【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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その声は心の叫びだった

『手を取ってオブリビオニス!私達がいる!何度だってやり直せる!!だって、私達にはちゃんと……心があるじゃん!!』

 

 あれはモーティスそのものだった……。

 モーティスが描いた台詞だからこそそこに魂が吹き込まれていた。人形に魂なんておかしいのかもしれない。でも、こんな話をよく聴いたことがある。

 

 人形の魂を抜いてもらうために、お寺で魂抜きや浄化の儀式をしたりするって……。

 それは一種の供養というものだろうけど、あの舞台劇に出て来る私達にも心があるならきっとそれは立派な心というもの……。そう確信していた、私もモーティスも……。

 

『自分を信じてみるということですわ』

 

 自分を信じてみる。

 私はこの舞台劇で何度も精神世界の中で、自分の心臓に凶器を突き付けられた感覚があった。許可していたものとはいえ、自分もしてきたことへの償いも突き付けているものだからこそ私は自分の体を震わせそうだったけど、意識をしっかりと保っていた。

 

 もうその段階じゃないから……。

 モーティスも言ってくれた。

 

 

 

 

『睦ちゃんの出番だよ』

 

 私の出番……。

 舞台劇はもう終わった。次なる幕開けはライブを持って始まる。結人はモーティスのことを褒めてくれた。欲張りだけど、私はこの会場にいるそよや結人。そしてもしかしたら来てくれているかもしれない……。

 

『ムツ、お前東京でライブあるんだろ?ちょうどその日空いてるから、あたしも見に行こうって思ってるんだ』

 

『先輩もですか……?』

 

『そうそう!弟子の活躍、期待してるからな!!』

 

 期待している、先輩は私に言ってくれた。

 なら、私も弟子として期待に応えたい。このライブで……私が自分で見つけた音を……。

 

 

 

 

 

 

 

 だけど……。

 それは無理だった。

 

 

 

 

 何度やっても、自分の音がして来ない。

 それがどうしてなのかはもう知っているはずだった。レゾナンティアを道具として見ていたから弾けない。義務感と使命感があるから弾けない。そこまでは辿り着いた、辿り着いたはずなのに私には今だこの子を弾くことが出来ない。

 

 海鈴は言っていた、慌ててはいけないって……。

 勿論、それは分かっている。それでも、私はこの公演内でどうしても見つけたかった。それは意地でもあり、理由がある。掴めそうな気がする、それはなんとなくでしかないけどそんな気がしているなかでバンドのみんなの方に目を向けると……。

 

 初音の歌いながらも、ギターを弾いている姿が目に入る。

 

 

 

 

「本物のアイドル……」

 

 思わず、そんな発言が飛びそうになってしまう。

 私は重ねていたそれはさっきまでこの場所で歌っていたまなの姿に……。今この場に立っているのはAve Mujicaの「ドロリス」なのに私にはSumimiの「初華」のように見えて……違う。多分違う、今目の前で私が釘付けになっているのは……。

 

 

 

 剥き出しの三角初音だった……。

 視線はまるでお客さんの方に向きつつ、その表情一つ一つを確かめている。表情はまるで語り掛けているようだった。そして、声ははっきりとしている。ギターもはっきりとしている。照明に初音という人物が映る度にまるで共鳴している。

 

「共鳴……」

 

 自分の中でヒントのようなものが見つかった気がした。

 今初音のギターから出ている音はボーカルと合わせてそれこそ本物の音そのものになっている。もし、私にもこれと似たようなことが出来るなら私はこの子を弾くことが出来るんだろうか。

 

 この子に付けた共鳴という文字通りの名前を試してみたら、それははっきり出来るのだろうか。試したくなっている自分がいた。初音が弾いている相乗効果からヒントを得た私は試してみるレゾナンティアに身を任せつつも、自分という力で弾くことを。

 

 それこそが相乗効果であり、共鳴であると思ったから……。

 遅れそうになっていたコードを取り戻そうとするべく、私は指でギターに触れたとき……。

 

 

 

 

 身体に痛みが伴う。

 それはまるで針が足元に刺さったような感覚。

 

「痛い……」

 

 一瞬、戸惑うとまた痛みが伴う。今度は心臓から……。

 自分でも全く感じたことないに恐怖心すら感じていると海鈴がチラッとこっちを見ている。それはまるで、私の異変に気づいたようだった。

 

「っ……!!」

 

 初めての感覚を味わいながらも、喉が渇いていく……。

 自分でも感じたことをなんとか抑えようとしていたけど、全く抑えることが出来ない。

 

「やらなきゃ……」

 

 自分を奮い立たせる。海鈴が言っていた通り、私はそれに耳を傾ける。

 それが正しいこと……だからと信じてみたけど激痛が走る。自分の心臓が苦しくなってくる、息がするのも辛くなってくる。なによりも、この子の声に耳を傾けるほど私は辛くなる。

 

 自分の手が震え始める。

 手に持っているピックを落としそうになる。吐き気がしていた、声がしていたから。それはもしかしたらあり得たのかもしれないって……思えたから。聞こえて来る声に耳を傾けて呑まれてしまう。

 

『睦、貴方は私にとって疫病神ですわ』

 

 祥に近い声がする。違う、これは祥そのもの……。

 まるで自分の中で潜んでいる、心の中に眠っていたもののように聞こえてしょうがなかった。自分が祥にそう思われているかもしれないって時期もあったから。それでも、私は堪えながらも弦に再び触れると、今度は……。

 

 

『睦ちゃん、どうしてもそんなに嫌なことばっかりしてくるの?』

 

 そよの声、私を非難する声……。

 そよは確かに私に強く言っていることもあった。でも、こんなに悪意を込めた言い方をしたことはなかった。これ以上、耳を傾ければ私は持たない。モ―ティスだってきっとこれ以上、ダメだって警告してくれている。

 

 それでも、それでもやらなくちゃいけない。

 私にはやらなくちゃいけない理由がある。それは義務感からでも、使命感でもない。

 

 やっと此処まで来れた。この子のことを知れる機会。私自身の意志、この手に握っているギターのピックを絶対に放したりしない。此処で放したりしたら、きっと後悔することになる。二度とこの子と話すことが出来なくなる。

 

 なによりも、自分の中にある『なんとなく』の正体を知りたかった。

 ずっと何かを感じていた。何か自分の中に欠けているもの。それが、レゾナンティア自身なのか、別の何かを知りたいのにそれを知る権利すらなくなる。

 

 

 

 

 続ける理由がある。

 

『睦、俺はお前が嫌いだ』

 

 私は……そう思っていたのにピックを手から離してしまう。

 

「っ!!?はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 ギターからピックが離れると曲が終わっていた。間一髪だった。

 照明が完全に消えている。それと共にお客さんからの拍手が聞こえて来る。祥の朗読劇が始まっているなか、私は飲み物を飲んで自分の気持ちを一旦整理する。これは間違いなく、私とレゾナンティアの声。確信できる、これは紛れもなく自分にあった感情だと……。

 

 祥に疫病神だと思われていたかもしれない、そよに本気で悪意をぶつけられていたのかもしれない。結人に嫌われていたのかもしれない自分。そういう日々の中にあったものがこの子に封印されてしまった……。

 

 なら、私はこの子を浄化してあげなくちゃいけない。

 それが私の役目。意識をはっきりとさせていると海鈴が声を掛けてくれる。

 

「受け入れてください」

 

 暗転しているなか、小声で海鈴が助言してくれる。

 それは一抹の希望……だった。

 

「恐れる必要はありません、今貴方が奏でていたものこそが……」

 

 

 

 

「貴方そのものです」

 

 海鈴の言葉に反応することはなかったけど、背中が丸まりそうになっていたのを正してくれた。

 それはこれから始まる私とレゾナンティアとの対話をするため。自分自身が身を焦がすほど欲しがっていた答えがそこには眠っている。

 

 それでも、迷いがあるわけじゃなかった。

 自分に果たしてこの感情と共鳴する事が可能なのか分からなかったから。かつては結人やCRYCHICに依存しようとしてた私。そして、それに呑まれてしまった。それに近い負の感情を受け入れることが出来るのか不安になっていると……。

 

 背中を手で押す音がする。

 その背中を押したのは誰なのか気づかなかった。でも、誰なのかは気付いていた。ほんの少し力強めで私の背中を押してきたのは多分きっと……。

 

 

 

 にゃむ……。

 きっといつまで迷ってるつもりなの?って、言いたかったんだと……と思う。迷う、迷い続ける。いつだって、私はそうだった。

 

 そよ達に迷惑をかけて、祥を壊して……。

 モーティスを一度は殺して、結人に背負わせてしまった。

 

 なによりも、みんな(今までの人格)に嘘をついて来たのも……。

 全部が全部私のせいだ……。それでも、私は立ち上がり続けると決めた。

 

 

 

 

『私は私であり続けることは変わりたくない……!!』

 

 あの日、お母さんたちの前で誓ったこと……。

 決意はあれこそが私の今の決意そのものだった。その後も何度も迷った、迷ったけど此処に帰って来る。

 

 

 

 

 私は私でいいと言ってくれた結人に……。

 自分が何かを見つけ出してその一歩は大事だと言ってくれたつくし先輩。道を間違えても、その先の未来を輝き続けられるものがあると教えてくれたましろ先輩。自分の道を突き進めばいい、楽しんで行けばいいと言ってくれた透子先輩。

 

 

 

 

 なによりも、私が燈達のMyGO!!!!!から教わることが出来たことがある。

 それは愛音や楽奈からもそうだけど……そうじゃない。

 

 

 

 

 私が一番影響を受けたのは……。

 

 

 

 

 

『だって私の歌は心の叫びだから……!!』

 

 燈……。

 燈の歌声にも私は惹かれていた。出たらめに叫んでいるかもしれない、それは歌というものに相応しくないって言われるかもしれない。

 

『……』

 

 羨ましかった。

 あんなにも感情を曝け出す歌い方が出来る燈が……。なによりも、あのライブ会場でああやって声を轟かせた。燈という存在が私にとってあの二人と同じように自分の光を灯してくれているようだった……。

 

 

 

 だからこそ、誓いたい。

 燈がそうしたように……。

 

 

 

 私は私のやり方を信じてみたい。

 あんなにも気弱な燈が自分の感情を曝け出した、自分の内面を「詩」として吐き出したなら私も私もそれをやり遂げる。燈みたいに上手くは出来ないと思う。誰かみたいになることなんてできない。

 

 

 立希みたいに強くあろうとすることも、そよみたいな包容力も。にゃむみたいなのしあがるという力もない。私はそんなふうにはなれない。それでも、私は明日へと行きたい。心という歪みと戦い続けることになっても、向こう側に行きたい。私とモーティスで……。

 

 

 

 

 あの子と共鳴したいから……!!

 自分を受け入れてみる。かつての私は誰かに頼ることもすらも嫌だったけど、今は違うってはっきりと言える。秘めた思いが教えてくれる、燈の答えが力を貸してくれる。これもまた誰かの力に頼っている。それでも、私はいい。

 

 

 

 

 だって、私達は支えられて生きているから……!!

 

 

 

 

 それが私達だから……!!

 

 

 

 

 行こうって決めた、もう迷いはない。自分自身たちという人間達から逃げたりなんかしない。これから先、私は進むことをやめたりしない。どれだけ泥だらけになろうとも私は立ち向かう。これから先何度だって誰かに支えられることになるかもしれない。もうそこに恐怖心はない。

 

『自分で何もできないって気づきたくない、から……』

 

 初音に言った弱さを受け入れて進む。

 私に何が歌えるか分からない、それでも……私は今を生きたい。

 

 

 

「海鈴、にゃむ……」

 

 自分の瞳をはっきりと開かせる。

 

 

 

 

「初音……祥、行こう」

 

 小さくみんなの名前を呼んだ後に……。

 

 

 

 

 

「行こう、モーティス」

 

 

 

 

 

「行こう、レゾナンティア……」

 

 力強く私はギターを握り締める。

 終わりを向けた朗読劇から私はギターの弦に触れると全身を震わせるような音がしてくる。次の曲が始まっていた。私は痛みに耐えていた。これはきっと痛みだ、この子自身の痛みだ。

 

 今まで何かも忘れられてしまい、自分勝手に私達が道具へと使って来た。

 痛み、苦しみ、憎しみそういうもの……。なら、私は受け入れなきゃいけない。それがレゾナンティアに期待に応えられるなら私はどれだけ痛くても受け入れる。それが私にとっての経験に繋がるなら、思い出に繋がるなら私はそうしたい……!

 

 

 

 その先にいる、自分だけの音を認めてあげたいから。

 

 

 

 

 

 だから……。

 

 

 

 

 

 だから、答えてレゾナンティア……!!

 

「……!?」

 

 弦を弾いた瞬間、もう痛みはなかった。

 呼応する意志が私の強さとなり、もう痛みはしなくなっていた。その瞬間、誰かに見られているような気がしていた。ライブ会場だからそんなことは当たり前なはずなのに、それが気になって視線の方に意識を向けてしまう。

 

 

 その視線は……初音……だった。

 初音はただ見ているだけじゃなかった、目を見開いてまるで驚いているようだった。「どうして?」となっていると、耳に何か音がしてくる。聞いたことが無いような音だった。それは……今までのギター聞いたことがあるような太陽の明るさはそこに存在しない。

 

 それでも、確かに存在しているものがあった……。

 それはまるで……。

 

 

 

 

 闇の中で輝くような音そのものだった……。

 重厚感溢れる音で幻想的だった。こんな音は知らない、全く知らない。誰の音だろうとなってもう一度鼓膜で確かめると、それは……。

 

 

 

 

 

 レゾナンティア……だった。

 そして、その音を認識したのと同時に私の心の中から呼び出すような声がする。

 

 

 

 

『来て』

 

 そんな声がする。

 知らない声だったけど、知っている声だった気がしてならなかった。

 

 

 

 

『話がある』

 

 いや、知っていたこの声を……。

 子供のころよく聴いていた、たった一人だけの自分の存在を証明してくれるもの……。私は心の中でこう唱える。「待って」と……。そして、目を瞑りギターを弾き続けることで私は深層心理の世界に入り込む。その声に呼応するようにして……。

 

 

 

 

 

 

「貴方が……レゾナンティア?」

 

 私達の精神世界……。

 花畑だらけの世界に辿り着くと、そこには……。

 

 

 

 

 

「待ってたよ」

 

 ショートカットの……私がギターを肩に背負いながらも私のことを待っていた。

 

 

 

 

 

「この姿で会うのは初めてだね、睦ちゃん」

 

 短く切られた髪が風に揺られながらも、待ち侘びていた。

 そう言いたそうにしながらも、立ち上がる。

 

「初めまして、睦ちゃん。私の名前はレゾナンティア、簡単に言っちゃえば睦ちゃんのギターって説明した方がいいのかな?」

 

 その口調は何処かかつて消えたCRYCHIC時代の私にそっくりだったけど、何処か歪んでいる気がした。

 

「あっ睦ちゃんもこっち来てたの!?」

 

「モーティス……」

 

 精神世界で私のことを信じて待ってくれていたモーティスが私達の方にやって来る。

 心の中で「舞台劇はありがとう」と感謝を示す。

 

「その子が……もしかしてレゾナンティア!?」

 

 モーティスでも、今までもこのレゾナンティアを視認したことはなかったのか体を曲げて驚いているみたいだった。

 

「……ん」

 

 返事をしながらも、私はレゾナンティアが話を再開してくれるのを待つ。

 彼女はこれから何かを語ろうとしていたから。

 

「さてと睦ちゃん、モーティスちゃんどうして……二人が私を弾くことが出来なかったのか?それは分かるかな?」

 

「え?それって私達がレゾちゃんのことを依存先の道具だと思っていたからで「それだけじゃない」」

 

「そっか、睦ちゃんはもう知ってるんだね」

 

 レゾナンティアは「やっぱり」とも声を漏らしている。

 

「私達は……」

 

 そう、私は知っていた。

 あの負の感情のおかげでどうして自分だけの音を見つけることが出来なかったのか、それに私が苦しんでいた理由も……。何故なら、それは……。

 

「私達は……」

 

 

 

 

 

 

「自分達を抑圧してきた、それが答え」

 

「抑圧してきたってまさか……」

 

「ん、私達は一見自分達の意志があるように見えて何度も抑圧してきたことがある。祥と居る時間だけがあればいい、CRYCHICがあればいい、祥が幸せで居てくれればそれでいい、結人が傍に居てくれればなんでもいい。そういう感情を抱えているなかで、私は自分を殺したこともあった。それがレゾナンティアが教えてくれた負の感情の正体」

 

 正しく言えば、抑圧というよりも依存していたなかで抱えていた感情というのが相応しいのかもしれない。それでも、この場合私は抑圧という言葉を使った。

 

「そうだね、CRYCHICを解散したとき私達は思っていた」

 

 レゾナンティアは私達の周りを歩き始める。

 そして、私達の中で抱えていたものを語り始める。

 

「そよにずっと言われ続ける非難の言葉。祥子から申し訳なさそうにされながらも自分を押し殺して代弁者となっていたこと、結人のことが好きなのにそれを言葉として伝えることが出来ない、他の人に奪われてしまうかもしれないという恐怖心。まあ、結人の場合睦ちゃんは結局告白してダメだったけど、そんなもんだよね人って」

 

「それでも彼は受け入れてくれた、私が前に進むなら傍に居てやるって……」

 

 今回のライブは結人も誘っていた。

 モーティスが彼のことを見つけ出してくれたときはよかったとなっていた自分が居た。いつもそっと背中を押してくれる彼が傍で見てくれている。それが嬉しかった。

 

「そうだね、だから……」

 

 

 

 

「これからは私達の話をしようか。どうして、睦ちゃんが自分を今もまだ自分を押し殺そうとしているのか、あれだけ自分というものを覚えた睦ちゃんがどうして私の音に気づけなかったのか……それは抑圧していたことも関係している」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは睦ちゃん自身が……」

 

 

 

 

 

「受け入れてないからだったんだよ」

 

 

 

 

 

 

「弱さを」

 

 

 

 

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