために……」
……なんか劇だと分かっていても、初華ちゃんが詰められてるの苛々する。
しかも、相手はあのにゃむちゃんだし……。下なんか俯かないで前を見ようって言いたくなるけど下唇を噛んで我慢する。
「しかし、これでは人間達と一緒ですね」
「……何が言いたいんですのティモリス?」
「私達がしていることは人間達と一緒という話です、私たちは忘却されたくがないために人間達の存在に強く残ろうとしました。結果、どうなりましたか?」
オブリビオニス……祥子ちゃんは頭を抱える、今にも頭が割れそうなほどに。
悲痛な声を出しながらも、自分がしてきたことは間違っていないと言いたそうにしながらも……。
「じゃあ、どうすればよかったと言うんですの!今更、私達のやってきたことを曲げろと言うんですの!!私たちは曲げたくなかった、忘れられたくなかった!!なのに、人間達は私たちを酷く拒んだ。異端者だと決めつけ、存在しない者として!どうしろと言うんですの!!」
喉が焼けそうなほどな声、それはまるで初華ちゃんと華音の話だった。
多分、そこから脚色しているんだろうけど祥子ちゃんは……きっと此処に自分のことを含んでいる。CRYCHICを忘れることが出来なかった自分のことも。
「オブリビオニスが前に言ってた、罪と業を背負う為に、今度こそ生まれ変わるって。それを……それを大事にすればいいんだよ!!」
ムジカが再誕したときのあの劇からの引用……だった。
あれはムジカが立ち上がる為のものだったけど、今回は違う。祥子ちゃんを立ち上がらせるためのもの。
「今更、今更遅いですわ!ティモリスの言う通りですわ!私たちは結局人間達と変わらなかった!!変わろうとした、変わろうと在り続けたその結果余計酷いことになった。これがその結果ですわ!!」
自分の心臓がきゅっとなる感覚があった。
これは祥ちゃんのことでもあり、私たちのことも含まれている。多分、睦ちゃんが許可したんだろうけどこういう感覚になるから耳栓したいぐらいだった。
「待って二人共……!!それでも、それでもボクたちはやっぱり歩み寄ることは辞めたりしちゃダメだよ!!私たちのしてきたことは確かに間違っていた!!それでも、歩み寄ればきっと人間達も分かってくれるよ!!」
歩み寄る……。
華音も初華ちゃんもそうだけど、私達だってそうだった。睦ちゃんを説得したくて、一度は殺されたこともあったけどそれでも私は生きたいと願い続けた、心の中に溺れていても結果的に私は死の海に誘うことになったけど……。
助けてくれた、彼が……。
『私は消えたかった……消えたかったの!!なんで……なんで邪魔するの!!?』
結人君、今なら言えるよ……。
私は怖かった。
消えるのなんて怖かった。
私はモーティス……。
我、死を恐れる勿れ。違う、私は死を怖れていた。死にたくなんてなかった。そして、それが今となってやっとちゃんと噛み締めることができる。祥子ちゃんが描いたこの脚本は悪趣味だと思うけど、それでも自分のことを改めて再確認できてる。
それだけでまあよかったのかもしれない……かも。
だって、今はこうして……。初華ちゃんが言う通り……。
「覚えてるでしょ?人間達から貰った思い出、それって小さな積み重ねでもきっといいものだったはずだよ!ボクたちにとっても心が何処か人間達に対して後ろめたいって気持ちがあるなら戻ろうよ!!オブリビオニス!!」
「手を取ってオブリビオニス!私達がいる!何度だってやり直せる!!だって、私達にはちゃんと……」
「心があるじゃん!!」
これこそが私の強みだった……教えられたものだけど私が力強く声に出来るもの。
祥子ちゃんは動きながらも、頭を再びを抱えて物に当たり散らす。それはかつての祥子ちゃんのお父さんそのもの……。あの子が苦悩していたのは、今まで人間にしてしまったことがあるから引けなかった。自分がどうするべきなのかを……。それでも、私と初華ちゃんは諦めなかった。祥子ちゃんの手を取って立ち上がらせようとする。いつまで迷ってるのって。
照明が温かくなる。
さっきまでの暗がりなものじゃなくなる。
「私は今更……」
「いいんだよ、オブリビオニス……。戻ろう、ボクたちの心のままに」
「うん、そうだよ!!私達には心がある」
祥子ちゃんが手を取った理由なんてのは明白だった。
自分に心があるってことを否定できなかった。私達の手を振り払うことも出来たはずなのに、それをしなかった。
「本当に今更戻れるなんて思ってるわけ?」
「戻れるなんて思っておりませんわ、ただ」
「ただ……どうしましたか?」
アモーリスは納得していないみたいだった。
あーもうなんでこの人はいつもこうなのかな。
「自分の罪の意識を改めて確認するところから始めるつもりですわ、それこそが私、オブリビオニスですわ。これから先自分を疑うこともあるかもしれませんわ、それでもこの先自分がやっていく上で大事にしていきたいことがありますわ、それは……」
「自分を信じてみるということですわ」
それがオブリビオニス……祥子ちゃんの答えだった。
まるで自分の答えを脚本として選んだかのような内容。趣味が悪いけど、悪くはないかなって……。まあ悪趣味なのは事実だけど、それでも……。
貴方が笑ってくれたから、それでいいよ……。
結人君……。
ずっと観客席に居るかどうか探していてくたびれそうになっていた。探している途中で、そよちゃんや祥子ちゃんのお父さん、華音が居たけど結人君を探していた。今の結人君にずっと自分がどう映っているのか気になってしょうがなかったから……。
どうだったかな私……?
この脚本ね、実は私が手伝った部分もあるんだよ。さっきの台詞……。
『手を取ってオブリビオニス!私達がいる!何度だってやり直せる!!だって、私達にはちゃんと……心があるじゃん!!』
このセリフだけは私が祥子ちゃんに頼んで入れて貰った。私っていう人格でも心はちゃんとあった。それは睦ちゃんもそうだった。レゾちゃんにもある。今までの経験がそれを教えてくれている。だから、きっと人形にも心はあるよって話したら祥子ちゃんはこう言ってくれた。
『心を用いた台詞……それはいい案ですわ!!モーティス!!』
私のことを褒めてくれた。
やっぱり、祥子ちゃんっていい人なのかな……?って思ってしまう自分が居たのも事実だけど、やっぱりそれを認めないようにしていた。まあでも流石に認めていいかもって思って来たけどね……。
でもね、この台詞に……。
命を吹き込むことが出来たのは結人君のおかげなんだよ……。私はずっと結人君が言ってくれたことを覚えていたよ。覚えていたから、睦ちゃんの精神世界でも必死に藻掻こうとした。函館の海でも貴方のことを忘れられなかった。
だって、結人君は私に……言ってくれたもんね……。
生きていいって死ななくていいって……。ねえ、結人君教えて欲しいな。今の結人君には私のことどう瞳に映っているかな。
私はちゃんと暁に進めているかな?
結人君はどう思……そっか、そうだよね……。
もう分かってるよ、だって……。
拍手してくれてるもん……。
それだけで私の心なんて満たされるよ。おばあちゃんに言われたのになぁ、大きなありがたみばかり知ってたらダメだって言われたのに結人君から貰ったものが大きなものばかりに見える。だからね、私はもう一度言うね。
函館の海で私のことを……助けてくれてありがとう。
死ななくてよかったよ……。
大好きな結人君が認めてくれてるんだもん、こんなに嬉しいことはないよ……。
さてと……もう満足した!!
今暗転しているなかで私は今にも泣きそうなのを堪えつつ背伸びをしてから、ギターに「よろしくね!」と伝えていると……。
「モーティス、いい劇でしたわ」
「……ふうん?まあ私に掛かればね?」
「これからも期待しておりますわ」
私は暗闇の中で自分の口が大きく開けてしまう。
よしっ!!やっぱり認めちゃおう!!祥子ちゃんは良い人!!私のことちゃんと褒めてくれたもん。凄くいい気分になってスタートダッシュを迎えられたよ。
「うん、じゃあそろそろ……睦ちゃんの出番だよ」
舞台劇は最高の終わりを迎えたから、睦ちゃんに最高の形でバトンタッチするよ……。
それじゃあ……お願いね睦ちゃん!
「ありがとう、モーティス」
「行ってくる……」