【完結】迷子の友人は羨望する   作:シキヨ

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傷つけたくないからこその願い

『ちゃんと答えを出すから、燈のためにも……』

 

 言葉っていうもんには消費期限がある……。

 食品って訳じゃねえが、燈と約束したことで自分が出した答えの消費期限は有限でしかねえ。俺の方から期限を決めた。にしても……。

 

「あれから一週間か……」

 

 観覧車でした燈との約束から……早一週間が経とうとしている。

 経過した時間でも、燈と会うことはあった。

 

『ゆいくん……おはよう』

『ああ、おはよう燈』

 

 いつも通りに接してくれていたが……。

 

『あ、あのね……この前の水族館楽しかったよ?』

『俺も楽しかったよ、燈』

『ま、また行こうね……?』

 

 何処かそわそわしている気がしていて……。

 早いところ、自分の中でも答えを見つけ出さなくちゃいけねえと焦ってしまいそうになる。

 

 こうやって考えてばかりでいるから、RINGでのバイトも全く手がつかない。

 手に感じるのはこの蛇口から出る冷たい感覚のみだった……。

 

 こういうものは生半可なものでは語ることは出来ないが、頭の中で渦を巻いてどうするべきなのか非常に困り果ててしまっているなかで、俺はあいつらがいつも座っている場所に目を向ける。

 

 何かヒントが……と向けた視線はただ傍に誰もいないという空虚感を与えるほかならならねえ。繋がりというものがあれば、あいつらがなんて答えてくれるのかなんてのは掴み取ることができるのかもしれねえが……。

 

「はぁ……」

 

 壁に寄りかかる……。

 精神的に体力が落ち込んでいる、脳が情報の処理に追いついていない。

 

 あんときと一緒だ。

 俺が豊川家という強大な組織の前にして、これ以上なにをしろという疲弊しきっていたときに、俺が電話したのが燈だった。いつだって、そうだった燈は俺の中で答えを出してくれた。

 

『迷ってでも進みたい。きっと、誰かと一緒に解決できない問題。そういうこともこの先もあると思う。目の前にある崖が急すぎて登れないとかそういう感じのもんだ……。誰かと一緒なら、きっとそれだけで立ち上がる勇気に……繋がるから』

 

 記憶を辿れば、答えは自ずと自分の中にある。

 八潮さんの前で掲げた内容と偶然にも近いものだった。その結果が、燈に愛してるとか言い出して愛音の告白を了承とかなんだから飛躍し過ぎている。

 

 燈への『愛している』の結果、前より立希は『燈優先しろ』圧が強くなってるし、そよは異常なほどまでに俺のことを揶揄ってくる。愛音は挙動不審になるし、楽奈はいつも通り……。全部俺のせいなんだが……。

 

「はぁ……」

 

 溜め息はもう声に出ている。

 接客業をやっているのにこうやって息を……。答えを求めたいと焦がれる、立希だったらこんなとき現実的なことを言ってくれるという期待を今日はシフトが入っていないのに淡い期待を抱く……。あいつのことも優先してやりたいのにな……。

 

 もう一度溜め息を吐いていると、足音が聞こえて来た。

 自動ドアの方からの音が聞こえて来て、意識をそっちに向けてから「いらっしゃいませ」と言おうとした瞬間だった。

 

 

 

 

「お疲れ様です、山吹先輩……」

 

 最後の方はもうほとんど声に覇気がなかった。

 紙飛行機が力を失って地面に着地したかのように……。

 

「お疲れ、結人君」

 

「先輩、俺が持ちますよ」

 

 先輩の方へと駆け出そうとしたときに、「大丈夫」だよと言われてしまう……。

 

「ありがとう、でも一人で持てそうだから大丈夫だよ」

 

「えっ……は、はい」

 

 思わず、俺は怯んだ。

 いつもなら率先して何も言わずに運ぶのに、山吹先輩が手に持っている段ボールを俺は運ぶという意志はほとんどなかった。寧ろ、ないに等しかった。ただ先輩が荷物を運び終わるのを待っていたが、何故か俺は視線を合わせることが……出来なかった。

 

 自分の中でまた臆病になってしまっているような気がする。

 自分自身の弱さというものが此処まではっきりと自覚できるようになってしまったのは、恐らく燈を突き放して以来。いや、違う。厳密に言えば、きっと睦に呪いを振りまいたと引き摺っていた頃……。

 

「結人君……?」

 

 結局、俺はいつだってそうだ。

 曲げずに変えるなんて、八潮さんの前で大それたことを言ってみせたはずなのに、今だってまたブレようとしている。背骨が曲がろうとしているんだ。心に誓ったことすら、守れない。結局、俺は醜いんだと自覚しそうになっていると何か光のようなものが周りに感じ始める……。

 

「結人君?大丈夫?」

 

 名前を呼ぶ声がしてドキッとしながらも、周りを確認する。

 

「……!え?あ、あの……先輩俺の名前呼んでましたか?」

 

 おどおどしながらも、返事をする。

 カフェに戻って来ていた山吹先輩が俺の名前をずっと呼んでいたようだった。

 

「結人君、顔色悪いけど大丈夫?具合悪いなら、後はあたしと香澄でやっておくよ?」

「い、いや……別にそういう訳じゃなくて……」

 

 自分が今何で悩んでいるとか、そういう話がバレそうになって俺は慌てて訂正しようとするが先輩と全く目を合わせることができなかった。

 

「もしかして、何か無理をしていたりする?」

「……!!?」

 

 これじゃあ、はいそうですと言っているようなもんだった。目を合わせられない、言われた瞬間に口を開けてしまう。「無理」をしていないなんて言うことなんて簡単なことはずだったのに、俺は言うことすら出来なかった。自分の判断力が此処まで鈍ってしまっているのか、と自分に苛立ちが込み上げる。

 

「すぅ……はぁ……」

 

 一旦、深呼吸を挟む……。

 自分の気持ちを整理するために、もしかした山吹先輩だったら答えを知っていると思って……。

 

 

 

 

「今、悩んでいることが……あるんです」

 

 力を抜いた上で出るのが言葉というまじないだった……。

 

「立希ちゃん達のこと?」

 

「それに近いもの……ですね。その……山吹先輩は繋がりってどういうものだと思いますか?」

 

「切っても切れないみたいなものだと思うかな……少なくともあたしは」

 

 考える時間すらもなく、ほとんど秒で先輩は答えてくれる。

 

「どんなにも辛くても苦しくても誰かと一緒に乗り越えられるものがあるから、アタシの場合はそれがポピパだった。香澄達と出会えて、繋がりというものを掴み取ることが出来た。出会いって人を強くしてくれるって思うんだ」

 

「出会いは人を強くする、俺も思います」

 

「繋がりってのは、目に見えないものだったりするんですけど口にすることや文章として書くことで相手に伝わったり、行動でも届けることが出来るって……」

 

 不思議なことに俺がこうやって先輩に自分の持論を話していると、先ほどの吐き気は全く無くなっていた。繋がりというものがどういうものなのかは俺が一番よく知っている。

 

「人と人との繋がりは単純なものじゃないですけど……」

 

 これまで何重にも糸が絡み合った複雑な関係性というものを俺は構築してきていた。そこに至るまでに人の本来の姿のようなものを見ることもあったり、多重人格という自分が知らないものを見ることもあった。

 

「うん、あたしもそう思う。だから、結人君に聞くね?」

 

「結人君にとって……」

 

 

 

 

「立希ちゃんはどういう繋がり?」

 

「多分きっと、そこに答えがあるんじゃないかな?」

 

 俺にとっての立希との繋がり……。

 一つだけ言えるとしたら、単純な言葉で表すことなんて出来ないってことだ。俺はかつてのあいつとの関係を『魂の番』と呼べるレベルまでに達していると自覚していたが、もう今はそんなどころじゃない。

 

 俺は立希と出掛ける予定を立てていたが、出掛ける日程を向こうから変更したいって言われた。

 了承こそしたが、俺はそんとき嬉しかった。何故なら、その日はあいつの誕生日だったから。自分の誕生日というものをあいつはどうでもいいと思っていそうなのに、あいつは俺と一緒に居ることを選んでくれた。

 

 手紙をちゃんと読んでくれた上であいつは俺と時間を過ごすということを選んでくれた。

 なによりも、嬉しかったけど不安があったのも事実だった。

 

「口で言い表すことなんて出来ないです……」

 

 あいつとの関係が最も、厄介だった。

 かつては言葉で言い表すことも出来たのに、俺は話すことが出来なかった。

 

「じゅあ、質問を変えるね。結人君は今立希ちゃんのことをどう思ってる?」

 

「あいつのことはすげえ大切です。俺が変な方向に突っ走りそうになったら、きっとあいつは全力で引き留めてくれるし全力で怒ってくれる。でも……それが……」

 

 

 

「それが……」

 

 途端に体に力が入ってしまう。

 手に掴もうとしていたカウンター席のテーブルを俺は力強めに握る。上に付いている証明が完全に消えたような感覚に陥る。

 

「あいつに…‥…」

 

 何故か言うことができない。

 自分でも、なんで言うのが怖いと言えるのか言い出すのに躊躇ってしまう。これを認めてしまえば、自分の弱さを肯定してしまうから?認めてしまえば、何かが起きてしまうから?自分の頭の中が薄暗い世界に閉じ込められるなかで、自分というものを抑えることができなかったんだ。

 

 

 

 

 

「あいつに迷惑を掛けているんじゃねえかってすげえ不安になるんです……」

 

 口から出たものはもう戻す事は出来なくなっていた。

 吐き気がして喉の奥に戻そうとしても今更これを戻すということはできなかった。

 

「俺は嫌なんですよ。あいつの酷く辛くて悲しみに満ち溢れた顔を見るのが……。見ているだけで自分が締め付けられそうになって、怖くて吐きそうになる。あいつのことを信頼してるのに……。傷つけたくないから……!何度も傷つけたのに!!自分のことを……」

 

 

 

 

「引き留めて欲しいなんて、もう言えないんですよ!!」

 

 感情が徐々に熱を纏って大きな声になっていた。だが、これは必然でしかねえんだ。

 俺という愚者は、一度目は自分を戒めるために……。二度目は自分の罪を洗い流して、立希に痛みという拳を与えて貰った。今でも平手打ちして貰った痛み、殴って貰った痛みは頬に残っている。頬に触れれば触れるほど実感できるんだ。あのときの記憶を……。

 

 

 

 

『お前のこと殴るの、心が痛かった……』

 

 忘れることなんて出来ない。

 俺が誓わせてしまった呪いのせいで……。あいつの瞼には涙があって今にも泣きそうになっていたことを……。手が震えていて、見せないように必死に食い縛っていたこと。今まで見たことなんてなかったあんな立希の表情を、震えを……。

 

 見たくないからこそ、あいつに甘えたくなかったから。

 

 

 

 

「分かってますよ!」

 

 靴で何度も何度も、強烈な音が地面には鳴ってしまう。

 抑え込んでいた自分の苛立ちを抑えることが出来なくなった。暴力へと変わり果ててしまっていたんだ……。気づいてるのにやめられなかった。後悔しているのにやめられなかった。先輩に当たりたくなかったのに……。

 

「立希だったら、一々そんなことを気にするなって言ってくれるぐらい!」

 

「あいつはそういう奴だから!優しくて、実直で誰よりも仲間想いだからこそ!!」

 

 

 

 

 

 

「甘えたくないんですよ!甘えちまったら、あいつのことを傷つけちまうから……!!」

 

 感情を露呈させ、俺は借りてるエプロンを思いっきり掴む……。

 今にも雨が降りそうだった、自分の心に……。なのに、俺は自分の顔を隠してしまいそうになる。痛みが手に残っていたが、あいつが受けた痛みなんかに比べれば全く大したことがないものでしかない。

 

「結人君……」

 

 先輩の声がしている……。

 俺は立希のことをきっと燈以上に何度も傷つけてしまった。自分が覚えている限りでも、四回は傷つけた。つぐみさんのところは自分の中でもパンダのぬいぐるみの件でようやく空気と消えていたが、他は別だった。

 

 どれだけ、立希が許してくれても……。

 受け入れてくれても……。

 

 

 人のことで此処まで恐怖しているというのを直球で言うのは初めてだった。

 何もかも知らない体験過ぎて、自分の感情が分からなくなってしまう。

 

「いっぱい話せたね、立希ちゃんのこと……」

 

「……自分が嫌になりそうです」

 

「でも、それが本心だよ。結人君は……ちゃんと話したことはあるの?立希ちゃんに」

 

「……なにをですか?」

 

「傷つけるのが怖いって話」

 

 口から何かを言い出す事もできない。何故なら、言ったことなんてないからだ。

 こんなにも立希のことを傷つけたくない、背中を任せたいけど任せることが出来ないと自己矛盾を抱えているのに立希に話したことなんて一度たりともなかった。自分の中で誓ったことはあれど、俺は口にしたことがないんだ。お前を傷つけるのが怖いって……。

 

 傷つけたくないまでは言ったことがあるかもしれねえが、確信がない。

 確信がないってことは言ったことがねえんだ……。自分を恨みそうになる。結局、俺は立希を傷つけたくなかった。

 

「ない……ですよ」

 

 小さな声が店内に響いた……。

 自信がなかったんだ……。

 

「そっか、じゃあチャンスじゃないかな?」

 

「チャンス……?」

 

「うん、この先ずっと立希ちゃんの隣に立ち続けたいなら……。きっと、結人君がするべき答えは一つだと思う。あたしは、結人君と立希ちゃんの関係を全部知ってるわけじゃないけど、結人君は知ってるんじゃないのかな?」

 

「気持ちの伝えた方って言うのを……」

 

 

 

 

「少なくとも、立希ちゃんに対してはそうなんじゃないかな?」

 

 立希に対して、は……。

 そうですね、そうですね先輩。頭の中での約束とはいえ、俺は立希のことを傷つけたくないと誓えた。もうあいつには絶対に嘘を使わないと誓えた。

 

「誓ったことがあるんです、もう絶対に裏切らないって……」

 

「未来ってのが永久に続く限り、裏切らないっていうのは難しいことなのかもしれません。俺が信条にしている言葉と行動のせいでまたあいつのことを傷つけることがあるのかもしれません、怖いですよ俺は立希のことを信頼していますから」

 

「うん、それでいいと思う。自分の気持ちを認めるっていうのは凄く重要なことだよ。誰もが出来るわけじゃない、みんなきっと心の中で立ち向かわずに見て見ぬふりをしていたってなるときもある」

 

「先輩も……あったんですか?」

 

「うん……あったよ」

 

 山吹先輩はカフェに置かれてある音響の方を見つめてから、反応を示す。

 聞いちゃいけないことだと思って、謝ろうとすると先輩が「気にしないで」と言ってくれる。

 

「ポピパを始めたとき、自分は誰かの迷惑になるからバンドをしちゃいけないと思ってたの。だけどね、ポピパが教えてくれた。誰も迷惑なんて思ってない、此処に居ていいって言ってくれてるんだって。気づくのにかなり遅れちゃったけど、後悔なんてしてないよ」

 

「今こうして前向きに、香澄達とポピパをやれてることが嬉しいから。目を背けたくなることもあった、みんなと揉めることもあった。それでも、嬉しかったんだ」

 

「香澄達が居てくれるだけで自分がどんなに小さな存在でもバンドを続けたいってなれたから」

 

 強い人だ、本当に……。

 しっかりとした芯を持っている。先輩の心の奥底ではきっと滲み出るような後悔があるはずなのに、ちゃんとバネにして走り出している。戸山先輩もそうだった。自分というものをちゃんと持っている。きっと市ヶ谷さん達もそうなんだろう……な。

 

「戸山先輩が前に教えてくれました、立希達とのキラキラドキドキも忘れないで欲しいって。曲解しそうになりそうになったこともありました、あいつらの為なら自分を犠牲にしてもいい、一人でなんとかすればいいって……」

 

 かつて存在していた俺という人間……。

 八潮さんや燈に矯正されて今では見る影もない。信念というものに変えていたけど、俺はまた一人でこうやって抱え込んでいようとしている。誰かへの感情を……。

 

「戸山先輩の言葉を呪いに変えようとしていたなんて愚かで馬鹿でしたけど、俺は自分の道を踏み止まることが出来た。支えてくれたから、燈が……」

 

「俺にとってあの二人は必要不可欠な存在なんです、今なら口にすることは出来ます。自分の弱さ……。自分の信条についてはまだ答えはちゃんと出せねえですけど……」

 

「だから、その俺は……!ちゃん「結人君!!」」

「え……?ちょっ!?先輩!?」

 

 関係者側の扉が開いて凛々子さんかと思って、一応見ていたが……。

 

 

 

 勢いよく戸山先輩が出て来て、俺の手を掴んでいる。

 ち、力が若干強いんだがこの先輩……!

 

「香澄、もしかして聞いてた?」

 

 戸山先輩が冷や汗を掻きながらも、「違うよ!?」と言っている。

 

「えっ?き、聞いてないよ……!」

 

 手はすぐ離された、俺の手には若干赤みが残っている。こういうのも気持ちってやつなのかな、今先輩から感じたのは嬉しいって感情だったけど……。

 

「いや、絶対聞いてたよね……」

 

「そ、それよりも……!」

 

 戸山先輩と山吹先輩の会話が始まったことで……。

 このカフェに音楽というものが追加されたような気がした。まるで、それは軽やかで温かいもの……。

 

「やっぱり結人君という後輩をRINGで持ててよかったよ!」

「いや、俺は先輩が教えてくれたことを……」

「だとしても、ちゃんと踏み留まれたのは偉いよ!」

「いや、だから先輩が教えてくれたことを……」

 

 先輩が教えてくれたことを曲解しようとしていたという話をしようとしているのに、全くさせてくれない。寧ろ、『曲解なんてしてないんだから気にすることないよ』と言われている気がしてならない。先輩は今そういう表情をしているから……。

 

「結人君、香澄は意外と頑固者だから折れた方がいいよ?」

 

「はぁ……分かりましたよ」

 

 山吹先輩が苦笑いをしながらも助言してくれる。経験者は語るって奴なのかもしれねえ……。

 ただ確かに事実は事実だ。こんな雑音もない笑顔を向けている先輩が俺が悪いなんて言うわけがない。これも甘えかもしれねえが……。

 

「先輩、俺は見せてきます。立希にキラキラドキドキって奴を」

 

「うん!!私もバイトの先輩として結人君のことを応援しているね!!結人君は結人君のキラキラドキドキ、結人君のその……五感だっけ?これからも立希ちゃんたちの音楽を、これからも聴いてあげてね!!」

 

「戸山先輩……」

 

 先輩が実際にそう言ったのかはともかく、言いたかったのはきっとMyGO!!!!!の音楽をこれからも聴き続けることこそがこれからの恩返しに繋がっていくという話をしたかったのかもしれない。先輩はバンドに関しては、すげえ情熱的な人だからそうだろうな……。

 

 なら、ちゃんと応えてあげるべきだよな……。

 山吹先輩から教えて貰った、自分の答えは自ずとあるってことも……。戸山先輩から貰ったキラキラドキドキ。そして、記憶の中が残してくれてるもの……。

 

「先輩達、まずはありがとうございました……繋がりの答えはまだ出てないんですけど、立希に打ち明けることが出来たらきっと何か掴める気がするんです」

 

 不鮮明なものは不鮮明なまま……。

 いい、それでいいんだ。今は、これで……。

 

「どれだけ自分の感情だとか気持ちを全部ぶちまけられるかわかんねえですけど、最悪滅茶苦茶怒られると思います。でも、それでいいんですよね。あいつは……ちゃんと俺のことをはっきりと評価してくれますから」

 

「立希の誕生日って言う日に、全部明かしてきます。俺があいつに抱えているものを一旦中身ぶちまけて」

 

 今までぐちゃぐちゃとしたものをぶつけるなんてあいつに何度だってして来たことだが……。

 今度は正真正銘俺の気持ちをあいつに直接伝えることにする。絶対睨まれるのを覚悟はしている。

 

「結人君の気持ち、伝わると思うよ」

 

 山吹先輩が押してくれるその一言で、俺は立ち上がることが出来る。

 自分というものを奮い立たせることで……。

 

 

 

 

 

「はい、俺頑張ってきます!」

 

 この胸に掲げた拳は強く握り締められている。

 先輩達の方を見れば、穏やかな表情で笑いかけてくれている。俺は一人じゃない、こうやってRINGという場所で出会えた奇跡が俺に証明してくれている。さっきまで辛気臭くなっていた空間はもうない。ただカフェという場所を全うしようとしている。

 

「俺自身のためにもこれからも作り続ける、繋がりのためにも……!」

 

 

 

 

「先輩達が教えてくれたものをこの胸に刻んで!!」

 

 先輩達から許可を貰って俺はスマホに触れる……。

 立希にこう送るために……。

 

 

 

 

 

 明後日、9時で頼むと──。

 送って自分がこれからどうするべきなのか、ようやく気づけた俺はすぐに返信が来て……。

 

 

 

 

 

『9時に駅前で待ってるから』

 

 簡素ではあるが、立希らしい文章……。

 俺はそれにパンダのスタンプで返した。明後日だ、明後日俺はあいつに全部をぶちまける。傷つけることになる、絶対怒られるだろうな。

 

 

 

 

『は?いつまでウジウジしてんの』

 

 

 公園のベンチに座って、草木の匂いがしつつも俺の背中を思いっきり手で叩いて……。

 あいつは絶対言ってくれる。馬鹿なことをいつまでも引き摺るなって……。

 

 

 

 

 そうやって……。

 そんときにまた俺は気づくことになる。

 

 

 

 

 

 

 繋がりも、五感もきっと……。

 自分自身が全部知っていてくれているもんだって……。

 

 

 

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