【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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凪いだ心の波紋

「一緒のに乗る必要はないと思うんだけど……」

 

「いいでしょ、私が勝手にしたいだけなんだから」

 

 昨日、東京でライブしていたばっかりというのに疲れを見せない。

 流石はトップアイドル様。

 

「好きにすれば……」

 

 まさか帰りも一緒に乗るなんて言い出すとか……。

 お金の心配とかは全くしていないけど、仕事とかあるだろうのに……。この前だって、それが原因でライブ会場に大遅刻していたし。

 

「ライブのときはありがとう」

 

「別に……私は私で自分の力を証明して見たかっただけ」

 

 新幹線内でライブをすることが何処まで盛り上がるのか、盛況を呼ぶのか。

 あの新幹線が遅延している状態だからこそ出来たとはいえ、車掌から快く了承を受けたときは「ちょろっ……」ってなった自分がいた。

 

 私と初華だから、了承するのも当たり前なのかもしれない。

 即決だったから、私は「えっ?そんでいいの?」となった。おかげで明晰夢みたいな現象を新幹線で行うことが出来たのは事実だけど……。

 

 初音とのライブなんてのは今後一切叶うことはないだろうけど……。

 

「東京ライブだけどさ……」

 

 水を口に含む。

 口に入れた水は私の脳を覚醒させるにはちょうどよかった。ライブ会場での熱気を取り戻したからだ。

 

「悪くなかった」

 

「ドロリスとしての自分の中で揺らぎながらも、大事にしているものがあるから儚くも自分の魂を宿しているところも……。それでも、届けようとしているところは……」

 

 今更、7弦凄いねと言う話をするのも違うとなって私はライブの内容に限った話だけしていた。

 ああいうのは、ネックの広さとかがあるからとか言おうとしたけど、初音はそういうの慣れているだろうからそこを褒めるのも違うだろうし……。

 

「後……観客の顔色伺い過ぎ」

 

「それは……ごめん」

 

「いや、別にダメって訳じゃないから」

 

「作り上げているものはいいんだけど観客の顔ばっかり見ていたから、途中で睦さんの音に気づくまで周りのこと全然見ていないし。そういうところはちゃんと直さないと駄目」

 

 どうして自分がダメ出しをしているんだろうと、変な気分になる。

 したくないって訳じゃないけど、する必要もないのになにしてんだろうってなる。それに今からするこの話も……。

 

「天球のMujicaだったっけ……?ラストの曲、結構好きだった。あの曲も初音が考えたの?」

 

「うん、あれは初華のことも含めて考えたんだ」

 

「……」

 

 舞台劇に含まれていた暁というフレーズもきっと初音が土壇場でぶち込んで貰ったものに違いないと確信する。流石に曲単体はその場しのぎで作ったと考えられないから、少なくとも作ったのは……あのクソ記者の一件も含めてだと思う。

 

 きっと、こんなに誰かを想うって歌詞のフレーズはきっと祥ちゃんのことを言っているんだろうけどあの歌詞は……。

 

「夢の続き、か……」

 

 最後まで私の耳の中に残っているあのフレーズ……。

 私にとって残り香みたいに消えることがない。もし、それが私のことを含んでいるとしたらと願ってしまう自分がいる。夢物語なんてのは今こうして話していること自体がそうだけど、あのときの新幹線ライブなんてそう。

 

「……どうしたの?初華?」

 

「なんでもない、()()()なって思っただけ」

 

 具体的なことは言わずに、抽象的に濁す。

 初音は「えー?」という昔の私そのものな声を出す。お互い、憎しみ合って忌み嫌っている姿はもうそこにはなかった。私はそれを悪くないなと感じながらも、スマホを眺める。

 

 

 

 

『最後までやり遂げたけど?』

 

 スマホを確認すると、通知には「やってみせたけど?」と言いたそうにしているにゃむさんの姿が目に入って……。

 

『おめでとうございます』

 

 とだけ返す。

 絶対に「ウッザ」と思われていることを自覚してしまう。

 

 

「ちょっとだけ寝る」

 

「うん、おやすみ初華」

 

「……おやすみ」

 

 さっきのやり取りを含めて私は内心、ほくそ笑みながらも目を瞑る。

 小さなやり取りの中にある確かなものを感じながらも……。

 

 

 

 

 

「此処に来るのも久しぶりだね……」

 

 新幹線を下りて暫くタクシーを乗り継いだ後に、船へと乗っていた。

 こういうものに乗るのも一年ぶりだろうか……。

 

「初音と来るのは初めてだっけ」

 

「あれから帰ったりはしていたの?」

 

 あの島に戻ることなんてそういうときぐらいでしかない。

 あそこに行けば、初音のことも祥子ちゃんのことも思い出してしまうから戻りたくなかったという気持ちが強かった。

 

「お父さんの命日と盆ぐらいかな」

 

 いつもそうだった。

 お母さんから言われて、この島に来ることばかりで自分の意志でこうやって来るのは初めてだった。

 

「多分、数えられるほども自分で来てない」

 

 というか、一回も来たことない。

 

「そっか、私もそうだよ」

 

「今年の墓参り、来なかったんだよね」

 

「初音に会いたくなかったからね」

 

 いつも初音とは時間帯をズラして墓参りをしに行っていた。

 今年の墓参りしに行かなかったのはAve Mujicaとしてデビューした初音と会いたくなかったから。祥子ちゃんに隣にいることを妬んでいたから。

 

「今は隣に居てくれてる、墓参りもそうでしょ?」

 

「はいはい、そういうことにしてあげる」

 

 私の降参でいいよと言った感じで船から降り立つ。

 初音は船から降りる際にちょっとよろめきながらも、島に入る。

 

 

 

 

 久々でしかなかった。

 此処に来るのは、真面目に……。

 

 

 

 辺りを見渡しても、何も変わってないと分かる。

 海の匂いも、海の綺麗さも……。空気感も何もかも……。

 

「変わってないね」

 

「初音は墓参りのとき来てたんでしょ」

 

「墓参りのときだけね」

 

 私と一緒か……。

 初音も私やお母さんに会えるような状況じゃなかったらだろうし此処に不用意に来るわけがない、か……。

 

 

 

 

「どう?久々に此処に来て思ったのは?」

 

 船を下りて、暫く歩く……。

 街並みも何もかもそのまま残っている。まるでこの島だけで時が止まり続けているみたいに……。そもそも、大阪や東京みたいに目まぐるしい発展が島にあるとは思えないけど……。

 

「割とそのまま……かな?さっき話しかけて来たおばあちゃん覚えてる?」

 

「覚えてる」

 

 初音はこの島の空気を吸う。

 まるで、昔を懐かしむみたいに……。

 

「私と初音がよく漁師やってるお父さんにお弁当届けに行くとき、話しかけてた人でしょ?」

 

「そうそう、それで思ったんだ。あんまり変わってないって」

 

「……だね」

 

 人の温かさはこの島の特権とも言える。

 自分達のことをまだ覚えられているとは流石に思わなかったけど、それでも「あら?初音ちゃんと初華ちゃんじゃない?」と声を掛けられたときは懐かしい気持ちになっていたのは事実。

 

 自然と初音との思い出や、父親との思い出を記憶の片隅から蘇っていた。

 息が詰まりそうな毎日の中でそういうものを忘れようとしていた。怒りに変えようとしていたけど、ちゃんと記憶には残っていた。

 

「初音はよくその辺に住んでる農家のおばあさんから貰った大根とかそういうもの重そうに持ってたよね」

 

「それは……初華が私に全部渡して一人で走って帰ろうとしていたからだよ」

 

「あーそうだったっけ……」

 

 どうやら自分の中で蘇っていた記憶ってのは案外曖昧なものだったらしい。

 ちょっとだけ恥ずかしくなって、私は初音が持っている荷物をそっと自分の手で持ってあげる。

 

「なに?」

 

「ううん、なんでもない」

 

 まるであの頃とは違うねって言いたそうにしている初音を無視して、私は早歩きになる。

 当時みたいに走ることはしなかったけど、まるで自分の中にあるものを思い出させてくれる。

 

『お姉ちゃん、ほら!早く早く!!』

 

『待って初華、走っちゃダメだよ』

 

『もー!お姉ちゃんは遅いんだから』

 

 後ろを振り返りながらも、手を挙げて「早く早く!」と言っている声が耳に聞こえる。

 

『初華もちょっとは持ってよ』

 

『えー!じゃあ、トマトだけね!』

 

『あー!食べちゃダメだよ!!』

 

 畑の方を見て、過去のことを思い出す。

 今にしてみれば、私ってかなりわんぱく娘だったんだなってなる。今や、そんなのは見る影もないけど偶には昔の自分とやらに戻ってみる。そういうのも一つの手かも……。

 

 

 

 

「ねぇ、初音」

 

「どうしたの?」

 

「久々に競争でもする?」

 

 触れたものがあるからこそ、私は昔を懐かしむということをしたくなった。

 かつての私が戻ることはないだろうけど……。

 

「望むところだよ」

 

「っそ……」

 

「じゃあ早速やろうか……」

 

 荷物を持って、軽く準備運動をする。

 

「負けないからね?」

 

「こっちこそ……それじゃあ」

 

 

 

 

「よーい」

 

 

 

「「どん!!」」

 

 開始の合図と共に私は走り出す。

 私が荷物を持っているから、ハンデはあるけど負けるつもりはなかった。勝てる見込みがあるかとかどうかじゃなくて、ひたすらに負けるつもりはないという意気込みだけが私の中にはあった。

 

『お姉ちゃん!また私の勝ちだね!!』

 

 昔から走ること自体は得意だった。

 走って、走って島の山の上に登ったり島の端から島の端まで走り続けるなんてよくやっていた。周りからは体力あるだとかそういう話をされることも多かった。新幹線のライブのときは流石に初音の方が疲れていなかったけど……。

 

 流石はSumimiの初華でもあり、Ave Mujicaのドロリス。

 心の中で賞賛こそはしていたけど、負けたという気持ちはあった。別に張り合っていた訳じゃないけど、それでもアイドルとしての気概というは人一番あるつもりでいたからああいう特殊環境の中でやるののは楽しかったという気持ちは確かにあった。

 

 新しい暁……。

 あの歌を初音と共に歌うことになるなんて、自分が描いていた地図にはなかったはずなのに私は初音と最後まで新幹線の中で歌い切った。生きていれば、ああいうこともあり得る。復讐心が上書きされるって訳じゃないけど、今が楽しいって気持ちはある。

 

 

 

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

 

 過去を懐かしみながらも、走っていると隣では息を荒くして走っている初音がいる。

 風を切り裂く音だけで自然と一体化出来ていると実感できる。

 

「ハンデ……あげようか?」

 

 走るのがやっとのくせにそうやってハンデを与えようとしてくる。

 

「因みに……ハンデってのは?」

 

「荷物……おいていいよ?」

 

「置いたら……誰が持つのさ……!!」

 

 すぐ突っ込むと、初音が隣で笑っている。

 

「そう……だね!!」

 

 どう考えても疲れるだけの無駄な会話を続ける。

 自分が一位、自分が早いという意地の張り合いを見せる。どうせ、私も初音も負けるつもりはない。負けるつもりがないからこそ、本気で走り続けることで……必死さが伝わっていた。そんな昔みたいな感じに触れながらも……。

 

 

 

 

『はい、私の勝ち!!お姉ちゃん遅い!!』

 

『初華が先に走るからだよ』

 

『アイス買って!!』

 

『お腹壊しちゃダメだよ?』

 

『壊さないもん!!』

 

 流れる汗が……自分の血を思い出せる。

 あの頃も似たようなことばかりしていたっけ。島に娯楽なんてほとんどなかったから、いつもこうして競争してた。昔は初音が荷物を持っていたけど、今は私が持っている。だからって本気で言い訳するつもりはない。

 

「なっ!?」

 

 一瞬だけ、前に出ていた初音のことを足を出して私は一気に駆け抜ける。

 走りには慣れている。アイドルは体力が基本だから、毎朝走り込みなんてやっていた。部活っぽいけど、これのおかげで体力がついている。

 

「毎日走り込み舐めんな……!!」

 

 気合を入れながら叫ぶ。靴が地面に触れる度、汗が流れる度に回想が流れて来る。

 最終的に私達の実家に辿り着いたのは……。

 

 

 

 

「あのときと一緒だね」

 

 

 

 

 

 

「私の勝ち」

 

 走り抜けることには成功した。

 荷物を持っていたからとかいないとかそういうのを抜きにしても純粋にこうして勝負がまた出来て、自分が勝つことが出来るってのは誇らしいものだから。

 

「次は……勝つからね」

 

「次、か……」

 

 新幹線ライブでも言われた。

 『またやろ?』と言われたこと、そして今回も次を期待してくる初音。どんだけ欲しがりなの?と呆れつつも、私は……。

 

「次があれば、ね」

 

 と素っ気なく返す。

 それはやる気がないって言うよりも、機会があればねという意味合いしかなかった。

 

「お先に失礼」

 

「あーもう初華!」

 

 先に家の前に立て、そこをゴール地点と見立てる。

 私は腕を組んで待っていると、初音もゴールする。タオルを初音に渡して、自分もタオルで汗を拭いている。

 

 

 

 

「それじゃあ、久々に入る?」

 

「うん、それじゃあ……」

 

 

 

 

 

 

 

「「ただいま」」

 

 家に入ってすぐに言うのは……あの頃と同じ言葉。

 靴を脱いですぐに首の裏についていた汗を手で払ってから、初音にこう言う。

 

「負けたんだから、アイス買って来てよ」

 

「えー?こんな暑いのに?」

 

「いいじゃん、コーンの奴ね」

 

「分かったよ、あーでも溶けちゃうよ?」

 

「それもそっか……じゃあさ」

 

 提案をしようとしたときに初音が、声を遮って来る……。

 

 

 

 

「一緒に買いに行く?」

 

 買い食い、か……。

 よく初音がそういうのはダメって私に注意してたっけ。島にあるコンビニに二人で行ってよくビニール袋にぶち込んでいたアイスを二人で食べていたことがある。お母さんには内緒にってことにして……。

 

 此処に来ると淡色の海みたいな美しさもあれば、自分の中で消えていたものを思い出せてくれる。そんなロマンチストみたいなことを思い出せる。

 

「じゃあ、あの頃みたいに買い食いしない?」

 

「お腹冷えるまで食べちゃダメだよ?」

 

「子供じゃないんだから分かってるって」

 

 変わらずにしつこく言ってくる初音に、胸の奥で何かが弾けるような感覚があった。

 海に一つの石が投げられてそれが波紋となって、広がっていくことが伝わる。それはまるで、自分が……。

 

「初華はまだ14歳でしょ?言いたくなるよ」

 

「墓参りしに来ただけなのにそんな言わなくてもいいでしょ……」

 

 この島に来たのにはお父さんの墓参りしに来ただけなのに、此処までがやがや言われるとは思わなかった。

 

「私の妹だから」

 

「あーもう分かったからって……!」

 

 流石にお手上げ状態になってきた私は……。

 「あーもう五月蠅い!」と言いたくなってきていた。

 

「お父さんのお墓の前でもそういうこと言うつもり?」

 

「言いたいことがいっぱいあるのは確かだよ」

 

 

 

「……」

 

 家の扉を開けたと共に入って来る……。

 潮の匂い、木々の香り……。自然的な浴びた後に、初音の方へと視線を向けてから私は口を開いてこう言う。

 

 

 

 

「私も……」

 

 

 

 

 

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