【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
「ほら、言ってあげたのに……」
縁台で大の字になってると、夜に鳴く虫の声と初音の声がする。
「うっさい、そこにアイスがあったら食べたくなるのは当たり前でしょ」
言いたくはないけど、私はこういうところは子供のまんまだった。
コンビニでアイスを大量に買って、口の中にアイスを頬張る。その度に「お腹壊すからやめな」と言われていたのに、私は大漁のアイスを口の中に入れ続けていた。
「そういうところは変わってないね、初華」
「うっさいって……」
昔と変わらずに減らず口で私にあれこれ言ってくる初音……。
そっちも変わってないじゃんと思いながらも、私は縁台で横になっていた。外から見える庭園に目を向けていると……スマホに着信が掛かってくる。
「お母さん……?」
手元に置いてあったスマホを確認すると、お母さんの名前がある。
お母さんという声を出すと、初音が私に視線を向けて来る。電話に出るか迷う。出るの自体は、全然構わない。私は別にお母さんとは疎遠になっていた訳じゃないから。
初音に「どうする?」という視線を送ると、スマホが手元から無くなっていた。
「もしもし……」
行動の速さに「え?」という声が出そうになる。
スマホの電話口に出ていたのは私じゃなくて、初音だったから。
『初音……なの?』
スピーカーにしているのか、お母さんの声がしてくる。
「うん……久しぶりだねお母さん。こうして話すのは……」
残響と言う名の記憶が初音の声がしている。
その声にあるのは血の通った母親に話しかける声だったのは確かだった。声色が柔らかくて、弾んだ声をしているからこそ……。
『……ライブとても良かったわ』
耳に当てていたスマホが手から徐々に崩れて落ちている……。
自分の意識をはっきりとさせようとしてるのに、初音は口を開くのに必死になっている。私は何も言わずに、縁台から離れて初音を一人っきりにさせる。
「良かったね」と背中で語りながらも……。
「今は二人だけの世界でしょ?」と言いながらも……。
信じられなかった……。
お母さんが、私のライブを見に来てくれていたなんてことを……。今自分が、幻想の中を彷徨っているんじゃないかとすら錯覚してしまう。絶対にあり得ない、そんなこと……。
別れすら告げずに、本土へと逃げて一人で祥ちゃんと会いに行った私のことを今でも覚えててくれている、ライブに来てくれていた。そんなことがあり得るんだろうか、となってしまうのに確かなことだけが言えた。
「うん、ありがとう……」
浸りたかった。
今はこの景色を眺めながらも、湧き上がる「嬉しい」という感情を土台としたかった。縁台の床を擦る、自分が現実の世界にいることを確かめるために。
擦る音を聞くことによって……。
『まなちゃんだっけ?あの子もいい子ね、貴方達のバンドのために時間を稼いでくれて』
「私なんかには勿体ないぐらい、いい子だよ」
『初華とも一緒にライブしたんでしょ?』
「うん、したよ……凄い変則的な内容だったんだけどね……」
「楽しかったんだ……」
私の中にある……感情が蘇る。
かつての私は確かに、両親からの愛情を受けていないと思っていた。唯一、漁師だった父は私に愛情を注いでくれた。父親を何も知らなかった私にとってこれがお父さんなのかなって感情にさせてくれたから。
ないものだと思っていたのに、空っぽだと思っていたのに……。
胸が苦しくなる、熱くなる……。
もう二度と声を聴くことなんてないと思っていた。
本土に行ってから、私は過去のことを思い出さないようにしていたから。初華と出会わなければ、こういうことも起きなかったのかもしれない。
溢れているこの瞼から出ているのを、確かなものだと信じることにした。
「また声が聴けてよかったよ……」
これが愛情なんだって……。
縁台から見える日本風景が霞んで見えながらも……。
「良かったね……」
なんて単純なもので表すのはよくないとは思う。
こういうときに曖昧なことで濁して、本質を伝えることが出来ない。そういうのは致命的なような気がするけど、どっちかと言うと違う。私が大切にしていたのは言わなくてもいいことなんじゃないかって……。
だから、改めて言わせて初音……。
よかったね……。
聞こえる初音の啜り泣きが耳に届きながらも、私達が使っていた部屋を見渡している。残されているものなんてものはこれっぽちもない。嫌になるから、私が全部捨ててしまった。
残っているのは……。
微かにある私達の中にある大切にしていたもの……。匂いだけが私達に教えてくれる、此処で何があったのか、此処でどんなことをお互いに思い描いていたのか……。
『ねぇ、お姉ちゃんアイドルにはやっぱり輝きが必要だよね!』
『輝き……?』
『うん!目標とか!!私だったら、そうだなぁ……お姉ちゃんと同じステージに立つこととか!!』
『ねぇ、お姉ちゃん!大人になったら私とお姉ちゃんでアイドルになろうよ!!』
馬鹿げた夢をああやって、いつも語り合っていた。
やり方はともかく、結局互いにアイドルになってライブもした。夢見がちな話も案外夢見がちな話じゃなかった。
「現実ってよく分からない話」
父の部屋に意識を向けながらも……私はそう口にしていた。
「そうだよね、お父さん」
墓石の前で……声出す。
風で揺れてる花束に目を向けていると、髪が太陽に照らされる。
「帰って来たよ、初華と……」
初音が私に線香を渡してくれてる。
煙臭い匂いが鼻に残りつつも、線香台に置くことで自分が昨日の夜から今日の朝を迎えたことを悟る。
「お父さんがよく……私達にマグロ捌いてくれたこと覚えてる?」
線香を置いてから初音が漁師だったお父さんの話をしてくる。
「覚えてる……いつも馬鹿みたいに大きなマグロ持って来て私達に食べさせてくれた」
「初華はお刺身を箸で何枚も取って食べていたよね」
視線を墓石から逸らして、何も言えなくなる。
そんな豪快なことをしていたこともあったような気がしていたから……。
「初音だって子供の頃、お父さんが買ってきた魚で骨が突っかかるって泣いてたじゃん」
「あ、あのときは……本当に痛かったんだからね!?」
「そうだね、初音が今にも泣きそうな顔をしてお母さんに泣きついてたもんね」
「もー!初華!!」
感情を表に出さないようにしているつもりだった。
でも、磨かれた墓石の表面に私の表情がはっきりと映っていた。
「それで、ようやく取れて私に泣きついてたもんねお姉ちゃんなのに」
「初華!!」
「ごめん、ごめんってば」
恥ずかしそうにお墓の前で抗議している初音に笑いそうになる。
もう一度鏡として見ると、そこに映し出されてるのは安らぎを感じる表情……。今お父さんに見せられる最大限の表情だったかもしれない。
「さて……そろそろかな?」
「うん、そうだと思う」
頃合いだろと思った私達はスマホで時間を確認してから、後ろを振り返るとそこには……。
「随分と賑やかそうでしたわね、初音」
「初華」
身だしなみをしっかりと整えて……。
墓参りに相応しくその場に立っていたのは、祥子ちゃんだった。
「ちょっと色々あってね、祥子ちゃん」
この島に祥子ちゃんが来ると聞いたとき、正直驚いた。
どうしてもお父さんの墓参りをしたいということでこの場所に来たみたいだけど……。
「祥ちゃん聞いて、初華がお墓の前でね」
墓参りをとっとと済ませたい私と雑談をしたい初音。
はぁ、この人は……ちょっと呆れながらも私は先に手を合わせてお父さんにお参りを済ませようとすると初音が「待って」と言ってくる。
似て来たな、昔の私に……。
自分の鏡写しを見せられている気分になりながらも、三人で手を合わせるお父さんのお墓の前で……。思い出に浸ることはない、ひたすら亡くなった父への今を生きていることを伝える。祥子ちゃんと会うようになってから、まともに会話をすることもなかったけど……。
今を生きていることを話したかったから。
「一番最後は……私か」
こういうのは、初音が一番最後だとてっきり思っていた。
語り掛けるのを終えた私は「また来る」とだけ言って、墓から離れようとしたときだった。
「祥子ちゃん……?」
「ちょっとよろしいですの初華?」
墓の前の方に振り向くと、祥子ちゃんが立っていた。
真剣な眼差しで見ている祥子ちゃんに私は応じる……。
「こうやって二人で歩くのもかなり久々だね、祥子ちゃん」
「ええ、そうですわね初華」
怒りの業火に包まれていたなかにある記憶の中で、自分にとっての希望として残っていたのは祥子ちゃんとの思い出だった。夏休みの期間の間だけの淡い記憶。私にとっては大事なものであり、忌々しいものですらある。
「私は今こうして祥子ちゃんと共に歩けている、それだけで嬉しい」
純粋なる想い……。
かつて初音に奪われていた当たり前がこうやって今はこうして存在していることを不思議になりながらも、この気持ちを大事にしていると祥子ちゃんは歩き出すのをやめたのと同時に砂利を踏む音が消える。
「どうしたの祥子ちゃん?」
「初華は……どうなんですの?」
「私……?」
「姉である初音のことを許せているんですの?」
急に。そんなことを聞いて来てくる祥子ちゃんに私は足を止める。
「どうしてそんなことを聞くの?」
足音が一つしかしなくなった空間で私は疑問を投げかける。
「此処最近私は自分の罪と向き合うことが増えましたわ……」
誰のかも分からない墓石を見つめる。
その視線はまるでその人間の人生を読み取っているみたいに……。
「その中で自分は本当に許されるべき存在なのかと……戸惑うときがあるんですわ」
「祥子ちゃんはどうなのかは知らない。ただ私の答えなら……」
目を瞑る……。
微かに自分の鼻に残っている線香の匂いを頼りに自分の記憶という記憶を掘り起こす。
『大人になったら私とお姉ちゃんでアイドルになろうよ!!』
『最後じゃなくて……またやろ?』
布団の中で語り合った思い出と新幹線で線香花火みたいな儚さと共に叶えた夢……。
いつもだったら、きっと私は突き飛ばした地獄のような思い出に触れるところだったのに、私はそれを思い出すことはなく向日葵畑を燃やすことはなかった。
自分の耳飾りとして付けているアネモネに触れながらも、私はこう答える……。
「答えなら、とっくに出てるよ祥子ちゃん……」
そう、それは……口にしなくても答えなんて出ている。
これまでの道が示している。簡単に許すことなんて出来なくても、さっき父の墓の前に立っていることが証明になっている。語り合っていたことが証明になっている。
なによりも、きっと私の表情そのものが……。
「行こう、祥子ちゃん!」
祥子ちゃんの温かい手を掴んで、私は風の中を駆け抜ける。
初音の方へと行って背中を叩いて「ほら、行くよ」と合図を送る。初音は地面を見た後に、にこやかな笑顔で私の後を追い掛けて来てくれる。
「初華、何処に行くの!?」
「海、思い出でしょ?」
残っていた線香の香りはとうに消えていた。
自分達の足で焦がれている海を歩き出しながらも……。
波打つ音と小さな海……。
足を入れて、歩いている二人の姉妹……。
「ちょっと、初華!やめてよ!!」
初華が初音の黒いシャツに思いっきり海水をかける。
手で勢いよくかけたその海水は初音のシャツを海水だらけにしていましたわ。
「なんで?初音が先にやって来たんじゃん」
「そうだけど、初華のせいで服びしゃびしゃだよ!!」
「あーごめんごめん、ってそっちもかけすぎ!!」
やり返しと言わんばかりに初音が海から拾い上げた海水を初華に顔にかける。
初華は顔を犬のように震わせながらも、水を跳ねのけていましたわ。
「やり返してるだけだよ!!」
あまりにも美しいその光景だけで……。
私は初華の先ほどの発言の意味が分かったような気がしましたわ。
──答えなら、とっくに出ている。
そうですわね、初華……。貴方と初音は互いに自分達のことを憎み、恨み妬んで来た。
「初華助けて!やどかりに指挟まれた!!」
「手のかかる人……」
事実は変わりありませんわ。
消えることのない真実であり、日々であることには……。
「ありがとう初華、子供の頃初華も同じことあったよね」
「な、なかったから!!」
やどかりの危機から助けて貰った初音が昔のことを話していると、初華が思いっきり初音にへと水を掛けていますわ。
「た、助けて祥ちゃん!初華が虐めて来る!!」
「祥子ちゃんの影に隠れようとすんな!卑怯者!!」
「今は卑怯者じゃないもん!!」
「今はね!!」
私はそんなやり取りを聞いて、思わず吹き出してしまう。
口元を手で隠すのに必死になってしまう。
「祥ちゃん、笑わないでよ!!」
「祥子ちゃんに笑われてるじゃん。マジウケるんだけど」
「初華!!」
そうですわね、貴方方を見ればもう分かりますわ。
貴方方がどういう未来を選んだのか、どういう道を選ぶことにしたのか……。それを口にするのは烏滸がましいことかもしれませんわね。だから、初華……。貴方は自分でもう決めていると答えた。
「初音、初華……二人のことは私も見習わなくてはなりませんわ!」
と言って私は靴を脱いで、砂浜へと駆け巡る。
「ちょっと祥ちゃんやめてよ!!」
「あはは、ざまああって祥子ちゃん!!?」
「どうしたんですの?このままでは私の勝ちですわよ、二人共!!」
私も急遽参戦することになった水遊び合戦。
この戦、負けるつもりはありませんわ……!!
「えっ!?これ勝負だったの!?」
「いいねぇ、そういうのがないと張り合いがないと思ってたところだし!!」
「二人共、遠慮いりませんわ!!」
戦の狼煙が上がった今、私は手を抜くつもりなんてありませんでしたわ。
この時間という時を純粋に楽しむのみ……。
「ですわ!!」
「はぁ……はぁ……」
まさか、祥子ちゃんまで参戦して来るなんて……。
「ねぇ、初音……。私の勝ちでいいんだよね?」
初音に勝ったということを誇りたくなった私。
「何を……言っているんですの?私の……勝ちですわ」
張り合ってくる祥子ちゃん。
いいね、そういうのは嫌いじゃない。
「言っちゃ悪いけど……祥子ちゃんびちょ濡れじゃん」
にしても……砂浜で水のかけあいごっこをしていただけというのに、全員が息が切れている。
凄く珍妙な光景が広がっているなかで、私は「あっ」という声を出す。
「というかさ……」
胡坐を掻いて、今初音達に起きていることを冷静に考える。
「どうしたの?」
「どうしたんですの初華?」
「初音と祥子ちゃんは今日帰るのに……びしょ濡れでどうすんの?」
完全に見落としてしまっていた部分……。
「そうでしたわ!?」
「あーそうだった!!?」
二人の声が響いているなかで、私は……。
最後まで誰もが勝者じゃないこの状態を面白くなっていた。
「まあ、なんとかなるよね」
「そ、そうですわね」
二人の声が耳にしながらも、私は手のひらを天高く届けることにした。
それは青く広がっている、曇り無き空を眺めながらも……。
金属的な音が響く中、人々が足早に通り抜けていく……。
時間帯は夕方ということもあり、人は自分のスマホを見たり案内表示板を見つめている。私もそれを軽く見つめると、次の新幹線がもうそろそろで到着時刻を示している。祥子ちゃんは先に改札の中へと入って行った。まるで空気を読んでくれたみたいに。
「明日、結人と会うんだよね?」
「そうだけど」
さっき電話が来て、結人が明日大阪を案内して欲しいと頼まれた。
前から言っていたことをちゃんと覚えていてくれたんだあの人となって、私は了承の返事を返していた。
「それにしても良かったね、服渇いて」
「靴はちょっとまだ濡れてるけどね」
靴を気にしながらも、視線を向ける初音。
「初音が靴入って砂浜行ったからじゃん」
「そうだけど……」
はしゃいでいたことを指摘されると、初音は頬を赤らめる。
慌てて視線も逸らされる。海でスキップしながらも、私の顔面に容赦なく海水をかけてきたことは忘れたみたいに……。
「……楽しかったよ」
素直な気持ちをぶつけてくれる初音。
さっきまで恥じらっていたくせに……。
「じゃあね初華!」
「……うん」
言うだけ言って、歩き出しと思った矢先に立ち止まる初音。
私に振り返って、手を挙げる。
「アイスいっぱい食べちゃダメだよ!お母さんに迷惑ばかり掛けちゃダメだよ!事務所の人に迷惑掛けたり、変な記者さんの取材を受けた「あーもう分かったから!!」」
あれこれ言ってくる初音に、私は小さく息を吸う。
人々が通る度にその足音に耳を傾ける……。
『最後じゃなくて……またやろ?』
『考えておいてあげる』
『次は……勝つからね』
『次があれば、ね』
何度も何度も引き延ばしてきた。
次があれば、次があればとただ一つだけ私は先延ばしにしなかったことがある。
『お父さんの……墓参り。今度行く』
『そのときは一緒に行ってもいいかな?』
あーそっか……。
もう私って今日の時点でもう”また"を果たしてたんだ。子供の頃から、お父さんの墓参りだけは絶対に行くってちゃんと決めてたもんね、互いに……。当たり前だけどさ。
『……いいよ』
初音のもう逃げたりしないという宣言も私は逃げたりしなかった。
なら、私も此処で今までしてこなかったことをする。
人が丁度通ったタイミングで……。
この手を……掲げる。
掲げてくれている……。
はっきりと見えている、初華の手が……。
その手は、前に別れたときに初華が掲げなかったもの……。
心の中で広げてくれているのは知っていたけど、今度はちゃんと手を天井に向けてくれている。背中に語るんじゃなくて、ちゃんと見せてくれている。
「初華……!」
「はっ!?ちょっ!!?まっ!!?」
思いを止めることは出来なかった。
こんな私に呼応してくれることが嬉しかった。今まで何度だってしてくれたけど、「じゃあね」と行動でも言葉でも示してくれたことがなによりも……。
嬉しかったの……。
「初音……」
名前を呼んでくれる、違う。
そうじゃない、呼んで欲しい呼び方がある。その呼び方は何度か今でも呼んでくれたことがある、呼び方……。今更呼んで欲しいなんて傲慢かもしれない。
「なんて顔してんのさ……」
「お姉ちゃん」
「……!!?」
駄目だなぁ、最近……。
最近ずっと感情が脆くてしょうがない。堪えたいのに、堪えることが出来ない……。書き留めるものがあれば、今すぐにもこの感情を曝け出したかったのに……。
「新幹線のライブのとき……いや、そうじゃないか」
「絶対さ」
「絶対、お姉ちゃんと一緒にライブやる。今度は変則的な場所じゃなくて、私達の感情を表現できる場所で」
「絶対にやろ、お姉ちゃん?」
落ち着いた表情で穏やかな顔はしていたけど、慰めてくれることはなかった。
初華らしさを感じながらも私は……。
「うん……!うん……!!やろ!やろうよ!!絶対に!!」
首を何度も縦に振った。
周りことなんてどうでもよかった。誰かに見られてもいいから、私は今こうしてまた自分のことをお姉ちゃんと呼んでくれる初華の話をただ聞いてあげたかった。
「指切りしよ、初華……」
何も言わずに小指を差し出してくれる初華……。
互いに何も言うことはなかったけど、誓い合った。
遠くない未来で……私達は会うって……。
寂しさはもうない、今此処にいるのは等身大の私達……。
「ほら、いつまでも泣いてないでよね祥子ちゃんに後で聞かれるの私なんだし」
「あっ、ごめん……」
私のことを立ち上がらせてくれる。
初華の方も周りの人を全く気にしていることは……なかった。
「ほら、行った行った!」
背中を押してくれる。
その手は強引な手なのに、想いを乗せた手だったのは確かだった。信じたい道があるという想いを込めた……。
「またね、お姉ちゃん!!」
「……!!」
じゃあね、じゃない。
今度はちゃんと……またねって言ってくれた。
「またね、初華!!」
ありがとう、初華……。
私ね、これからも……。
逃げないからね、初華から……。
一人の人間としても……。
初華のお姉ちゃんとしても……。