【完結】迷子の友人は羨望する 作:シキヨ
「立希、ありがとうな……」
瞼から溢れ出るものはまだ止まることはない。
感情を此処まで出したのは、初めてでしかねえ。涙を流すという行為は勇気がいることだったが、後悔はしてねえ。寧ろ、山吹先輩が教えてくれたおかげで清々しい気分になれた。自分のことをダセえって感情はある。否定するつもりはない。
それは、立希も指摘してこない。
俺が涙を流しているのに気づいていて、あいつはたこ焼きを差し出してくれていたから。心が温まるというのは、こういうもんのはずだ。口の中に広がるたこ焼きの温かさとタコの分厚さを感じつつも、俺は必死に情緒とたこ焼きを共にゆっくりと喰らおうとする。
「別に……いいから。ウジウジ終わった?」
「ああ、終わったよ」
たこ焼きを喉へと通したことによって、自分の口の中にあった熱が冷め始める。
噛み締める時間はもう終わりだ。流す時間も……。此処からは立希との思い出を作りたい。立希が言ってくれた。
『隣に居続けてくれる存在』
背筋が伸びて、背中を思いっきり押された気分だった。
気づいてこそはいたし、感じていることがあったが立希の口から出されたことでようやく触れ合えることが出来た。何度も言うが、ダサくてしょうがねえ……。
「立希、金魚すくいでもしねえか?」
切り替える。
さっきまでは、立希に本当の俺を見せていた。これからも、見せて行くことになる。ずっと、いい意味でってのは無理だ。これから先、きっと悪い意味でのことも起きる。作り上げたこれまでによって、実感を込み上げていると……。
「これ、後食べていいから」
「ん?ああ、ありがとうな……」
立希は顔を真っ赤に染めて、たこ焼きが入った容器を俺に渡して来る。
なんでだ?立希は俺を勇気づけただけだろ?もしかして、らしくないことをしてたとか思っていたんだろうか。んなこと気にしなくてもいいのになって思いながらも、容器を受け取って、たこ焼きを食べようとしたときだった……。
「…………」
無言になってしまう、爪楊枝を手に取ることができない。
何処をどう見ても、容器には一つの爪楊枝しか入ってない。
「な、なんでこっち見るわけ……?」
悪いとも何も言えない。何故なら、立希と俺は間接してしまったから。
ある意味では早速悪い意味での出来事が起きてしまった。いや、これも記憶という経験になるのは確かにそうだが、あまりにも飛躍し過ぎている。俺達の関係は基本的に飛躍し過ぎていることばっかだが……。
「た、立希はもう食べないのか?」
「は!?い、いや……一個で充分だから」
「そ、そうか……」
さっきまで泣いていたのが嘘みてえだ、目が乾燥している。きっと赤くなってもいるだろうな。
実感を込み上げさせることで、自分と立希が食べあっていたことに羞恥心しかない。さっきとは違う意味で、体が震えながらも俺は口の中にたこ焼きを入れていくと、価値観が変わった気がした。自覚なしで食っていた数分前よりも、高揚感に近いものが圧倒的にあった。
「悪くねえ……な」
不思議と心には安らぎがあった。
祭りという場当たり的な雰囲気に絆される。これも一つの手法なのは間違いねえ。さっきよりも、たこ焼きというものに対する味わい深さというものを感じざるを得ない。生地は関東風の奴ではあり、タコの分厚さと大きさはさっきよりも口の中に残りやすい。なによりも、耳に入って来るのは祭りで楽しそうに笑い合っている子供の声……。
夏の風物詩って奴だな、簡単なものだがこういうものは楽しんでこそだ……。
爪楊枝にたこ焼きを刺す。
「ほらよ、立希」
「い、いらないから……」
たこ焼きに爪楊枝を刺して俺が渡す。
案の定、立希は拒んでくる。
「こういうのは場の雰囲気とか言って、適当な誤魔化し方して食べちまえばいいんだよ」
さっきまで全く出来ていなかった奴がどの口で言っているんだよと自分で突っ込みたくなる。
立希はたこ焼きからも俺からも目を背けて、地面を見つめている。直接は無理、まあ俺もその気持ちは分からんでもねえが……。
「食べさせてやるか?」
「はぁ!!?」
立希が必死になって抗議してくる。大きな声でいつもの「はぁ!?」という声を大きく響いている。
「「い、いや……そっちの方が……」
明らかにやり過ぎた。
動揺している立希の声が徐々に小さくなる。膝の上に置いてある手がぷるぷると音を立てて震わせていた。流石に取り下げるべきか?と悩んだが、此処までやっちまった以上今更取り下げるのは違う。
というか、俺の方もこれ普通にキツいからとっとと食べて欲しいんだが……。
周りの目がすげえキツい。初々しいカップルと見られているか、バカップルかのどっちかだ。多分、視線的に前者。だから、余計にきついんだが……。
「はぁ……」
視線という武器で俺が持たんときが来ていると、立希が息を吐き出す。
頼む、早く食べてくれ。こっちも出した刃、納められなくなってるんだよ。
「一個だけ……だから」
「ありがとう」
「なんでお礼言うの?」
「色々とあるんだよ」
視線を気にしてやっぱり無理だってなってるなんて言えねえ……。
多分、立希は気づいているだろうが……。
「いいから食べろよ」
早く食べろと頭を振って合図を送ると、意を決して覚悟を決めた立希。
爪楊枝を受け取って、たこ焼きを口の中に入れていく……。
「見られながらだと食べづらいんだけど」
口の中にたこ焼きを入れてた立希だったが、ずっと見ていることに気づいたのか指摘してくる。
「い、いや……わ、悪い……」
カメラがあるほど綺麗で旋律がありそうなほど美しい画……だった。
題名をつけたくなるほどの……。立希が髪を耳に掛けた後に、口の中にたこ焼きを入れるという瞬間を意識しないようにしてるつもりだったのに全くもって無理だった。心の中で深呼吸して、無理なもんは無理だった。
「お前ってさ、割とそういうところあるよね」
「なんか、すげえ何も言えねえわ……」
雑音にすることは出来なかった。見ていたことってだけじゃねえのは気づいていた。
立希が言いたいのはきっと、さっきまでの全体のことを言っている。今にも頭を抱えそうになる。自分という愚かな人間を罰したい。穴があったら掘り進めたいという感情すらあったが、後悔はしていなかった。
「金魚すくいでも行くか?」
「自信あるの?」
「まあ、それなりにはな。勝負でもするか?」
「子供じゃないんだけど」
立希は腕を組みながらも、「正気?」と言いたそうにしている。
「いいじゃねえか、偶にはこういうのも……」
正気も正気だった。
こういう場所ってのは羽目を外して最後まで楽しむっていうのが一番楽しむ攻略法だからな。
「お前が言ったんだろ?隣に居続けてくれる存在だって……」
口を開かない。
俺の話に心底俺らしいと思っているのか、呆れているのか両方な気がしつつも、立希の反応を待っていると腕を組むのをやめて地面へと立ち上がる。
「行くんでしょ」
「ああ……」
「行こうぜ立希」
金魚すくいなんてするの、いつぶりなのか全く覚えていない。
お祭りなんてほとんど行ったことがなかった。小さい頃からずっと真希さんの妹としか扱われなかった。一緒に出掛けてくれるなんてことはなかった。なのに、今はこうして結人と楽しんでいる。
いや、楽しんでいるは語弊がある。
結人と今こうして金魚すくいまで付き合っているの自分の中で決めたものを守りたい……から。口にしたことを歪めるつもりはない。金魚すくいの屋台の前では、大き目な水色の水槽が置かれていて、その中に金魚が泳いでいる。子供や大人までみんな楽しんでいる。私とは違って、楽しむということをしてる……。
「全然掬えない……」
初めてだった……かもしれない。
金魚すくいをするのは……。考えてみれば、子供の頃にこうやってお祭りというものを体験したことが極端に少なかったらやり方がイマイチ分からない。
「あら、お兄ちゃん上手いわね」
近くで結人の金魚すくいを見ていたおばあさんに話しかけられている。
結人の器にはもう金魚が四匹入ってる。なんであいつこんなに上手いんだろ……。
「あーそうですかね、こういうのはコツがあるんですよ」
「あら、そうなのかい?」
金魚すくいにコツ……?
網どう見ても薄いしすぐ破れるんじゃないのこれ?と疑問を覚えてしまう。
「ええ、網を水面に対して斜めに素早く入れることが大事なんです。水中では水平に移動させることも勿論大事ですし、一番手っ取り早いのは逃げ道の少ない場所や端にいる金魚を狙うのが早いと思いますよ」
結人の解説が耳に入って来る……。
おばあさんは納得していたみたいで孫らしき子に教えているようだった。結人が話したことを自分でまとめ直して、試そうとするけど……網が破れる。一匹も金魚を掬うことが出来なくて、終わる。結人の意見に乗った自分が馬鹿みたいに思えてしまう……。
網を戻そうとしたときだった。
「ほらよ」
「は?その網はお前のでしょ」
「いいよ、俺は」
こういうところ……としか言いようがない。
自分よりも他人を優先する。結人らしくて、私がずっと嫌いになることが出来ない部分。やり過ぎなときもあるけど、それでも嫌いになることが出来ない。
「立希、さっきのやり方だと力が入り過ぎてる」
「抜けばいいってこと?」
「力を抜いてさっと入れる、これがコツだな」
力を抜く……。
あんまりやったことが……ないことだ。曲を作るときも、バンドのことを考えるときも……。日常でも肩の力を抜いて生きるということをあんまりしたことがない。いつも気を引き締めていけないから、自分がしっかりとしないといけないって思っているから……。
初めてやるかもしれない行為に……戸惑う自分がいる。
金魚すくいの水槽に自分の顔が映り込んでしまうと、水槽に波紋が浮かんだ気がした。
「……は!?」
「あら、仲がいいのね?」
おばあさんがにこやかな顔つきになっている。
まるで微笑ましいものを見る目で……。
「ち、違っ……!!」
「ちょっ、ゆ、結人……!」
浮かぶ少し前に手を握られていた。
その手は金魚すくいのやり方を教えようとしてくれているのを分かっていても、手首を掴まれている。しかも、人が割と居るところでやられているせいで自分という存在が頭がおかしくなりそうになってしまう。
「こっちの方が分かりやすいだろ?」
「い、いや……そうだけど……!!」
仮にそうだとしても、やってることが滅茶苦茶過ぎる。
教えるために手伝うというのはまだ分かるけど、自分も手伝うまでもまだ分かる。わざわざ手を掴んで実践するのを手伝うは本当に意味不明でしかない。
そよが結人のことを偶に苦手なような目つきで見ていることがある。
私もその理由に頷けるときがあるけど、今まさに何回も頷きたくなる現場になっている。あいつと似たような感情になるのはごめんだけど……!!
「ほら、こうやって力を抜けばいいんだよ。深呼吸してみろよ」
「わかった、わかったから!!」
こうなると結人は止められない。
実際に力を抜いてみるというのを教えてくれているのは有難いは有難いけど、なんか違うと言いたくなる。
「……あのさ」
「なんだよ?」
「結人って肩の力抜いて生きてる?」
「生きてねえだろ、俺は」
誰もが知ってることだった。
馬鹿正直にしか生きられないで、自分を苦しめて動けなくなることが多いくせに誰かを助けようとする。誰かの声が聞こえたのなら、絶対に放そうとしない。拒まれても、嫌がられても結人はそういう奴……。
「私よりは生きてるでしょ」
「そこで卑屈になんなよ、お前の方が生きるの上手だろ。立希は肩に力入れて生き過ぎなんだよ」
こうして褒めてくれてちゃんと言ってくれるところも……。
前までだったら、絶対にあり得ない。
「ほらよ、今度は立希がやってみろよ」
肩の力を抜く……。
結人に言われた通り、深呼吸をしてみる。自分を落ち着かせる為に深呼吸。いつも目の前のことしか見えていない自分には良薬なのかもしれない。息を軽く吸うことで、網が水槽の中に入る音がしてくる。
誰かが話している声がする……。
耳を研ぎ澄ませた私は手に持っていた網の力が徐々に抜けていく……。息を吐いていたからだ。脳が覚醒したみたいだった、よくある手法だというのに世界の全てが見えたような感覚になって私は水槽の中に網を入れて……。
「できた……」
網の中に完全に捉えることが出来た金魚。
金魚は器の中に素早く入れると、器の中で泳いでいる。
「よくやったな立希」
褒められた瞬間、自分の中で変な感情が蠢いてしまう。
悪いものじゃない、自分にとってかなりいいもの。初めてだからどう折り合いをつければいいのか困っている。
「……ありがとう」
言語化できないものを素直に感謝するのは勇気がいることだけど、結人には素直に出来た。
できるものがあったからこそ……。
「ほらよ、立希」
「結人のでしょ?」
「あー俺はこっち、ほら分けて貰ったからな」
「……そうなんだ」
結人の方の袋には二匹の金魚が入っている。
こっちの袋には三匹の金魚が入っている。元気がいいのか、かなり泳ぎ回っている……。
「どうだった?」
「なにが?」
「金魚すくいだよ」
屋台の方から離れて歩き出していると、聞いてくる感想を……。
結人は立ち止まって、まるで「楽しかっただろ?」みたいな言いたそうな顔をしている。楽しかった、実際楽しかったけど……。
「お前はすぐ手に触れる癖やめた方がいい」
「あー悪かったよ、どうせなら立希に楽しんでもらうかなって思っただけだ」
「……楽しかった」
楽しかったという感情が消えることはなかった。
結人に教えて貰ってあいつに褒められた。
「いや、褒められたから楽しかったとかじゃなくて……」
独り言を言ってしまう。褒められたから楽しかったとか、馬鹿みたいでしかない。
なのに、なのに認めてしまいたいと思う自分が此処にいる。楽になれるから、とかじゃなくてこいつにならいいとなってしまう。全部、結人のせいだ……。一回抱かれただけで頭がおかしくなりそうだったのに、二回目と舌の奴のせいで頭をおかしくされた。頭が毒されたと結人のことを睨みそうになる。
「立希……?」
「な、なんでもない……!!」
今は、睨む力なんて欠片も残ってないのに……。
「なんでもねえなら、いいんだが……ちょっといいか?」
何も言わずにはいた。
目線で了承の合図だけ送ると、結人はお祭りの方ではなく茂みの方へと入って行く……。あまり人が居ない方。雑草や木の間を抜けていく……。疑問を覚えながらも、結人の後をついて行く……。
「此処なら大丈夫だろ」
「変な気でも起こすつもり?」
「いや、此処じゃねえとダメつーかな」
「は?なにそれ?」
木々の方を見つめて頬を軽く掻いている。
顔を下に向けて、何かを躊躇ってる。
「言っておくけど、この前のみたいのだったら場所選んで」
「流石にやらねえよ。どうしても言っておきたいことがある、お前なら気づいてるかもしれねえが……そのだな……」
「誕生日おめでとう立希、まずはパンダのコップ……まあお揃いなんだが要らねえんだっ「いる、貰う……から」」
「そうかよ、んでまだあるんだよ」
「まだあるの?」
結人に見られるのを避けるあまりに即答した。
もう一つは、パンダのイラストがプリントされているコップだったから素直に早めに受け取っていた。
「これなんだけどさ……」
────自然の音がした。
空気が流れる音がしていた気がした。結人の放ったものが、空気と適合して自分の全身を通った感覚がしてしまう。受け止められない、受け止めることができなかった。元々、誕生日に日程を変更してもらったのは私の方だ。
なのに、結人の「おめでとう」を受け止めきることができない。
過去に関する記憶が関わっているものがあるからこそ……。
『なんで私の誕生日なんて聞いたの?』
『気になっただけだ、そう睨むなよ』
過去の自分のことを思い出してしまう。
家族以外に誰かに祝われることもなく、誕生日なんてものは終えることになると信じていたはずなのに、結人が今投げてくれたボールが優しすぎて抑えきることが出来なかった。なによりも、あいつの手元には袋が握られていた……から。
袋を受け取って中身を確認すると、その中にはやっぱり誕生日石のネックレスが入っていた。
その石は綺麗な水色で輝いている……。
「8月9日の誕生石はアパタイトって奴でな、石言葉は……」
「絆を繋ぐ」
持っている袋が震えそうに……なる。
「永遠なんて幻想でしかねえ、人の命はいつか消えちまう。嫌でもな……」
「だとしても、俺は立希と……椎名立希とこれからもずっと繋がっていたい。理由は幾らでもある、幾らでもあるけど」
「俺達には余計なもんは要らねえって思うんだ。希望という残光がある限り、お互いが支え合う。俺はお前のことを傷つけたくないし、立希も俺のことを傷つけたくねえ。支え合うのに、互いに傷つけたくないなんて馬鹿みてえな話だけどさ、俺は立希を一番頼りにしてる。だって立希は……」
「俺が無茶したらちゃんと怒ってくれるからな。今度は互いに支え合う、これならきっとお前にも俺にも負担にならねえからさ……。あーやっぱどうしても、余計に言いたいことがあるから言っていいか?」
「好きだ、立希」
手に持っている袋を強く握り締めてしまう、膝を震わせそうになる。いやきっともう、震えてしまっている。あいつが発するものなんて私の耳に洗浄されることなく入って来る。だから、こそ膝の震えを抑えることが出来ない……。
それに対して、ほぼ結人は呼吸することなく、全部を言い切った。
傷つくのが怖いだけじゃない、あいつはちゃんと私に言いたかったことを全部放った。剥き出しの感情が、自分の心に入る度に身体に入る度に立っているのがやっとになってしまう。
さっきの結人と同じ状況……。
我慢したい、此処で流すのは違う……から。
「燈に……愛してるとか言ってたくせに……睦……といい感じなくせに……」
「馬鹿……じゃないの」
「馬鹿だよ、俺は……。誰も選ぶことすら出来ねえどころか、立希すら傷つけたくないし怖い。放っておくことができねえ、お前が苦しそうだと俺も辛いし苦しいし、悲しいからな。なんか互いに互いに通信を感じ取っちまうんだろうな」
直接的な言っていたことの要因をあいつはちゃんと言葉にしてくれた。
エゴの塊であるあの感情を結人はちゃんと口にしてくれた。余計なことかもしれない、確かに……。互いに通信を感じ取るからこそ、辛くてしょうがない。今、結人が寄り添おうとしてくれていることもちゃんと向き合おうとしてくれていることも壁がない筒抜けの場所みたいなものだから、押し殺すことなんて出来なかった感情を……。
結人の顔なんて見なくてもどういう顔をしているのか、知っている。
「俺はお前の隣に居続けるし、これからも裏切ることもしねえから。そこは……絶対に守る。もし、破りそうだったら、そんときは……絶交して……いやそうじゃねえんだよな」
「お前の傍に絶対に居続ける。何があっても……」
結人が徐々に近づいてくる。
足取りはしっかりとしたもの……。目を瞑りたくなってしまって、瞑ってしまう……。
「俺は立希が好きだから」
「繋がりなんて簡単な言葉かもしれねえけどさ、お前との結び目を俺はぜってえ解きたくねえんだ。だから、これからもよろしくな立希」
「後、目開いていいぞ」
開けるのが怖かった。結人の顔を見るのが怖かったから、それでも何か首に掛けられたような気がして首元を見ると、そこには……ネックレスがしっかりと掛けられている。ネックレスには石の輝きというものが目に染みて見えていて、自分の瞼からのものと接触しそうになる……。
もう、泣くことを抑えることができなかった。
「お前の愛、重すぎ」
自然に囲まれているなかで爽やかとかリラックスとか全くなかった。
揺れ動いている木々のような感情になってしまっていた。なによりも、温もりを感じてしまっていたから。至近距離で結人の身体の匂いがする。若干、汗臭くて匂いがする。男らしくて、悪くないという気分になる。
「手癖また悪くなってるけど」
「悪いな、これが俺だからな」
「知ってる。私が言いたいのは前にも言ったから、私の方も変わらない。そこは……」
「ああ、だな……」
最初のときとも二回目とも違う。
結人は視線を逸らしていない、ちゃんと向き合わせようとしてくれている。応えたい、応えたい気持ちがあるのに合わせることができない。このまま合わせることなく、終わるのかもしれない。そう思っているときに結人は……。
「……!」
手を握っていた。
二回目のときと同じだ。心に暗く黒い霧が出ているのを察知してくれた。なら、私も応えたい……。
「だから、いつもみたいにこのままで居させて」
結人の呼吸が肌を落として感じる……。
熱いものが伝わって来ながらも、覚悟を決める。この言葉が例え、余計だとしても……。
「隣に……」
結人と視線をようやく合わせる。
真っ直ぐそのものだった。目が泳ぎそうになってる。お互いに覚悟よりも自分達のこの生の感情をどう処理すればいいのか困っている。本気の本気の覚悟そのものだから。
「ああ、一生居続けてやるよ……」
言葉という武器で結人はこれまで私を何度だって向けて来ていた。
今も変わらない。結人は何度だって、してきた。
「「…………」」
何度だって、この行動で結人は示してきた。
触れた瞬間はほんの一瞬でしかない。この前と比べたら、全然まだマシなのに……。頭の中が蒸発しそうだった。互いの呼吸が交わって、夜の気配をより一層感じ取ることができて、離れていった……。
「満足か?」
言いたかったことなんて……。
「お前、本当に手癖悪すぎ……」
これだけだった……。
「お互い様だろ、それは……」