【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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これにてAve Mujica編は終了です。
今後についてですが、MyGO!!!!!編を恐らくですが、二章ほどやります。


私が私であり続けるために

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モーティスも私も結人に伝えたいことは伝えることが出来た。

 モーティスはともかく、今までの自分だったらきっと届けることなんて出来なかった。自分らしく生きることなんて許されないと自分で閉じこもっていたから。自分の世界で自分の殻に……。立希が教えてくれても、結人が教えてくれても曲解して、永久に続きそうな地獄を歩み出そうとしていたところを……。

 

 結人が助けてくれた。

 愛音や楽奈も……。事実を受け入れて進むということは怖くて、脆くて辛くなることも多かった。一人では何も出来ないって自分を責めることはあった。今はもうない。感情がないじゃなくて、今はもうそこに拘らないと決めた。

 

 自分自身の中で出した答えがあるからこそ、私は結人の熱い決意を受け入れることにした。

 

「行こう、結人」

 

 思い出は此処だけにあるわけじゃない。

 こういうそれぞれの海の景色を見つめるというのも決して悪いことじゃない。寧ろ、凄くいいこと。だけど、私は今此処にある景色よりももっともっといろんなものを結人と一緒に見ていきたい、知って行きたい。これからの未来を……。

 

 

 

 

「結人、これはなに?」

 

 商店街を歩いたときも見かけたこれが気になってしょうがなかった。

 結人に聞いてみることにした。看板を見れば、すぐに分かることだけど結人に聞いたらもっと話をしてくれる。

 

「これは熱海の七湯めぐりと呼ばれているものだな」

 

「七つもあるの?」

 

「大正時代に一度は消失したんだが、平成に再整備を行って再現を図ったんだ。要はモニュメントってことだな」

 

「そうなんだ」

 

 ほんの少しだけ残念という気持ちがある。

 当時のものが残っているわけじゃなくて、再現した形で残っている。形として残し続けて維持をするって大変なことだからそれを再整備するなんてとんでもないことが起きていたのはそうだろうと納得できる。納得できるけど、当時として残っていたものをこの目で見てみたかったという願望があった……。

 

「一応、写真とかは残されてるみたいなんだ」

 

 気持ちを読んでくれたのか、結人がスマホを見せてくれる。

 そこには当時の写真や地図と思わせるものがある。一部分なものでしかないのに、当時の人達がどんな思いでこの場所に居たのか、自分には届いたような気がしていた。それは自分という人間が感性が強いから……という訳じゃなかった。感性はそんなに強くない方だから……。

 

 もしかしたら、結人と同じでそういう感性みたいなものに芽生えているのかもしれない。

 五感を通じるものに……。

 

「一緒なもの感じられるの嬉しい」

 

「俺と同じにか?」

 

「ん……五感を通じるもの、今ならちゃんと分かる気がする」

 

 今までは、結人の言う“五感を通じるもの”が、ただ何となく自分の中にもあるのかも?という曖昧な感覚でしかなかったのに、今はこうして実感すること出来ている。これもまた、一つの成長で共に生きていくということに繋がる。

 

 湧き上がる、嬉しいという感情を大事にしながらも私は結人と共に歩き出す。

 鼻には温泉の香りを纏わせて……。

 

「結人、次は?」

 

「ああ、そうだな。そろそろ、じゃあ……」

 

 結人が何かを伝えようとしてくれているとき、目の前を通過しようとしていた女性が目に入る。

 茶髪の髪色に、ちょっとだけ甘い香りの人……。間違いない、さっきの……!!

 

 

「あっ!さっきの人……!!」

 

 あっ、モーティスに主導権を取られてた。元々、モーティスに変わるつもりだったのに……。

 

「あれ?睦さん……?」

 

「うん、睦ちゃんだよ!!」

 

 モ―ティスが彼女の前ではしゃでいる。

 結人が頭を抱えそうになっている。

 

「また会いましたね……!」

 

「うん、会っちゃった!!」

 

 モ―ティスは彼女の手を掴んでいる。困っていることがある。

 今凄く困っていることがある。彼女がモーティスのことを受け入れて来るとかの心配は多少あるけど、そっちよりも結人と居るという現場を見られて大丈夫なのかな?という杞憂があった。

 

 耐性だとかそういう話じゃなくて、今この場で結人がいる状況を見られて大丈夫なのかな?という心配と、モーティスが彼氏とか言い出さないか心配でしかなかった。絶対言い出して、腕を組んで彼女を驚かせたりするから。

 

「あ、あの……隣にいる人は?」

 

 案の定、結人に触れられてしまう。

 今の彼女は困惑しているというよりも、驚いている様子な気がする。

 

「え?ああ、えっとね!この人は「あっドラマの撮影中だったりしましたか!!?ご、ごめんなさい!!」」

 

「え?」

 

 目を何度も開けたり、閉めたりをしているモーティス。

 モーティスがかなりきわどい発言しそうになった瞬間、彼女は何かを勘違いしてくれて理解?してくれた。逆にそれが助かったという気持ちになってホッとしたという気持ちになってしまう。

 

「え?違うよ、結人君は「あー悪い!ちょっと撮影中だったんだ!悪いな、その‥…睦のファンなのか?」」

 

 今まで黙り込んでいた結人が話に間に入ってくれる。

 モーティスが一人でなんとか出来るかも?と期待していたみたいだったけど、全然ダメだったから結人が動いてくれてようやくホッと出来た。

 

「はい、睦さんのファンなんです!!」

 

「そうか、睦のファンなのか……良かった。その……サインいるか?」

 

「え?いいんですか?」

 

 さっきサインを貰ったというのに、特に違和感を持たない。

 

「結人君、なに言ってるの?私は共演者じゃなくて」

 

「あーその役柄は彼氏って言うかさ……」

 

「え!?え!?」

 

 ……安堵していた気持ちが一瞬にして、雑音だらけになってしまう。

 モーティスが紛れた結果、結人も苦し紛れの言い訳というよりも正直さが出てしまう。どうにもならないこの状況をどうやってやり過ごせばいいのか分からなくなってしまう。

 

「誰にも言わないでくれよ」

 

「え!?は、はい!!」

 

 興奮しそうになっている彼女を、なんとか説得することに成功した結人は肩の力を落としている。モーティスも興奮気味に鼻息を荒くして、「練習してたんだよね!」と言いながらもサインを書いている。よかった、とりあえず一安心できる状態になれた……。

 

「はい、これサイン!!」

 

「あ、ありがとうございます!二枚も!!」

 

「うん!じゃあね!!後、それと結人君は私の彼「あーじゃあな!ありがとうな!!」」

 

「はい!よろしくお願いします!!お幸せに……!!」

 

 

 

「「え……?」」

 

「……え?」

 

 二人よりも反応が遅れて、困惑してしまう……。

 気づかれていた?そんな様子はなかったはずなのに、いつ気づかれていたんだろうか?となってしまう自分がいる。

 

「あ、あの結人君……どうしてバレたのかな?」

 

「多分なんだが……なんとなく気付いたんじゃねえのか?」

 

「なんとなく……?」

 

「多分、俳優同士の仲じゃないって言うのがヒシヒシと伝わっていたとか、そういうことじゃねえのかな?って思ってな」

 

「そ、そういうことなんだ……」

 

 モーティスはちゃんと反省しているのか、ちょっとだけマズいことしてしまったという顔になる。まるで、それは食べ物を喉に詰まらせた感じに……。

 

「む、睦ちゃん……これってやばいかな……?」

 

 今更になって、モーティスは私のことを心配してくれる。

 心の中にいる私に問いかけてくれる。

 

『大丈夫……』

 

「ど、どうして確信できるの……?」

 

『出来たから』

 

「何が?」

 

 

 

『あの子は大丈夫だって思えたから……』

 

 彼女の中身まで完全に知っているわけじゃない。

 自分のファンだということしか知らないのに、おかしいと笑われるかもしれない。それでも、確かに言えることがあった。あのとき、「お幸せに!」と言ってくれた。あの表情こそが、本心だって……。

 

 

『モーティスにだって分かるはず……』

 

「うーん……あの子の表情とか?」

 

 モーティスは首を曲げて口元に手を置きながらも、考えていた。

 

『ん、彼女にとって私という存在は大きくて眩しい、星の輝きみたいに』

 

『だからこそ、幸せを祈ってくれた』

 

「なんとなく……分かるかも?睦ちゃんのファンの人……そういう感じがしたから」

 

 首を更に曲げてから元に戻す。

 手を叩くと渇いた音だけ残されている。その音は歩道の中で響いているようにも聞こえていた。

 

「にしても……」

 

 モーティスと話をしていると、結人が話に入ってくる。

 さっきまで私のファンだった子に目を向けていたみたいで、何かを考えているようだったみたいだった……。

 

「どうしたの結人君?」

 

「いや……よかったなって言いたかったんだ。ファンだって言ってくれる人に出会えて……」

 

 結人の表情は分かりやすかった。

 穏やかで険しいものがない。あるとすれば、私にファンが出来たということを喜んでくれている……。祝福してくれているって……」

 

 

 

「そりゃあ……もちろんね!睦ちゃん!!」

 

 

 

 

『ん……嬉しい』

 

 ややこしい状況になってしまったのには変わりない。

 後一歩間違えたら、とんでもないことになっていた。

 

 ──お幸せに。

 祝ってくれたファンみたいな子に、これからも向き合っていきたい。自分に何が出来るのか分からない。これからもずっと……。

 

 

 

 

 

 大きく手を振りながらも、見送ってくれた彼女みたいな人達に……。

 

「お疲れ、モーティス……」

 

 意識を自分のものとする。

 視界が現実の世界に戻る。返された体で後ろにある七湯の一つの匂いを確かめる。さっきと変わらない、温泉の匂いがしている。そして、私の目には景色が広がる。この熱海という町の特色のある街並みが……。

 

 これからもきっとこの場所で……。

 この場所だけじゃない、様々な場所で私という人間を成長させてくれる。

 

 

 

 自分の足で進むのもきっとそう。

 そして、なによりも一番実感させてくれること、それは……。

 

 

 

 

 誰かと……。

 

「結人……もっと思い出作ろう?」

 

「……だな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一緒なら……。

 

 

 

 

 

「じゃあ……行こう?」

 

 

 

 それはこれからも増え続ける……。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「あれから、色々と大変だったな……」

 

 今日という日は大変でしかなかった。

 あれ以降、モーティスは上機嫌になって一旦睦に戻ってくれたが内心穏やかじゃなかった。誤魔化すなんて得意じゃねえから、どうやってあの場を切り抜けようとしていたのに気づかれていた。いや、あの様子で気づかれない方がおかしいまであるんだからしょうがねえんだが……。

 

 

 にしても……。

 

 

 

「今日は色々あったな……」

 

 色々なことがあり過ぎた。

 荒波が押し寄せて来る旅ばかりだった。俺がプリンの瓶を片付けているときに睦がファンの子に話しかけられたときも大丈夫か?という心配があった。

 

『サイン書く?』

 

 はっきりとファン相手に言えることも驚いたが考えてみれば、あいつにとってああいうのは初めての経験だったからしてみたいという強い気持ちがあったんだろう。悩んで書いているようには見えていたが、それはそれで記憶に残る思い出だったはずだ。

 

『ねぇねぇ、さっきの子だよね!!』

 

 モーティスが勝手に出て来たときも驚いた。

 マジであの場は切り抜けられるか不安でしょうがなかった……。だが、なによりも睦やモ―ティスを強くはっきりとさせていたのは……。

 

 

『これから先も結人を信じる』

『結人君……!大好き!!』

 

 あんなにもあっさり受け入れてくれるなんてな……。

 今までの睦達との関係を考えれば、当たり前でしかねえのかもしれねえが……。それでも、あれは流石に想定していなかった。漫画的な表現を使うなら、目が飛び出てもおかしくはなかったかもしれねえ……。

 

「考えて見れば分かることはずなのに……な」

 

 俺達の関係なんて夜空の輝きほどじゃねえが、何度も積み重なった結果の思い出があるから成立している。全部が楽しい思い出だった訳じゃない、それこそ睦やモーティスにとって忘れることが出来ないほど辛い思い出もあったはずなのに、昇華させた。

 

『帽子返そうと思ってた……』

 

 俺も同じく……。

 

『俺は……お前に差し出した言葉を呪いにさせたってずっと後悔してた』

 

 記憶の片隅にずっと残り続けていた呪いは睦が母親と父親と立ち向かうことで決別できたが、口にしたことはなかった。もう口にするにはこの場しかないと考えた俺は初めて熱海で話すことが出来た。

 

 こういうのをきっと、腹を割って話すということなんだろうな。

 何度もしたことがあるからこそ、初めての経験じゃないが自分自身を話すということは決して悪くはねえ気分だった。寧ろ、清々しい気分でしかなかった……。

 

 

 

「はぁ……にしても綺麗だな」

 

「相変わらず……」

 

 なんて声に出す、俺は東京の公園でベンチに座り込んで星座を眺める。

 ただ見つめているだけじゃない、星々という点々を見つめて自分を実感させるというものに近かった。言わば、瞑想だろうか。

 

 

 

 

「結人……?」

 

 声を掛けられる。

 知っている声だ。帽子を被ってマスクをつけているが、聞き慣れている声だった。

 

「初音か、こうして星を眺めているときに出会うことが多いな」

 

「此処に来たら結人に会える気がしたんだ」

 

「一番最初にあったの此処だもんな」

 

 思えば、ちゃんと関わり始めたのも俺が星を見つめていたときだ。

 流れ星のときも……。こうやって、何かに浸っているときにきまって初音に会うことが多い。

 

「初華は……自分の道を見つけられたんだな」

 

「うん、初華は私より立派だから」

 

「初音も充分立派だろ、逃げないであいつと向き合うことにしたんだから」

 

「初華も近くにいたら、そう言ってくれたかな?素直じゃないから、ちょっと皮肉交じりかもしれないけど」

 

「あーあいつはそういうところあるからな……」

 

 そういうところもあるが、別にそれだけじゃない。

 あいつは子供っぽいところはあるし、ちゃんと人の気持ちは割と理解はしている。言葉がきついだけだ。

 

「結人はどうして此処に来たの?」

 

「此処に来たのはちょっとだけ自分の覚悟を確かめに来ただけだ……」

 

「覚悟?」

 

「ああ、自分で言った事を……」

 

 

 

 

 

「曲げねえためにも……」

 

 

 

 

 手を広げて、星を掴もうとする。

 もうあの星は見えない。

 

『それで……来年の春か夏に、へび座をこの場所でまた観に行かないか?』

 

 燈に誓ったことを果たすことは俺には出来なかった。

 今年も結局、もう7月はとっくに過ぎちまったからな……。それどころじゃなかったなんて言えば、聞こえはいいが結局俺は果たすことはできなかった。それでも、俺にはまだやるべきことがある。

 

『星言葉は果敢にチャレンジする意欲』

 

 見てみたいものがある……。

 これからの燈を……。燈達を……。だからこそ、俺はあいつらに誓ったんだ。

 

「挑戦するためにも……」

 

 口に出すことで自分の決意を固める。

 これが出来たのは今日の睦の行動のおかげもある。あいつがああやって、率先してファンサービスをしてあげたという出来事があったから。

 

「結人も自分を信じるって決めたんだね」

 

 公園の蛇口から水を手で汲み取るようにして触れてくれる初音。

 

「ああ、信じてみることにした」

 

「すげえ傷つくことになるだろうが、それでも構わねえ。俺は俺の意志を貫きたい。どれだけ気持ち悪いだとか嫌われようと言われようとも、繋がりを断ち切りたくない」

 

「それが俺の強さだからな……」

 

 我儘だとしても、俺は自分を貫きたい。

 最後の最後まで……。

 

「じゃあ、私から言うべきことがあるかな……」

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 星を眺めるために、此処に来て結人と出会う。

 初めて結人と出会ったこのショッピングモールの外階段でこうして出会うことは偶然じゃなくて必然だったのかもなんて運命的なことを考えてしまう。

 

「頑張ってね、結人」

 

 今回は「凄い」じゃない。それは彼を信じるものとして彼の背中を押すと決めた。彼が無理矢理鳥籠を破壊してくれなかったら今の自分はない。島から羽ばたいたカラスを指を咥えて彷彿とさせる人生を送っていた……。

 

「ああ、やってやるよ」

 

 結人の顔を見れば分かる。

 だって、今の結人は力強く今を生きようとしている。どんなに後悔することになっても、今を進みたい。それは私も……。

 

 

 

 立場は違えど、同じだから……。過ちを犯したってのもそうだけど。そこだけじゃなくて……。

 私も結人も信じるという星と星は……。お互いを……。

 

 

 

 

 信じているということも……。

 そうだから、結人は強く背中を押してくれた。私は結人の背中を見て結人という……。

 

 

 

 

 人間に挑戦する勇気を与えられていたらいいな……。

 

「初音……」

 

「うん?どうしたの?結人?」

 

 

 

 

「いや、ありがとうな……」

 

 

 

 

「聞いてくれて……いつも」

 

 

 

 

「ううん、全然構わないよ」

 

 訂正したい、自分の気持ちという鎖がまた一つ壊されたから。

 きっと、結人にとっても私という存在はちゃんと勇気を与えられている立場にちゃんとなれている。それだけでよかったとホッと出来て……。

 

 

 

「隣いいかな?」

 

「座る前に言えよ」

 

「ごめん、ごめん。でも、いいでしょ?」

 

「まあ……な」

 

 聞く前にもう既に座り込んでいると、結人は笑顔を向けてくれる。

 了承を得てから座ろうと思っていたのに、どうやら結人の隣に座りたいという意志が私の中にはもうあったみたい。

 

「星、綺麗だね」

 

「ああ、全くだな」

 

 結人はベンチに手を置きながらも、背中を曲げて座り込む。それを見てから、また私も星の方へと目を向ける。彼と同じ景色を眺めながらも、言えることがあった。

 

 

 

 信じることで結人がいつも語る。繋がりというものが目に見えるって……。

 

 

 

 この星空の中で……。

 

 

 

 

 

 

 

 白い線となって……。

 

 

 

 











Perturbatio revelans me(心の乱れは、真の自分を明かす)
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