【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
『やっぱ……コーヒーぐらいは出してやるよ』
俺は……自分のことが分からなくなってきている。
燈や立希を傷つけて以来、俺は学校では誰とも関りを持つのはやめていた。意外とこういうのは難しいものなのかもしれないと思っていたが、結構簡単にできるもんだった。何かを頼まれても「悪い、今日バイトあるんだ」とか言ったり、相談に乗られたとしても「あーいやそういうのは先生に相談すればいいんじゃねえかな」と言ったりしているうちに俺という人間が頼れる人間だという前提を根本から崩すことに成功した。
そして、このバイト先においてもそうだ。
必要以上のコミュニケーションだけは取って、客との関係も店で終わりのつもりでいたが……あのピング髪の長髪の女子校生だけは全く違った。最近の感じの通り接客をしていたつもりだった。一回目に来店したときはまさか燈のことまで聞かれるとは思いもしなかったけど、俺は燈のことを「大切な友人だった」と答えていたが、心の中では禍々しいものが大暴れしていた。
俺にとって燈はどんなにも偽ろうとも大切な友人だったのは間違いない。この先、同じ道を歩くことはないだろうし、関わることもないだろうけどそれでも過去の俺にとって彼女は大切な友人だったのは間違いなかったからそう答えていたのに心は複雑な気持ちになっていたんだ。俺の中できっと燈に対して未練というものが残ってしまっていたんだろう。彼女をこれ以上傷つけない為にも忘れようとしていたのに俺は出来なくなっていた。
『友人のこと聞きたいんですか?』
二回目の来店でもピンク髪の変な奴が燈のことについて聞いてきたから俺は燈について軽くだけ話をしようとしたら、彼女は急に頭を抱え始めて座り込みながらも「やばいやばい」と言い始めているのを見て、俺は彼女のそんな様子を見ながらも思わず本当におかしくて笑ってしまっていた。
『それじゃあ、また来るね!』
なんなんだこいつ、本当に変な奴だな……。まあ、いいや……。キャンプに興味ねえだろうし、どうせその内来なくなるだろ……。まあ、本当に次来たらコーヒーの一つぐらい奢ってやるか……。
『コーヒー出してやるって言ったけど、大雨の中来いなんて一言も言ってねえぞ』
ぶっちゃけマジで来るとは思わなかった。
「やらかしたー」とか思いながらも頭を抱えていた後だったから、もう二度と来ねえだろうなと思っていたらまさかの三度目の来店だったのだが、外は大雨だったということもあり変な奴はずぶ濡れのまま来店してきていた。
『結人君、いつものお客さん来てるよー』
そして、俺はまさかのあの変な奴の接客担当になっていた。
自分でも言うのはなんだけど、俺この店で働いている方だろ。なんでこんな変な奴の相手しなくちゃいけねえんだよ。……とりあえず、タオル貸してやるか。俺はあいつが店内を歩き回る前にタオルを差し出すと「ありがとうー!」と言いながらも帽子を外して自分の髪を拭いていたが、俺はそれを首を傾げながらも目を細めていた。このピンクのロングヘアー、何処かで見たことがある気がする。というか顔も見覚えがあるな、今まで帽子を被っていて顔までよく見えていなかったが、まさかだと思うが……こいつ燈の友達の愛音か……?一、二度しか会ってないが俺はちゃんと顔を覚えている。自慢するつもりはこの店に一度来た客のこともすぐ覚えるぐらいだからな……。
もしかして……こいつ……。
「やばいやばい、本当にどうしよう……」
私は結人君には聞こえないように小さな声を出していたが、声の小ささとは裏腹に動揺を隠すので精一杯だった。此処で今私が千早愛音だということをバラしたりしたら全部が水の泡になる。結人君のことを知るための行動が全部無駄になる。此処はお決まりの世界には三人似ている人がいるとかっていうのを……。いや、でも結人君そういうの絶対聞かないだろうし「話逸らすな」とか言ってきそうだしなぁ……。
あっ、そうだ……。
私は何かを思いついたような心の中で片手を下に置いて片手を握り拳にして叩いた。
「あっ、もしかして付き合ってる彼女とか似てたりしてた?あーいや結人君イケメンだし、可愛い彼女いるんだろうなぁ……」
結人君は窓際で顔を歪めながらも私のことを心底めんどくさそうにしながらも一瞬見ていた後に、溜め息をついていた後に顔を手で覆うようにして小声で「くっだらね……」と言っているのが聞こえた後に私に近づいて来る。
「……お前もうタオル返せ、後コーヒー代も払えよな。アウトドア興味ねえんだろ、もう帰れよ。……傘は貸してやるから」
「傘貸してくれるとか優しいー!」
「余計なこと言うんじゃなかった……やっぱ傘も貸さねえ。大雨の中一人で帰れよ」
「えーそれは流石に酷くない?女の子を大雨の中何も差さずに帰らせるとか本気で言ってるのー?」
結人君はおでこを掻きながらもまた溜め息をついているのを見て私がこう言う。
「溜め息ばっかりしてると幸せが逃げるって知ってた?」
「誰のせいだと思ってんだよ……。あーもう雨止むまで此処に居ていいから、好きにしろよ」
はぁ……なんとか結人はさっきのことを忘れてくれたみたい。
あのまま押し切られたら自分の正体を絶対に明かすことになっていただろうし、本当に危なかった。一旦落ち着くためにも私は紙コップを手に取ってコーヒーを飲んでいると、気づけば結人君は窓際の方に行って何処か浮かぬ顔をしていた。私と話していて疲れたというより、もっと別のことな気がする……。
「で、結局なんでお前アウトドアショップ来てるんだよ?興味ねえんだろ?」
「あっ、そこに戻るんだ……。ーん?まあ、ほら一時期キャンプってブーム来てたじゃん?話とかに混じりたいからどんなのがあるのかなーって来てみたんだ」
結人君がどうして窓の方ばかり見ているのか気になっていると結人君が先に話しかけていた。一時期キャンプがブームになっていた時期があったのを思い出して私は言ってみる。ああいう、アウトドアが女子の間でも流行るなんて全く想像していなかったから、話にあんまり入れなかったんだよねー。
「ああ、見栄か……」
「うっ……べ、別にいいでしょー」
きっぱりと見栄を張っているだけかと気づかれてしまった私は一瞬言葉を詰まらせてから結人君に言うと、結人君は腕を組むのをやめて私の方へまた近づいてきていた。
「悪い、言い過ぎた……」
と結人君は謝りに来ていた。
なんとなく自分が言っちゃいけないことを言ってしまったんだと分かったのかも知れない。それか多分、なんとなく私の感情を読み取ったとかなのかな……。どっちにしても結人君って……。
「ほら、やっぱり優しいじゃん」
と言うと「またか」と言いながらも結人君は手を出入り口の方へ向けていた。
「帰りはあっちだぞ、客」
とうとう私のことをお客様とすら呼ばずに、結人君は「客」と呼び始めていた。
もうー私これでもこのお店でアロマちゃんと買ってまた来店してるのに……!
「なにそれ酷くない?褒めてあげてるんだよ?そんなに雑に扱うなら此処にあるアンケートにあの店員はタメ口聞いて来るし、人の褒め言葉を素直に受け取らないし、早く帰れって行ってきます。クビにしてくださいって書くよ?」
テーブルの上に置かれあるアンケート用紙を手に取ってボールペンで書こうと素振りを見せようとすると、結人君がそのアンケート用紙を取り上げながらもこう言ってくる。
「じゃあ、その書いた紙アンケートBOXに入れる前に破り捨ててやるよ」
「えー!?お客様の声を破くとか酷くない!?そんなことしたらSNSに拡散するよ?このアウトドアショップには意地悪ばっかりしてくる店員さんがいるって投稿しちゃおうかなー」
アンケート用紙を取り上げられた私はスマホでSNSを開いて、あたかたも投稿しているように見せかけながらもフリック操作をしているフリをする。
「……分かった分かったよ、悪かったな……。ったく、本当に面倒な奴だな……」
観念したのか結人君は私の向かい側に座り、足を大きく広げていた。
その態度っぷりはおおよそお店の店員さんとは思えないほどだった。
「ねぇねぇ、サボってていいの?」
「お前の相手してろって言われたよ……」
私の視線に気づいたのか、結人君は大きく広げていた足を閉じていたけど結局私を見ている目はさっきと全く変わることがないようで本当に面倒な奴を相手にしていると言う目で見ているけどさっきのことや前のこともあって自分を強く見せているだけで根は凄く優しいのはよく分かっていた。
本人に言ったら今度こそ無理矢理にでも「帰れ」と言われそうだから、言わなかったけどなんだかんだ帰れと言いながらも本当に傘とか貸してくれそうな気がする。なんなら、替えの洋服まで持って来てくれそう……。
「おい、なんださっきから人のことジロジロ見て……」
「ん?あー、そういえばさこのお店ってどうして思金って言うの?なんか骨董品屋みたいな名前じゃない?」
「まあ、実際此処は元々骨董品とかアンティークとかを売っていたお店ってのもあるのかもしれないが、思金っていう名前の由来は日本神話に出てくる神様の名前なんだよ。古事記だと確か思金神とか
「へぇ……そんな場所があるんだ」
神社なんて初詣のときとか何かの成功を祈願してのときぐらいしか行かないし、有名な所しかあんまり詳しくないけど天気の神様なんて存在していたんだ……。少し意外に感じていると、結人君は腕を組みながらも話を続ける。
「アウトドアにおいて天気ってのは最も重要だからな。俺が好きな天体観測なんてのは曇ったり雨が降ったりしたら観測なんてそれどころじゃないからな」
「あーだから、このお店の名前は思金って言うんだー。ほら、アウトドアにおいては天気って重要なんでしょ?だからその神様の名前を借りてよいアウトドア的なってこと?」
「自信満々に言っておいて最後に疑問風にすんなよ、まあお前の言う通りだけどな」
ちょっとだけ自信がなくて私が疑問風にしたのに気づいたのか、結人君は苦笑いをしていた。
「ーん?でも思金がお店の名前ってちょっとアレじゃない?」
「神様の名前をアレっていうのも普通に罰当たりな気がするけどな……。一応言っておくけど、知恵や学問の神様なんだからな」
「まあ、その二つなら私も自信あるし……」
中学のときは内申も全然悪くなかったし……羽丘に転校してきたときもちゃんと学校の授業に追いつけていたし自分で言うのはなんだけど割となんでもそつなくこなせる方だとは思っているし……。
「ふーん?偉い自信があるんだな……。即興だし簡単のでいいか……。じゃあ、問題出すけどいいか?」
「えっ……?」
え?問題……?
結人君なんか凄い自信満々で腕組み始めて「多分解けるだろうけど、解けなかったら面白いなー」という顔をしている。間違いない、これは間違えたらマウントを取られる……!!知恵も学問の二文字は空っぽだって……。
「47都道府県のうち動植物の名前が含まれている県は?」
「なーんだ、凄い簡単な問題じゃん。答えは熊本、鳥取、鹿児島の三つでしょ?こんな問題小学生でも分かるじゃん、流石に私のこと馬鹿にし過ぎじゃない?」
と自慢げに答えていると、結人君が口元を抑えながらも必死に笑うのを堪えている。
「もー!なんで笑ってるのさ!答えは三つ以外ありえないはずじゃん」
「お前俺の話ちゃんと聞いていたか?俺は動
「え?いや、だからその三つしかな「茨城忘れてるぞ」」
「え?」
一瞬頭の中が真っ白になったような気がしていた。
え?茨城って別に何処にも動植物含まれてなくない?
「茨が植物として考えてなかったろ?」
「……それ捉え方次第じゃん!?」
「自信あるとか言ってた奴は何処の誰だったっけなぁ……」
捉え方次第と抗議したものの確かに言われてみれば『茨』も植物として考えることが出来る。というか、だから結人君は動植物っていう聞き方をしたんだと思う。きっと結人君は最初からこうなるだろうとある程度は予想を立てていたんだ。
「~~っ!!!私もう帰るから……!!」
「あーおい!!俺が悪かったから戻って来いよ!!折角着替え用意してやろうと思ったのに……つーか傘ぐらい持って行けよ!!」
「ほら、やっぱり優しいじゃん」
「だから優しいとか言うな!!もうお前、帰れよ!!」
結人君、なんか燈ちゃんの話で聞いた感じより結構口悪いし口調も荒々しいけど普通に滅茶苦茶良い人だし、優しい人じゃん。……ってあれ?
私よく考えたら……ただ結人君と仲良くなってるだけじゃん!!?