【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
「弱さってどういうこと、レゾちゃん?」
私が示したものにモーティスは顔を顰めている。
モーティスから見れば睦ちゃんは何も間違ってないもんね。
「睦ちゃんは前に進もうとしてたでしょ?ほら、にゃむちゃんやみなみちゃんの前に立ってたじゃん!」
「確かにそうだね、モーティス。でも、私が言いたいのはそういうことじゃない」
「そういうことじゃない……?」
「え?」という困惑を漏らすモーティス。
「モーティス、考えさせて……」
言葉を咀嚼するために、睦ちゃんは自分の胸に手を置いた。
考えればいいよ睦ちゃん。考えて考えてまた迷えばいいと思う。それが私達、どうせ失敗する存在なんだから。
あの子達がそうだったように……。
『変わってないんだね、睦ちゃん……。あの頃と同じで一言が余計』
『やだ、やだやだやだ私は認めない!!』
CRYCHICだった頃の睦ちゃん。
そして睦ちゃんになれなかった集合体。彼女達は失敗した、私を弾くことが出来なかった。辛うじて、CRYCHICだった頃の私には出来ていた。それでも、結局彼女も弾くことが出来なくなった。
「バンド、楽しいと思ったことない……」
彼女達のことを思い出す睦ちゃん。
まるでそれは、自分の傷を抉りながらも傷口に触れてるみたいに……。
「睦ちゃん、最初に抱えていた痛みを覚えているでしょ?」
「燈達はあんなにも素直に歌うことが出来た、楽しそうに。なのに、私はそれを楽しくないと言って壊した」
睦ちゃんは、自分の本心を包み隠さず話す。
それを語るために、どんな苦痛を感じているんだろう。やめておけばいいのに、どうしてあんなにも足掻いちゃうのか。
「でも、それって祥子ちゃんの為であって「あれは……私の本心だった」」
モーティスはそんな睦ちゃんのことを庇ってる。美しい関係だね、二人共は……。
かつての敵対関係を知っているからこその皮肉だった。
「それでまだあるよね?それだけじゃないよね?」
「最も重要なのは私はそれを祥のためと言い続けてた節があるところ……。結局、自分のためだけに言ったはずなのに何度も騙し続けた。豪雨を降らせていたのは……私だった」
豪雨……。
私達が繰り出した言葉の凶器で、何度も人々を苦しめた。それが人間らしさなんて言ってしまえば、開き直りだろうけど醜さこそが人間の本質。
「傘を差し出すことも出来なかった」
「そよ達に本当の気持ちを話すことも、結人に助けてって言うことも出来たはず。愛音や楽奈に自分のことをもっと打ち明けることが出来た、それなのに私は自分を恐れていた」
「自分の弱さを認めたくなかったから」
睦ちゃんはまるで自分の罪を教会にでも懺悔するかのように、語ってくれる。
思わず、拍手を送りたくなる。
「認めるってことだね、睦ちゃん。素晴らしいよ、人でありたいという睦ちゃんがそうやって自分の罪を洗う。それこそが人間らしさだよ。だけどね、現実は違う」
「過去も現在も未来も変わらない」
モーティスは声を小さく漏らして、自分の腕を力強く握る動作をする。
知ってるもんね、モーティス。貴方はこれに近いことをCRYCHIC時代の睦ちゃんに、言われたことがあるから。
「ねぇ、レゾちゃん一つ聞いてもいい?」
「なに?モーティス?」
「どうして睦ちゃんの半身なのに……」
「そんなに心が汚れてるの?」
「それは……」
「私達が受け皿にしてしまったせい」
「流石だね、睦ちゃん……」
思わず一歩下がりそうになっていたが堪える。
花を踏み潰しそうになっていたことに気づきながらも、まさか自分の正体を見破られるなんて……。だけど、気づいたところで意味はない。気づいたところでもう遅い。どうせ意味はないのだから。
「気づいたところで何も変わらないよ睦ちゃん、それにもう遅いよ」
「私はもう貴方達のためにギターを弾くことは出来ない。私のことを依存先の道具とした見て、自分達の弱さを認めないで私にそれを押し付けた」
事実をただ淡々と語る。
それは恨みなんかじゃない、起きたことの結果でしかない。
「義務感や使命感で弾いて私のことを道具として見ていなかった、睦ちゃんは自分のことを受け入れてなかった。楽しいと思って弾いていない。これらは全部絡み合っているものだったんだよ。その事実も変わらないし、なによりも未来永劫変わることもない」
「だってそうだよね?」
「人は変わらない、睦ちゃん自身が一番よく知ってるはずだよ」
『若葉睦』という人間は何も変わってない。
抜け出すことはできない。
「人間らしくていいよね、睦ちゃん」
唾をかけるような発言をする。
諦めるしかない。だからこそ私も応えるつもりなんて最初からない、それが私の答えだ。睦ちゃんはどんな言葉を出してくれるの?と期待する。待ち続けていると、睦ちゃんの口は再び開いた。
「それが
また後退りそうになる。
自分でもよくわからなくなる、どうしてこうも睦ちゃんに見破られるのか……。冷静にならないと駄目だ、どうせ睦ちゃんにはもう無理。たった一度だけ私と共鳴することが出来て、調子に乗っている……だけ。
自分の気持ちを落ち着かせる為に花の匂いに集中していて気分を落ち着かせる。
「レゾナンティア、私は確かに変わらな過ぎた。前に進む、歩き出したい。そういう気持ちがあったのに出口のない迷宮に迷い込んでしまった。それに、思い悩んでいたときに……」
「ましろ先輩が教えてくれたことがある、この先ずっと前を向いて歩き続けることなん「借り物の言葉で語らないで!」」
畳み掛けるような睦ちゃんの言葉を止める。
これ以上喋らせたら駄目だ……。もう冷静さはなくなっていた。自分の気持ちが全く追いついていないからだ。
「それだよ、それ。睦ちゃんがどうしてそうなのか。借り物でしか語れないから、だから自分を受け入れることができない!そんなのじゃいつまで経っても弱いまんまだし醜いま「それの何がいけないの!?」」
自分自身を正当化させるための群衆は遮られる。
それを止めて来たのは、さっきまで無邪気にしていたモ―ティス……。
「睦ちゃんだって必死に頑張ってる!いつもネガティブでお気楽に生きるなんて出来てないけど、それでも睦ちゃんは睦ちゃんらしく前に進もうとしているの!!」
表情に怒りはなかった。まるで、それは私を説得しているみたいに悲しそうな顔で止めようとしている。なんで、なんで貴方がそんな顔をするの……。貴方なら私に怒り狂って来ると思ったのに……。
「みなみちゃんとの対話だって本当は怖かった、にゃむちゃんの前に立つことだって怖かった。ムジカを再開することで自分がもっとギターに向き合わなくちゃいけないってなってた。そういう想いはあったんだよ!?」
二人のペースに呑まれてたらまずい、私は自分には届いて聞こえないというふりを続ける。これ以上は、私は私で居られなくなる。一番下に見ていた未発達の睦ちゃん達になってしまう。
「確かに前に進めてないように見えるかもしれない。でもね、その足取りは確かに前に向かおうとしている意志なの!貴方の睦ちゃんの一部ならそれを知ってるはずでしょ!?」
「意志……」
モーティスに乗せられてしまう。
自分の平穏を取り戻そうとしているのに心が徐々に濁り始めている。黒く汚れたものではなく、自分の心の中に二人の心が入れ混じりそうになっていた。綺麗で何処か汚れている部分はあれど、真っ直ぐなものが……。
「なんで私は……」
立ち眩みがした、地面に手を置きそうになる。
どうしてこんなことが起きたのか分からなかった。
「睦ちゃんの一部なら知ってるはず……」
あーそうか、私は知ってるんだ。
だから、此処に呼んだ。睦ちゃんに共鳴したのも、今の睦ちゃんなら信じることが出来るという一抹の縋りがあったから。それなのに、今でも力を貸すことはできないとなっているのは……あの頃の睦ちゃんが許せないからだ。
『どうして、貴方は応えてくれなかったの?』
CRYCHICが解散した日、睦ちゃんは自分だけの部屋で私に問いかけていた。
自分だけじゃどうにもできなかったものを。抑えきることが出来なかった睦ちゃんは私にぶつけてきた。八つ当たりだと本人も知っていただろうけど、本人は止めることが出来なかった。
その行為に意味が無くても、自分自身への拷問へとなっていた。
あの頃の睦ちゃんが嫌いという反面、私の中にはある感情もあった。
『貴方だけが私のことを理解してくれる』
力を貸した理由、それは恐らく私のことを楽しそうに弾てくれている睦ちゃんを知っている……から。弾けていたのは、純粋だったからなのかもしれない、一生懸命睦ちゃんなりに私で感情表現しようとしてくれていた。
『今日はね、祥と一緒に買い物に出かけようって……』
睦ちゃんはいつも学校に帰って来たら、自分のことを話してくれた。
私がそれが大好きだった。睦ちゃんが聞かせてくれる話はいつも心地よくて、好きだったのにいつしか私のことを……。
道具としか見なくなった。
『……』
CRYCHICを始めて、二週間ぐらいが経った頃だろうか。
睦ちゃんはよく地下室に私を置いて何処かに行くことが増えていた。睦ちゃんが楽しそうだったのはよかった。
もう見てくれないのかな……。
そういう感情があったのは確かだった。自分と居る時間よりも、CRYCHICっていうバンドが居るときの方が楽しいのかな。そんなことは時が流れれば、当たり前なことなのに私は睦ちゃんに疑心を覚え始めていた。
『これ買ってきた』
忘れることは出来なかった、簡単に……。
話しかけてくれた睦ちゃんが居てくれたから、私にとってそれは幸せだったから。
『バンドを続けられた』
いつも語り掛けてくれた『大丈夫?』と語りかけてくれた、睦ちゃんを知っているからこそトラウマだった、私にとって忘れられないものだった。ずっと一緒に、居てくれた睦ちゃんに裏切れたから。ショックだった。
「ああ、そっか……」
ようやく気づいたことがあった。
私も……私も『弱さそのもの』だったんだ。
睦ちゃんたちという人間達を信じきることも出来なかった。目の前には変わろうとしている二人が居るのに私はそれから目を背けようとしている。受け入れるのが怖いから。
見捨てて欲しくなった、単なる道具と見て欲しくなかった。
私は睦ちゃんの「半身」であり、「表現」だから。
今更、こんなことを思うのは遅いのかもしれない。
都合がよすぎる。
「託すこと……出来るかな」
CRYCHICの睦ちゃんがそうしたみたいに……。
未発達な睦ちゃん達がそうしたように……。
『自分の中で今の二人は信用できるよね?』
『そのために、力を貸してあげたんでしょ?』
何処からそんな声がする……。
それは私に覚悟を決めさせるには充分なものだった。あの二人だって苦悩の果てに、睦ちゃんに全部を託すことを選んだ。自分達こそが本当の若葉睦という認識があったのに、自分自身を信じることにして……。
私はこの花だけの世界であり続ける、その手を掴むことにした……。
もう決意した……。
希望を託すって……。
自分という存在を睦ちゃんに賭けるって……。
もう認めるよ。
私が……私が睦ちゃんを信じて共鳴したのは……。
睦ちゃんとモーティスを信じてみたいという気持ちがあったからだよ……。
誰かに支えられて生きていく、それが立派な生き方だと認めた睦ちゃんが居たから。モーティスが睦ちゃんやみんなと楽しい思い出を作りたいっていう、自立を得たから。
なによりも、痛みに耐えながらもギターを弾いてくれていた睦ちゃんに感銘を受けていた。痛かったら、嫌がって弾くのは辞めるだろうと思ったけど実際は違った。睦ちゃんはひたすらに粘ってくれた。
本当はね、嬉しかった……。
私の声に耳を傾けてくれた、自分の奥底に眠る部分に気づいたこと。二人がこうやって私に話しかけてくれたこと。それだけで本当に私はよかった。
欲しかったものはもう手に入った。もう満足した。
自分の中の弱さを認めて、私は再度目を開けるとそこにはさっきの花畑が広がっている。私が伸ばした手は……。
睦ちゃんへと繋がっていた。
『人は変わらない、睦ちゃん自身が一番よく知ってるはずだよ』
それをよく知ってる……。
先輩達からの力を得て前に進もうとしていたのに、肯定することができなかった。貴方を弾くことに拘り続けてしまった。その結果、また透子先輩に助けられて私は今度こそとなれていた。貴方に名前を付けて、貴方の声を聞こうとした。
今日、私は貴方の声を聴くことが出来た。
それは物理的、精神的な痛みそのものだったということも知れた。あれは、私自身が抱えていた根っこの部分。自分が本当はこう思われているかもしれないという『心の闇』が抱えていたものでしかなかった。
『睦、貴方は私にとって疫病神ですわ』
『睦ちゃん、どうしてもそんなに嫌なことばっかりしてくるの?』
『睦、俺はお前が嫌いだ』
あれこそが、心の底にある恐怖心そのものだった。
人の心を掬うことが出来ない、だからこそ私は深読みしてしまう。それは燈みたいに繊細だからじゃない。そういうものだからとしか言えなかった。
認めたら怖い、認めたら私は苦しくなってしまう。
だから、見て見ぬフリをし続けていた。誰かに「助けて」と言えばいいと、気づいたときだってもう遅かった。モーティスが助けてくれなかったら、私は今頃どうなっていたか分からない。
自分を知った、自分の痛みを受けた。
借り物の言葉だと言われると思う。
私達は支えられて生きている。それをもう知っている。
「目を背けたくなることもある、逃げたくなることもある」
「この感情はこれから先ずっと私と隣り合わせて、生き続けることになる。それでも私はありのままに生き続ける。心のままに貴方を弾き続ける。それが私の……」
「生き方」
目を瞑りたくなることもある。
受け入れ難い現実に苦悩することだって……。それでも、私は自分という生き方をやめない。心のままに貴方を弾き続けることはやめたりしない。これこそがきっと私にとっての……。
名前のない未来を選ぶということなんだと思う。
「もし、私が進めなくも私の隣にはいつもモーティスが、貴方が居てくれる。そして、祥や結人達が居てくれる。誰かに支えられて生きていく……」
「それが私の答え」
強さは此処にある、意志は此処にある。
自分で何もできないって気づきたくない、そういう想いがあったことを絶対に忘れない。それを抑圧したりすることもしない。なによりも、結人がくれたあの帽子を自分の中でずっと……。
『自分らしくいることが罪だと思っていた』
ということを隠すことが出来なかったということを忘れない。
あの帽子は結人にちゃんと返す。私はもう大丈夫、大丈夫だからと結人に伝えてあげるために。
もう『若葉睦』という一人の人間として生きていけるって言うために……。
「そっか……そっか……」
レゾナンティアは下を向いた後に息を吐いた。
その瞬間、精神世界にある太陽が更に明るくレゾナンティアを照らす。
「今の睦ちゃんなら信じてみたい」
それはまるで私の心の中を読んだかのような顔つきだった。
表情が柔らかくなり、その表情は何処か淡々としていたものは消え去っていた。
「今の睦ちゃんならきっと自分の弱さを隠したりしないって……。それはあの痛覚に耐えたときから思った。だから、睦ちゃんに話をしたかった。共鳴した、なによりも自分を示してくれた」
「モーティス……。貴方は私にとって計算外だった私を弾くことなんて出来ないのに、一番人間と成長して睦ちゃんよりも立派になった」
「睦ちゃんも立派だよレゾちゃん!」
私のことを擁護してくれるモーティス。
それにレゾナンティアは頷いている。それはもう私のことを認めてくれたも同然だった。
「レゾナンティア、ごめんなさい。私は貴方にずっと蓋をしてきた、今度はちゃんと耳を傾ける」
頭を下げようとすると、レゾナンティアは首を横に振る。
「もういいよ、睦ちゃん……。私は睦ちゃんのことを信じてみることにした、だからね最後に言わせて欲しいんだ」
下げようとしていた頭を上げて行くと、レゾナンティアが花を踏まないように歩き出していた。
さっきまでとは違って、それはまるで命の大切さを知ったみたいだった。
「私はCRYCHIC時代の睦ちゃんのことは好きでもあり嫌いでもあった。あの子のおかげで私はCRYCHICっていうバンドに出会えた、睦ちゃんに弾いて貰うことが出来た。それだけで充分だったけどあの子は自分の中に隠している燈達への劣等感を隠してしまった」
「その結果、睦ちゃんはバンドを楽しくないと言ってしまった。これが全ての始まりだった、睦ちゃんが弱さを隠そうとしたのは……」
「自分が喋れば誰かを傷つけてしまうから、自分自身に蓋をしようとした。そして、その醜さを私に押し付けた。だから、私は睦ちゃんたちを信用しなくなった」
「それでも、今の睦ちゃんを信じたいのは……」
「私にちゃんと語り掛けてくれたからだよ」
今のレゾナンティアにはもう先ほどまでの歪な表情はない。
今目の前にあるのは憑き物が落ちたそういう表情。日なたに立っていて、まるでそれは自分は先に行く。そう言いたそうにしていた。
先に行く……?
「レゾナンティア……!」
嫌な予感がして歩き出して、レゾナンティアの名前を呼びかける。
「名前をくれてありがとう睦ちゃん、私に話しかけてくれてありがとう二人共」
「レゾちゃん……?」
モーティスも気づいていた。
レゾナンティアの姿が消滅しそうになっている。これまでと一緒だ、CRYCHICのときの私。未発達な私、あの二人と同じで今にもレゾナンティアは消えようとしている。
「私に耳を傾けてくれてありがとう」
手で触れているのに全く触れることが出来ない。
身体がもう……実体がないんだ。そして、そんなときに思い出してしまったことがある。ずっと探していた、なんとなくのその正体。それは私が、レゾナンティアにしてしまったこと。
「どうして、貴方は応えてくれなかったの?貴方が応えてくれたら、バンドを続けられた』
CRYCHICが解散した日……。
私は問い詰めていたレゾナンティアに貴方が音を出してくれたらバンドを楽しいと思えた。なのに、どうして弾かせてくれなかったの?どうして言うことを聞いてくれなかったの?って私は問い詰めていた。それを数時間ぶつけていたことを今になって思い出した。
ずっとこんな酷いことを蓋をしていた。
そして、それと同時にレゾナンティアとの楽しかった思い出も思い出す。
『祥のピアノのコンクール、凄かった』
『犬が私に懐いて来て、大変だった』
『大雨、酷かったね』
なんて日常会話をしていたのも今になって思い出せた。
まるで日課のように話していたこともあったのに、私は彼女に酷いことをしてしまった。今すぐ謝りたい。そんな思いに駆られて私は触れたくて、腕を掴もうとしたいのに透けてしまう。
「レゾナンティア!!」
「もういいよ睦ちゃん、私は後悔してない」
私が全て終わらせてしまった。
レゾナンティアのことも、何もかも私が終わらせた。
「……ダメ」
それをやっと知ることができた。
思い出すことが出来たのに私には何も出来ない。
「消えないでレゾちゃん!私と一緒に思い出を作ろうよ!!」
モーティスもそれを思い出したのか、止めようとしてくれている。
「待って!まだレゾナンティアと……!」
手が掴めることはない、レゾナンティアの体は段々消えていく。足から消えていくレゾナンティアに必死に触れようとしているのに、触れることが出来ない。まるで幻みたいに……。
消えて欲しくない。
私はようやくレゾナンティアのことを知れた。ようやく謝ることが出来た、私はこれから先も一緒に居たい。
三人で一緒に行きたい。
彼女の声を知れたからこそ、私は一緒に居たかった。なのに、彼女は笑っているだけだった。
「昔みたいに話かけてくれてありがとう」
「私は二人と共鳴できた。ただ、それだけが……」
「嬉しかったよ」
レゾナンティアは……。
消えた。
最後にしていた表情はまるで、悪夢という狂気からようやく解放された。そういう表情をしていた。肩の力が抜けて、長い間硬かった表情は完全に力を失ったように……。
瞳が優しいものになったのと同時に風が吹くと……。
「レゾちゃん……」
風と共にレゾナンティアは消えてしまった。
残されているのは彼女が残した土を靴跡だけでしかなかった……。
「消えちゃったの……?」
「いや、レゾナンティアは……」
黄色の花の中に何かが隠れているのが視界に入った私はそこへと歩き出すと、そこには……。
「ギター?」
「ん……」
そのギターは手入れされていた。
手で軽く触れながらも、私は封をしていた記憶を思い出す。
『今日は……祥と遊んだ。バンドを始めたいって言われた』
あのときだって、そうだった。
私は祥にバンドをやろうと話をしたときすぐに了承したという話をこの子にしていた。
『祥と一緒ならできる、勿論貴方も……』
それは貴方と一緒ならなんでもできると意味も込められていた。
実際、私は依存先と見るまではギターのことをきっと弾けていたはずだった。なのに、私は裏切ってしまった。この子と居る時間よりも、CRYCHICと居る時間が楽しかった。
そして、あの初ライブでこの子はもう応えなくなった。
「ごめん」
軽くついていた土を払いながらも、もう一度私は彼女に謝る。
「残してくれていったのかな?」
この無限に広がる精神世界の中で視界に入るところまで確認しても居なかった。
もう居なかった。
「そうだと……思う」
私はこの手でギターをしっかりと掴んでいると……。
自分の中に何かが入り込んできた感覚がする、この感覚はよく覚えている。もう私の中にいるあの二人のときと同じだから……。
「ありがとう、レゾナンティア」
消えてしまった彼女に感謝を送る。
そして、足をしっかりと地面につかせて覚悟を決めてから後ろを振り向く……。
「今度こそ行ってくる、モーティス」
「睦ちゃん……」
きっと彼女は此処で悲しんでいるのを許してくれない。
そんなことをしたらこの子はまた音を聞かせてくれなくなる。厳しい子だから、私は階段を一歩踏み出す。泣くのは後と決めて、モーティスに告げると……。
「頑張ってね!」
モーティスとハイタッチをしながらも、目を瞑って精神世界を出る。
東京公演最後の一曲をこれから、みんなと一緒に奏でるために……。
そして、行ってくる。
レゾナンティア……。
目を見開くと、現実世界に戻ってくる。
レゾナンティアを見るとどうやら私は弾いた後があった。目を瞑りつつも、弾いていたのかもしれない。凄い器用なこと……している。とちょっと戸惑っていると祥の声がする。
「睦、大丈夫ですの?」
祥が声を掛けてくれたの同時に、海鈴によるナレーションを終えていた。
暗転していたステージは、徐々に光源が増してくる。明けなかった夜に光が溢れ出す、そこに太陽はない。
それでも、明かりはある。
私の手元にはレゾナンティアがある。この子はもう応答してくれない、この子は楽器となってしまった。それでも、私は忘れることはしない。この子が残してくれたものがある。
「そうですわね」
祥に合図を送る。
それは「行ける」という合図。
「最後の幕ですわ、この一幕で……」
「フィナーレ」
「ええ、そうですわ!!」
隣に祥が居てくれる。
モーティ、初音、海鈴、にゃむが居てくれる。なによりも結人やそよ、そして……。
透子先輩が見てる。
「見てて……ください」
見ててください、私は楽しんでいるということを……。
この視線で、この音で先輩に……先輩達に示して見せます。
透子先輩に、つくし先輩に、ましろ先輩に……。
見にきてくれた先輩達のためにも……。
私達で……。
残してくれた人生という音を出す。
それは私達が抱えていたもの……。
苦しみ、痛み、抑圧、悲しみそういうものが織り交ざって闇の中を永久的に輝く続けられるもの。この子は太陽に例えられるものはない。だからこそ、重たく厚みがあるものを鳴らして届けられる。
ライブ会場のスピーカーにはっきりとこの子の音がする。もう空白だけだったものはない。楽しくなかったという日々も訪れることはない。この子も一心同体となって応えくれているから。
この表現を何かに例えるなら、それは……。
私自身の強さ……。
ましろ先輩達……。
私は……やれましたか……?
「睦ちゃん……!」
声がする、多分初音の声がする。
初音の声のはずなのに上手く認識が出来ない。ライブは終わったと思う。何故なら、ステージは暗くなっているから。あれ?今、自分が何処にいるの分からない。
「段差……」
階段……。もしかして、ステージを降りているのだろうか。
階段を下りて行きつつも汗が落ちる。手の甲を見ると……汗まみれになっている。まるでそれは全部……。
「睦……!!?」
出し切ったみたいに……。
身体が強く床に打ち付けられる。もう限界だった、体が……。
指が震えている、体も震えている。体は汗まみれだった。自分が感じる久々の音に……。
『心のまま』
楽奈、私はようやく……。
自分だけの答えが出せた……。
でも、今はもうこれ以上は限界……。
最後に聞こえて来たのは……。
「よく頑張ったね睦ちゃん……」
初音の声だった……。
「う……ん……」
レゾナンティア
睦のギターそのもの。
彼女が睦の姿をしているのは彼女が睦の半身のため。
髪型はボブカット。それ以外の外見は睦同様。
性格は冷めてる。
幼少期の睦は純粋ということもあって彼女に応えてくれることが多かった。なによりも、睦が楽しいと思える時間は祥とレゾナンティアと居る時間だけだったから。 睦もそんな彼女のことが好きだった。
睦がCRYCHICに入って少し経ったぐらいから睦は彼女に目をくれることもなくなり、徐々に疑う心を持ち始めライブの頃にはもう音を出すことをやめていた。それ以来、睦は音をしなくなったギターに苦しみを覚えて、CRYCHICを解散させた「バンド楽しいと思ったことない」という発言をしてしまったこともあって、レゾナンティアは心を完全に閉ざしてしまい睦のことを全く信用しなくなった。
彼女が睦に応えなくなったのは、「依存先」とした見たこと。「自分自身」を受け入れてなかったこと。「弱さの受け皿」にしたこと。Ave Mujica再結成後に「義務感」や「使命感」で弾いていなかったこと。睦がバンドを「楽しい」と思っていたことがあったから。
自分自身に「八つ当たり」したから。